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第46話 ウティ・マシーヌの遺産
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『ウティ・マシーヌの遺言を実行します』
なんとも人間の声ではない不思議な声だった。
(ウティ・マシーヌ……。誰でしたっけか)
名前に聞き覚えのないステラは、驚き戸惑っている。一体これから何が起こるというのだろうか。
「ウティ・マシーヌ……。ここが彼の住処だったのか」
「師匠、ご存じで?」
「ああ、私の住んでいた大陸でも名の知られた魔道技師だ。彼の作る魔道具は陸の外までは出てこなかったが、その話だけは海を越えていたからな。私がこっちに来たのもそれが理由なんだ。……結局会えなかったがね」
ステラが問い掛けると、ベルオムは残念そうな顔をしながら小さな声で答えていた。表情もそうだが、声の大きさからしても無念さが伝わってくる。
「そういえば師匠は、私の誕生日パーティーの日にこちらの大陸に来られたんでしたね」
「うむ。要人の誕生日のお祝いとなれば、移動にはうってつけの理由だからね。おかげで向こうの族長たちの説得が簡単だったよ」
あまりの昔話に、リューンは一人蚊帳の外である。
「あっ、見て下さい。壁が……!」
ステラとベルオムが話し込んでいると、ゴゴゴゴという音とともに壁が動いていく。
それを見たリューンは思わず叫んでいた。
その声につられて、ステラとベルオムも音を立てて動く壁の方を見ていた。
「こんな仕掛けがあるだなんて……」
「どうやら、魔力に反応するタイプの仕掛けのようだな。魔力の持ち主が居なければ永遠に開けられぬ仕掛けか、大したものだな」
驚くステラに対して、ベルオムは感心している。さすが魔法の研究を行うエルフは反応が違っていた。
「しかし、ウティ・マシーヌの遺言とは何なのでしょうね」
「それは行ってみるしかないだろう。ステラ、先頭を頼むよ」
「はあ、結局そうなるんですね。まったく、人使いの荒いエルフですね」
不死の状態にあるからこそ、ステラはまるで肉壁のような扱われ方をしている。これで元王女なのだから、ぞんざいすぎるというものだ。
とはいえ、ステラも納得するしかないので、先陣を切って壁の中へと入っていく。壁の右端あたりから入ったので、左を向く。そこには下へと降りていく階段があった。
魔法で明かりをともすと、ステラは慎重に一歩ずつ階段を降りていく。
思った以上に長い階段で、50段を降りてもまだ下が見えてこない。その倍を降りると、ようやく下の階層にたどり着いた。
そこにはもう一つの扉があった。
「この扉は?」
そう呟きながらステラが近付くと、それだけで自然と扉が開いてしまった。まるで招き入れるかのような動きだ。
顔を見合わせながらも、ステラたちは扉の中へと入っていった。
部屋の中は明かりが煌々とついており、魔法で光源を取る必要がなかった。
魔法を消して部屋を見回すステラたち。
その時、正面で何かが光った気がした。
その光に思わず身構えてしまうステラとベルオム。ところが、真上に放たれた光は攻撃ではなく、何かを映し出していた。
『ここに来られる時を待っていました。エルミタージュの血を引く者よ』
映し出された姿に驚くステラ。
「この姿は、私が会った商会長です」
「なんと?!」
ステラの言葉に驚くベルオム。しかし、映し出された商会長は話を続けている。
『万一の事を考えて、この映像を残しておく。私たちの技術を、エルミタージュ以外に利用されるのは嫌ですからね』
どうやら商会長は自分の遺言を残していたようだ。
『エルミタージュの王族のみに私たちの最高傑作を残しておきます。このウティ・マシーヌの渾身の魔道具を』
この言葉を聞いた時、ステラとベルオムの驚きは計り知れなかった。
『私はエルミタージュが滅びたなど信じない。私の忠誠はエルミタージュとともにあります。どうか、この道具を使ってエルミタージュをその手に……』
記録映像はここで途絶えていた。映し出された映像の状態から察するに、もう余命いくばくもない状態だったのだろう。
ステラたちはしばらくの間、何も言葉を発する事ができなかった。
しばらくしてステラがゆっくりと前に歩み出る。そして、光を放った場所に膝をついた。
「こんなところにも、エルミタージュの再興を願う方がいらっしゃったなんて……。私はなんて罪深いのでしょうか」
呟くステラの声は震えていた。
落ち込むステラを目の前に、ベルオムは辺りを見回している。すると、近くにあった机の上に何やら書類の束を見つけたのだった。
「そうかそうか。ほうほう……」
書類に目を通していたベルオムは、ものすごく興奮しているようだった。
「ベルオムさん?」
思わずリューンが引きながら質問するくらいである。
「すごいなこれは。ここにある魔道具たちの説明書だよ、この書類は」
気持ち悪いくらいの満面の笑みのベルオムである。
「ちょっと、勝手に触らないでくれませんかね。ここの魔道具は私が託されたのですからね」
「見るくらいは構わんだろう?」
ステラに窘められても引かないベルオムである。さすがは魔道具のために大陸を渡ってきた男である。これにはステラは呆れ、リューンは困惑しっぱなしである。
「まあ、構いませんけれどね。上の階の分も合わせて、どんなものがあってどれが持ち出せるか確認しましょう」
「そいつは賛成だな」
そんなわけで、説明を元にステラたちは、部屋の中の魔道具を一つ一つ確認していくのだった。
なんとも人間の声ではない不思議な声だった。
(ウティ・マシーヌ……。誰でしたっけか)
名前に聞き覚えのないステラは、驚き戸惑っている。一体これから何が起こるというのだろうか。
「ウティ・マシーヌ……。ここが彼の住処だったのか」
「師匠、ご存じで?」
「ああ、私の住んでいた大陸でも名の知られた魔道技師だ。彼の作る魔道具は陸の外までは出てこなかったが、その話だけは海を越えていたからな。私がこっちに来たのもそれが理由なんだ。……結局会えなかったがね」
ステラが問い掛けると、ベルオムは残念そうな顔をしながら小さな声で答えていた。表情もそうだが、声の大きさからしても無念さが伝わってくる。
「そういえば師匠は、私の誕生日パーティーの日にこちらの大陸に来られたんでしたね」
「うむ。要人の誕生日のお祝いとなれば、移動にはうってつけの理由だからね。おかげで向こうの族長たちの説得が簡単だったよ」
あまりの昔話に、リューンは一人蚊帳の外である。
「あっ、見て下さい。壁が……!」
ステラとベルオムが話し込んでいると、ゴゴゴゴという音とともに壁が動いていく。
それを見たリューンは思わず叫んでいた。
その声につられて、ステラとベルオムも音を立てて動く壁の方を見ていた。
「こんな仕掛けがあるだなんて……」
「どうやら、魔力に反応するタイプの仕掛けのようだな。魔力の持ち主が居なければ永遠に開けられぬ仕掛けか、大したものだな」
驚くステラに対して、ベルオムは感心している。さすが魔法の研究を行うエルフは反応が違っていた。
「しかし、ウティ・マシーヌの遺言とは何なのでしょうね」
「それは行ってみるしかないだろう。ステラ、先頭を頼むよ」
「はあ、結局そうなるんですね。まったく、人使いの荒いエルフですね」
不死の状態にあるからこそ、ステラはまるで肉壁のような扱われ方をしている。これで元王女なのだから、ぞんざいすぎるというものだ。
とはいえ、ステラも納得するしかないので、先陣を切って壁の中へと入っていく。壁の右端あたりから入ったので、左を向く。そこには下へと降りていく階段があった。
魔法で明かりをともすと、ステラは慎重に一歩ずつ階段を降りていく。
思った以上に長い階段で、50段を降りてもまだ下が見えてこない。その倍を降りると、ようやく下の階層にたどり着いた。
そこにはもう一つの扉があった。
「この扉は?」
そう呟きながらステラが近付くと、それだけで自然と扉が開いてしまった。まるで招き入れるかのような動きだ。
顔を見合わせながらも、ステラたちは扉の中へと入っていった。
部屋の中は明かりが煌々とついており、魔法で光源を取る必要がなかった。
魔法を消して部屋を見回すステラたち。
その時、正面で何かが光った気がした。
その光に思わず身構えてしまうステラとベルオム。ところが、真上に放たれた光は攻撃ではなく、何かを映し出していた。
『ここに来られる時を待っていました。エルミタージュの血を引く者よ』
映し出された姿に驚くステラ。
「この姿は、私が会った商会長です」
「なんと?!」
ステラの言葉に驚くベルオム。しかし、映し出された商会長は話を続けている。
『万一の事を考えて、この映像を残しておく。私たちの技術を、エルミタージュ以外に利用されるのは嫌ですからね』
どうやら商会長は自分の遺言を残していたようだ。
『エルミタージュの王族のみに私たちの最高傑作を残しておきます。このウティ・マシーヌの渾身の魔道具を』
この言葉を聞いた時、ステラとベルオムの驚きは計り知れなかった。
『私はエルミタージュが滅びたなど信じない。私の忠誠はエルミタージュとともにあります。どうか、この道具を使ってエルミタージュをその手に……』
記録映像はここで途絶えていた。映し出された映像の状態から察するに、もう余命いくばくもない状態だったのだろう。
ステラたちはしばらくの間、何も言葉を発する事ができなかった。
しばらくしてステラがゆっくりと前に歩み出る。そして、光を放った場所に膝をついた。
「こんなところにも、エルミタージュの再興を願う方がいらっしゃったなんて……。私はなんて罪深いのでしょうか」
呟くステラの声は震えていた。
落ち込むステラを目の前に、ベルオムは辺りを見回している。すると、近くにあった机の上に何やら書類の束を見つけたのだった。
「そうかそうか。ほうほう……」
書類に目を通していたベルオムは、ものすごく興奮しているようだった。
「ベルオムさん?」
思わずリューンが引きながら質問するくらいである。
「すごいなこれは。ここにある魔道具たちの説明書だよ、この書類は」
気持ち悪いくらいの満面の笑みのベルオムである。
「ちょっと、勝手に触らないでくれませんかね。ここの魔道具は私が託されたのですからね」
「見るくらいは構わんだろう?」
ステラに窘められても引かないベルオムである。さすがは魔道具のために大陸を渡ってきた男である。これにはステラは呆れ、リューンは困惑しっぱなしである。
「まあ、構いませんけれどね。上の階の分も合わせて、どんなものがあってどれが持ち出せるか確認しましょう」
「そいつは賛成だな」
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