不死の少女は王女様

未羊

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第36話 闇夜の狩人

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 ステラたちは魔物に囲まれていた。
 ステラとベルオムは鋭い目つきで周囲を警戒している。それにつられるように、リューンも剣を構えている。

「3体ってところですかね」

「みたいだね。しかもこの気配は、ここらで普通に見るような強さじゃないね」

「まさか、ブラックウルフ?」

 ステラとベルオムの会話に、リューンが疑問を投げかける。すると、二人が揃って頷いていた。

「正解みたいですよ」

 次の瞬間、がさがさという音と共に、森の中から何かが素早く飛び出してきた。
 ステラとベルオムが機敏に動いて攻撃を捌く。さすがにリューンには対応できないようで、ステラが庇うように動いていた。
 ガキンと激しくぶつかり合う音が響き渡る。
 ブラックウルフの爪をステラたちが弾いたのだ。

「まったく困ったものだな。縄張りを広げに来たのかい?」

 2匹のブラックウルフを相手にするベルオム。さすがはステラの師匠だけあって、それでも余裕がある感じだった。

「とはいえ、お痛は許されたものじゃないよ。……これは躾けないとね」

 ベルオムがそう言うと、ブラックウルフの攻撃を受け止めていた両手が消える。次の瞬間、ブラックウルフ2匹が大きく吹き飛ばされていった。

「さすが師匠。金級冒険者でも苦戦する相手を、2匹同時に、しかも片手で吹き飛ばすとは……」

 ステラも驚くベルオムの実力である。
 だが、ブラックウルフもさすがに簡単にやられはしない。くるくると回転して、ちゃんと着地をしていた。無傷である。
 すかさず反撃に出ようとしたブラックウルフだったが、着地した時から足がまったく動かなくなっていた。力いっぱいに動かしても、びくともしない。まるで地面にくっついてしまったかのようだった。

「な、何が起きたんだ?」

「エルフは自然を愛する種族。自然を崇拝し、味方につける、それがエルフの力の源」

 リューンが驚いていると、ベルオムはよく分からない言葉を呟いていた。

「摂理に背きし者に裁きを、アースエッジ!」

 言葉をそう締めくくると、ベルオムは魔法を放つ。地面から突き出た土の刃が、ブラックウルフたちを鋭く貫いていた。

「すごい……」

 さすがは宮廷魔術師を名乗るだけあるベルオムの魔法である。

「師匠にとってはそのくらい、目をつぶってでもできるんですよ。さて、私の方も遊ぶのはこれくらいにしましょうか」

 ステラは双剣でブラックウルフの攻撃を弾くと、再び飛び掛かってくるブラックウルフの口を目がけて魔法を放つ。

「焼き尽くしなさい、ファイアバレット!」

 大きく開いたブラックウルフの口に火の塊が吸い込まれる。そして、次の瞬間にはブラックウルフの体が赤く光って見えるほど、内部から光が放たれた。
 ぼふんと口から煙を吐いたブラックウルフは、そのままばたりと倒れ込んで動かなくなってしまった。

「なかなかの魔法精度ですね。あの口の中に正確に火の玉を撃ち込むとはね」

「師匠がいいですからね」

 にまーっと笑うステラに、ベルオムもつい吹き出してしまった。
 一人何もできなかったリューン。その圧倒的な強さを見て、つい悔しくて震えてしまっていた。

「おや、リューン。震えているのですか?」

 その様子に気が付いたステラが、リューンに声を掛けている。

「別に怖くても仕方ないだろうね。まだ銅級であるのなら、ブラックウルフはまともに相手できるわけがないのだからね」

 目を閉じて、腕を組みながらさらりと言ってしまうベルオム。

「しかし、私たちの戦いを見ていられるだけ、まだマシといえる。上級者の戦いを見るだけでも、それは経験として刻まれるからね」

 そして、目を開いてリューンへ向けて言い聞かせている。それにはステラもこくりと頷いていた。
 普通ならばかっこよく決まるセリフなのだろうが、目の前の光景が台無しにしていた。

「師匠、解体だけは壊滅的に下手ですね……」

「うるさい。こんな場所では魔法が使いづらいのが悪いんだ」

「宮廷魔術師として、その言い訳は苦しいんじゃないんですか?」

 二人の会話に、思わず疑問が湧き上がるリューン。

「師匠は解体を魔法で行うんですが、その魔法がまた大げさなんですよ。ここはその魔法を使うには狭いというわけなんです」

 それを聞いて、なんとなく納得するリューンだった。
 いろいろと慌ただしかった夜も、どうにかこうにか更けていった。

 野宿をした場所から歩くこと2日間、ようやくリヴィエール王国との国境へとやって来た。
 国境沿いに川が流れており、その川を渡った先に国境の門が置かれていた。

「いつの間にこんな橋を架けたんですか……。こんなもの、私が知っている限りはなかったはずなんですが?」

 驚きを隠せないステラ。だが、ベルオムの方へちらりと視線を向ける瞬間、その答えがはっきりと分かったのだ。

「師匠……、あなたのでせいですか」

「何の事だろうかな」

 とぼけるベルオムだが、その事実はもうバレバレである。

「はあ、大方めんどくさいとか言って魔法で架けた橋が見つかって、それを利用されたんでしょうね。師匠ならよくある事ですね……」

「そうそう、よくある事だよ」

 にこにことするベルオムに、盛大なため息を吐くステラ。それを呆然と見つめるリューン。
 ボケとツッコミの漫才道中も、いよいよリヴィエール王国へと突入するのだった。
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