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第67話 コメルス、ディス遺跡へ
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アンペラトリスがディス遺跡を訪れている頃、コメルスもまた冒険者を雇ってディス遺跡を目指していた。
商売人として、エルミタージュの遺産というものには前々から興味があったのだが、なかなか手を出せずにいた。そこにベルオムからの依頼があって、ようやく踏ん切りがついたというわけである。
(ベルオム様からの依頼ですからね。しっかりこなしてみせましょう)
コメルスは今回の依頼に対してかなり意気込んでいるようだ。
(それにしても、ちょうどディス遺跡に向かう冒険者を捕まえられたのは幸運でしたね。おかげで思ったよりも早くコリーヌ帝国に入れましたよ)
どのくらいの荷物になるか分からないし、大口の取引をメインとするコメルスは馬車による移動である。商会の人間を御者を入れて三人だけ連れた、小規模なものである。今回はトレルも連れてきてはいない。
それというのもコリーヌ帝国に対する警戒が強いからだった。未知なるものも多いので取引の上では心を高鳴らせてはいるが、危険もそれなりに多い場所だからだ。そんな場所へと出向くからこそ、万一を考えて最低人数に絞り込んだのだった。
そうしてたどり着いたディス遺跡だが、外の様子に異変を感じたコメルスは馬車から顔を出す。
「何がありましたかね」
「これは旦那様。いえ、ちょっとですね……」
言葉に詰まる御者。その様子に困惑するコメルスだったが、辺りを見回してその理由がようやく分かった。
(……あの馬車の紋様。なんという事だ、コリーヌ帝国の皇帝がやって来ているのか)
近くに止まっていた馬車に、見た事のある紋様を見かけたのだ。さすがに商人たるコメルス。エルミタージュ大陸の今ある国家の紋章を全部覚えているのだ。
中でも鳥を使った紋章を持つ国家は2つしかない。鷲に十字たすきという紋様を持つのは、丘陵地を支配するコリーヌ帝国しかなかったのだ。実に分かりやすいのである。
コメルスが警戒すると同時に、護衛についていた冒険者たちも警戒を露わにしていた。
冒険者たちの間でも、コリーヌ帝国の本体はあまりいい感情を持たれていないようである。遺跡の調査は人気だというのに、これとそれとはどうやら別の話のようだ。
「はあ、まさか皇帝と鉢合わせとは、俺たちもついてないな……」
「しっ、めったな事を言うものじゃないわよ。死にたいの?」
愚痴る男の冒険者だが、すぐにパーティーを組む女冒険者から咎められていた。
そこへ、ディス遺跡に配属されている兵士がやって来る。
「すまない、対応が遅くなった」
息を切らせながらやって来た兵士は、コメルスたちに対して入場の手続きをしている。遺跡の管理は厳しいので、こうやって名前や出身の記入を求めているのだ。ちなみにだが、ステラはリューンと同じ出身地を記載していた。
「ありがとう、入っても構わないよ。ただ、事務所には近づかないようにな。今ちょっとピリピリしているからね」
「馬車を拝見したのでよく分かります。ご忠告ありがとうございます」
コメルスは兵士の心労を気遣っておいた。
そして、案内してくれた冒険者たちに往路分の報酬を渡すと、ディス遺跡の調査拠点の中の見学を始めた。
商会で取り扱う商品の見定めに来たのだから、これは当然というものだろう。そのために、鑑定の使える部下を連れてきたのだ。
「こんにちは。私、隣国パント連国のタクティクを拠点として商売を営んでいるコメルスと申します。何か面白そうな品物がございますでしょうか」
調査拠点にある建物のひとつに入り、早速交渉へと移るコメルス。
「ううん? ああ、商人か。悪いね。ここにあるのは一度皇帝陛下へと献上せねばならなくてな。それで払い下げられでもしなければ、商品として流通に乗せるわけにはいかないんだ」
建物内にいる兵士から詳しく事情を説明がされる。すると、コメルスはおとなしく引き下がらなかった。
「それでしたら、こちらで鑑定致しましょうか。商会であるからには鑑定士は必ず数人を抱えておりますのでね。本日も連れてきておりますので、いかがでしょうか」
コメルスが説明すると、兵士の表情が困ったような感じに変わった。どうやら気持ちにぶれが生じているようである。
しかし、兵士はすぐに首を横に振って気を取り直す。
「いけません。決まりは決まりです。どうかお引き取り下さい。ここには商人殿へ引き渡せるようなものはございませんから」
「そうですか。分かりました、今日のところは引き上げます。お取引できるようになりましたら、ぜひともお声掛け下さい」
兵士がはっきりと言い切った事で、コメルスはやむなく引き下がることにした。なにせ皇帝がやって来てるこの場で問題を起こすわけにはいかないからだ。それこそ物理的に首が飛びかねなかった。
ところが、これで今日のところはおとなしくしようかと思った時だった。
建物を出ようとするコメルスは、外から聞こえてくる声に思わず立ち止まってしまった。
「コメルス様?」
「はは、参りましたね。まさかこんなところで皇帝陛下と鉢合わせになろうとは……」
そう、困ったことにコリーヌ帝国皇帝であるアンペラトリスが、コメルスの居る建物に向かってきていたのだった。
商売人として、エルミタージュの遺産というものには前々から興味があったのだが、なかなか手を出せずにいた。そこにベルオムからの依頼があって、ようやく踏ん切りがついたというわけである。
(ベルオム様からの依頼ですからね。しっかりこなしてみせましょう)
コメルスは今回の依頼に対してかなり意気込んでいるようだ。
(それにしても、ちょうどディス遺跡に向かう冒険者を捕まえられたのは幸運でしたね。おかげで思ったよりも早くコリーヌ帝国に入れましたよ)
どのくらいの荷物になるか分からないし、大口の取引をメインとするコメルスは馬車による移動である。商会の人間を御者を入れて三人だけ連れた、小規模なものである。今回はトレルも連れてきてはいない。
それというのもコリーヌ帝国に対する警戒が強いからだった。未知なるものも多いので取引の上では心を高鳴らせてはいるが、危険もそれなりに多い場所だからだ。そんな場所へと出向くからこそ、万一を考えて最低人数に絞り込んだのだった。
そうしてたどり着いたディス遺跡だが、外の様子に異変を感じたコメルスは馬車から顔を出す。
「何がありましたかね」
「これは旦那様。いえ、ちょっとですね……」
言葉に詰まる御者。その様子に困惑するコメルスだったが、辺りを見回してその理由がようやく分かった。
(……あの馬車の紋様。なんという事だ、コリーヌ帝国の皇帝がやって来ているのか)
近くに止まっていた馬車に、見た事のある紋様を見かけたのだ。さすがに商人たるコメルス。エルミタージュ大陸の今ある国家の紋章を全部覚えているのだ。
中でも鳥を使った紋章を持つ国家は2つしかない。鷲に十字たすきという紋様を持つのは、丘陵地を支配するコリーヌ帝国しかなかったのだ。実に分かりやすいのである。
コメルスが警戒すると同時に、護衛についていた冒険者たちも警戒を露わにしていた。
冒険者たちの間でも、コリーヌ帝国の本体はあまりいい感情を持たれていないようである。遺跡の調査は人気だというのに、これとそれとはどうやら別の話のようだ。
「はあ、まさか皇帝と鉢合わせとは、俺たちもついてないな……」
「しっ、めったな事を言うものじゃないわよ。死にたいの?」
愚痴る男の冒険者だが、すぐにパーティーを組む女冒険者から咎められていた。
そこへ、ディス遺跡に配属されている兵士がやって来る。
「すまない、対応が遅くなった」
息を切らせながらやって来た兵士は、コメルスたちに対して入場の手続きをしている。遺跡の管理は厳しいので、こうやって名前や出身の記入を求めているのだ。ちなみにだが、ステラはリューンと同じ出身地を記載していた。
「ありがとう、入っても構わないよ。ただ、事務所には近づかないようにな。今ちょっとピリピリしているからね」
「馬車を拝見したのでよく分かります。ご忠告ありがとうございます」
コメルスは兵士の心労を気遣っておいた。
そして、案内してくれた冒険者たちに往路分の報酬を渡すと、ディス遺跡の調査拠点の中の見学を始めた。
商会で取り扱う商品の見定めに来たのだから、これは当然というものだろう。そのために、鑑定の使える部下を連れてきたのだ。
「こんにちは。私、隣国パント連国のタクティクを拠点として商売を営んでいるコメルスと申します。何か面白そうな品物がございますでしょうか」
調査拠点にある建物のひとつに入り、早速交渉へと移るコメルス。
「ううん? ああ、商人か。悪いね。ここにあるのは一度皇帝陛下へと献上せねばならなくてな。それで払い下げられでもしなければ、商品として流通に乗せるわけにはいかないんだ」
建物内にいる兵士から詳しく事情を説明がされる。すると、コメルスはおとなしく引き下がらなかった。
「それでしたら、こちらで鑑定致しましょうか。商会であるからには鑑定士は必ず数人を抱えておりますのでね。本日も連れてきておりますので、いかがでしょうか」
コメルスが説明すると、兵士の表情が困ったような感じに変わった。どうやら気持ちにぶれが生じているようである。
しかし、兵士はすぐに首を横に振って気を取り直す。
「いけません。決まりは決まりです。どうかお引き取り下さい。ここには商人殿へ引き渡せるようなものはございませんから」
「そうですか。分かりました、今日のところは引き上げます。お取引できるようになりましたら、ぜひともお声掛け下さい」
兵士がはっきりと言い切った事で、コメルスはやむなく引き下がることにした。なにせ皇帝がやって来てるこの場で問題を起こすわけにはいかないからだ。それこそ物理的に首が飛びかねなかった。
ところが、これで今日のところはおとなしくしようかと思った時だった。
建物を出ようとするコメルスは、外から聞こえてくる声に思わず立ち止まってしまった。
「コメルス様?」
「はは、参りましたね。まさかこんなところで皇帝陛下と鉢合わせになろうとは……」
そう、困ったことにコリーヌ帝国皇帝であるアンペラトリスが、コメルスの居る建物に向かってきていたのだった。
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