不死の少女は王女様

未羊

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第72話 馬車に揺られて

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 ステラたち三人は、アンペラトリスと同じ馬車に乗せられて、コリーヌ帝国を目指して移動する。
 奴隷や捕虜のような扱いを受けるかと思ったが、皇帝と同乗させられるあたり、待遇はよいようだ。

「いいんですか、自分と同じ馬車に乗せるだなんて……」

 ステラはストレートな質問をぶつけている。
 すると、アンペラトリスは余裕の表情を見せている。

「なに、あくまでも客人扱いなのだ。話もしたいからこうやって同じ馬車に乗せたのだよ。何か不満でもあるのかな?」

「むぅ……、そうですか」

 警戒心が最大級に高まっているステラだが、アンペラトリスの堂々とした言い分に、何も言い返せなかった。
 コメルスの屋敷から連れ出される時こそ少々乱暴だったものの、それ以降はこの扱いである。しかし、あれだけ手配書を貼り出されまくっていただけに、勘ぐってしまうのは当然というものなのだ。

「ずいぶんとステラリア・エルミタージュにご執心のようだが、コリーヌ帝国はどこまであの遺跡の解析ができているのかな」

 不機嫌な様子のステラをよそに、ベルオムはアンペラトリスにこれまたストレートな質問を投げかける。
 これに対して、アンペラトリスは不敵に笑っていた。

「ふふっ、そんなに簡単に国家機密を漏らすと思うかな?」

 高圧的に答えるアンペラトリス。

「いや、それもそうですな。そもそも私はその手の話題はどうでもいい。魔道具の研究ができれば十分だからね」

 首を横に振りながら、ベルオムは言葉を返していた。
 こんな状況下でも、初心に徹底的に忠実なのである。

「ああ、我々に逆らわなければ、望むままの環境を与えてやらぬ事はないぞ。魔道具の解明は我々にとっても急務だからな。近隣でも有名な魔法使いであるベルオムが手伝ってくれるなら、これほどまでに素晴らしいものはないというものだ」

 アンペラトリスは期待の眼差しをベルオムに向けている。これにはベルオムもまんざらではないようだった。
 だが、ステラの警戒心はまったく弱まらないし、リューンは完全に怯えてしまっている。
 こちらもこちらでどうにかしなければならないなと、アンペラトリスはじっと視線を向けていた。

「私たちはどうするつもりなのですか……。もし人違いだった時には謝罪してもらえるのでしょうね?」

 ステラはいまだに抵抗するつもり満々のようだ。
 それに対してアンペラトリスは余裕の表情を見せている。

「……まったく、抵抗すれば抵抗するほど認めているも同然だぞ。いくらお前が吠えたところで、私はお前がステラリア・エルミタージュだと確信しているからな」

「何を根拠に」

「私の勘だ。ただ、会ってみて確信したよ。魔力の感じがまったく同じなのだからな」

 ステラが疑いをもって言い放つと、アンペラトリスからは淡々と答えが返ってくる。
 勘と聞いた時にはさすがに鼻で笑いそうになったが、魔力の話をされると黙り込むしかなかった。
 魔力を感知するだけなら、そこそこの心得があればできるものである。
 ところが、その魔力が誰のものかというところまで特定できるとなると、相当の魔法の手練れでないとできない話なのだ。
 もちろん、ステラとその師匠であるベルオムも可能な話である。つまり、アンペラトリスは二人とは同レベル程度の魔法の使い手というわけなのである。
 そんな魔法使いを目の前にしているからこそ、ステラは黙り込んでしまったというわけだ。
 その様子を見たアンペラトリスは、口元を緩ませていた。

「君たちは大事な客人だ。身構えぬともよいぞ。そもそも拷問など、私の趣味ではないからな」

 腕と足を組んで言い切るアンペラトリス。
 暴君のように見えたアンペラトリスだけに、そこはちょっと意外なようだった。
 そのアンペラトリスの対応に、ステラは腕を組んで唸り始める。

(うーん、信用はしたくないですけれど、ここはどうしたものでしょうかね)

 頭を小刻みに動かすステラの様子に、アンペラトリスはつい笑ってしまう。

「ふははは、面白い動きをしてくれるな。いきなりあんな事をしたのだ、私を信用しろといっても無理なのは分かる」

 大笑いをされて、ステラは顔をついアンペラトリスに向けてしまう。
 その時だった。ステラたちの乗る馬車の外から、兵士の声が聞こえてきた。

「皇帝陛下、間もなく帝都に到着致します」

 どうやら、コリーヌ帝国の帝都に着いたようだ。
 ここまでずっと重苦しい雰囲気だっただけに、ステラたちは外を見る余裕がなかった。
 まさかもう帝都に到着しているとは思わなかったのだ。

「ふむ、思ったよりも早かったな。話をしていると時間というものを忘れてしまうな」

 アンペラトリスはそう言いながら、馬車の窓に掛けられたカーテンを持ち上げる。
 窓から差し込んできた光に、ステラやリューンは思わず顔を背けてしまう。まぶしすぎたのだ。

「ステラリア・エルミタージュ、実に歓迎するぞ。ここが、私が治める国のコリーヌ帝国の帝都だ」

 光にどうにか慣れてきたステラは、窓から外を眺める。
 ステラの視界には、高い外壁を持った街の姿が飛び込んできた。

「ここが……コリーヌ帝国」

 思わず息を飲んでしまうステラなのであった。
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