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第一章 はじまり
第2話 時戻り
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声ならぬ声を上げて、ロゼリアは目を覚ます。
処刑台に居たはずなのに、周りを見れば見覚えのある部屋の中に居た。
ドクドクと速く脈打つ鼓動を抑えながら、ロゼリアはベッドから起き上がり、壁際に据えられた姿見を覗き込んだ。
「嘘っ! これ、幼い時の私だわ……」
寝巻きに身を包んだロゼリアの姿は、間違いなく小さい頃の自分だった。
ツヤのある真紅の髪。丸みのある顔。おそらくはまだ一桁年齢の自分だろうと思われる。
次の瞬間、ロゼリアは頬をつねる。
……痛い。
どうやら現実のようだ。
それにしても状況が分からない。どうしたものかと悩んでいると、入口のドアをノックする音が聞こえた。
「失礼致します、お嬢様。朝の支度に参りました」
外から呼び掛ける声に、
(この声、私専属のシアンだわ)
ロゼリアは懐かしんだ。断罪の少し前にお暇をもらって屋敷を出ていった、ロゼリア専属のメイド。物心ついた頃からずっと連れ添った従者だけに、感慨はひとしおだった。
「お嬢様? 起きていらっしゃいますか?」
反応が無いために、不安になっているようだ。意識を現実に戻したロゼリアは、
「お、起きてるわ。入ってきて」
慌てて返事をした。
「改めて失礼致します。おはようございます、ロゼリアお嬢様」
ドアを開けて部屋に入ってきたシアンは、完璧な挨拶をする。
シアン・アクアマリンはアクアマリン子爵の四女だった女性で、理由は分からないが、かなり前にマゼンダ侯爵家に使用人としてやって来た。同じ貴族出の使用人との間に子を成しており、二児の母という事でロゼリア付きを任された経緯がある。
「シアン、いきなりだけど、私って今何歳?」
ロゼリアの唐突な質問に、シアンは一瞬固まった。だが、そこは元子爵令嬢で令嬢付き侍女。すぐに平静を取り戻して答える。
「お嬢様はおととい八歳になられたばかりですよ。……まさか、寝ている間にベッドから落ちられたのでは?」
落ちた可能性を疑ったシアンは、慌ててロゼリアに駆け寄って確認するが、特に傷やコブのようなものは見当たらなかった。
「……どうやらご無事のようですね。冷や汗をかきましたわ」
「心配させて悪かったわ。ちょっと確認したかっただけなの」
「……仰っている意味が分かりませんが?」
ここでロゼリアは気付く。自分が時戻りをした事を、他人のシアンが知るわけもない。つまり、自分の言動は、気が触れたと思われても仕方がないものだ。なので、すぐに取り繕う。
「ううん、何でもないわ。朝の支度でしたわね。すぐに取り掛かって」
「かしこまりました」
この時のシアンの顔は、明らかに疑念を持っていた。
朝食を済ませたロゼリアは、部屋で八歳から処刑される十九歳までの出来事を、思い出しながらメモを取っていく。
途中で昼食を挟みながら、思い出せる分を思い出してみたら、すごい枚数の紙になってしまった。その大量のメモを見ながら、
「このチェリシアって子爵令嬢が鍵になりそうね。私が言動を諌める度に反発してきましたものね。まったく、教育はどうなっているのかしら」
最後に自分を罠に嵌めた令嬢の事が気になって仕方なかった。
「よし、そうと決まれば会ってみましょう。あの子と初めて会うのは学園に入ってからだから、まだ五年くらいあるわ。その間に親睦を深めて、対立しないようにすればいいはず」
ロゼリアは、自分が死ぬ事になる最大の原因を、まずは排除しようと考えたのだ。
「しかし、あの時のシルヴァノ殿下も、なんだか様子がおかしかったわ。……殿下とは在学中はそれほど不仲でもありませんでしたし、婚約者の候補にもなりましたものね」
王子の方はどうしても事情が分かりかねる。なのでロゼリアは、チェリシアをどうにかしようと計画する事にした。
ロゼリアは考えた結果、茶会を催して、そこにチェリシアを招く事にした。
そして、今日から一週間後、マゼンダ邸の庭園にて茶会が開かれる運びとなった。
(身分差があるから、向こうは下手には断れないはず。私としては、コーラル家にも興味が湧いたから、是非とも来てもらいたいのだけど……)
茶会を催す事を考えついてから、ロゼリアはチェリシアのコーラル子爵家を調べていた。
コーラル子爵家は、アイヴォリー王国の中でも比較的田舎に位置する領地を持つ。しかし、海と山に囲まれた不便な土地で、貿易港のような場所もない。ただの辺境の田舎貴族だった。
(それでもチェリシアは、類稀な魔力と知識を持っていた。一般常識だけが欠落していたのが欠点だけど、それを除けば素晴らしい子だったわ)
だからこそ、ロゼリアは事あるごとにチェリシアにお小言を言っていたのだが、それがまさかあんな形で返ってこようとは、夢にも思わなかった。
なんにしても、今回の茶会は処刑回避の第一歩。いやでも成功させないといけなかった。
処刑台に居たはずなのに、周りを見れば見覚えのある部屋の中に居た。
ドクドクと速く脈打つ鼓動を抑えながら、ロゼリアはベッドから起き上がり、壁際に据えられた姿見を覗き込んだ。
「嘘っ! これ、幼い時の私だわ……」
寝巻きに身を包んだロゼリアの姿は、間違いなく小さい頃の自分だった。
ツヤのある真紅の髪。丸みのある顔。おそらくはまだ一桁年齢の自分だろうと思われる。
次の瞬間、ロゼリアは頬をつねる。
……痛い。
どうやら現実のようだ。
それにしても状況が分からない。どうしたものかと悩んでいると、入口のドアをノックする音が聞こえた。
「失礼致します、お嬢様。朝の支度に参りました」
外から呼び掛ける声に、
(この声、私専属のシアンだわ)
ロゼリアは懐かしんだ。断罪の少し前にお暇をもらって屋敷を出ていった、ロゼリア専属のメイド。物心ついた頃からずっと連れ添った従者だけに、感慨はひとしおだった。
「お嬢様? 起きていらっしゃいますか?」
反応が無いために、不安になっているようだ。意識を現実に戻したロゼリアは、
「お、起きてるわ。入ってきて」
慌てて返事をした。
「改めて失礼致します。おはようございます、ロゼリアお嬢様」
ドアを開けて部屋に入ってきたシアンは、完璧な挨拶をする。
シアン・アクアマリンはアクアマリン子爵の四女だった女性で、理由は分からないが、かなり前にマゼンダ侯爵家に使用人としてやって来た。同じ貴族出の使用人との間に子を成しており、二児の母という事でロゼリア付きを任された経緯がある。
「シアン、いきなりだけど、私って今何歳?」
ロゼリアの唐突な質問に、シアンは一瞬固まった。だが、そこは元子爵令嬢で令嬢付き侍女。すぐに平静を取り戻して答える。
「お嬢様はおととい八歳になられたばかりですよ。……まさか、寝ている間にベッドから落ちられたのでは?」
落ちた可能性を疑ったシアンは、慌ててロゼリアに駆け寄って確認するが、特に傷やコブのようなものは見当たらなかった。
「……どうやらご無事のようですね。冷や汗をかきましたわ」
「心配させて悪かったわ。ちょっと確認したかっただけなの」
「……仰っている意味が分かりませんが?」
ここでロゼリアは気付く。自分が時戻りをした事を、他人のシアンが知るわけもない。つまり、自分の言動は、気が触れたと思われても仕方がないものだ。なので、すぐに取り繕う。
「ううん、何でもないわ。朝の支度でしたわね。すぐに取り掛かって」
「かしこまりました」
この時のシアンの顔は、明らかに疑念を持っていた。
朝食を済ませたロゼリアは、部屋で八歳から処刑される十九歳までの出来事を、思い出しながらメモを取っていく。
途中で昼食を挟みながら、思い出せる分を思い出してみたら、すごい枚数の紙になってしまった。その大量のメモを見ながら、
「このチェリシアって子爵令嬢が鍵になりそうね。私が言動を諌める度に反発してきましたものね。まったく、教育はどうなっているのかしら」
最後に自分を罠に嵌めた令嬢の事が気になって仕方なかった。
「よし、そうと決まれば会ってみましょう。あの子と初めて会うのは学園に入ってからだから、まだ五年くらいあるわ。その間に親睦を深めて、対立しないようにすればいいはず」
ロゼリアは、自分が死ぬ事になる最大の原因を、まずは排除しようと考えたのだ。
「しかし、あの時のシルヴァノ殿下も、なんだか様子がおかしかったわ。……殿下とは在学中はそれほど不仲でもありませんでしたし、婚約者の候補にもなりましたものね」
王子の方はどうしても事情が分かりかねる。なのでロゼリアは、チェリシアをどうにかしようと計画する事にした。
ロゼリアは考えた結果、茶会を催して、そこにチェリシアを招く事にした。
そして、今日から一週間後、マゼンダ邸の庭園にて茶会が開かれる運びとなった。
(身分差があるから、向こうは下手には断れないはず。私としては、コーラル家にも興味が湧いたから、是非とも来てもらいたいのだけど……)
茶会を催す事を考えついてから、ロゼリアはチェリシアのコーラル子爵家を調べていた。
コーラル子爵家は、アイヴォリー王国の中でも比較的田舎に位置する領地を持つ。しかし、海と山に囲まれた不便な土地で、貿易港のような場所もない。ただの辺境の田舎貴族だった。
(それでもチェリシアは、類稀な魔力と知識を持っていた。一般常識だけが欠落していたのが欠点だけど、それを除けば素晴らしい子だったわ)
だからこそ、ロゼリアは事あるごとにチェリシアにお小言を言っていたのだが、それがまさかあんな形で返ってこようとは、夢にも思わなかった。
なんにしても、今回の茶会は処刑回避の第一歩。いやでも成功させないといけなかった。
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