不死の少女は王女様

未羊

文字の大きさ
上 下
70 / 135

第70話 タクティクの罠

しおりを挟む
 ベルオムが先頭を行く中、ステラとリューンはその後ろをついていく。
 まったくもって何も説明をしてくれないがために、ステラは頭が痛いし、リューンは不安そうな表情を浮かべている。まったく、ベルオムはどこまで行くつもりなのだろうか。
 かつて通った道を進み、ベルオムが二人を連れてやって来たのはパント連国のタクティクだった。

「タクティクではないですか。どうしてこんなところまで?」

 ベルオムの歩みが遅くなった事で、ステラは改めて問い質している。
 するとベルオムは、先日受け取った手紙を取り出していた。

「コメルス殿から手紙が来たのだよ。彼に頼んでいたことが実現したみたいでね」

「はあ……、一体何を企んでるんですか、この腹黒エルフは……」

 へらへらと笑うベルオムに、不信感が最高潮になるステラである。
 いろいろと思うところはあるものの、ステラたちはコメルスの商会までやって来た。またここに来るとは思っていなかったので、ステラにはちょっとした緊張が走っていた。

「うん?」

 入口の前にやって来たベルオムが、なにやら神妙な表情をする。

「どうしたんですか、師匠」

 思わず問い掛けるステラである。

「いや、気のせいだろう。せっかくここまで来たのだ、用事をさっさと終わらせようじゃないか」

「まぁそうですね。どんな用事かは知りませんけどね」

 すました顔のベルオムに、苦い顔をするステラである。二人の態度にリューンは戸惑っている。
 まとまらない状態の三人だが、とりあえず用事を済ませにコメルスの商会の中へと入っていく。
 中に入ると、執事と一緒にコメルスの娘であるトレルが出迎えてくれる。

「まあ、みなさん。お久しぶりでございます。お父様でしたら奥にいらっしゃいますので、どうぞお進み下さい」

 笑顔で対応してくるので、ステラたちは言葉に甘えることにする。そして、トレルから頼まれた執事によって奥へと進んでいく。
 奥の部屋に突き当たると執事はぴたりと動きを止める。

「こちらの部屋でございます。旦那様にお声掛けしますので、少々お待ち下さい」

 執事はそう言うと、扉を叩いて部屋の中へと声を掛ける。

「旦那様、ベルオム様たちがいらっしゃいました」

「そうですか、通して下さい」

 中から返事がしたので、執事は扉を開けてベルオムたちを部屋へと通す。

「ささっ、どうぞお入り下さい」

「うむ、失礼するよ」

 言葉に甘えるようにして、ベルオムたちは部屋の中へと入っていく。
 部屋に入ると、そこにはコメルスと部下数名だけがいるような状況だった。ただ、その態度から察するに、この日にベルオムたちがやって来るのは目星をつけていたようだった。
 その状況が気になるベルオムではあるものの、とりあえずスルーをして話に入っていく。

「これはコメルス殿。今回のお招き、期待してよろしいのでしょうかな?」

 いきなりにやりとした笑顔を向けるベルオムである。
 だが、コメルスだって負けてはいなかった。にやつくベルオムに対して無言で笑顔を返す。二人の間で、よく分からない戦いが始まっているようだった。

(なんとも雰囲気が不穏ですね)

 この状況に、ステラは何かを感じ取っているようだった。
 なにせ、この部屋に入ってからの違和感が異常だったのだ。
 以前送り届けた際にも踏み入れてはいるのだが、その時はなんともなかったのだから、今回のこの空気はそれは気持ち悪いの一言に尽きるのである。

(一体、何がこんな雰囲気にさせるのでしょうか……)

 ベルオムとコメルスの話し合いの横で、ステラは悶々と考え込んでいた。

「ステラ……さん?」

 あまりに悩み込むステラの姿に、リューンは思わず心配になって声を掛ける。
 その声にステラが反応する。

「リューン、何でもありませんよ。ちょっと気になる事があっただけですから」

「そ、そうですか」

 ステラがごまかそうとするのだが、リューンはどういうわけか疑いの眼差しをステラに向けていた。
 そのどこか不安げな瞳に、少しばかりステラは良心の呵責を感じたのだった。
 だが、そのリューンの疑いとステラの不安は、見事的中してしまうことになる。

「ほう、そちらの娘がステラというのか」

 突如として一人の女性がその場に乱入してきたのだ。
 これにはベルオムは驚かざるを得なかった。

「この雰囲気、コリーヌ帝国の現皇帝アンペラトリス・コリーヌか」

「ほう、よく知っているな。嬉しいぞ、ボワ王国の宮廷魔術師ベルオム」

「……私の事を知っているのか」

「当然だ。為政者たる者、そのくらいができずしてどうするというのだ」

 見下すような態度を示すアンペラトリスである。

「コメルス殿、謀りましたか」

「すまないですね。これもコリーヌ帝国内で商売をするためですよ。たまたま皇帝とお会いしてしまったのが、運の尽きと申しましょう」

「……そうか、ならば仕方ないな」

 納得するベルオムだった。

「だがな、私がここに来た理由は別にそなたではないのだよ、ベルオム」

「なんだと」

 驚くベルオムに構わず、アンペラトリスはちらりとステラに視線を向ける。

「ふん、実に安っぽい変装だな。その程度でこの私の目をごまかせると思っているのか?」

「何を、言っているのかしら」

「ふん、とぼけるのか。だがな、私はお前を逃すつもりはないぞ」

 アンペラトリスが一歩、ステラへと歩み寄る。

「さあ、覚悟するのだな、ステラリア・エルミタージュ」

 部屋の中にアンペラトリスの声がこだまするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

デブの俺、転生

ゆぃ♫
ファンタジー
中華屋さんの親を持つデブの俺が、魔法ありの異世界転生。 太らない体を手に入れた美味いものが食いたい!と魔力無双 拙い文章ですが、よろしくお願いします。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...