上 下
11 / 144

第11話 転生者、メイドの姉妹に会う

しおりを挟む
「おはようございます、魔王様」

 俺の耳に聞き慣れない声が入ってくる。

「ん……まぶしい」

「ええ、もう朝でございますよ。獣人は朝が早いと聞きますので、失礼ながらもカーテンを開けさせて頂きました」

「はっ!」

 俺はがばっと起き上がる。
 辺りを見回すと、身に覚えのない部屋だった。

「……ここは、どこだ?」

 俺が漏らした言葉に、メイドがくすりと笑っている。

「寝ぼけていらっしゃいますか、魔王様。ここは魔王様の自室の中でございますよ」

「魔王……」

 メイドの発した単語に、俺が顔を押さえて記憶を探る。しばらくすると、ある事実に行き当たった。

「あ、そうか。俺は魔族たちに担ぎ上げられて魔王になったんだっけか……」

 ぼーっとする頭ではあるものの、どうにか自分の身に起きた事を思い出せた。
 そうだよ。魔王領に入ってしばらくして魔族に遭遇して、そいつらにさらわれるようにして魔王城まで来たんだった。で、あれよあれよという間に魔王を継がされたんだったな、思い出したぜ。

「思い出されましたか、魔王様」

「ああ、しっかりと全部な。お手柔らかに頼むよ、キリエ」

 俺が顔を押さえたまま視線を向けると、黒い巻き角が特徴的な魔族のメイドであるキリエはにこりと柔らかな笑みを浮かべていた。
 ベッドから起き抜けた俺は、キリエの手によって服を着替えていく。
 さすがにあれから1か月近く経っているので、さすがに全身毛むくじゃらの獣人の姿には慣れたものだ。しかし、キリエの手によって着せられていく服装というものには、まだ慣れないものだ。女の体になったとはいえ、女物の服にすぐに馴染むというかというと、そう簡単にはいかないのである。それはそれ、これはこれだ。

「うーん、さすがに魔王様のために新しい服を仕立てないといけませんね。前の魔王様がご用意されていた服では、魔王様の魅力が活かしきれません」

 キリエが頭を捻っていた。あまりに真剣だし、女物の服はよく分からないので、俺は口がはさめなかった。

「ひとまずはこの服装で我慢下さいませ。今の魔王様には少々地味かと存じますが、今日は特に予定もございませんですから」

「あ、ああ。そうなんだな」

 キリエの言葉にどう反応していいのか、俺は困惑していた。

「魔王様の体型は把握致しましたし、朝食は他の使用人にお任せをして、私は仕立て屋のところへ行って参ります。妹のカスミが午前中は担当致しますので、いいように使って下さいませ」

 俺の世話をしながら淡々と話すキリエである。職務に忠実というべきなんだろうな、こういうのって。

「分かった。頼りにさせてもらうよ」

「そう仰って頂けるとは光栄でございます」

 キリエの態度は、根っからの使用人といった感じだった。主に仕えて奉仕するのが幸せといった感じなのがよく分かる。

「それでは、私は仕立て屋と話をして参ります。しばらくお待ち頂ければカスミがやって参りますので、そのままお待ち下さい」

 キリエは深く頭を下げて部屋を出ていった。
 妹であるというカスミが来るまでしばらく時間がある。なので、俺は今着せられている自分の服を確認することにする。
 確かに、昨日のお披露目の時の服に比べれば地味な印象は受ける。胸元もしっかり隠れているし、靴は踵の低いブーツだ。かなり対照的な服装だった。

(獣の足で靴って要るのかと思ったけど、今まで人間だったから問題ないか……)

 なんでもないような事を気に掛けてしまう俺だった。
 しばらくすると、部屋の扉が叩かれる。

「誰だ?」

「カスミでございます。キリエ姉から紹介されていたと存じますが」

「ああ、俺のもう一人の使用人か。入ってきていいぞ」

 さっきのキリエの言葉を思い出した俺は、入室の許可を出す」

「失礼致します」

 その言葉が聞こえると、部屋の扉が開いてメイドが入ってきた。
 髪色が違うだけで、キリエによく似た女性が入ってきた。

「キリエ姉の妹のカスミと申します。最初の仕事として朝食をお持ち致しました」

 ぺこりと頭を下げるカスミ。それは快く迎え入れる。
 食事は食堂で取るものかと思ったが、まさか自室まで持ってくるとは思わなかった。魔王はそのくらいに忙しい仕事なのかもしれないな。
 俺がおいしそうにもぐもぐと食事を取っていると、カスミはキリエとは違った視線を俺に向けてくる。
 キリエは尊敬というか敬愛に満ちていたのに対し、カスミの視線は警戒に近しい感じだった。

「……ませんから」

「うん?」

 カスミがぼそりと呟く。よく聞き取れないので、俺はカスミに視線を向ける。すると、カスミは俺をキッと睨んできた。

「認めませんからね、あなたが魔王だなんて。仕事だから従いますけれど、ぜーったいに認めてあげないんですから」

 あまりに突然の言葉だっただけに、俺は思わず面食らってしまう。そのせいか、尻尾は驚きでピーンと逆立っていた。
 肩で息をするカスミを眺めていると、俺は少しずつ落ち着いてくる。

「そっか。まぁ突然の事だからよく分かるよ。俺も魔王とか言われてもまだピンとこないからな」

 そういって、手に持ったままになっているパンを口へと放り込む。そして、ごくりと飲み込んで言葉を続ける。

「でも、この魔王領の統治を任された以上は、ここを良くしていきたいと思ってる。だからさ、カスミも力を貸してほしい。頼む」

 俺がいきなり頭を下げたせいで、カスミはかなり戸惑っているようだった。
 そして、腕を組んで顔を背けた状態で俺にこう言った。

「しょ、しょうがないわね。そんなに言うんだったら、手伝ってあげない事もないわ」

「ああ、頼むよ」

 カスミのツンデレな態度に、思わず笑ってしまう俺だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あさひ市で暮らそう〜小さな神様はみんなの望みを知りたくて人間になってみた〜

宇水涼麻
ファンタジー
田中洋太は父親役の真守と母親役の水萌里ともに旭市で暮らすことになった『八百万の神』の一人である。 旭市に住まう神として、旭市を知り、旭市を好きになるため、旭市で生活し人々と接していくことになったのだった。 洋太にどのような出会いが待っているのだろうか。 神々についての説明が出てまいりますが、宗教や信仰心に正しくない場合が多々あります。また『なんで免許持ってるの?』とか『籍はどうしたの?』などのご質問はお赦しください。フィクションであり、ご都合主義もあるとご理解ください。ファンタジーでありノンフィクションである小説です。 非公認エリア旭喝采部です!とにかく旭市を褒めまくります! この小説は旭市のPRを込めたものです。千葉県北東部九十九里浜最北東にある温暖な気候と肥沃な大地と大海原を持った自然豊かな土地であり、それでいて都心まで九十分という利便性を持った街です。 実際にある風景やお店や仕事などを楽しく紹介していきたいと思っています。 作者の知らない旭市の顔もまだまだありますので、取材をしながらゆっくりと進めてまいります。 読み物としても面白可笑しく書いていくつもりですので、旭市に興味のない読者様もよろしくお願いします。 完結主義の作者でございますが、紹介したいところが多すぎて完結までどれほどかかるやらwww 乞うご期待! 毎週土曜日と日曜日の昼11時に更新です。 旭市にお住まいの方で、「取材に来てぇ!」と思ってくださりましたら、【X】または【インスタ】にてご連絡ください!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...