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第39話 パント連国へ
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ステラたちは丘陵地帯を目指して移動を再開する。そこで、冒険者たちと言葉を交わす。
冒険者はアバン、ブークリエ、マジクという名前らしい。銀級と銅級の組み合わせなので、戦力的には申し分がない状態のようだ。
そんなメンバーでも、ジャイアントベアとロックバードは名前と姿くらいしか知らない魔物だったがために、あれほどの苦戦を強いられたようだった。
道中はリヴィエール王国の川と色とりどりの自然が広がっていたのだが、やがてその景色は鳴りを潜め、岩場が目立つようになってきた。
「さて、ここから先は丘陵地帯のようだね」
「はい、もうしばらく進むと、リヴィエール王国とコリーヌ帝国との間にあるパント連国です。パントはいろんな考えの方が集まり、結局折り合いをつけられずにひとつの自治国家となったといわれています」
ベルオムの言葉に、コメルスが説明を始める。
その話によれば、パント連国はエルミタージュ王国亡き後、最初にでき上がった国家なのだそうだ。
エルミタージュ王国民と侵略者、それとただやって来ただけの陸外人たちが集まり、小競り合いを繰り返した上ででき上がったという。
互いに仲が悪いのではあるが、認めるところは認め合ってうまくやりくりをしているらしい。他の国とは違って明確な国王のような存在はおらず、それぞれの集まりの代表たちが話し合って物事を決定しているらしい。
「よくそれで国家が成立していますね」
「うまいとりまとめ役がいるみたいですね。その方のおかげで、パント連国は分裂する事なく今も国としての体裁を保っていられるのです」
ステラが顎に手を当てながら疑問を呈すると、コメルスはそのように答えていた。
うまいまとめ役という存在は気になるものの、目の前には国境が迫ってきている。ひとまずはこの国境を無事に突破する事が重要だった。
……結果から言えば、実に問題なく無事に通り過ぎられた。
ここでもベルオムの持つ宮廷魔術師の肩書と、コメルスの商人としての実績が絶大な威力を放っていた。
「……これでも金級冒険者なんですけどね、私は」
ステラは冒険者タグをちらりと見せながら、ぼそっと呟いていた。
確かにステラの持つ金級冒険者のタグは、アバンやコメルスたちを驚かせるものだった。
ただ、やはり仮面をかぶっている事が国境の警備兵たちの警戒を誘ったようである。話せば事情は理解してくれるものの、仮面で顔を隠しているし、見た目が子どもなのに金級冒険者というギャップも怪しまれる原因となってしまったようだ。
「はっはっはっ、この子は事情あって素顔が見せられないんだ。私との修行の中で大けがをしてしまってね。だけど、実力は保証するよ」
大声で笑いながらベルオムは警備兵に話している。事情あってと言った割に、内容をばらしてしまうあたり、本当にフリーダムである。その理由は嘘なのだが、信用させるには顔に傷がある設定が一番いいのである。
警備兵たちは顔を見合わせて訝しんでいたようだが、宮廷魔術師の言う事なので渋々ながらも信じたようだった。
こうして、パント連国へと入るステラたち。
最初の目的地は、コメルスが商談を行う地であるパント連国のタクティクである。
このタクティクは、ちょうどコリーヌ帝国との街道の途中にあるので、ステラたちにとっても都合がよかった。
無事に国境を通過したステラたちは、堂々とタクティクを目指して歩を進める。
「うん、ステラどうしたんだい?」
「いえ、なんでもありません」
そんな中、ベルオムがステラの様子がおかしい事に気が付いた。仮面を着けているせいで分かりにくいものの、さすがは師匠にあたるベルオムだ、感情の機微を感じ取れるようなのである。
「そんなに馬車の中が気になるのなら、一緒に乗ればよかったではないのか?」
「そ、そんなわけがあるわけないじゃないですか」
ベルオムが笑いながら言うと、ステラは必死に否定していた。
こういうのも無理はない。実は、馬車の中にリューンが乗っているのである。まだ幼い彼には、ここまでの移動が厳しかったようなのだ。なので、コメルスたちの勧めで、リューンは馬車に同乗しているというわけである。
これだけなら別に問題はなかったかもなのだが、年の近いコメルスの娘であるトレルが乗っているために、ステラが気にしているようなのだ。
「はははっ、ステラにもそういう感情があったのだな。はっはっはっはっ」
「師匠、その言葉は取り消して下さい」
ベルオムを睨みながらポコポコと殴りつけるステラである。
その様子を見ながら、アバンたち冒険者は微笑ましそうに笑っていた。
そんなこんなの騒ぎもある中、ステラたち一行は、少し上った小高い場所にあるタクティクまでの中継地点に到着する。
パント連国の入口となるオーベルジュである。パント連国はこのオーベルジュを起点として、様々な街に街道が延びているのだ。
ちょうどタイミングがいい事に、ここで日没を迎えそうである。そんなわけで、ステラたちはここで一泊。改めて翌日にタクティクを目指す事となったのだった。
冒険者はアバン、ブークリエ、マジクという名前らしい。銀級と銅級の組み合わせなので、戦力的には申し分がない状態のようだ。
そんなメンバーでも、ジャイアントベアとロックバードは名前と姿くらいしか知らない魔物だったがために、あれほどの苦戦を強いられたようだった。
道中はリヴィエール王国の川と色とりどりの自然が広がっていたのだが、やがてその景色は鳴りを潜め、岩場が目立つようになってきた。
「さて、ここから先は丘陵地帯のようだね」
「はい、もうしばらく進むと、リヴィエール王国とコリーヌ帝国との間にあるパント連国です。パントはいろんな考えの方が集まり、結局折り合いをつけられずにひとつの自治国家となったといわれています」
ベルオムの言葉に、コメルスが説明を始める。
その話によれば、パント連国はエルミタージュ王国亡き後、最初にでき上がった国家なのだそうだ。
エルミタージュ王国民と侵略者、それとただやって来ただけの陸外人たちが集まり、小競り合いを繰り返した上ででき上がったという。
互いに仲が悪いのではあるが、認めるところは認め合ってうまくやりくりをしているらしい。他の国とは違って明確な国王のような存在はおらず、それぞれの集まりの代表たちが話し合って物事を決定しているらしい。
「よくそれで国家が成立していますね」
「うまいとりまとめ役がいるみたいですね。その方のおかげで、パント連国は分裂する事なく今も国としての体裁を保っていられるのです」
ステラが顎に手を当てながら疑問を呈すると、コメルスはそのように答えていた。
うまいまとめ役という存在は気になるものの、目の前には国境が迫ってきている。ひとまずはこの国境を無事に突破する事が重要だった。
……結果から言えば、実に問題なく無事に通り過ぎられた。
ここでもベルオムの持つ宮廷魔術師の肩書と、コメルスの商人としての実績が絶大な威力を放っていた。
「……これでも金級冒険者なんですけどね、私は」
ステラは冒険者タグをちらりと見せながら、ぼそっと呟いていた。
確かにステラの持つ金級冒険者のタグは、アバンやコメルスたちを驚かせるものだった。
ただ、やはり仮面をかぶっている事が国境の警備兵たちの警戒を誘ったようである。話せば事情は理解してくれるものの、仮面で顔を隠しているし、見た目が子どもなのに金級冒険者というギャップも怪しまれる原因となってしまったようだ。
「はっはっはっ、この子は事情あって素顔が見せられないんだ。私との修行の中で大けがをしてしまってね。だけど、実力は保証するよ」
大声で笑いながらベルオムは警備兵に話している。事情あってと言った割に、内容をばらしてしまうあたり、本当にフリーダムである。その理由は嘘なのだが、信用させるには顔に傷がある設定が一番いいのである。
警備兵たちは顔を見合わせて訝しんでいたようだが、宮廷魔術師の言う事なので渋々ながらも信じたようだった。
こうして、パント連国へと入るステラたち。
最初の目的地は、コメルスが商談を行う地であるパント連国のタクティクである。
このタクティクは、ちょうどコリーヌ帝国との街道の途中にあるので、ステラたちにとっても都合がよかった。
無事に国境を通過したステラたちは、堂々とタクティクを目指して歩を進める。
「うん、ステラどうしたんだい?」
「いえ、なんでもありません」
そんな中、ベルオムがステラの様子がおかしい事に気が付いた。仮面を着けているせいで分かりにくいものの、さすがは師匠にあたるベルオムだ、感情の機微を感じ取れるようなのである。
「そんなに馬車の中が気になるのなら、一緒に乗ればよかったではないのか?」
「そ、そんなわけがあるわけないじゃないですか」
ベルオムが笑いながら言うと、ステラは必死に否定していた。
こういうのも無理はない。実は、馬車の中にリューンが乗っているのである。まだ幼い彼には、ここまでの移動が厳しかったようなのだ。なので、コメルスたちの勧めで、リューンは馬車に同乗しているというわけである。
これだけなら別に問題はなかったかもなのだが、年の近いコメルスの娘であるトレルが乗っているために、ステラが気にしているようなのだ。
「はははっ、ステラにもそういう感情があったのだな。はっはっはっはっ」
「師匠、その言葉は取り消して下さい」
ベルオムを睨みながらポコポコと殴りつけるステラである。
その様子を見ながら、アバンたち冒険者は微笑ましそうに笑っていた。
そんなこんなの騒ぎもある中、ステラたち一行は、少し上った小高い場所にあるタクティクまでの中継地点に到着する。
パント連国の入口となるオーベルジュである。パント連国はこのオーベルジュを起点として、様々な街に街道が延びているのだ。
ちょうどタイミングがいい事に、ここで日没を迎えそうである。そんなわけで、ステラたちはここで一泊。改めて翌日にタクティクを目指す事となったのだった。
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