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第二章 ロゼリアとチェリシア
第5話 令嬢の交流
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ロゼリアとチェリシアは、それ以降、時々会うようになった。今現在は二人とも王都内に居るので、会う事は比較的容易だった。
話し合うだけではなく、前回のチェリシアに不足していた貴族たる振る舞いを叩き込むために、ロゼリアと共に家庭教師の講義を受ける事になったのだ。
「そこっ! 背筋が曲がっています。もっと胸を張りなさい!」
「は、はいっ!」
家庭教師のマダムの檄が飛ぶ。チェリシアには当然だが、ロゼリアにも容赦はなかった。
(侯爵家の淑女教育は、さすがに厳しすぎたかしら)
家庭教師の指導に耐えながらも、ロゼリアはチェリシアの事を心配していた。ちらりと横目をやれば、あまりの厳しさにチェリシアは涙目になっている。
(いきなり巻き込んでごめん)
ロゼリアは心の中で謝った。
家庭教師による淑女教育が終わると、お茶の時間となる。シアンが淹れた紅茶と、マゼンダ家のお抱え料理人が作ったお菓子を味わう。ロゼリアにとってはいつも通りだが、慣れないチェリシアにとっては、至福の時間のようだ。
「おいしい。さすが侯爵家ともなれば、料理人が違うんだぁ」
「仕方ないわよ。あなたの家は貴族の中では貧乏な方ですもの。山と海に囲まれて行き来は不便ですし、気候も安定しないので作物も不安定になってしまいますから」
チェリシアが満足げにお菓子を食べている。
ロゼリアはコーラル子爵家の領地の事を調べてみたが、農業は不安定、海に面するものの漁業は行われていないため、収益がとても少ないようだった。
ただ、子爵家自体が倹約を行なっているため、財政はそこまで逼迫していないが、これでは子爵家がいつ潰れてもおかしくない状況には変わりなかった。
(かわいそうに。この分ではまともな食事はあまり取れてないのでしょうね。私に比べると、少し痩せていますし)
しかし、学園に通っていた頃のチェリシアは、体格は一般的な女子とそう変わりはなかった。おそらく、この五年間に能力が開花して状況が変化したのだろう。
しばらく紅茶とお菓子を堪能した後、ロゼリアはテーブルに紙の束を取り出す。
「これは、私が体験した未来よ。とはいっても、これといった問題は起こしていないはずなんだけど。どういうわけか、その時のあなたとはよく口論になっていたわ」
ロゼリアの出した紙に目を通すチェリシア。そして、
「これを読む限り、その私は世間知らずのわがまま娘のようですね。ロゼリアの指摘に逆恨みを積み重ねたような、そんな感じがします」
ロゼリアが感じた事と同じ感想が返ってきた。やはり、第三者から見てもあのチェリシアはそういった人間だったという事だ。
「あなたの知る私たちの事は、学園に入学してからの事よね。でしたら、それまでに周りの環境を変化させてしまえば、その後の話にも変化は出ると思うの。あなたはどう思うかしら」
ロゼリアは、自分の出した仮説をチェリシアにぶつけてみた。チェリシアは目を丸くして驚く。
「……確かに、ゲームが始まるまでは余裕がありますし、スタートの時点で差異が生まれれば、その後のストーリーが変化する可能性はあります。第一、ゲームは進め方によって変化する、マルチエンディングになってますし」
チェリシアは口に拳を当ててぶつぶつと言いながら、ロゼリアの意見を肯定する。
「ですが、強制力によって元に捻じ曲げられる可能性もあるので、私もロゼリアと同じように覚えてる限りのストーリーを書き出してみます」
それでもどこか不安なチェリシアは、ロゼリアにそう約束する。
「ええ、その方がいいわね。起きる出来事と状況が分かっていれば、対策は練れるものね」
納得するロゼリアに対して、チェリシアはふんすと気合を入れていた。
「ですけれど、チェリシアの領地の改革もしませんとね。このままでは領地経営は行き詰まりますし、何か安定して作れる物でもあればいいけれど」
ロゼリアが考え始めると、チェリシアは何やら思いつく。
「芋やトマトとかありましたでしょうか。あれなら寒冷であったり、多少水が不足したりしても栽培はできます。幸い海は近いですし、水を作る過程で塩も作れると思います」
「芋やトマトね。確か、王都の市場で見かけた事があるわ」
それを聞いて、チェリシアの目が光った。
「それは幸運です。実は私、前世で家庭菜園をしていたので、そのあたりは育てた事があるんです」
ガタッと椅子を倒しそうな勢いで立ち上がるチェリシア。令嬢にあるまじき行為を、ロゼリアはとりあえず窘める。
「ええ、それは分かったわ。じゃあ、後で買い付けに参りましょうか」
こうして、二人は未来を変えるために、まずはコーラル子爵領の改善を図る事になったのだった。
話し合うだけではなく、前回のチェリシアに不足していた貴族たる振る舞いを叩き込むために、ロゼリアと共に家庭教師の講義を受ける事になったのだ。
「そこっ! 背筋が曲がっています。もっと胸を張りなさい!」
「は、はいっ!」
家庭教師のマダムの檄が飛ぶ。チェリシアには当然だが、ロゼリアにも容赦はなかった。
(侯爵家の淑女教育は、さすがに厳しすぎたかしら)
家庭教師の指導に耐えながらも、ロゼリアはチェリシアの事を心配していた。ちらりと横目をやれば、あまりの厳しさにチェリシアは涙目になっている。
(いきなり巻き込んでごめん)
ロゼリアは心の中で謝った。
家庭教師による淑女教育が終わると、お茶の時間となる。シアンが淹れた紅茶と、マゼンダ家のお抱え料理人が作ったお菓子を味わう。ロゼリアにとってはいつも通りだが、慣れないチェリシアにとっては、至福の時間のようだ。
「おいしい。さすが侯爵家ともなれば、料理人が違うんだぁ」
「仕方ないわよ。あなたの家は貴族の中では貧乏な方ですもの。山と海に囲まれて行き来は不便ですし、気候も安定しないので作物も不安定になってしまいますから」
チェリシアが満足げにお菓子を食べている。
ロゼリアはコーラル子爵家の領地の事を調べてみたが、農業は不安定、海に面するものの漁業は行われていないため、収益がとても少ないようだった。
ただ、子爵家自体が倹約を行なっているため、財政はそこまで逼迫していないが、これでは子爵家がいつ潰れてもおかしくない状況には変わりなかった。
(かわいそうに。この分ではまともな食事はあまり取れてないのでしょうね。私に比べると、少し痩せていますし)
しかし、学園に通っていた頃のチェリシアは、体格は一般的な女子とそう変わりはなかった。おそらく、この五年間に能力が開花して状況が変化したのだろう。
しばらく紅茶とお菓子を堪能した後、ロゼリアはテーブルに紙の束を取り出す。
「これは、私が体験した未来よ。とはいっても、これといった問題は起こしていないはずなんだけど。どういうわけか、その時のあなたとはよく口論になっていたわ」
ロゼリアの出した紙に目を通すチェリシア。そして、
「これを読む限り、その私は世間知らずのわがまま娘のようですね。ロゼリアの指摘に逆恨みを積み重ねたような、そんな感じがします」
ロゼリアが感じた事と同じ感想が返ってきた。やはり、第三者から見てもあのチェリシアはそういった人間だったという事だ。
「あなたの知る私たちの事は、学園に入学してからの事よね。でしたら、それまでに周りの環境を変化させてしまえば、その後の話にも変化は出ると思うの。あなたはどう思うかしら」
ロゼリアは、自分の出した仮説をチェリシアにぶつけてみた。チェリシアは目を丸くして驚く。
「……確かに、ゲームが始まるまでは余裕がありますし、スタートの時点で差異が生まれれば、その後のストーリーが変化する可能性はあります。第一、ゲームは進め方によって変化する、マルチエンディングになってますし」
チェリシアは口に拳を当ててぶつぶつと言いながら、ロゼリアの意見を肯定する。
「ですが、強制力によって元に捻じ曲げられる可能性もあるので、私もロゼリアと同じように覚えてる限りのストーリーを書き出してみます」
それでもどこか不安なチェリシアは、ロゼリアにそう約束する。
「ええ、その方がいいわね。起きる出来事と状況が分かっていれば、対策は練れるものね」
納得するロゼリアに対して、チェリシアはふんすと気合を入れていた。
「ですけれど、チェリシアの領地の改革もしませんとね。このままでは領地経営は行き詰まりますし、何か安定して作れる物でもあればいいけれど」
ロゼリアが考え始めると、チェリシアは何やら思いつく。
「芋やトマトとかありましたでしょうか。あれなら寒冷であったり、多少水が不足したりしても栽培はできます。幸い海は近いですし、水を作る過程で塩も作れると思います」
「芋やトマトね。確か、王都の市場で見かけた事があるわ」
それを聞いて、チェリシアの目が光った。
「それは幸運です。実は私、前世で家庭菜園をしていたので、そのあたりは育てた事があるんです」
ガタッと椅子を倒しそうな勢いで立ち上がるチェリシア。令嬢にあるまじき行為を、ロゼリアはとりあえず窘める。
「ええ、それは分かったわ。じゃあ、後で買い付けに参りましょうか」
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