68 / 92
第68話 企みと企みのぶつかり合い
しおりを挟む
移動する間も隠れる間もなく、皇帝アンペラトリスとばったりと鉢合わせをしてしまうコメルス。その時のアンペラトリスの姿に思わず見とれてしまう。
さすがは皇帝と思わせる威厳のある姿でありながら、どこか魅力を感じさせるその服装。その素晴らしいまでの調和に、思わず息を飲んでしまう。
「おや、先客がいたか。悪いが私がここに用があるゆえに、出ていってもらえるか?」
アンペラトリスの言葉自体は非常に普通の言い回しだった。だが、その言葉には得体のしれない威圧感があった。
これにコメルスは耐えられていたものの、付き添っている従者は思わず腰を抜かしそうになっていた。
「そうですね。私の用事はちょうど終わりましたので、遺跡の見学でもさせて頂きましょう。失礼致します」
皇帝と同じ場所に居るのはよろしくないと、コメルスはそう判断して建物を出ていく。
「待て」
ところが、アンペラトリスから突然呼び止められてしまった。
「なんでございますでしょうか」
声を掛けてきた人物がコリーヌ帝国の皇帝であるがために、無視のできないコメルス。仕方なく、その声に振り返る。
そしたらば、困ったことにアンペラトリスがコメルスの姿をじーっと怪しく凝視しているのだ。一体どうしたというのだろうか。
「そなた、商人か」
アンペラトリスの言葉に、コメルスは驚いて固まる。今までも驚かされる事はあったものの、ここまで動きを止められたのは実に初めてである。
「お前、陛下が尋ねてられるのだ。さっさと答えろ」
取り巻きの兵士が怒鳴りつけている。
しかし、アンペラトリスは手を掲げてそれを制止した。
「やめろ。あまり威圧的にすると帝国にやってくる者が遠ざかるであろう?」
「はっ、も、申し訳、ございません」
アンペラトリスに咎められると、兵士は震え上がりながら謝罪していた。
その様子を見ながら、これがコリーヌ帝国の皇帝の威圧感かと息を飲んでいた。
「さて、話が逸れたな」
アンペラトリスは、再びコメルスに顔を向ける。
「もう一度問おう。そなたは商人か?」
見下すような態度ではあるものの、相手は皇帝である。皇帝からすれば、対等になるのはせいぜい国王くらいだ。見下すような態度になるのは自然なものかもしれない。
正直言うと、この時のコメルスは迷っていた。
ベルオムの依頼でコリーヌ帝国と取引をする予定ではあった。だが、まさかその帝国のトップである皇帝と直に話をする事になるとは思ってもみなかったのだ。
その予想外な状況であるがために、コメルスは判断に手間取っているのである。
「どうした、答えられぬのか? 怪しい者であるなら、今すぐこの場で剣の錆にしてやってもよいのだぞ?」
コメルスの判断が遅いと感じたアンペラトリス。耐えられなくなったのか脅しをかけてきたのである。
「いえいえ。その通りでございます」
もう迷ってられないと判断したコメルスは、その場に跪いて答えた。
「パント連国タクティクを拠点としている商人で、コメルスと申します。お初にお目にかかります、アンペラトリス・コリーヌ皇帝陛下」
正直に名乗った上で、しっかりと皇帝の名前を話すコメルスである。さすがは大陸全土に取引を拡大させたいだけあって、為政者の名前は完璧である。
この答えに満足したアンペラトリスは、改めてコメルスに話し掛ける。
「ほう、あの寄せ集めの国の者か。そんな国の者がわざわざここまで来るとは、実に珍しいものよな」
実にいやみったらしい言い回しである。
というのも、パント連国は国を治める者が存在しない国である。それはゆえに、アンペラトリスの中では国として認めていない向きがあるのだ。それがこの言い回しに出ているのである。
とはいえ、コメルスもこれは認めるところなので、この皮肉った言い回しはあまり気にしていなかった。
それどころか、コメルスは別の事を考えていた。これは実はチャンスなのでは、と。
(思わぬ事に気が動転してしまうとは……。私はまだまだ商人として未熟なようですね)
ひと息つくと、コメルスはアンペラトリスに向けて発言する。
「私は将来的にこのエルミタージュ大陸全土を股にかける承認を目指しております。そこで、皇帝陛下にご提案がございます」
「ほほう、なんだ。申してみよ」
アンペラトリスは興味を持ったらしく、コメルスに発言を許可する。
「ここでお会いしたのも何かの縁。私にも皇帝陛下の偉業のお手伝いをさせて頂きたく存じます。いかがでございますでしょうか」
コメルスの発言に、面白そうな笑みを浮かべるアンペラトリス。
少し考え込んでいたようだが、アンペラトリスは部下に命じて何かを持ってこさせた。
「面白い話だ。何か裏はありそうだが、乗ってやろうではないか」
アンペラトリスのこの言葉と同時に、先程命じられた部下が何かを持ってコメルスの前にやって来た。
「お前にこれを与えよう。これでお前もコリーヌ帝国の関係者だ。しかと私のために働いておくれよ?」
包まれていた布を払うと、そこにはコリーヌ帝国の紋章があしらわれた勲章が姿を見せた。
「ありがたく頂戴させて頂きます。何なりとお申し付け下さいませ」
コメルスは勲章を受け取るのだった。
さすがは皇帝と思わせる威厳のある姿でありながら、どこか魅力を感じさせるその服装。その素晴らしいまでの調和に、思わず息を飲んでしまう。
「おや、先客がいたか。悪いが私がここに用があるゆえに、出ていってもらえるか?」
アンペラトリスの言葉自体は非常に普通の言い回しだった。だが、その言葉には得体のしれない威圧感があった。
これにコメルスは耐えられていたものの、付き添っている従者は思わず腰を抜かしそうになっていた。
「そうですね。私の用事はちょうど終わりましたので、遺跡の見学でもさせて頂きましょう。失礼致します」
皇帝と同じ場所に居るのはよろしくないと、コメルスはそう判断して建物を出ていく。
「待て」
ところが、アンペラトリスから突然呼び止められてしまった。
「なんでございますでしょうか」
声を掛けてきた人物がコリーヌ帝国の皇帝であるがために、無視のできないコメルス。仕方なく、その声に振り返る。
そしたらば、困ったことにアンペラトリスがコメルスの姿をじーっと怪しく凝視しているのだ。一体どうしたというのだろうか。
「そなた、商人か」
アンペラトリスの言葉に、コメルスは驚いて固まる。今までも驚かされる事はあったものの、ここまで動きを止められたのは実に初めてである。
「お前、陛下が尋ねてられるのだ。さっさと答えろ」
取り巻きの兵士が怒鳴りつけている。
しかし、アンペラトリスは手を掲げてそれを制止した。
「やめろ。あまり威圧的にすると帝国にやってくる者が遠ざかるであろう?」
「はっ、も、申し訳、ございません」
アンペラトリスに咎められると、兵士は震え上がりながら謝罪していた。
その様子を見ながら、これがコリーヌ帝国の皇帝の威圧感かと息を飲んでいた。
「さて、話が逸れたな」
アンペラトリスは、再びコメルスに顔を向ける。
「もう一度問おう。そなたは商人か?」
見下すような態度ではあるものの、相手は皇帝である。皇帝からすれば、対等になるのはせいぜい国王くらいだ。見下すような態度になるのは自然なものかもしれない。
正直言うと、この時のコメルスは迷っていた。
ベルオムの依頼でコリーヌ帝国と取引をする予定ではあった。だが、まさかその帝国のトップである皇帝と直に話をする事になるとは思ってもみなかったのだ。
その予想外な状況であるがために、コメルスは判断に手間取っているのである。
「どうした、答えられぬのか? 怪しい者であるなら、今すぐこの場で剣の錆にしてやってもよいのだぞ?」
コメルスの判断が遅いと感じたアンペラトリス。耐えられなくなったのか脅しをかけてきたのである。
「いえいえ。その通りでございます」
もう迷ってられないと判断したコメルスは、その場に跪いて答えた。
「パント連国タクティクを拠点としている商人で、コメルスと申します。お初にお目にかかります、アンペラトリス・コリーヌ皇帝陛下」
正直に名乗った上で、しっかりと皇帝の名前を話すコメルスである。さすがは大陸全土に取引を拡大させたいだけあって、為政者の名前は完璧である。
この答えに満足したアンペラトリスは、改めてコメルスに話し掛ける。
「ほう、あの寄せ集めの国の者か。そんな国の者がわざわざここまで来るとは、実に珍しいものよな」
実にいやみったらしい言い回しである。
というのも、パント連国は国を治める者が存在しない国である。それはゆえに、アンペラトリスの中では国として認めていない向きがあるのだ。それがこの言い回しに出ているのである。
とはいえ、コメルスもこれは認めるところなので、この皮肉った言い回しはあまり気にしていなかった。
それどころか、コメルスは別の事を考えていた。これは実はチャンスなのでは、と。
(思わぬ事に気が動転してしまうとは……。私はまだまだ商人として未熟なようですね)
ひと息つくと、コメルスはアンペラトリスに向けて発言する。
「私は将来的にこのエルミタージュ大陸全土を股にかける承認を目指しております。そこで、皇帝陛下にご提案がございます」
「ほほう、なんだ。申してみよ」
アンペラトリスは興味を持ったらしく、コメルスに発言を許可する。
「ここでお会いしたのも何かの縁。私にも皇帝陛下の偉業のお手伝いをさせて頂きたく存じます。いかがでございますでしょうか」
コメルスの発言に、面白そうな笑みを浮かべるアンペラトリス。
少し考え込んでいたようだが、アンペラトリスは部下に命じて何かを持ってこさせた。
「面白い話だ。何か裏はありそうだが、乗ってやろうではないか」
アンペラトリスのこの言葉と同時に、先程命じられた部下が何かを持ってコメルスの前にやって来た。
「お前にこれを与えよう。これでお前もコリーヌ帝国の関係者だ。しかと私のために働いておくれよ?」
包まれていた布を払うと、そこにはコリーヌ帝国の紋章があしらわれた勲章が姿を見せた。
「ありがたく頂戴させて頂きます。何なりとお申し付け下さいませ」
コメルスは勲章を受け取るのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。
風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。
噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。
そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。
生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし──
「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」
一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。
そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる