16 / 431
第二章 ロゼリアとチェリシア
第16話 調味料を求めて
しおりを挟む
正直、国王への説明は父親に任せたかったロゼリアとチェリシアだったが、発案者として同行を余儀なくされてしまった。
「ごめんなさい。ロゼリアは疲れてるのに付き合わせちゃって」
「いいのよ。お父様たちだけだと不安ですしね」
話をしている国王たちの後ろで、ロゼリアとチェリシアはひそひそと話をしていた。そこへ、
「お姉様、私とも話をして下さい」
ペシエラが割り込んできた。
なぜペシエラが居るのかというと、単純に駄々をこねただけだった。最近二年間は姉と離れ離れになっていただけに、甘えたい盛りなのだろうとプラウスも咎めはしなかった。実際、国王陛下の視察を邪魔する様子もないので、わがままを聞き入れた格好だ。
さて、シェリアの市場へとやって来た。
貧乏領地なのでそれほどの規模ではないし、種類もそう多くはないが、この日は少し様子が違っていた。
「どういう事だ? 先日まで無かっただろう」
戸惑っているのはコーラル子爵。
それもそうだろう。数は多くはないが、魚が並んでいるのだ。
実のところ、昨日のロゼリアの行動で、海から魚が獲れる事が分かった。それをロゼリアから聞いたチェリシアが、こっそりと屋敷を抜け出した。その時、気候の事もあるので、魚の鮮度は長く持たないのでその日のうちに食べるか捨てるかするように教えたのだ。
生のまま売る店もあれば、とりあえず丸焼きにして売っている店もある。普段は物静かな市場が、活気に溢れていた。
「ああ、昨日ロゼリアが言ってた事か。まさか、これほどまでになるとは……」
マゼンダ侯爵は驚いていた。昨日、娘を叱った内容が、このような事になっていようとは思わなかった。
それにしても、魚だけで市場に活気が出始めたのは僥倖と言える。しかし、塩を作るだけでこれだけの体力の消耗となるのであれば、土壌改善には到底至らない。となると、早く次の手を打たなければならないという事だ。
塩の精製方法は、国王陛下に知られているので、そのうちにアイヴォリー王国内で広まる事になるだろう。魚もその日限りの状態。領地改革はそう簡単にはいかないのだ。
「やっぱり、調味料を増やさなきゃ……」
チェリシアは次の手を考える。塩ができたので、他の調味料だって欲しくなる。砂糖、酢、醤油、味噌、それにソースと油。チェリシアはロゼリアに相談を持ちかける。
「ねえ、ロゼリア。砂糖や酢とかあるかな」
「砂糖や酢といった物は分からないけど、甘い味付けに使う粉は聞いた事があるわ。……時戻り前での話だけど」
ロゼリアには心当たりがあるらしい。
「どこに行けば手に入るの?」
真剣な表情でチェリシアは尋ねる。
「一応、王都やマゼンダ領内で手に入れる事はできるわ。今は分からないけど」
先日の王都での買い物の際にも見た覚えはない。この時はまだ無かったのかも知れない。それでも、チェリシアは諦めきれなかった。
「どこからの物なの?」
強く聞けば、ロゼリアは「ちょっと待って」と眉間に手を当てる。
少しして返ってきた答えは、
「シアンの出身地、アクアマリン領。……だったはず」
思いもよらない場所だった。
アクアマリン領は、学園の合宿イベントで赴く土地だった。領内に大きな湖を持ち、周りも森林が多い緑豊かな土地である。
そして、ゲーム中では、重大な分岐イベントがあり、場合によっては退場キャラが出てしまうという鬼門だった。
コーラル領とは対照的に落ち着いた気候を持ち、農耕地も広大なアクアマリン領。そんな美しい光景を、ゲームよりかなり早い時期に見られる。チェリシアは胸躍らせた。
「チェリシア、アクアマリン領へは簡単には行けないわよ。そもそも、どこにあるか分かってるの?」
「へ?」
チェリシアは失念していた。この国の領地の位置関係を。
アクアマリン領は、意外と王都からは近い。だが、間に大きな川が流れており、訪れるには渡し船を使うか、数少ない橋を渡るかするしかなかった。そのため、アクアマリン領で生産される物品は、輸送の手間のせいで高くなっているのだった。
「距離としては近いわ。でも、川のせいで遠回りになるのよ」
一応、王都との街道には橋が掛かっている。その最短ルートの辺りは不可解な事に川が蛇行して地形が荒れており、橋を架ける位置も選定に時間を要した。
「よくシアンもうちに来てくれたと思うわ。直線距離なら一週間だけど、その地形のせいで倍の二週間掛かるんですもの」
ロゼリアのその言葉に、チェリシアは絶望した。甘い物が食べられるという夢は、所詮甘い夢でしかなかったのだった。
「うう、そうは簡単にいかないのね」
チェリシアは涙目になりつつも、この日の視察を続けたのだった。
「ごめんなさい。ロゼリアは疲れてるのに付き合わせちゃって」
「いいのよ。お父様たちだけだと不安ですしね」
話をしている国王たちの後ろで、ロゼリアとチェリシアはひそひそと話をしていた。そこへ、
「お姉様、私とも話をして下さい」
ペシエラが割り込んできた。
なぜペシエラが居るのかというと、単純に駄々をこねただけだった。最近二年間は姉と離れ離れになっていただけに、甘えたい盛りなのだろうとプラウスも咎めはしなかった。実際、国王陛下の視察を邪魔する様子もないので、わがままを聞き入れた格好だ。
さて、シェリアの市場へとやって来た。
貧乏領地なのでそれほどの規模ではないし、種類もそう多くはないが、この日は少し様子が違っていた。
「どういう事だ? 先日まで無かっただろう」
戸惑っているのはコーラル子爵。
それもそうだろう。数は多くはないが、魚が並んでいるのだ。
実のところ、昨日のロゼリアの行動で、海から魚が獲れる事が分かった。それをロゼリアから聞いたチェリシアが、こっそりと屋敷を抜け出した。その時、気候の事もあるので、魚の鮮度は長く持たないのでその日のうちに食べるか捨てるかするように教えたのだ。
生のまま売る店もあれば、とりあえず丸焼きにして売っている店もある。普段は物静かな市場が、活気に溢れていた。
「ああ、昨日ロゼリアが言ってた事か。まさか、これほどまでになるとは……」
マゼンダ侯爵は驚いていた。昨日、娘を叱った内容が、このような事になっていようとは思わなかった。
それにしても、魚だけで市場に活気が出始めたのは僥倖と言える。しかし、塩を作るだけでこれだけの体力の消耗となるのであれば、土壌改善には到底至らない。となると、早く次の手を打たなければならないという事だ。
塩の精製方法は、国王陛下に知られているので、そのうちにアイヴォリー王国内で広まる事になるだろう。魚もその日限りの状態。領地改革はそう簡単にはいかないのだ。
「やっぱり、調味料を増やさなきゃ……」
チェリシアは次の手を考える。塩ができたので、他の調味料だって欲しくなる。砂糖、酢、醤油、味噌、それにソースと油。チェリシアはロゼリアに相談を持ちかける。
「ねえ、ロゼリア。砂糖や酢とかあるかな」
「砂糖や酢といった物は分からないけど、甘い味付けに使う粉は聞いた事があるわ。……時戻り前での話だけど」
ロゼリアには心当たりがあるらしい。
「どこに行けば手に入るの?」
真剣な表情でチェリシアは尋ねる。
「一応、王都やマゼンダ領内で手に入れる事はできるわ。今は分からないけど」
先日の王都での買い物の際にも見た覚えはない。この時はまだ無かったのかも知れない。それでも、チェリシアは諦めきれなかった。
「どこからの物なの?」
強く聞けば、ロゼリアは「ちょっと待って」と眉間に手を当てる。
少しして返ってきた答えは、
「シアンの出身地、アクアマリン領。……だったはず」
思いもよらない場所だった。
アクアマリン領は、学園の合宿イベントで赴く土地だった。領内に大きな湖を持ち、周りも森林が多い緑豊かな土地である。
そして、ゲーム中では、重大な分岐イベントがあり、場合によっては退場キャラが出てしまうという鬼門だった。
コーラル領とは対照的に落ち着いた気候を持ち、農耕地も広大なアクアマリン領。そんな美しい光景を、ゲームよりかなり早い時期に見られる。チェリシアは胸躍らせた。
「チェリシア、アクアマリン領へは簡単には行けないわよ。そもそも、どこにあるか分かってるの?」
「へ?」
チェリシアは失念していた。この国の領地の位置関係を。
アクアマリン領は、意外と王都からは近い。だが、間に大きな川が流れており、訪れるには渡し船を使うか、数少ない橋を渡るかするしかなかった。そのため、アクアマリン領で生産される物品は、輸送の手間のせいで高くなっているのだった。
「距離としては近いわ。でも、川のせいで遠回りになるのよ」
一応、王都との街道には橋が掛かっている。その最短ルートの辺りは不可解な事に川が蛇行して地形が荒れており、橋を架ける位置も選定に時間を要した。
「よくシアンもうちに来てくれたと思うわ。直線距離なら一週間だけど、その地形のせいで倍の二週間掛かるんですもの」
ロゼリアのその言葉に、チェリシアは絶望した。甘い物が食べられるという夢は、所詮甘い夢でしかなかったのだった。
「うう、そうは簡単にいかないのね」
チェリシアは涙目になりつつも、この日の視察を続けたのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる