29 / 135
第29話 決断の時
しおりを挟む
「ただいま」
リューンが家に戻る。
「おお、よく無事に帰ってきたな。今回は何をこなしてきたんだ?」
にこやかに話し掛ける父親だが、リューンの表情は重かった。さすがにこの状況に、父親の表情が硬くなっていた。
「どうした。何があったのか話してくれ」
「……そうだね。父さんには話しておかないとね」
「母さんには言えない事か?」
リューンが小さく漏らした言葉に、父親が確認を取る。すると、リューンはこくりと頷いた。
その様子を見た父親は大きくため息を吐くと、髪を掻き上げながら、
「分かった。私の部屋でゆっくり話を聞こう」
と、リューンを自分の部屋へと連れて行ったのだった。
部屋に入ったリューンの父親は、とりあえず扉を閉めておく。貧乏で質素な家なので、鍵なんてものはない。
「それで、話しておきたい事とは何だ?」
腰に手を当てて構える父親。それに対してリューンにはまだ戸惑いがあるのか、うまく言葉が出てこないようだった。
「ステラ様の事か。……お前も秘密を知ってしまったんだな」
父親の言葉に思わず驚いたリューン。黙ったままこくりと頷いている。
「となれば、私がこの間お前に言った言葉も、十分理解できるな?」
続けてぶつけられた質問にも、リューンはこくりと頷いた。
「今のステラ様は不死身だ。だけど、彼女とて普通の少女である事を忘れちゃいけない。想像を絶するような過去があったのは確かだろうし、長年培ってきた技術だって持ち合わせている。それでも、彼女は私たち騎士団が守るべき相手だという事を忘れないでくれ、いいな」
父親から強く言われ、リューンは今までも大きく頷く。その姿に父親は安心したようだった。
「いいかい。冒険者組合にあんな貼り紙が出たんだ。いずれはステラ様、いや、ステラリア様に気付く者が出てくるだろう。そうなった時は、お前が必ず守るんだ。エルミタージュ王国騎士団の血を受け継ぐ者としてな」
「分かりました、父さん」
父親に両肩を掴まれたリューンは、父親の言葉に素直に頷いていた。
―――
一方のその頃、ステラも家に戻ってきていた。
「はあ、疲れましたね。お父様とお母様に掛けられた魔法の効果、久しぶりに発動させてしまうとは不覚でした」
マントや仮面、双剣と鞄を外したステラは、そのままベッドに転がっていた。
普段ならばこの程度で疲れる事はないのだが、自身に掛けられた魔法の効果を発動させてしまった事と、それをリューンに見られたという事実で精神的に疲弊しているのである。
「はあ、あれだけの苦痛を感じても死ねないって、本当につらすぎますね。久々だったとはいえ、あの気持ち悪さはやっぱり慣れませんよ……」
俯せていたステラは、ごろんと転がって仰向けになる。
「それにしても、1体だけとはいえ、なぜあんなところにブラックウルフが居たのでしょうかね。あの魔物の生息地はもっと奥、小高い丘の辺りのはずですのに」
その時、ステラに衝撃が走る。
「丘? 確か、私の賞金首の貼り紙を出した帝国は……」
ステラは冒険者組合でのやり取りを必死に思い出す。
「……コリーヌ帝国でしたかね。小高い丘に拠点を持つという国は」
どうにか思い出したステラ。丘という共通点を見出して、少し疑いを持ったようだった。
(共通点は偶然ですが、コリーヌ帝国について知らなすぎですね。ちょっと調べてみる事にしましょうか)
方針を決めたステラはベッドから立ち上がって窓の方へと歩いていく。ただし、窓際に近付く時にはしっかりと仮面を着けていた。
(ただ、そうなると、リューンは連れて行けないかもしれませんね。プレヌ王国から外は知らない事が多いわけですから)
ステラは遠くの方を眺めながら考え込んでいる。
「まあ、明日にでも本人に聞いてみましょうかね。銅級冒険者になったのですから、もう自分である程度冒険を組み立てられるようになりますからね」
そう結論付けると、ステラはいつもの生活に戻る。
浄化魔法で体や服をきれいにすると、夕食を作って食べる。そして、鍛錬と装備の手入れをして眠りについたのだった。
翌朝、この日もついいつも通りリューンの家を訪れるステラである。
「おはようございます。リューンはいますか?」
「これはステラ様、おはようございます。リューン、来なさい」
リューンの父親が声を掛けると、奥からリューンがゆっくりと出てきた。
「おはようございます、ステラさん」
出てきたリューンはステラに挨拶をする。
「おはようございます。リューン、今日はちょっとお話をよろしいでしょうか」
「えっ。あっ、はい」
いつもと雰囲気の違いを感じたのか、リューンは驚き戸惑っている。この雰囲気の違いが感じ取れるあたり、リューンも確実に成長している。
「それはリューン、今日は私の家にご案内しますね。あそこなら人に聞かれる心配はありませんから」
「えっえっ、ええ?!」
ステラの家に案内されると聞いて、リューンがものすごく混乱しているようである。
だが、父親の方はその話を聞いて、何か覚悟を決めたような表情をしていた。
真剣な表情の父親が見守る中、リューンはステラに手を引かれて出掛けていったのだった。
リューンが家に戻る。
「おお、よく無事に帰ってきたな。今回は何をこなしてきたんだ?」
にこやかに話し掛ける父親だが、リューンの表情は重かった。さすがにこの状況に、父親の表情が硬くなっていた。
「どうした。何があったのか話してくれ」
「……そうだね。父さんには話しておかないとね」
「母さんには言えない事か?」
リューンが小さく漏らした言葉に、父親が確認を取る。すると、リューンはこくりと頷いた。
その様子を見た父親は大きくため息を吐くと、髪を掻き上げながら、
「分かった。私の部屋でゆっくり話を聞こう」
と、リューンを自分の部屋へと連れて行ったのだった。
部屋に入ったリューンの父親は、とりあえず扉を閉めておく。貧乏で質素な家なので、鍵なんてものはない。
「それで、話しておきたい事とは何だ?」
腰に手を当てて構える父親。それに対してリューンにはまだ戸惑いがあるのか、うまく言葉が出てこないようだった。
「ステラ様の事か。……お前も秘密を知ってしまったんだな」
父親の言葉に思わず驚いたリューン。黙ったままこくりと頷いている。
「となれば、私がこの間お前に言った言葉も、十分理解できるな?」
続けてぶつけられた質問にも、リューンはこくりと頷いた。
「今のステラ様は不死身だ。だけど、彼女とて普通の少女である事を忘れちゃいけない。想像を絶するような過去があったのは確かだろうし、長年培ってきた技術だって持ち合わせている。それでも、彼女は私たち騎士団が守るべき相手だという事を忘れないでくれ、いいな」
父親から強く言われ、リューンは今までも大きく頷く。その姿に父親は安心したようだった。
「いいかい。冒険者組合にあんな貼り紙が出たんだ。いずれはステラ様、いや、ステラリア様に気付く者が出てくるだろう。そうなった時は、お前が必ず守るんだ。エルミタージュ王国騎士団の血を受け継ぐ者としてな」
「分かりました、父さん」
父親に両肩を掴まれたリューンは、父親の言葉に素直に頷いていた。
―――
一方のその頃、ステラも家に戻ってきていた。
「はあ、疲れましたね。お父様とお母様に掛けられた魔法の効果、久しぶりに発動させてしまうとは不覚でした」
マントや仮面、双剣と鞄を外したステラは、そのままベッドに転がっていた。
普段ならばこの程度で疲れる事はないのだが、自身に掛けられた魔法の効果を発動させてしまった事と、それをリューンに見られたという事実で精神的に疲弊しているのである。
「はあ、あれだけの苦痛を感じても死ねないって、本当につらすぎますね。久々だったとはいえ、あの気持ち悪さはやっぱり慣れませんよ……」
俯せていたステラは、ごろんと転がって仰向けになる。
「それにしても、1体だけとはいえ、なぜあんなところにブラックウルフが居たのでしょうかね。あの魔物の生息地はもっと奥、小高い丘の辺りのはずですのに」
その時、ステラに衝撃が走る。
「丘? 確か、私の賞金首の貼り紙を出した帝国は……」
ステラは冒険者組合でのやり取りを必死に思い出す。
「……コリーヌ帝国でしたかね。小高い丘に拠点を持つという国は」
どうにか思い出したステラ。丘という共通点を見出して、少し疑いを持ったようだった。
(共通点は偶然ですが、コリーヌ帝国について知らなすぎですね。ちょっと調べてみる事にしましょうか)
方針を決めたステラはベッドから立ち上がって窓の方へと歩いていく。ただし、窓際に近付く時にはしっかりと仮面を着けていた。
(ただ、そうなると、リューンは連れて行けないかもしれませんね。プレヌ王国から外は知らない事が多いわけですから)
ステラは遠くの方を眺めながら考え込んでいる。
「まあ、明日にでも本人に聞いてみましょうかね。銅級冒険者になったのですから、もう自分である程度冒険を組み立てられるようになりますからね」
そう結論付けると、ステラはいつもの生活に戻る。
浄化魔法で体や服をきれいにすると、夕食を作って食べる。そして、鍛錬と装備の手入れをして眠りについたのだった。
翌朝、この日もついいつも通りリューンの家を訪れるステラである。
「おはようございます。リューンはいますか?」
「これはステラ様、おはようございます。リューン、来なさい」
リューンの父親が声を掛けると、奥からリューンがゆっくりと出てきた。
「おはようございます、ステラさん」
出てきたリューンはステラに挨拶をする。
「おはようございます。リューン、今日はちょっとお話をよろしいでしょうか」
「えっ。あっ、はい」
いつもと雰囲気の違いを感じたのか、リューンは驚き戸惑っている。この雰囲気の違いが感じ取れるあたり、リューンも確実に成長している。
「それはリューン、今日は私の家にご案内しますね。あそこなら人に聞かれる心配はありませんから」
「えっえっ、ええ?!」
ステラの家に案内されると聞いて、リューンがものすごく混乱しているようである。
だが、父親の方はその話を聞いて、何か覚悟を決めたような表情をしていた。
真剣な表情の父親が見守る中、リューンはステラに手を引かれて出掛けていったのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる