逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
21 / 522
第二章 ロゼリアとチェリシア

第21話 ずれる現実

しおりを挟む
 魔法を実演してくれとの、女王陛下からの無茶振り。ロゼリアは確かに魔法が使えるが、従来の最低年齢よりも二つも若い。本来なら断れそうな案件だが、これは王命。よっぽど正当な理由がないと断る事などできなかった。
 女王陛下の前でため息をつくわけにもいかないので、ロゼリアは渋々了承する。
 今のところ逆行後に使った事があるのは、物を分離する魔法だけ。だが、逆行前のロゼリアは多彩な魔法を使いこなしていた。
 ここで見せるのは何がいいのか悩んだ。
 長く悩むのも失礼にあたるので、ロゼリアは立ち上がって、この庭園にふさわしい魔法を使う事にした。
 魔法を使った瞬間、声が上がる。
 見えたのは虹。
 ロゼリアが使った魔法は水魔法。太陽を背にする位置に、水の塊を放ったのだ。そして、その水を破裂させて虹を出現させたのだ。
 この世界では、基本的に魔法が使えるならどの属性でも使える。ただ、適正は存在していて、向いているなら強力に、無いのなら発動に失敗する事が多くなる。
 ロゼリアというかマゼンダ侯爵家は火と闇に適性があるのだが、分離魔法は水と土の適性を必要とする。その魔法を難なく使えるあたり、ロゼリアは努力を惜しまなかったのだ。
「ふむ、素晴らしい。適性外の水魔法を、見事に操っておる。ロゼリア・マゼンダ、見事であった」
 女王陛下からお褒めの言葉を預かる。ロゼリアはホッと胸を撫で下ろして席に着いた。
「八歳で魔法が使える事も驚きだが、その制御も目を見張るものがある。将来が楽しみであるな」
 女王陛下はとても満足しているようだ。そして、女王陛下はチェリシアにも目を向ける。
「さて、チェリシア・コーラルよ」
「は、はいっ!」
 名前を呼ばれて硬直するチェリシア。
「コーラル領での話は聞いておる。これからもその斬新な発想を、国のために頼むぞ」
「は、はい。もったいない……お言葉です」
 チェリシアはしょぼしょぼと縮こまる。女王陛下というお偉いさんから直接声を掛けられれば、それも無理のない話だった。
(前世の彼女がどこまで生きたのか分からないけど、反応を見るに庶民よね)
 ロゼリアは、チェリシアを少し憐れんだ。
 その時、ふとチェリシアに目を向けるシルヴァノ殿下とロゼリアの目が合う。そして、逆行前では考えられなかった笑顔をロゼリアに向けた。
(ドキッ!)
 ロゼリアは自分の反応に驚いた。
(ドキッ? シルヴァノ殿下にときめくなんて、あり得ないわ。目が合って驚いただけよね、うん)
 だが、この時のロゼリアは気が付いていなかった。シルヴァノ殿下が、ロゼリアを見て赤くなっていた事に。
 最初は険悪な雰囲気のあったお茶会だったが、ロゼリアが魔法を見せたあたりから、その空気は一変していた。
 中でも宰相の息子であるチークウッドは宮廷魔導師に憧れているため、魔法への関心が特に高い。それ故に、これでもかと目を輝かせながら、ロゼリアに質問をしてきた。
 それに対して、ロゼリアは分かる範囲で答える。もちろん、逆行の事は伏せながらではあるのだが。
 魔法が十歳を迎えなければ使えないというのも、それなりに理由はある。身体が成熟期へと向かう成長期においては、精神的に不安定になる事がある。その時に魔力の流れを感じやすくなるのではないかというものだ。ここで魔力を認識できるようになる事で、魔法が使えるようになるという説だ。
 だが、これはあくまで俗説。実際に、ロゼリアのような存在も居るのだから、本当のところは誰も分からなかった。
 結局、内心焦りまくったロゼリアだったが、魔法の話を振られたくらいで、あとは落ち着いたお茶会となったのだった。
 しかし、ロゼリアが気になったのは、殿下がやたらと自分を見ている事だった。
 逆行前では、顔見知り程度の関係だったので、これほどまでに視線を向けられる事に違和感を持った。しかも、それだけではなく積極的に話し掛けてもきた。
(一体どういう事? 殿下の中で一体何が起きたというのよ!)
 あまりの予想外な出来事に、お茶会が解散になるまで、ロゼリアの心は休まらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...