不死の少女は王女様

未羊

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第97話 誓い

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 トレイズ遺跡の奥まった小部屋。ステラの放つ光が部屋を照らす中、ステラの両親はぽつぽつと語り始めた。

『分かりやすいところから話していこうか。それはそれとして、我々のいた時代からどのくらい今は経っているのかな』

 と思いきや、まずは時間経過を確認してくる国王である。

「あれから500年ほどです、お父様」

 それに答えるステラである。時間がどのくらい経ったのか聞いて、ステラの父親は顎を触りながら小さく頷く。

『そうか、そんなに経つのか……』

 しんと静まり返る。

『その間、ステラリアが生き続けられているのは、先ほども言った我々の秘術があったからだ。これは、エルミタージュ王家が滅亡の危機に瀕した時に使う奥の手でな、対象を不老不死へと変える魔法なのだ』

「なんと?!」

 ステラの父親の言葉に驚いて、思わずステラをじっと見てしまうアンペラトリスである。

『この秘術が効果を発揮している間は年は取らないし、死ぬこともない。解く方法はただ一つ、エルミタージュの再興を果たす事だけなのだ』

「そうか……。それでステラリアはこの小さな姿のままというわけなのか」

 ステラの父親の言葉を聞きながらも、アンペラトリスはじっとステラから視線を外す事はなかった。

『しかし、不思議なものですね。500年も経っていれば、ステラリアの名前も容姿もまったく分からなくなっているはずなのですけれどね』

 ステラの母親は頬に手を当てながら、アンペラトリスに対して疑問を持っているようだ。
 これに対して、アンペラトリスはくるりと視線を向けて話を始める。

「コリーヌ帝国はエルミタージュの遺跡を調べて回っているのでな。その中にステラリアの肖像画があったために姿は知っていた。それと、魔道具の管理者がステラリア・エルミタージュになっていることを踏まえると、案外簡単に結びついたものだよ」

 自信たっぷりに話すアンペラトリス。これにはステラの両親は思わず黙り込んでしまった。まさかそこまで勘の鋭い人物がいるとは思わなかったからだ。

「っと、すまない。話を邪魔するつもりはなかった。続けてくれないだろうか」

 このまま反応し続ければ話の腰を折ると悟ったアンペラトリス。素直に聞く姿勢へと態度を変えていた。
 その姿を見て、ステラの父親は咳払いをして話を再開させる。残留思念のようなものなのに、咳払いをするとか、今まさにそこに実在しているかのようである。

『エルミタージュは今から約500年前、ステラリアの11歳の誕生日に攻め入られて焼け落ちて滅んでしまったのだ。まさか、大陸の外から来た連中が、秘密裏に兵士を攻め込ませていたとはな』

 後悔に表情を歪ませるステラの父親である。

『城が焼け落ちているのは、その時に攻め入って来た者たちが放ったため。この隠し通路は城とは切り離されていたのですが、この通り押し潰されてしまいましてね。おそらくは予想以上に火力が強く、焼け落ちた城の一部がここに崩落してきたのでしょう』

『ここまで炎に巻かれるとは思わなかったがな。だが、万一を考えてステラリアに託した勲章と我々の装飾品が揃うと発動する魔法を仕掛けておいてよかったよ。こうやって、ステラリアと再び言葉を交わす事ができたのだからな』

「お父様、お母様……」

 両親の執念に、思わず涙がこぼれてきてしまうステラ。500年もこの場所に戻ってこれなかった事を、激しく後悔しているのだ。

「本当に、申し訳、ございま、せんでした……。わ、私……、私……」

 涙があふれてきて、言葉にならないステラ。500年もの間、この暗くて腐臭漂う空間に両親を閉じめて続けていたのだから。
 泣きだしたステラを抱きしめてあげたい国王と王妃だが、残留思念がゆえにその場を動くことができず、また触れる事もできない。歯がゆい気持ちでステラの姿を見ている事しかできなかった。
 その様子を見ていたアンペラトリスは、すっとステラの後ろに動く。
 そして、ステラの肩に手を置きながら、ステラの両親をしっかりと見据える。

「エルミタージュ国王並びに王妃よ。そなたらの気持ち、このアンペラトリスがしかと受け止めた。さすがに我が帝国を捨てるような真似はできぬが、そなたらの娘であるステラリアの身は、この私が責任を持って引き受けよう」

 急に肩に手を置かれて、驚きのあまりアンペラトリスを見るステラ。見上げたその顔には、まだ大粒の涙がこぼれそうになっている。
 アンペラトリスの言葉に、ステラの両親はどうしたものかと顔を見合わせている。だが、自分たちは死んだ身であり、その場を動けない。となると、結論が出るのは早かった。

『そうだな。エルミタージュの城のあった場所に国を構えたのも何かの縁だろう』

『そうですね。なぜだか分かりませんが、私たちと何か似たような魔力を感じますしね』

 不思議な縁を感じたがゆえに、ステラの両親はアンペラトリスにこう告げる。

『アンペラトリスと申したな。我が娘ステラリアのこと、よろしく頼んだぞ』

「はっ、必ずやその約束、守ってみせましょうぞ」

 きりっとした顔で言い切るアンペラトリスの姿に、ステラの両親はどこか安心したような気持ちになるのだった。
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