不死の少女は王女様

未羊

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第40話 足手まとい

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 オーベルジュを発ち、タクティクに向かうステラたち。ここからはさらに丘陵地帯を登っていく。
 小高い地域になってくると、魔物の分布がまったく違ってくる。
 オーベルジュまでにはほとんど魔物が出てこなかったのに、ここからはちょくちょく姿を見かけるようになっていた。
 それでも、最初に出くわしたジャイアントベアやロックバードに比べれば弱い魔物ばかり。ここら近辺で当たり前に出てくる魔物ばかりだった。

「ディープグレイウルフですか。初めて見ましたね」

「えっ、ステラさんでも初めて見る魔物っているんですか?」

 ステラが漏らした言葉に、リューンが激しく驚いている。
 リューンもステラが長く生きている事を知っているので、それステラをしても知らない事があるというのに驚いているのだ。

「だが、初めてという割には名前がすらっと出てくるのはなぜだろうかな」

 ベルオムが笑いながらツッコミを入れている。

「冒険者組合に図鑑があったので、それを見て覚えただけです。いちいち引っ掛かる言い方をしないで下さい、師匠」

 カチンと来たのか、喋り方にとげがあるステラである。

「だが、ディープグレイウルフなら銀級へのランクアップ試験の魔物だ。彼ら三人に任せておけばいいだろう」

「そうですね。私は馬車の護衛に回ります」

 ベルオムの言葉に、ステラはおとなしくアバンたちに魔物を任せる。
 アバンたちが向き合うディープグレイウルフは全部で5匹。
 ベルオムの情報によれば、グレイウルフの能力に毛が生えた程度で、ブラックウルフに比べれば数段劣る魔物らしい。
 しかし、そんなディープグレイウルフでも、銀級へのランクアップ試験に採用されるくらいの魔物だ。一筋縄ではいかないのである。
 戦闘を任されたアバンたちは、着実にディープグレイウルフの数を減らしていく。そして、2体まで減らしたと思た時だった。

「あおおおんっ!」

 突然、ウルフたちが吠えたのだ。
 すると、その声に呼応するように、ディープグレイウルフが新たに現れたのだ。

「なんだと?!」

「そんなのありかよ」

「仲間呼びって初めて見たわ」

 アバンたちが驚いていた。

「ふっ、魔物の一部には仲間を呼ぶやつが居るんだ。アリとかハチの類はよく見るのだよ」

「師匠、かなり冷静ですね。経験があるんですか?」

「まあね。研究のために素材集めをした事があってね、その時に体験済みなのだよ」

「ははっ、そうですか……」

 ベルオムが話した内容に、仮面の下で苦笑いをするステラである。
 5匹から2匹に減らしたディープグレイウルフは、なんと8匹に増えていた。減らした倍の数が応援に駆けつけたのだ。
 これこそが、ディープグレイウルフが銀級へのランクアップ試験に採用される理由である。能力は大した事がないものの、厄介なこの仲間呼びに対応できるかどうかが見られるのである。
 しかしだ。銀級であるアバンとブークリエが驚いている。これにはコメルスが驚いている。

「いや、彼らが知らなくても無理はないだろう。よその地域には居ない魔物である可能性がある。ならば、銀級へのランクアップ試験で対象になる魔物が違っていても、なんら不思議ではないからね」

「ああ、なるほど。確かにそうですね……」

 ベルオムの言葉に納得のいくコメルスである。
 とはいえ、ディープグレイウルフの生息していない地域となると、少なくとも乾燥地帯であるセシェより向こう側という事になる。彼らは一体どこの出身だというのだろうか。
 そうやって見守っている間に、うまくブークリエがウルフを引き付け、アバンとマジクの二人の攻撃が決まってウルフを全滅させる事ができた。

「ふう、結構疲れるぜ……」

「まったくだ。俺たちのランクアップ試験はラージランドタートルだったからな。こんな魔物がいるとは驚きだったぞ」

「ああ、そっちだったのですね。なるほど、彼らの出身はどうやら沼の国のようですね」

「沼の国?」

 アバンたちの言葉に反応したベルオムだが、どうやらステラは知らないようである。

「沼の王国マレですね。ステラは行った事があるはずですがね。乾燥地帯より向こう側にある、湿地帯の国ですよ」

「あ、ああ……。あそこですか」

 どうやらステラは思い出したようだ。

「ステラさんは、沼地で何か嫌な思い出でもあるのですか?」

「思い出したくもありません」

 リューンが尋ねれば、ステラはぷいっと顔を背けてしまう。

「まだ私と一緒に居た頃ですからね。沼に何度も落ちて泣いていたんですよ。それはもう、思い出したくもないでしょう」

「師匠!」

 ステラはベルオムに勢いよく近付いて、足を思い切り踏む。だが、予測済みのベルオムは、防御魔法でしっかり防いでいた。
 さすがに付き合いが長かったのか、久しぶりという割にお互いの事が分かり切ったような様子が見られた。

「おーい、すまないがちょっと解体を手伝ってもらっていいかな。数が多くて時間がかかりそうだ」

「はい、分かりました。それでは師匠、手伝ってきますね」

「ええ、行ってらっしゃい」

 ステラを見送ったベルオムは、リューンへと視線を落とす。

「さて、君はどうしたいのかな? このままではただの足手まとい、守られる側で終わってしまうぞ」

「う……」

 ベルオムの指摘に、リューンは言葉が詰まる。
 確かにそうなのだ。魔物との戦闘にはまったく参加していないし、移動で馬車に乗り込んでいる。このままではただの足手まといでしかないのは事実なのだ。

「もしやる気があるのなら、眠る前に私のところに来なさい。無理にとは言わないがね」

 ベルオムはそうとだけ言うと、周りの警戒を始めていた。リューンは思い詰めたような表情で、ベルオムの姿を黙って見ているのだった。
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