43 / 92
第43話 フイエの街
しおりを挟む
無事に国境を越えて、いよいよコリーヌ帝国にやって来た。
話によれば小高い丘陵地を支配するコリーヌ帝国には、エルミタージュ王国の遺産がたくさん眠っているらしい。そのために、今となっては伝説的な扱いとなっているエルミタージュ王国は、丘陵地帯にあったのではないかと噂されている。
王女であったステラも、もう昔すぎて正確な場所を覚えていない。500年も経てば、地形が変わってしまうのも当たり前なのでなおさらである。
「ずいぶんと変わった建物が見えますね」
「ああ、あれか」
リューンが思わず口に出した感想に、ベルオムが反応する。
コリーヌ帝国の街へと向かう道中からは、朽ちた建物の壁面があちこちに見えるのだ。石造りというわけでもなさそうな建物に、リューンは興味を示しているというわけだ。
「あれは、エルミタージュの建築ですね。土魔法と水魔法と火魔法を組み合わせて造り上げた、強固な壁ですよ」
答えたのはステラだった。
「なんだ、ステラも知っていたのか」
「お父様と視察に出かけた際に説明を受けましたのですね」
懐かしむような柔らかい口調で、ステラはベルオムに返答している。
「お母様とも話をしましたが、エルミタージュは魔法学と呼ばれる魔法を研究する学問がございました。その関係で、多くの魔道具が生まれたと言われています。リューンも冒険者組合などで見たはずですよ」
ステラの言葉に、唸りながら頭を捻るリューンである。どうやら思い出せないようだ。
「今も引き継がれて生産されているのは、この冒険者タグですね。便利だと判断したのか、その後の支配者たちは利用しているみたいですね」
「ああ、これがそうなんですね」
ステラが説明すると、リューンは思い出したように自分の冒険者タグを取り出して眺めた。
「おいおい、それだけではないだろう。見つけている魔法鞄も、そのエルミタージュの技術のひとつだぞ」
「ええ、これも?!」
先程から驚きまくりのリューンである。
まったく、リューンはどこまでも知らなかったようである。
「……ステラ、最低限の知識はちゃんと与えておきなさい」
「申し訳、ございません」
ベルオムに叱られて凹むステラである。
そんなこんなでコリーヌ帝国の最初の街フイエに到着する。
「ずいぶんと人が多いですね」
ここまでも街を見てきたのだが、ステラがつい言葉を漏らしてしまうくらいに人が多く行き交っている。
「そりゃそうさ。一獲千金を夢見てやって来る冒険者や採掘者が集う街だからね」
ステラの声に、どっかのおっさんが反応している。
せっかく反応してくれたので、おっさんからいろいろと聞き出すステラたちである。
その話によれば、このコリーヌ帝国のあちこちから、滅んだエルミタージュ王国の遺産がいろいろと見つかっているらしい。
それらは歴史的価値が高いし、今でも十分使えるものあったりするために、高額で取引されているのだそうだ。そのため、財宝のひとつでも見つけようとして、こうやって人が集まってきているのだという。
冒険者組合や商業組合に寄って話を聞いても、そのような答えばかりが返ってくる。
こうなってくると、ステラたちの結論はひとつだった。
「この辺りがエルミタージュ王国だった可能性が高いな」
「そうですね。私がはっきり覚えていれば特定は早かったのでしょうけれどね」
「いや、地形が変わっている可能性があるんだ。遺跡が多いなどの情報がなければ、場所の特定は難しいだろう」
悔しがるステラを、ベルオムは特に責めはしなかった。
「出会った頃は無気力だったというのに、ずいぶんと変わりましたね」
「……ようやく目的ができましたからね。もう諦めるのはやめますよ」
ベルオムに対して力強く頷いたステラは、顔をリューンへと向けていた。
「……私を待っていてくれた一族のためにも……ね」
「なるほどね」
ベルオムも納得したようにリューンへと向けていた。
「だが、ここからはこういう会話は控えねばならんな。周りを見てみなさい」
ベルオムの言葉に、周りをきょろきょろと見回すステラとリューン。
すると、自分たちに向けて視線が集中している事に気が付いたのだ。
「別にリューンくんは問題ないだろう。むしろ私とステラだな、視線を集めている原因は」
「まあ、私の仮面は目立ちますからね。……外せませんけれど」
「まぁそうだね」
くすくすと笑うベルオムである。
「それはいいとして、今日のところはもう休もう。宿を取って明日から遺跡巡りをしようではないか」
「魔物の生態調査ではないのですか?」
ステラがツッコミを入れる。
「遺跡に人が集まっていると言っただろう? 人が集まれば邪魔な魔物は狩られる。生息地域に影響を及ぼす可能性は十分に考えられるのだよ」
「……確かにそうですね」
「まったく、長く冒険者をしていたからか、ずいぶんと乱暴な思考をしていますね、ステラ」
「ぐぬぬぬ……」
言い返せないステラである。
そんなこんなでちょっとばかり不協和音が起きそうな感じだったが、そんなものもひと晩眠れば元に戻っていた。
無事によく朝を迎えて支度を済ませたステラたちは、遺跡を調査しに行くために、まずは冒険者組合を訪れたのだった。
話によれば小高い丘陵地を支配するコリーヌ帝国には、エルミタージュ王国の遺産がたくさん眠っているらしい。そのために、今となっては伝説的な扱いとなっているエルミタージュ王国は、丘陵地帯にあったのではないかと噂されている。
王女であったステラも、もう昔すぎて正確な場所を覚えていない。500年も経てば、地形が変わってしまうのも当たり前なのでなおさらである。
「ずいぶんと変わった建物が見えますね」
「ああ、あれか」
リューンが思わず口に出した感想に、ベルオムが反応する。
コリーヌ帝国の街へと向かう道中からは、朽ちた建物の壁面があちこちに見えるのだ。石造りというわけでもなさそうな建物に、リューンは興味を示しているというわけだ。
「あれは、エルミタージュの建築ですね。土魔法と水魔法と火魔法を組み合わせて造り上げた、強固な壁ですよ」
答えたのはステラだった。
「なんだ、ステラも知っていたのか」
「お父様と視察に出かけた際に説明を受けましたのですね」
懐かしむような柔らかい口調で、ステラはベルオムに返答している。
「お母様とも話をしましたが、エルミタージュは魔法学と呼ばれる魔法を研究する学問がございました。その関係で、多くの魔道具が生まれたと言われています。リューンも冒険者組合などで見たはずですよ」
ステラの言葉に、唸りながら頭を捻るリューンである。どうやら思い出せないようだ。
「今も引き継がれて生産されているのは、この冒険者タグですね。便利だと判断したのか、その後の支配者たちは利用しているみたいですね」
「ああ、これがそうなんですね」
ステラが説明すると、リューンは思い出したように自分の冒険者タグを取り出して眺めた。
「おいおい、それだけではないだろう。見つけている魔法鞄も、そのエルミタージュの技術のひとつだぞ」
「ええ、これも?!」
先程から驚きまくりのリューンである。
まったく、リューンはどこまでも知らなかったようである。
「……ステラ、最低限の知識はちゃんと与えておきなさい」
「申し訳、ございません」
ベルオムに叱られて凹むステラである。
そんなこんなでコリーヌ帝国の最初の街フイエに到着する。
「ずいぶんと人が多いですね」
ここまでも街を見てきたのだが、ステラがつい言葉を漏らしてしまうくらいに人が多く行き交っている。
「そりゃそうさ。一獲千金を夢見てやって来る冒険者や採掘者が集う街だからね」
ステラの声に、どっかのおっさんが反応している。
せっかく反応してくれたので、おっさんからいろいろと聞き出すステラたちである。
その話によれば、このコリーヌ帝国のあちこちから、滅んだエルミタージュ王国の遺産がいろいろと見つかっているらしい。
それらは歴史的価値が高いし、今でも十分使えるものあったりするために、高額で取引されているのだそうだ。そのため、財宝のひとつでも見つけようとして、こうやって人が集まってきているのだという。
冒険者組合や商業組合に寄って話を聞いても、そのような答えばかりが返ってくる。
こうなってくると、ステラたちの結論はひとつだった。
「この辺りがエルミタージュ王国だった可能性が高いな」
「そうですね。私がはっきり覚えていれば特定は早かったのでしょうけれどね」
「いや、地形が変わっている可能性があるんだ。遺跡が多いなどの情報がなければ、場所の特定は難しいだろう」
悔しがるステラを、ベルオムは特に責めはしなかった。
「出会った頃は無気力だったというのに、ずいぶんと変わりましたね」
「……ようやく目的ができましたからね。もう諦めるのはやめますよ」
ベルオムに対して力強く頷いたステラは、顔をリューンへと向けていた。
「……私を待っていてくれた一族のためにも……ね」
「なるほどね」
ベルオムも納得したようにリューンへと向けていた。
「だが、ここからはこういう会話は控えねばならんな。周りを見てみなさい」
ベルオムの言葉に、周りをきょろきょろと見回すステラとリューン。
すると、自分たちに向けて視線が集中している事に気が付いたのだ。
「別にリューンくんは問題ないだろう。むしろ私とステラだな、視線を集めている原因は」
「まあ、私の仮面は目立ちますからね。……外せませんけれど」
「まぁそうだね」
くすくすと笑うベルオムである。
「それはいいとして、今日のところはもう休もう。宿を取って明日から遺跡巡りをしようではないか」
「魔物の生態調査ではないのですか?」
ステラがツッコミを入れる。
「遺跡に人が集まっていると言っただろう? 人が集まれば邪魔な魔物は狩られる。生息地域に影響を及ぼす可能性は十分に考えられるのだよ」
「……確かにそうですね」
「まったく、長く冒険者をしていたからか、ずいぶんと乱暴な思考をしていますね、ステラ」
「ぐぬぬぬ……」
言い返せないステラである。
そんなこんなでちょっとばかり不協和音が起きそうな感じだったが、そんなものもひと晩眠れば元に戻っていた。
無事によく朝を迎えて支度を済ませたステラたちは、遺跡を調査しに行くために、まずは冒険者組合を訪れたのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。
風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。
噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。
そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。
生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし──
「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」
一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。
そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる