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第65話 アンペラトリスの憂鬱
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コリーヌ帝国の城。
そこでは女帝であるアンペラトリスが今日も状況を逐一確認していた。
謁見の間では、兵士が入れ替わり立ち替わり報告を行っている。
「どうだ、各地の開発状況は」
「はっ、各部隊に確認をしておりますが、現状では順調との事です」
「そうか。ならば続けてくれ」
「はっ!」
アンペラトリスへの報告を終えた兵士が去っていく。
しばらくは会いに来る者もいないだろうと、最後の報告を受けたアンペラトリスは謁見の間に居る兵士たちを退出させると、ひじ掛けに肘をつけて大きくため息を吐く。
「最近になってエルミタージュの遺跡がたくさん出るようになったが、そのどれもこれも分からない事が多い。そのための研究設備を整えさせてはいるが、肝心の魔道具の構造が分からんのは実に厳しいものだな」
苦い表情をしながら呟くアンペラトリス。
肘をついていない方の手で、足をトントンと叩くくらいには不機嫌なようである。
「どの遺跡を見ても出てくる『ステラリア・エルミタージュ』という名前が気になるものだ。手元には文献がまったくないから、かつて存在したエルミタージュ王家の人物だという事くらいしか分からん」
愚痴を漏らしながら、組んでいる足を入れ替えるアンペラトリス。
「エルミタージュ王家自体は、500年ほど前に炎に巻かれて滅びたはずなのだがな。その時の王族にステラリアがいたかどうかは分からない。何にしても、今のエルミタージュ大陸の設備のすべてが、そのステラリアとかいう者の支配下にあるというのが解せぬというものだ」
ステラはまったく知らない話なのだが、アンペラトリスはそんなところまでも把握済みだったのである。
「ひとまずは国の中にあるエルミタージュの遺跡を調べ尽くさねばな。少なくとも魔道具の構造を明らかにせねばならぬ。所詮は模造品、本格的なものには劣ってしまうからな」
ガタリと椅子から立ち上がったアンペラトリスは、側近を呼び寄せる。
「お呼びでございますでしょうか、皇帝陛下」
やって来た側近がアンペラトリスに跪く。
「今まで発見された遺跡の解析はどのくらい進んでいる?」
「はっ、おそらくは全体の半分にも満たないかと」
「ふむ。最近は一気に発見されたせいか、どうにも進捗状況がよろしくないな……」
側近の言葉に悩ましい表情を見せるアンペラトリス。
だが、大量に一気に見つかった割に半分近く進んでいるのはなかなかに異常といえよう。
だというのにこのような判定をするという事は、一気に進捗状況が悪化したという見せかけの情報が加わって、アンペラトリスの中の焦りが大きくなってきているという何よりの証拠なのである。
髪の毛を少しかき上げたアンペラトリスは、側近へと鋭い表情を向けて口を開く。
「作業を急がせろ。分かった点があればすぐに報告をさせるのだ」
「承知致しました」
アンペラトリスの命令を受けて、側近は急いで謁見の間から出ていく。
話が終わると、アンペラトリスは再び玉座へと座る。そして、頭を抱えながらため息をついていた。
「せっかく、皇帝の座を引き継いだというのに、やっと私の野望を叶える時が来たというのに、物事は思うようにはいかぬというものだな……」
もたれ掛かって天井を見上げるアンペラトリス。
「小さい頃から帝国内を見て回った私だ。あの頃の私は、いつかこの帝国をもっと大きなものにしてやると意気込んだものだな」
幼少時の頃を思い出しながら、上を向いたまま首を横に向けるアンペラトリス。
「小さい頃に見つけた遺跡で拾った摩訶不思議な道具……。思えば、それがすべての始まりだったな」
アンペラトリスは懐から何かを取り出す。手のひらにもすっぽり収まる大きさのそれは、アンペラトリスにとって思い出深いものらしい。
それを懐かしむように眺めていたかと思うと、ぎゅっと握りしめて胸に当て、そっと目を閉じた。
「不思議なものだ。これを握っていると心が落ち着いてくる。これも魔道具の力なのだろうかな」
すっかり落ち着きを取り戻し、目を開くアンペラトリス。
「とにかく大陸を制覇するならば、魔道具どもの権利を『ステラリア・エルミタージュ』から奪い取らねばな。私の最終的な目標は、このエルミタージュ大陸全体の支配なのだからな」
握っていたそれを懐へとしまうと、立ち上がって謁見の間を出ていくアンペラトリス。その瞳には、はっきりとした強い思いが宿っていた。
それにしても、どうして彼女はそこまでエルミタージュ大陸の支配にこだわっているのだろうか。
ただ、その目的を果たす上で、いまだに残るエルミタージュ王家の支配が障害となっている事は間違いないようだった。
冒険者たちを使ってまで遺跡を調べさせたり、謎の建造物を建てさせたり、コリーヌ帝国の動きにはよく分からないところが多い。ただ支配をするだけならば、そのような行動は不要なはずだからだ。
一体何がアンペラトリス・コリーヌを駆り立てるのか。コリーヌ帝国をめぐる謎は、ますます深まるばかりだった。
そこでは女帝であるアンペラトリスが今日も状況を逐一確認していた。
謁見の間では、兵士が入れ替わり立ち替わり報告を行っている。
「どうだ、各地の開発状況は」
「はっ、各部隊に確認をしておりますが、現状では順調との事です」
「そうか。ならば続けてくれ」
「はっ!」
アンペラトリスへの報告を終えた兵士が去っていく。
しばらくは会いに来る者もいないだろうと、最後の報告を受けたアンペラトリスは謁見の間に居る兵士たちを退出させると、ひじ掛けに肘をつけて大きくため息を吐く。
「最近になってエルミタージュの遺跡がたくさん出るようになったが、そのどれもこれも分からない事が多い。そのための研究設備を整えさせてはいるが、肝心の魔道具の構造が分からんのは実に厳しいものだな」
苦い表情をしながら呟くアンペラトリス。
肘をついていない方の手で、足をトントンと叩くくらいには不機嫌なようである。
「どの遺跡を見ても出てくる『ステラリア・エルミタージュ』という名前が気になるものだ。手元には文献がまったくないから、かつて存在したエルミタージュ王家の人物だという事くらいしか分からん」
愚痴を漏らしながら、組んでいる足を入れ替えるアンペラトリス。
「エルミタージュ王家自体は、500年ほど前に炎に巻かれて滅びたはずなのだがな。その時の王族にステラリアがいたかどうかは分からない。何にしても、今のエルミタージュ大陸の設備のすべてが、そのステラリアとかいう者の支配下にあるというのが解せぬというものだ」
ステラはまったく知らない話なのだが、アンペラトリスはそんなところまでも把握済みだったのである。
「ひとまずは国の中にあるエルミタージュの遺跡を調べ尽くさねばな。少なくとも魔道具の構造を明らかにせねばならぬ。所詮は模造品、本格的なものには劣ってしまうからな」
ガタリと椅子から立ち上がったアンペラトリスは、側近を呼び寄せる。
「お呼びでございますでしょうか、皇帝陛下」
やって来た側近がアンペラトリスに跪く。
「今まで発見された遺跡の解析はどのくらい進んでいる?」
「はっ、おそらくは全体の半分にも満たないかと」
「ふむ。最近は一気に発見されたせいか、どうにも進捗状況がよろしくないな……」
側近の言葉に悩ましい表情を見せるアンペラトリス。
だが、大量に一気に見つかった割に半分近く進んでいるのはなかなかに異常といえよう。
だというのにこのような判定をするという事は、一気に進捗状況が悪化したという見せかけの情報が加わって、アンペラトリスの中の焦りが大きくなってきているという何よりの証拠なのである。
髪の毛を少しかき上げたアンペラトリスは、側近へと鋭い表情を向けて口を開く。
「作業を急がせろ。分かった点があればすぐに報告をさせるのだ」
「承知致しました」
アンペラトリスの命令を受けて、側近は急いで謁見の間から出ていく。
話が終わると、アンペラトリスは再び玉座へと座る。そして、頭を抱えながらため息をついていた。
「せっかく、皇帝の座を引き継いだというのに、やっと私の野望を叶える時が来たというのに、物事は思うようにはいかぬというものだな……」
もたれ掛かって天井を見上げるアンペラトリス。
「小さい頃から帝国内を見て回った私だ。あの頃の私は、いつかこの帝国をもっと大きなものにしてやると意気込んだものだな」
幼少時の頃を思い出しながら、上を向いたまま首を横に向けるアンペラトリス。
「小さい頃に見つけた遺跡で拾った摩訶不思議な道具……。思えば、それがすべての始まりだったな」
アンペラトリスは懐から何かを取り出す。手のひらにもすっぽり収まる大きさのそれは、アンペラトリスにとって思い出深いものらしい。
それを懐かしむように眺めていたかと思うと、ぎゅっと握りしめて胸に当て、そっと目を閉じた。
「不思議なものだ。これを握っていると心が落ち着いてくる。これも魔道具の力なのだろうかな」
すっかり落ち着きを取り戻し、目を開くアンペラトリス。
「とにかく大陸を制覇するならば、魔道具どもの権利を『ステラリア・エルミタージュ』から奪い取らねばな。私の最終的な目標は、このエルミタージュ大陸全体の支配なのだからな」
握っていたそれを懐へとしまうと、立ち上がって謁見の間を出ていくアンペラトリス。その瞳には、はっきりとした強い思いが宿っていた。
それにしても、どうして彼女はそこまでエルミタージュ大陸の支配にこだわっているのだろうか。
ただ、その目的を果たす上で、いまだに残るエルミタージュ王家の支配が障害となっている事は間違いないようだった。
冒険者たちを使ってまで遺跡を調べさせたり、謎の建造物を建てさせたり、コリーヌ帝国の動きにはよく分からないところが多い。ただ支配をするだけならば、そのような行動は不要なはずだからだ。
一体何がアンペラトリス・コリーヌを駆り立てるのか。コリーヌ帝国をめぐる謎は、ますます深まるばかりだった。
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