不死の少女は王女様

未羊

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第70話 タクティクの罠

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 ベルオムが先頭を行く中、ステラとリューンはその後ろをついていく。
 まったくもって何も説明をしてくれないがために、ステラは頭が痛いし、リューンは不安そうな表情を浮かべている。まったく、ベルオムはどこまで行くつもりなのだろうか。
 かつて通った道を進み、ベルオムが二人を連れてやって来たのはパント連国のタクティクだった。

「タクティクではないですか。どうしてこんなところまで?」

 ベルオムの歩みが遅くなった事で、ステラは改めて問い質している。
 するとベルオムは、先日受け取った手紙を取り出していた。

「コメルス殿から手紙が来たのだよ。彼に頼んでいたことが実現したみたいでね」

「はあ……、一体何を企んでるんですか、この腹黒エルフは……」

 へらへらと笑うベルオムに、不信感が最高潮になるステラである。
 いろいろと思うところはあるものの、ステラたちはコメルスの商会までやって来た。またここに来るとは思っていなかったので、ステラにはちょっとした緊張が走っていた。

「うん?」

 入口の前にやって来たベルオムが、なにやら神妙な表情をする。

「どうしたんですか、師匠」

 思わず問い掛けるステラである。

「いや、気のせいだろう。せっかくここまで来たのだ、用事をさっさと終わらせようじゃないか」

「まぁそうですね。どんな用事かは知りませんけどね」

 すました顔のベルオムに、苦い顔をするステラである。二人の態度にリューンは戸惑っている。
 まとまらない状態の三人だが、とりあえず用事を済ませにコメルスの商会の中へと入っていく。
 中に入ると、執事と一緒にコメルスの娘であるトレルが出迎えてくれる。

「まあ、みなさん。お久しぶりでございます。お父様でしたら奥にいらっしゃいますので、どうぞお進み下さい」

 笑顔で対応してくるので、ステラたちは言葉に甘えることにする。そして、トレルから頼まれた執事によって奥へと進んでいく。
 奥の部屋に突き当たると執事はぴたりと動きを止める。

「こちらの部屋でございます。旦那様にお声掛けしますので、少々お待ち下さい」

 執事はそう言うと、扉を叩いて部屋の中へと声を掛ける。

「旦那様、ベルオム様たちがいらっしゃいました」

「そうですか、通して下さい」

 中から返事がしたので、執事は扉を開けてベルオムたちを部屋へと通す。

「ささっ、どうぞお入り下さい」

「うむ、失礼するよ」

 言葉に甘えるようにして、ベルオムたちは部屋の中へと入っていく。
 部屋に入ると、そこにはコメルスと部下数名だけがいるような状況だった。ただ、その態度から察するに、この日にベルオムたちがやって来るのは目星をつけていたようだった。
 その状況が気になるベルオムではあるものの、とりあえずスルーをして話に入っていく。

「これはコメルス殿。今回のお招き、期待してよろしいのでしょうかな?」

 いきなりにやりとした笑顔を向けるベルオムである。
 だが、コメルスだって負けてはいなかった。にやつくベルオムに対して無言で笑顔を返す。二人の間で、よく分からない戦いが始まっているようだった。

(なんとも雰囲気が不穏ですね)

 この状況に、ステラは何かを感じ取っているようだった。
 なにせ、この部屋に入ってからの違和感が異常だったのだ。
 以前送り届けた際にも踏み入れてはいるのだが、その時はなんともなかったのだから、今回のこの空気はそれは気持ち悪いの一言に尽きるのである。

(一体、何がこんな雰囲気にさせるのでしょうか……)

 ベルオムとコメルスの話し合いの横で、ステラは悶々と考え込んでいた。

「ステラ……さん?」

 あまりに悩み込むステラの姿に、リューンは思わず心配になって声を掛ける。
 その声にステラが反応する。

「リューン、何でもありませんよ。ちょっと気になる事があっただけですから」

「そ、そうですか」

 ステラがごまかそうとするのだが、リューンはどういうわけか疑いの眼差しをステラに向けていた。
 そのどこか不安げな瞳に、少しばかりステラは良心の呵責を感じたのだった。
 だが、そのリューンの疑いとステラの不安は、見事的中してしまうことになる。

「ほう、そちらの娘がステラというのか」

 突如として一人の女性がその場に乱入してきたのだ。
 これにはベルオムは驚かざるを得なかった。

「この雰囲気、コリーヌ帝国の現皇帝アンペラトリス・コリーヌか」

「ほう、よく知っているな。嬉しいぞ、ボワ王国の宮廷魔術師ベルオム」

「……私の事を知っているのか」

「当然だ。為政者たる者、そのくらいができずしてどうするというのだ」

 見下すような態度を示すアンペラトリスである。

「コメルス殿、謀りましたか」

「すまないですね。これもコリーヌ帝国内で商売をするためですよ。たまたま皇帝とお会いしてしまったのが、運の尽きと申しましょう」

「……そうか、ならば仕方ないな」

 納得するベルオムだった。

「だがな、私がここに来た理由は別にそなたではないのだよ、ベルオム」

「なんだと」

 驚くベルオムに構わず、アンペラトリスはちらりとステラに視線を向ける。

「ふん、実に安っぽい変装だな。その程度でこの私の目をごまかせると思っているのか?」

「何を、言っているのかしら」

「ふん、とぼけるのか。だがな、私はお前を逃すつもりはないぞ」

 アンペラトリスが一歩、ステラへと歩み寄る。

「さあ、覚悟するのだな、ステラリア・エルミタージュ」

 部屋の中にアンペラトリスの声がこだまするのだった。
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