58 / 92
第58話 ベルオムの提案
しおりを挟む
来た道を戻り、ボワ王国まで戻ってきたステラたち。
行きとは違い、トラブルらしいトラブルもなく順調に戻ってこれた。
魔物の襲撃がなかったわけではないのだが、その場所相応の魔物しか出てこなかったので、トラブルにカウントされていないのである。
ひとまずはボワ国王に、コリーヌ帝国内で見た内容を報告するベルオム。見たのはごく一部とはいえども、軍隊まで動いてまでの怪しい行動を聞いたボワ国王の表情が曇っていた。
「ブラックウルフすら仕留めていたのでは、監視を差し向けるというわけにもいくまい。万一戦争となれば勝ち目がないからな。静観するしかあるまい……」
ボワ国王はそう結論付けていた。森林地帯を治めるボワ王国には、そこまでの戦力がないためにやむを得ない判断だった。
ひとまずボワ国王への報告を終えたステラたちは、郊外の森の中のベルオムの家まで戻ってきていた。
家まで戻ってきた事で、ベルオムは椅子に腰を落ち着けていた。
「ボワ国王の判断は適切だろうな。この辺りの魔物は弱いし、兵士たちの実力はそれに見合ったものになってしまうからな」
大きくため息を吐くベルオムは、立ち上がって飲み物の準備を始めていた。
ステラとリューンも長旅で疲れているので、椅子に座ってくつろいでいる。特にリューンはここまで長い旅は初めてだったので、少し眠そうにしている。
「ふふっ、疲れましたか、リューン」
「はい……。バナルからこれだけ離れたのは実質初めてですからね」
ステラの呼び掛けに、少しふらつきながら答えるリューンである。
「おやおや、無理せずに眠った方がいいね。汚れるのは気にせずに、そこのベッドを使ってくれて構わないよ」
ベルオムが部屋の隅にあるベッドを見つめている。それを受けて、ステラが付き添いながらリューンをベッドへと連れていって寝かせる。よほど疲れていたのか、すぐさまリューンは寝息を立ててしまっていた。
「さすがに10歳を過ぎたばかりの少年には過酷でしたかね」
「まぁそうだね」
ステラがシーツを掛けながら呟くと、ベルオムは少し笑ったような表情で同意していた。
しかし、そのベルオムの表情にステラはついかみついてしまう。
「なんなんですか、その表情は……」
「いやなに、初めて会った頃のステラの事を思い出しただけだよ」
ステラの嫌そうな声色で放たれた言葉に、ベルオムは苦笑しながら答える。
それを聞いたステラは、ふと仮面を外していた。
「あの頃の事は忘れて下さい。正直言って思い出したくもないですよ」
「まあそうだろうね。すべてに絶望したかのような生気を感じられない表情だったからね」
眉を歪めるステラに対して、ベルオムは相変わらず笑いながら答えている。これにはさすがにステラもイラッとしている。
「し、しょ、う~?」
じりじりとベルオムに迫るステラ。しかし、ベルオムはまったく動じていなかった。さすがにステラとベルオムとの付き合いが長いだけの事はある。
分かっているからの対応というわけなのだ。
「しかしだ。理由が理由とはいえ、このままではリューンくんを連れて歩くのは危険だな。ここからも同行をさせるというのであれば、彼をしっかりと鍛え上げなければいけないよ」
ステラの気を逸らすかのように話し掛けるベルオム。しかし、リューンに関する話題というのは、今のステラにとって効果は絶大なのである。
「確かにそうですね。エルミタージュ大陸はかなり広いですし、何があるか分かりませんものね」
実際に、プレヌ、ボワ、リヴィエール、コリーヌというたった4国しか巡っていないというのに、様々な事があった。
とくにディス遺跡では、トカゲにあっさりとさらわれるという事態まで起きてしまっている。
エルミタージュ王国の関係者たるトカゲだったので無事ですんではいたものの、あれが普通の魔物だった場合、リューンは無事ではすまなかっただろう。
リューンの両親との約束もあるがために、ステラとしては反省しなければならなかった。
さすがに落ち込むステラの姿は見ていられなかったようなの、ベルオムが提案をする。
「ひとまず魔物たちが移動してきた原因は分かったんだ。しばらくはこれと言ってやることもないだろうし、どうだろうか、ここでしばらくリューンくんの特訓を行うというのは」
「そうですね。旅をしながらとなると難しいところがありますが、しっかりとした拠点であるならば安心はできますね。なにより師匠が行うのでしたら、私としては……」
ここまで言いかけて、ステラは何かが引っ掛かったようだった。
「安心しなさい。君はその不死性があったからこそ無茶をさせたんだ。さすがに彼にはそこまで酷い事はしないよ」
「……やっぱり。おかしいと思ったんですよ、あの修行内容は」
今さらながらのベルオムの告白に、ステラは怒りで顔を真っ赤にしていた。どうやらベルオムは、ステラに対して通常はありえない特訓を課していたようだった。それは怒るというものである。
だが、そのベルオム自身は笑顔を浮かべていた。
「何にしてもだ、彼はエルミタージュ王国の復興の鍵なのだろう? ならば、何としても生き延びてもらわないとね」
ウィンクをしながらステラに言うベルオム。さすがにこう言われてしまえば、ステラとしてはもう黙るしかなかった。
当面の行動が決まったのはいいものの、ステラは心配のあまり、眠るリューンの姿をしばらく見つめるのだった。
行きとは違い、トラブルらしいトラブルもなく順調に戻ってこれた。
魔物の襲撃がなかったわけではないのだが、その場所相応の魔物しか出てこなかったので、トラブルにカウントされていないのである。
ひとまずはボワ国王に、コリーヌ帝国内で見た内容を報告するベルオム。見たのはごく一部とはいえども、軍隊まで動いてまでの怪しい行動を聞いたボワ国王の表情が曇っていた。
「ブラックウルフすら仕留めていたのでは、監視を差し向けるというわけにもいくまい。万一戦争となれば勝ち目がないからな。静観するしかあるまい……」
ボワ国王はそう結論付けていた。森林地帯を治めるボワ王国には、そこまでの戦力がないためにやむを得ない判断だった。
ひとまずボワ国王への報告を終えたステラたちは、郊外の森の中のベルオムの家まで戻ってきていた。
家まで戻ってきた事で、ベルオムは椅子に腰を落ち着けていた。
「ボワ国王の判断は適切だろうな。この辺りの魔物は弱いし、兵士たちの実力はそれに見合ったものになってしまうからな」
大きくため息を吐くベルオムは、立ち上がって飲み物の準備を始めていた。
ステラとリューンも長旅で疲れているので、椅子に座ってくつろいでいる。特にリューンはここまで長い旅は初めてだったので、少し眠そうにしている。
「ふふっ、疲れましたか、リューン」
「はい……。バナルからこれだけ離れたのは実質初めてですからね」
ステラの呼び掛けに、少しふらつきながら答えるリューンである。
「おやおや、無理せずに眠った方がいいね。汚れるのは気にせずに、そこのベッドを使ってくれて構わないよ」
ベルオムが部屋の隅にあるベッドを見つめている。それを受けて、ステラが付き添いながらリューンをベッドへと連れていって寝かせる。よほど疲れていたのか、すぐさまリューンは寝息を立ててしまっていた。
「さすがに10歳を過ぎたばかりの少年には過酷でしたかね」
「まぁそうだね」
ステラがシーツを掛けながら呟くと、ベルオムは少し笑ったような表情で同意していた。
しかし、そのベルオムの表情にステラはついかみついてしまう。
「なんなんですか、その表情は……」
「いやなに、初めて会った頃のステラの事を思い出しただけだよ」
ステラの嫌そうな声色で放たれた言葉に、ベルオムは苦笑しながら答える。
それを聞いたステラは、ふと仮面を外していた。
「あの頃の事は忘れて下さい。正直言って思い出したくもないですよ」
「まあそうだろうね。すべてに絶望したかのような生気を感じられない表情だったからね」
眉を歪めるステラに対して、ベルオムは相変わらず笑いながら答えている。これにはさすがにステラもイラッとしている。
「し、しょ、う~?」
じりじりとベルオムに迫るステラ。しかし、ベルオムはまったく動じていなかった。さすがにステラとベルオムとの付き合いが長いだけの事はある。
分かっているからの対応というわけなのだ。
「しかしだ。理由が理由とはいえ、このままではリューンくんを連れて歩くのは危険だな。ここからも同行をさせるというのであれば、彼をしっかりと鍛え上げなければいけないよ」
ステラの気を逸らすかのように話し掛けるベルオム。しかし、リューンに関する話題というのは、今のステラにとって効果は絶大なのである。
「確かにそうですね。エルミタージュ大陸はかなり広いですし、何があるか分かりませんものね」
実際に、プレヌ、ボワ、リヴィエール、コリーヌというたった4国しか巡っていないというのに、様々な事があった。
とくにディス遺跡では、トカゲにあっさりとさらわれるという事態まで起きてしまっている。
エルミタージュ王国の関係者たるトカゲだったので無事ですんではいたものの、あれが普通の魔物だった場合、リューンは無事ではすまなかっただろう。
リューンの両親との約束もあるがために、ステラとしては反省しなければならなかった。
さすがに落ち込むステラの姿は見ていられなかったようなの、ベルオムが提案をする。
「ひとまず魔物たちが移動してきた原因は分かったんだ。しばらくはこれと言ってやることもないだろうし、どうだろうか、ここでしばらくリューンくんの特訓を行うというのは」
「そうですね。旅をしながらとなると難しいところがありますが、しっかりとした拠点であるならば安心はできますね。なにより師匠が行うのでしたら、私としては……」
ここまで言いかけて、ステラは何かが引っ掛かったようだった。
「安心しなさい。君はその不死性があったからこそ無茶をさせたんだ。さすがに彼にはそこまで酷い事はしないよ」
「……やっぱり。おかしいと思ったんですよ、あの修行内容は」
今さらながらのベルオムの告白に、ステラは怒りで顔を真っ赤にしていた。どうやらベルオムは、ステラに対して通常はありえない特訓を課していたようだった。それは怒るというものである。
だが、そのベルオム自身は笑顔を浮かべていた。
「何にしてもだ、彼はエルミタージュ王国の復興の鍵なのだろう? ならば、何としても生き延びてもらわないとね」
ウィンクをしながらステラに言うベルオム。さすがにこう言われてしまえば、ステラとしてはもう黙るしかなかった。
当面の行動が決まったのはいいものの、ステラは心配のあまり、眠るリューンの姿をしばらく見つめるのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる