不死の少女は王女様

未羊

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第29話 決断の時

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「ただいま」

 リューンが家に戻る。

「おお、よく無事に帰ってきたな。今回は何をこなしてきたんだ?」

 にこやかに話し掛ける父親だが、リューンの表情は重かった。さすがにこの状況に、父親の表情が硬くなっていた。

「どうした。何があったのか話してくれ」

「……そうだね。父さんには話しておかないとね」

「母さんには言えない事か?」

 リューンが小さく漏らした言葉に、父親が確認を取る。すると、リューンはこくりと頷いた。
 その様子を見た父親は大きくため息を吐くと、髪を掻き上げながら、

「分かった。私の部屋でゆっくり話を聞こう」

 と、リューンを自分の部屋へと連れて行ったのだった。
 部屋に入ったリューンの父親は、とりあえず扉を閉めておく。貧乏で質素な家なので、鍵なんてものはない。

「それで、話しておきたい事とは何だ?」

 腰に手を当てて構える父親。それに対してリューンにはまだ戸惑いがあるのか、うまく言葉が出てこないようだった。

「ステラ様の事か。……お前も秘密を知ってしまったんだな」

 父親の言葉に思わず驚いたリューン。黙ったままこくりと頷いている。

「となれば、私がこの間お前に言った言葉も、十分理解できるな?」

 続けてぶつけられた質問にも、リューンはこくりと頷いた。

「今のステラ様は不死身だ。だけど、彼女とて普通の少女である事を忘れちゃいけない。想像を絶するような過去があったのは確かだろうし、長年培ってきた技術だって持ち合わせている。それでも、彼女は私たち騎士団が守るべき相手だという事を忘れないでくれ、いいな」

 父親から強く言われ、リューンは今までも大きく頷く。その姿に父親は安心したようだった。

「いいかい。冒険者組合にあんな貼り紙が出たんだ。いずれはステラ様、いや、ステラリア様に気付く者が出てくるだろう。そうなった時は、お前が必ず守るんだ。エルミタージュ王国騎士団の血を受け継ぐ者としてな」

「分かりました、父さん」

 父親に両肩を掴まれたリューンは、父親の言葉に素直に頷いていた。

 ―――

 一方のその頃、ステラも家に戻ってきていた。

「はあ、疲れましたね。お父様とお母様に掛けられた魔法の効果、久しぶりに発動させてしまうとは不覚でした」

 マントや仮面、双剣と鞄を外したステラは、そのままベッドに転がっていた。
 普段ならばこの程度で疲れる事はないのだが、自身に掛けられた魔法の効果を発動させてしまった事と、それをリューンに見られたという事実で精神的に疲弊しているのである。

「はあ、あれだけの苦痛を感じても死ねないって、本当につらすぎますね。久々だったとはいえ、あの気持ち悪さはやっぱり慣れませんよ……」

 俯せていたステラは、ごろんと転がって仰向けになる。

「それにしても、1体だけとはいえ、なぜあんなところにブラックウルフが居たのでしょうかね。あの魔物の生息地はもっと奥、小高い丘の辺りのはずですのに」

 その時、ステラに衝撃が走る。

「丘? 確か、私の賞金首の貼り紙を出した帝国は……」

 ステラは冒険者組合でのやり取りを必死に思い出す。

「……コリーヌ帝国でしたかね。小高い丘に拠点を持つという国は」

 どうにか思い出したステラ。丘という共通点を見出して、少し疑いを持ったようだった。

(共通点は偶然ですが、コリーヌ帝国について知らなすぎですね。ちょっと調べてみる事にしましょうか)

 方針を決めたステラはベッドから立ち上がって窓の方へと歩いていく。ただし、窓際に近付く時にはしっかりと仮面を着けていた。

(ただ、そうなると、リューンは連れて行けないかもしれませんね。プレヌ王国から外は知らない事が多いわけですから)

 ステラは遠くの方を眺めながら考え込んでいる。

「まあ、明日にでも本人に聞いてみましょうかね。銅級冒険者になったのですから、もう自分である程度冒険を組み立てられるようになりますからね」

 そう結論付けると、ステラはいつもの生活に戻る。
 浄化魔法で体や服をきれいにすると、夕食を作って食べる。そして、鍛錬と装備の手入れをして眠りについたのだった。

 翌朝、この日もついいつも通りリューンの家を訪れるステラである。

「おはようございます。リューンはいますか?」

「これはステラ様、おはようございます。リューン、来なさい」

 リューンの父親が声を掛けると、奥からリューンがゆっくりと出てきた。

「おはようございます、ステラさん」

 出てきたリューンはステラに挨拶をする。

「おはようございます。リューン、今日はちょっとお話をよろしいでしょうか」

「えっ。あっ、はい」

 いつもと雰囲気の違いを感じたのか、リューンは驚き戸惑っている。この雰囲気の違いが感じ取れるあたり、リューンも確実に成長している。

「それはリューン、今日は私の家にご案内しますね。あそこなら人に聞かれる心配はありませんから」

「えっえっ、ええ?!」

 ステラの家に案内されると聞いて、リューンがものすごく混乱しているようである。
 だが、父親の方はその話を聞いて、何か覚悟を決めたような表情をしていた。
 真剣な表情の父親が見守る中、リューンはステラに手を引かれて出掛けていったのだった。
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