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第69話 転生者、部下のために一肌脱ぐ
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ちょうどお昼時になったので、俺は食堂へと向かう。
俺が食事をする食堂は相変わらずきれいに掃除がされ、豪華な装飾品が飾り付けられている。
俺も貴族をやっていたから、こういうのは見慣れている。だけど、やっぱり花がないのは寂しいな。ウネにしっかり観賞用の花を育てさせて飾り付けないとな。
俺が椅子に座ろうとすると、使用人がしっかりと椅子を引いて間を空け、座ろうとすると差し込んでくれる。ただそれだけの事とはいえ、タイミングをしっかり合わせられるあたり、熟練だよな。
しばらく待っていると、キリエとバフォメットもやって来る。
昼食とはいえども、その場もが立派な会議の場になってしまう顔ぶれだった。
「魔王様、お待たせ致しました」
「申し訳ございません、我が王よ。待たせてしまうなど、我が汚点でございます」
非常に申し訳なさそうな表情をする二人。だが、俺は別にそれを咎めるつもりはなかった。
「俺も今さっき来たばかりだ。気にする事じゃないさ」
そういって、二人をリラックスさせる。
食事を始めた俺たちは、しばらくして魔王領内の現状について話し合いをする。
「調子に乗って送ってくる要望書は、いったん見ることをやめてるんだが、各地の動きはどうだ」
「そうでございますね……。先日送られてきた分で急ぎと判断したことに関しまして、部下に指示を出して現地に向かわせております」
「そうか。各種族の要望に関しては頼んだぞ、バフォメット」
「はっ、このわたくしめにどうぞお任せ下さい」
俺が声を掛けると、バフォメットは食事の手を止めて頭を深く下げていた。
さすがにバフォメットも歴代魔王の下で忠誠を尽くしてきた魔族だ。俺の命令にも逆らうことなく素直に従ってくれている。
とはいえ、信用し過ぎるのも問題なんだよな。付き合いがそう長くないから、腹の底で何を考えているのかまったく読めないんだよな。
現状はしっかりと働いてくれているので、俺はひとまずバフォメットを信用しておく。
「はははっ、魔王様。どうしてわたくしめが魔王様を裏切れましょうか。ご安心下さい、その御心に応えるべく身を粉にして働きますゆえ」
っと、心の中を読みやがった。
それのせいでかえって信用できないんだよな。
「魔王様、感情が耳に出ております」
「ふえっ?!」
キリエの指摘に、俺は慌てて頭の上の耳を押さえる。どうやらその感情の一つ一つが、耳やしっぽに完全に現れてしまっているらしい。
前世じゃ犬のセイ太を飼ってはいたが、そこまで気を付けて満たなかったからな……。そんなに感情が出てしまうものなんだな。これは気をつけなきゃいけないな。
俺は改めて気を引き締める。
「キリエ」
「はい、魔王様」
バフォメットとの話が終わったことで、俺はキリエへと話を振る。
「薬師の方に『緑精の広葉』は渡してもらえたかな?」
「はい、きちんとお渡ししました」
俺が確認すると、キリエの体がちょっと震えた気がした。
さすがにすっかり敏感になってしまったのか、どうしても気になってしまう。
「キリエ、どうしたんだ?」
思わず問い掛けてしまう。
「いえ、何でもありません」
スパッと言い切るキリエだが、どう考えても態度が怪しい。
すると、バフォメットから横槍が入る。
「ああ、なるほど。メズレスですね」
「メズレス?」
聞いたことのない名前に、思わず聞き返してしまう。
だが、その時のバフォメットの表情はなんとも険しいものだった。こんな表情は今までに見たことがない。
「なんなんだ、そのメズレスってやつは」
俺は気になって仕方ないので、バフォメットに問い掛ける。
すると、バフォメットもものすごく嫌そうな顔をしていた。マジでなんなんだ、そいつは。
俺の歪んだ表情を見たバフォメットは、口に出すのも嫌という表情をしながらも、俺に説明をしてくれた。
「なんだよ、そいつ……」
話を聞いた俺は、正直言葉を失いかけた。
メズレスというのは、魔王軍が抱える薬師集団のトップに居座る男なのだそう。
だが、腕は確かではあるものの、その性格にはかなり難があるのだという。
それが、キリエが嫌がる原因になっている手癖の悪さだ。どうやらセクハラの常習犯らしい。
つまり、キリエはそのいやらしい視線と表情に、バフォメットはいくら注意しても直らない癖にほとほと嫌気がさしているというわけなのである。
なまじ有能だからこそ、真面目な二人は頭を悩ませているのだ。どこにでもいるんだな、そういうやつって……。
「本当に腕だけはいいですから、あの人は……」
「ですが、優秀な薬師がどれほどやめる事態となったか……。その事を思うと我々も同罪なのでしょうかな」
さすがに俺はその姿を見て、メズレスという男に苛立ちを覚えた。
こうなったら魔王として部下のために立ち上がらなければならないな。
「よし分かった。魔王としてその問題を解決してやろうじゃないか」
「魔王様、本気ですか?!」
「そうでございます。危険ですぞ、魔王様」
キリエとバフォメットが慌てて止めようとする。
だが、俺には逆に秘策があった。
「大丈夫だ。俺に手を出してくれた方がむしろ都合がいい」
俺はそう言って、悪い顔をしてみせたのだった。
俺が食事をする食堂は相変わらずきれいに掃除がされ、豪華な装飾品が飾り付けられている。
俺も貴族をやっていたから、こういうのは見慣れている。だけど、やっぱり花がないのは寂しいな。ウネにしっかり観賞用の花を育てさせて飾り付けないとな。
俺が椅子に座ろうとすると、使用人がしっかりと椅子を引いて間を空け、座ろうとすると差し込んでくれる。ただそれだけの事とはいえ、タイミングをしっかり合わせられるあたり、熟練だよな。
しばらく待っていると、キリエとバフォメットもやって来る。
昼食とはいえども、その場もが立派な会議の場になってしまう顔ぶれだった。
「魔王様、お待たせ致しました」
「申し訳ございません、我が王よ。待たせてしまうなど、我が汚点でございます」
非常に申し訳なさそうな表情をする二人。だが、俺は別にそれを咎めるつもりはなかった。
「俺も今さっき来たばかりだ。気にする事じゃないさ」
そういって、二人をリラックスさせる。
食事を始めた俺たちは、しばらくして魔王領内の現状について話し合いをする。
「調子に乗って送ってくる要望書は、いったん見ることをやめてるんだが、各地の動きはどうだ」
「そうでございますね……。先日送られてきた分で急ぎと判断したことに関しまして、部下に指示を出して現地に向かわせております」
「そうか。各種族の要望に関しては頼んだぞ、バフォメット」
「はっ、このわたくしめにどうぞお任せ下さい」
俺が声を掛けると、バフォメットは食事の手を止めて頭を深く下げていた。
さすがにバフォメットも歴代魔王の下で忠誠を尽くしてきた魔族だ。俺の命令にも逆らうことなく素直に従ってくれている。
とはいえ、信用し過ぎるのも問題なんだよな。付き合いがそう長くないから、腹の底で何を考えているのかまったく読めないんだよな。
現状はしっかりと働いてくれているので、俺はひとまずバフォメットを信用しておく。
「はははっ、魔王様。どうしてわたくしめが魔王様を裏切れましょうか。ご安心下さい、その御心に応えるべく身を粉にして働きますゆえ」
っと、心の中を読みやがった。
それのせいでかえって信用できないんだよな。
「魔王様、感情が耳に出ております」
「ふえっ?!」
キリエの指摘に、俺は慌てて頭の上の耳を押さえる。どうやらその感情の一つ一つが、耳やしっぽに完全に現れてしまっているらしい。
前世じゃ犬のセイ太を飼ってはいたが、そこまで気を付けて満たなかったからな……。そんなに感情が出てしまうものなんだな。これは気をつけなきゃいけないな。
俺は改めて気を引き締める。
「キリエ」
「はい、魔王様」
バフォメットとの話が終わったことで、俺はキリエへと話を振る。
「薬師の方に『緑精の広葉』は渡してもらえたかな?」
「はい、きちんとお渡ししました」
俺が確認すると、キリエの体がちょっと震えた気がした。
さすがにすっかり敏感になってしまったのか、どうしても気になってしまう。
「キリエ、どうしたんだ?」
思わず問い掛けてしまう。
「いえ、何でもありません」
スパッと言い切るキリエだが、どう考えても態度が怪しい。
すると、バフォメットから横槍が入る。
「ああ、なるほど。メズレスですね」
「メズレス?」
聞いたことのない名前に、思わず聞き返してしまう。
だが、その時のバフォメットの表情はなんとも険しいものだった。こんな表情は今までに見たことがない。
「なんなんだ、そのメズレスってやつは」
俺は気になって仕方ないので、バフォメットに問い掛ける。
すると、バフォメットもものすごく嫌そうな顔をしていた。マジでなんなんだ、そいつは。
俺の歪んだ表情を見たバフォメットは、口に出すのも嫌という表情をしながらも、俺に説明をしてくれた。
「なんだよ、そいつ……」
話を聞いた俺は、正直言葉を失いかけた。
メズレスというのは、魔王軍が抱える薬師集団のトップに居座る男なのだそう。
だが、腕は確かではあるものの、その性格にはかなり難があるのだという。
それが、キリエが嫌がる原因になっている手癖の悪さだ。どうやらセクハラの常習犯らしい。
つまり、キリエはそのいやらしい視線と表情に、バフォメットはいくら注意しても直らない癖にほとほと嫌気がさしているというわけなのである。
なまじ有能だからこそ、真面目な二人は頭を悩ませているのだ。どこにでもいるんだな、そういうやつって……。
「本当に腕だけはいいですから、あの人は……」
「ですが、優秀な薬師がどれほどやめる事態となったか……。その事を思うと我々も同罪なのでしょうかな」
さすがに俺はその姿を見て、メズレスという男に苛立ちを覚えた。
こうなったら魔王として部下のために立ち上がらなければならないな。
「よし分かった。魔王としてその問題を解決してやろうじゃないか」
「魔王様、本気ですか?!」
「そうでございます。危険ですぞ、魔王様」
キリエとバフォメットが慌てて止めようとする。
だが、俺には逆に秘策があった。
「大丈夫だ。俺に手を出してくれた方がむしろ都合がいい」
俺はそう言って、悪い顔をしてみせたのだった。
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