不死の少女は王女様

未羊

文字の大きさ
上 下
48 / 135

第48話 ディス遺跡へ

しおりを挟む
 ヌフ遺跡の調査結果をしたステラたちは、翌日はフイエから依頼を受けられる遺跡の中では最も遠い場所にあるディス遺跡の調査を受託する。
 他の遺跡は受注が満杯で受けられなかったので諦めるしかなかった。
 そんなわけで、ステラたちは徒歩でディス遺跡へと向かう。

「今度向かうディス遺跡って、どんなところなのでしょうかね」

 リューンが気になっているらしく、ステラたちに問い掛けている。

「さあ、私たちにも分かりませんね。分かっている事は、おそらくはエルミタージュ王国関連の何かだという事だけですよ」

「まあ、その見解で間違いないだろうね。500年少々前まではエルミタージュ王国しかなかった事と、ひとつ前に見つかったヌフ遺跡からそれほど離れていない事を踏まえるに、エルミタージュ王国の何かだろうという事は想像に難くないというものだ」

 リューンの疑問に、ステラとベルオムはさらさらと答えている。さすがは長生きしている二人は格が違うというものである。
 それにしても、ヌフ遺跡に向かう時は違い、街道には多くの人の姿があふれている。これを見るだけでディス遺跡の人気っぷりが分かるというものだった。

「組合で聞いた話によれば、ディス遺跡からは魔物が無限に湧き出ているらしい。そのせいで調査員よりも討伐目的の冒険者が多いそうだ。それこそがディス遺跡の人気に拍車をかけているのだろうね」

「まあ、地味な調査に比べれば、狩りは成功すれば気分爽快ですからね……」

 仮面越しからでも分かるステラの苦笑いである。
 それに対して、リューンはちょっと落ち込んだような顔をしている。というのもまだまだ未熟であるがゆえに、狩りができるかどうか分からないからだ。

「リューンよ、そんなに落ち込む事はないぞ。剣を扱う血筋なのだし、ちょっと見てみただけでも才能はあると感じたからな。とにかく日々の鍛錬あるのみだよ」

「は、はい!」

 ベルオムに言われて、元気よく返事をするリューンである。

 しばらく歩いていると、ようやくディス遺跡に到着した。さすがにヌフ遺跡に比べて倍くらいの距離があったので、すっかり日が暮れかかっていた。

「ふむ、どうやらこれは明日にせねばいけないようだね」

「そうですね。こんなに人がごちゃついていては、移動すらもままなりませんからね」

「人が多すぎますよ~……」

 ディス遺跡の入口にはものすごい人だかりができていた。これから入っていく者、探索を終えて出てくる者がひっきりなしである。
 よく見れば露店も出ており、遺跡はさながら一つの街の様相を呈していた。
 ひとまず休む場所を確保するべく、ベルオムがそこら辺の人間を捕まえて話を聞く事にした。

「すまない。今回初めて来たのだが、寝泊まりするにはどうしたらいいだろうか」

 ベルオムから声を掛けられた人間は、じろじろとステラやリューンの方を見ている。実に気持ち悪い視線だ。思わずリューンがステラの後ろに隠れてしまう。

「おいおい、にいちゃん。子ども連れとはいいご身分だな。遊びだったらとっとと帰っておくれ」

 飲んでるのか少し顔が赤いようである。
 しかし、さすがにコケにされて黙っているようなステラではなかった。

「ほう……。これでも遊びだというのですかね」

 双剣を片方だけ抜いて男に押し付けるステラ。そして、もう片方の手で自分の冒険者タグをちらつかせている。
 一瞬で剣を押し付けられた事もそうだが、視界に入るタグを見て、男は思わず震え上がってしまった。

「ひっ……、金級冒険者……だと?」

「ええ。ですから、お遊びなんかじゃありません。私たちの質問にさっさと答えなさい」

 無表情の仮面が、より男に恐怖を与えている。

「お、俺なんかよりそこの壁の裏にある兵士詰め所で聞いた方がいいぜ。コリーヌ帝国からわざわざ出向いてきてる連中で、ここの管理をしてるんだからな」

「ふむ、なるほど。そんな場所があるのでしたら、確かにその方がいいかもしれませんね」

 ステラは剣を引っ込めてしまう。男は安心したように首を擦っている。

「答えてくれてありがとう。私たちは行きますね」

 マントを翻して歩いていくステラ。リューンとベルオムはその後ろをついて行った。

「ひぃ、なんなんだよ、あのガキは……」

 恐怖が完全に去ると、男はそそくさとその場から立ち去っていった。

 ステラたちは詰所の兵士から案内された場所へとやって来た。
 寝泊まりする建物はなく、広場で適当にテントを張って寝泊まりをするような場所だった。

「遺跡に損害を与えるからだろうね、宿を建てなかったのは」

「そういう考え方もありですか。確かに、その方がいいかもしれませんね」

 その場の雰囲気を見るに、宿を建てても面倒なことになるのが明らかな状態だった。
 ごちゃついた中からどうにか場所を探し出すと、ステラたちはそこにテントを張る。それはベルオムがいつも持ち歩いているテントだった。

「師匠って意外と便利なものを持っていたのですね。私にも教えてくれればよかったですのに」

「私は人を見ますからね」

「……どういう意味ですか、師匠」

「ま、まあまあ。明日から遺跡の調査ですし、ケンカはやめましょうよ」

 険悪なムードになりかけたのを、リューンが止める。すると、二人は睨み合いを止めていた。

「しかし、ここまで出してこなかったのを、どうしてここで出したんですかね」

「まぁそれはいずれ分かるよ。さあ、明日に備えて休みますか」

 こうして、ステラたちはディス遺跡の調査に備えて早めに休むことになったのだった。
 はたして、ディス遺跡にはどんなものが眠っているのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

処理中です...