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第59話 時は動き出せるのか
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その日の夜、久しぶりにステラは夢を見た。
きらびやかな王城の中で、誰かと踊る自分という不思議なものだった。
ステラの姿は今とは違って、少し成長した感じだった。そして、踊る相手が一体誰なのか、顔がはっきり分からなかった。
ただ、その時の自分の表情が柔らかなものだった気がした。
目を覚ましたステラは、ベルオムの小屋の客室のベッドから身を起こす。
外を見ると辺りはまだ真っ暗で、辺りからは鳥の鳴き声が聞こえてくる。
(変な夢……でしたね)
ディス遺跡でグランから元に戻る方法を聞いたことに加えて、安全なところまで戻ってきた事で気が緩んだのだろう。そのためにこんな夢を見たんだなと、ぼんやりとした様子で窓の外の夜空を見上げている。
現状を思えば、夢で見た光景はまさに夢。楽しそうに王城で踊るだなんて、今の自分からはとてもじゃないけど想像できないのだ。
不死の体となってからすでに500年以上が経つし、冒険者としての経験も積み重なって血と汗にまみれてしまっている。今さら優雅な生活なんてものは、期待も持てなくなっているのだ。
しかし、夢にまで見たという事は、ステラはどこかでそんな期待を抱いてしまったのだろう。そのくらいに、グランから告げられた魔法を解く方法とエルミタージュの復興は、ステラのどこかで眠り続けていた願いだったのかもしれない。
(今さらですけれど、戻れるのならあの頃に戻りたいですね。お父様やお母様だけじゃなくて、城や国のみんなを助けたかった……)
だけども、あの時城とともに焼け落ちて消えてしまったみんなの事を思うと、どうしても胸が苦しくなってしまう。
ステラの目の前で散った命は、今もステラの心を苦しめ続けているのだ。
金級冒険者までになったとはいえ、無力だった王女の心の傷は癒える事がないのである。
しかし、そんなステラの心も、ここにきて徐々に変化が出始めていた。
リューンの家族、ベルオム、ヌフ遺跡のウティ・マシーヌの遺言、それとディス遺跡のグラン・エルミタージュ。かつての自分とつながりのある者たちと出会って、止まっていたステラの時間が少しずつ動きを見せ始めているのだ。
だからこそ、ステラは今こうやって悩んでいるのである。
どうにも落ち着かなくなったステラは、小屋から外に出る。夜風に当たって頭を冷やそうと考えたようだ。
小屋から外に出ると、周りには木々が立ち並ぶ森の中とはいえ、涼しげな夜風が吹き抜けてきた。
空にはキラキラと星が瞬いていて、その静かな光景にステラは少し落ち着いたようだった。
辺りを見回したステラは、切り株を見つけてそこに腰を落ち着ける。そして、そのままぼーっと夜空を見上げていた。
(本当にここは静かですね。師匠らしいといえば、師匠らしい場所の選定ですよ)
小屋の方にふと視線を向けて、柔らかな笑みを浮かべるステラ。
しかし、再び空に視線を向けたステラは思い悩む。
(エルミタージュ王国の関係者たちと出会った今こそ、その時なのでしょうかね。しかし、コリーヌ帝国が触れて回った私の指名手配……。一体私はどうすべきなのでしょうか……)
エルミタージュ王家の最後の生き残りとして、エルミタージュ王家の再興はいずれは果たさなければならない使命なのである。いろいろ思い返しているうちに、再び悩みが大きくなっていく。
「なんだ。やっぱり眠れていないのか」
「師匠、どうして外に?」
そこへ、ベルオムがやって来た。小屋の中で熟睡していたはずなのだが、起きてしまったようだ。
「なに、ステラの声が聞こえたからね。これでもエルフは無駄に耳がいいんだ」
笑って話すベルオムである。
「どうするかは、ステラが決めればいい話だ。ただ、今は復興のための条件がかなり揃っている。今を逃せば、永遠にエルミタージュは滅んだままになるかも知れないな」
「……ええ、そうですね。王国の生き残りなんて、数えるくらいしか居ないでしょうからね」
ベルオムの言葉に、ステラは寂しそうに呟く。
「しばらくはリューンくんを鍛えるためにここに留まる。君はその間一生懸命悩むといいよ。私は同時に伝手を使ってコリーヌ帝国の状況を探るとしようか」
「伝手?」
ベルオムから出てきた単語に、思わず首を傾げて反応する。
「これでも、私は君より長く生きているんだ。それこそ放浪のうちにできた知り合いがあちこちにいる。それを使ってコリーヌ帝国の内情を探ろうってわけさ」
「……なるほど」
「そこでだ、ステラ。君はお使いに出てもらいたい」
「お使い……ですか?」
ベルオムからの急な頼みごとに、ステラは戸惑う。
「なに、これを持ってタクティクまで行ってもらえればいい。そしたら、あとは勝手に動いてくれるさ」
「えっ、それってどういう?」
ベルオムの話が見えないステラは、思わずベルオムの顔を真剣に見る。すると、そこには怪しい笑みを浮かべたベルオムの姿があった。どうやら、ずいぶんとよからぬ事を企んでいるようだ。
「使えるものは使わないとね。これでも私は結構名を知られているからね」
唇に人差し指を当てて笑うベルオムは、まるで悪者のように見えた。
しかし、自分では方向性が見出せないステラは、おとなしくベルオムの提示する作戦に乗っかる事にしたのだった。
きらびやかな王城の中で、誰かと踊る自分という不思議なものだった。
ステラの姿は今とは違って、少し成長した感じだった。そして、踊る相手が一体誰なのか、顔がはっきり分からなかった。
ただ、その時の自分の表情が柔らかなものだった気がした。
目を覚ましたステラは、ベルオムの小屋の客室のベッドから身を起こす。
外を見ると辺りはまだ真っ暗で、辺りからは鳥の鳴き声が聞こえてくる。
(変な夢……でしたね)
ディス遺跡でグランから元に戻る方法を聞いたことに加えて、安全なところまで戻ってきた事で気が緩んだのだろう。そのためにこんな夢を見たんだなと、ぼんやりとした様子で窓の外の夜空を見上げている。
現状を思えば、夢で見た光景はまさに夢。楽しそうに王城で踊るだなんて、今の自分からはとてもじゃないけど想像できないのだ。
不死の体となってからすでに500年以上が経つし、冒険者としての経験も積み重なって血と汗にまみれてしまっている。今さら優雅な生活なんてものは、期待も持てなくなっているのだ。
しかし、夢にまで見たという事は、ステラはどこかでそんな期待を抱いてしまったのだろう。そのくらいに、グランから告げられた魔法を解く方法とエルミタージュの復興は、ステラのどこかで眠り続けていた願いだったのかもしれない。
(今さらですけれど、戻れるのならあの頃に戻りたいですね。お父様やお母様だけじゃなくて、城や国のみんなを助けたかった……)
だけども、あの時城とともに焼け落ちて消えてしまったみんなの事を思うと、どうしても胸が苦しくなってしまう。
ステラの目の前で散った命は、今もステラの心を苦しめ続けているのだ。
金級冒険者までになったとはいえ、無力だった王女の心の傷は癒える事がないのである。
しかし、そんなステラの心も、ここにきて徐々に変化が出始めていた。
リューンの家族、ベルオム、ヌフ遺跡のウティ・マシーヌの遺言、それとディス遺跡のグラン・エルミタージュ。かつての自分とつながりのある者たちと出会って、止まっていたステラの時間が少しずつ動きを見せ始めているのだ。
だからこそ、ステラは今こうやって悩んでいるのである。
どうにも落ち着かなくなったステラは、小屋から外に出る。夜風に当たって頭を冷やそうと考えたようだ。
小屋から外に出ると、周りには木々が立ち並ぶ森の中とはいえ、涼しげな夜風が吹き抜けてきた。
空にはキラキラと星が瞬いていて、その静かな光景にステラは少し落ち着いたようだった。
辺りを見回したステラは、切り株を見つけてそこに腰を落ち着ける。そして、そのままぼーっと夜空を見上げていた。
(本当にここは静かですね。師匠らしいといえば、師匠らしい場所の選定ですよ)
小屋の方にふと視線を向けて、柔らかな笑みを浮かべるステラ。
しかし、再び空に視線を向けたステラは思い悩む。
(エルミタージュ王国の関係者たちと出会った今こそ、その時なのでしょうかね。しかし、コリーヌ帝国が触れて回った私の指名手配……。一体私はどうすべきなのでしょうか……)
エルミタージュ王家の最後の生き残りとして、エルミタージュ王家の再興はいずれは果たさなければならない使命なのである。いろいろ思い返しているうちに、再び悩みが大きくなっていく。
「なんだ。やっぱり眠れていないのか」
「師匠、どうして外に?」
そこへ、ベルオムがやって来た。小屋の中で熟睡していたはずなのだが、起きてしまったようだ。
「なに、ステラの声が聞こえたからね。これでもエルフは無駄に耳がいいんだ」
笑って話すベルオムである。
「どうするかは、ステラが決めればいい話だ。ただ、今は復興のための条件がかなり揃っている。今を逃せば、永遠にエルミタージュは滅んだままになるかも知れないな」
「……ええ、そうですね。王国の生き残りなんて、数えるくらいしか居ないでしょうからね」
ベルオムの言葉に、ステラは寂しそうに呟く。
「しばらくはリューンくんを鍛えるためにここに留まる。君はその間一生懸命悩むといいよ。私は同時に伝手を使ってコリーヌ帝国の状況を探るとしようか」
「伝手?」
ベルオムから出てきた単語に、思わず首を傾げて反応する。
「これでも、私は君より長く生きているんだ。それこそ放浪のうちにできた知り合いがあちこちにいる。それを使ってコリーヌ帝国の内情を探ろうってわけさ」
「……なるほど」
「そこでだ、ステラ。君はお使いに出てもらいたい」
「お使い……ですか?」
ベルオムからの急な頼みごとに、ステラは戸惑う。
「なに、これを持ってタクティクまで行ってもらえればいい。そしたら、あとは勝手に動いてくれるさ」
「えっ、それってどういう?」
ベルオムの話が見えないステラは、思わずベルオムの顔を真剣に見る。すると、そこには怪しい笑みを浮かべたベルオムの姿があった。どうやら、ずいぶんとよからぬ事を企んでいるようだ。
「使えるものは使わないとね。これでも私は結構名を知られているからね」
唇に人差し指を当てて笑うベルオムは、まるで悪者のように見えた。
しかし、自分では方向性が見出せないステラは、おとなしくベルオムの提示する作戦に乗っかる事にしたのだった。
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