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第91話 飴と鞭の提案
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ステラは書庫に入り浸り、リューンは帝国の騎士や兵士たちと訓練に勤しんでいる。
その間、もう一人連れてこられたベルオムは、城に用意された研究設備で魔道具の研究に勤しんでいた。
「ふむ、実に快適だな。魔石も潤沢に手に入るから、思った以上に研究がはかどるというものだよ」
ベルオムは鼻歌を歌うくらいにはご機嫌だった。
ベルオムが作る魔道具は、基本的に簡単な魔法のものばかりである。
双剣の扱いも魔法の扱いもすごいのではあるが、魔道具だけは思ったより簡単なものばかりしか作っていない。
攻撃を一度のみ防ぐバリアを展開する腕輪、泥や粘液を防ぐマントといった冒険に使えるちょっとしたものもそうだが、夜の明かり取りに汚れを落とす魔道具といった日用品まで様々といったところだ。
大きさは最大のもので先ほど出てきたマントくらいまで。それ以外はほとんどが手のひらサイズの簡易的な魔道具ばかりなのである。
ベルオムがこのくらいしか魔道具を作らないのには訳がある。
冒険において魔道具に頼りすぎるのはよくないと考えているからだ。だからといっても死なれてしまっても困るというわけで、攻撃を一度だけ防ぐという効果を付与した魔道具を作っているのである。
下手に複数回防いでしまうと、それを頼りにした特攻タイプが出てきかねないからだ。
実のところ、ステラの事を可愛がってはいるベルオムだが、ステラが不死身な事は知っている。それを利用した無茶が目立つために心の中では疎んでいたりするのである。
ベルオムがステラに肩入れしているのは、その悪癖を矯正するためなのだ。そのくらいに、ステラという存在は目を離せないというわけなのだ。
「もしステラくんが元の体に戻った時、今のままなら間違いなくすぐ死んでしまうだろうからね……。まったく、手のかかる弟子を持つと気苦労が耐えないものだな」
ベルオムはステラの事を思い出しながら、苦笑いをしている。
「だからこそ、魔道具の研究は欠かせないというもの。まったく、冒険者向けの魔道具研究は、すっかりステラくん基準になってしまったものだよ」
ベルオムは半分愚痴めいたことを喋りながら、金属を魔法で加工していく。
本来ならば炉に入れて叩くなどしないと変形できない金属も、ベルオムの手にかかれば火魔法をメインにして簡単に形を変えられてしまうのだ。
さすがエルフといわんばかりに、この辺りはかなり器用なのである。
ベルオムが今日もマイペースに魔道具を作っていると、アンペラトリスがやって来た。
「今日も精が出るようだな、ベルオムよ」
「これはこれは、アンペラトリス・コリーヌ皇帝陛下。何の用ですかな?」
わざわざフルネームで呼ぶあたり、ベルオムは露骨に不快感を示している。
それに対して、アンペラトリスは余裕の笑みを浮かべている。
「わざわざかみつくような呼び方をせずともよいではないか。そなたの性格は把握しておるから、兵器開発を強いておらぬだろう?」
それに対して、ベルオムの方はまったく警戒感を崩していない。
「さあてどうだろうな。私の作った魔道具を平気で兵器に転用してくれそうに思うがな」
「くくくっ、まったく信用がないというわけか。安心しろ、それは我々コリーヌ帝国の領分だ。そなたには好きなようにやってもらうことは最初に同意したではないか」
不信感全開のベルオムに対して、アンペラトリスもまったく余裕の姿勢を崩さない。しばらくは両者のにらみ合いが続く。
やがて、先にアンペラトリスがため息をつきながら視線を外す。
「まったく悲しい事だ。迎えるにあたってこれだけの設備を整えたというのに、そんな態度を取られたのではな」
これにはさすがのベルオムも少し動揺を見せる。
その姿が目に入ったアンペラトリスは、ここぞとばかりに口を開く。
「そうだな。条件をもうひとつつけよう」
「どんな条件だ」
「ここで作ったものは、そなたの好きにしてもらって構わない。自分で使うのはもちろん、ステラリアやリューンという小僧に渡すのも自由だ」
「自分以外の手に渡してもいいというのか」
ベルオムの質問に、余裕の表情で頷くアンペラトリスである。
「それと、そなたの許可なしに持ち出す事も絶対にしない。それはこの私も同様のこと。これでどうだ?」
思わず考え込んでしまうベルオムである。
「ただ、状況によってこちらに協力してもらう可能性はあるがな。その際には意思を確認させてもらおう」
アンペラトリスから示された条件を、ベルオムは納得して飲み込むことにした。自分のペースで研究ができて、勝手に利用されないというのが決め手となったのだ。
「捕えている利点を全部よく捨てられたものだな」
「大国としての矜持と余裕というものだ。真の強者というものは、そのくらいの心構えがなければ務まらぬのだよ」
ベルオムはその言葉に押し黙ってしまう。
「そうそう。我々がその気になれば、そなたたちを殺す事など容易い事だということを忘れるな。しょせん、鳥かごの中の鳥に過ぎぬのだよ。では、失礼する」
出ていく前にちらりとベルオムに視線を向けて、脅しを掛けていくアンペラトリス。
この言葉に、ベルオムはただただ黙り込むしかなかったのだった。
その間、もう一人連れてこられたベルオムは、城に用意された研究設備で魔道具の研究に勤しんでいた。
「ふむ、実に快適だな。魔石も潤沢に手に入るから、思った以上に研究がはかどるというものだよ」
ベルオムは鼻歌を歌うくらいにはご機嫌だった。
ベルオムが作る魔道具は、基本的に簡単な魔法のものばかりである。
双剣の扱いも魔法の扱いもすごいのではあるが、魔道具だけは思ったより簡単なものばかりしか作っていない。
攻撃を一度のみ防ぐバリアを展開する腕輪、泥や粘液を防ぐマントといった冒険に使えるちょっとしたものもそうだが、夜の明かり取りに汚れを落とす魔道具といった日用品まで様々といったところだ。
大きさは最大のもので先ほど出てきたマントくらいまで。それ以外はほとんどが手のひらサイズの簡易的な魔道具ばかりなのである。
ベルオムがこのくらいしか魔道具を作らないのには訳がある。
冒険において魔道具に頼りすぎるのはよくないと考えているからだ。だからといっても死なれてしまっても困るというわけで、攻撃を一度だけ防ぐという効果を付与した魔道具を作っているのである。
下手に複数回防いでしまうと、それを頼りにした特攻タイプが出てきかねないからだ。
実のところ、ステラの事を可愛がってはいるベルオムだが、ステラが不死身な事は知っている。それを利用した無茶が目立つために心の中では疎んでいたりするのである。
ベルオムがステラに肩入れしているのは、その悪癖を矯正するためなのだ。そのくらいに、ステラという存在は目を離せないというわけなのだ。
「もしステラくんが元の体に戻った時、今のままなら間違いなくすぐ死んでしまうだろうからね……。まったく、手のかかる弟子を持つと気苦労が耐えないものだな」
ベルオムはステラの事を思い出しながら、苦笑いをしている。
「だからこそ、魔道具の研究は欠かせないというもの。まったく、冒険者向けの魔道具研究は、すっかりステラくん基準になってしまったものだよ」
ベルオムは半分愚痴めいたことを喋りながら、金属を魔法で加工していく。
本来ならば炉に入れて叩くなどしないと変形できない金属も、ベルオムの手にかかれば火魔法をメインにして簡単に形を変えられてしまうのだ。
さすがエルフといわんばかりに、この辺りはかなり器用なのである。
ベルオムが今日もマイペースに魔道具を作っていると、アンペラトリスがやって来た。
「今日も精が出るようだな、ベルオムよ」
「これはこれは、アンペラトリス・コリーヌ皇帝陛下。何の用ですかな?」
わざわざフルネームで呼ぶあたり、ベルオムは露骨に不快感を示している。
それに対して、アンペラトリスは余裕の笑みを浮かべている。
「わざわざかみつくような呼び方をせずともよいではないか。そなたの性格は把握しておるから、兵器開発を強いておらぬだろう?」
それに対して、ベルオムの方はまったく警戒感を崩していない。
「さあてどうだろうな。私の作った魔道具を平気で兵器に転用してくれそうに思うがな」
「くくくっ、まったく信用がないというわけか。安心しろ、それは我々コリーヌ帝国の領分だ。そなたには好きなようにやってもらうことは最初に同意したではないか」
不信感全開のベルオムに対して、アンペラトリスもまったく余裕の姿勢を崩さない。しばらくは両者のにらみ合いが続く。
やがて、先にアンペラトリスがため息をつきながら視線を外す。
「まったく悲しい事だ。迎えるにあたってこれだけの設備を整えたというのに、そんな態度を取られたのではな」
これにはさすがのベルオムも少し動揺を見せる。
その姿が目に入ったアンペラトリスは、ここぞとばかりに口を開く。
「そうだな。条件をもうひとつつけよう」
「どんな条件だ」
「ここで作ったものは、そなたの好きにしてもらって構わない。自分で使うのはもちろん、ステラリアやリューンという小僧に渡すのも自由だ」
「自分以外の手に渡してもいいというのか」
ベルオムの質問に、余裕の表情で頷くアンペラトリスである。
「それと、そなたの許可なしに持ち出す事も絶対にしない。それはこの私も同様のこと。これでどうだ?」
思わず考え込んでしまうベルオムである。
「ただ、状況によってこちらに協力してもらう可能性はあるがな。その際には意思を確認させてもらおう」
アンペラトリスから示された条件を、ベルオムは納得して飲み込むことにした。自分のペースで研究ができて、勝手に利用されないというのが決め手となったのだ。
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ベルオムはその言葉に押し黙ってしまう。
「そうそう。我々がその気になれば、そなたたちを殺す事など容易い事だということを忘れるな。しょせん、鳥かごの中の鳥に過ぎぬのだよ。では、失礼する」
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