不死の少女は王女様

未羊

文字の大きさ
上 下
27 / 77

第27話 灰色の襲撃

しおりを挟む
 翌朝もわざわざ部屋まで朝食が運ばれてきていた。なんとも至れり尽くせりといったところだろう。さすがは富裕層対応の宿といったところである。
 すっかり昨日の疲れも吹き飛んで、ステラたちは宿を出発する。

「それでは、一応組合に寄ってからランクアップ試験を再開といきましょうか」

「はい、今日こそ頑張ります」

 ステラの声掛けに、リューンは拳を握って気合いを入れていた。その様子を微笑ましく見ているステラである。

 冒険者組合によって宿のお礼だけしておくと、ステラたちは次のグレイウルフの出現ポイントへと向かう。
 昨日のできごととステラの白状で、リューンの気持ちはだいぶ楽になっているようだ。
 ひとまず、昨日向かった場所とは違う場所へと向かっている。ブラックウルフが居なくなったとはいえ、昨日の今日でグレイウルフが戻ってくるとは思えないからだ。その辺はステラが長年の経験で分かっているので、リューンはそれにおとなしく従っていた。
 冒険者組合が持っている情報から、その一つを選んでやって来たステラたち。そこは森が近くにある平原だった。

「なるほど、ここにはウルフの餌になる魔物が居るっていうわけですね」

 ステラが辺りを見回していると、平原にはホーンラビットとワイルドラットの群れが見受けられた。比較的弱い魔物なので、ステラたちには問題なさそうだし、なによりこれらは肉食であるウルフやグレイウルフたちにとって格好の餌なのである。
 餌となる魔物を刺激しないように、遠巻きに進んでいくステラたち。

「この辺りはブラックウルフの被害を受けなかったようですね」

「そうなんですか?」

「ええ。あいつに見つかっていたら、一瞬で食い尽くされてしまいますよ。見たでしょう、あの素早さを」

 ステラの話を聞いて、リューンはすっかり思い出して黙り込んでしまった。
 その様子に気が付いたステラは、少しだけ仮面を外してにこりと微笑みかける。

「大丈夫ですよ。昨日みたいな不覚はもう取りませんし……ね」

 一度死んだというのに、なぜかにこやかな顔をしているステラである。笑えない話なのにだ。
 リューンは思わず複雑な顔をしてしまう。
 だが、その時だった。

「どうやら、目的の魔物が出てきたようですね」

 仮面を着け直して、リューンに声を掛けるステラである。

「1、2……。全部で5体のグレイウルフですね。今の君なら、大丈夫でしょう」

 リューンに顔を向けて話し掛けるステラ。それを受けて、リューンはこくりと無言で頷いている。
 魔法鞄から剣を取り出すと、しっかりと握りしめて構えるリューン。
 その時だった。
 目の間のホーンラビットやワイルドラットたちにグレイウルフが襲い掛かっている。
 魔物を狩りに来ただけかと思ったが、そのうちの1匹がステラたちの方を見据えていた。どうやら気が付いたようだ。

「リューン、来ますよ」

「はい。だ、大丈夫です」

 構えるリューンはまだちょっと震えている。なにせ初めての依頼でいいように弄ばれて殺されかかったのだ。怖くて仕方がない。
 だが、ステラの話を聞いて少し勇気をもらったリューンは、しっかりとグレイウルフの姿を捉えていた。
 次の瞬間、グレイウルフがリューンの飛び掛かってきた。ステラの強さと姿勢が分かっているのか、まったく目もくれなかった。
 1対1という事もあってか、リューンは息を飲みながらもしっかりとグレイウルフを見ている。
 そして、素早く横へと身を躱すと、後方から首筋を目がけて素早く剣を振り下ろす。

「ギャイン!」

 スピードで負けてしまったものの、グレイウルフの左後ろ足に剣が命中する。傷はそこそこ深い。
 しかし、足の一本でも封じられれば、機動力は大きく落ちる。そのために、グレイウルフはより慎重にリューンへと狙いを定めている。

「たああっ!」

 あまりに攻めてこないので、リューンが飛び込んでいく。素直な性格なのか、よりにもよって正面からだ。
 当然ながら、足が一本ダメになったからといっても、そんな単純な攻撃を食らうようなグレイウルフではない。左後ろ足が使えないために、右足がより強く使える右方向(リューンから見て左方向)へと跳んだ。
 ところが、リューンはそれにしっかりと反応していた。ここまで鍛錬を積んできたかいがあるというものである。

「せいっ!」

 リューンは斬るのではなく、グレイウルフを追いかけるように突きを繰り出していた。
 次の瞬間。

「ギャイーン!」

 リューンの繰り出した突きがグレイウルフをしっかりと捉えていた。剣はグレイウルフの胸部を貫いている。

「うわっ」

 次の瞬間、グレイウルフの重みで剣ごと地面へと引っ張られてしまうリューン。
 だが、地面に落ちたグレイウルフはぴくりとも動かず、リューンは無事に撃破できたようだった。

「や、やった……」

 思わず感動してしまうリューン。しかし、すぐさまステラから注意を入れられる。

「リューン、安心するのはまだ早いです。あちらも決着したようですから、今度はこちらに向かってきますよ」

 ステラの指摘の通りだった。ホーンラビットとワイルドラットの群れを片付けたグレイウルフが、こちらに顔を向けているのだ。

「さて、リューンだけでどこまで倒せますかね。1体を撃破したところでランクアップ試験はクリアですが、今後を考えると……ね」

「わ、分かりました」

 ステラの言葉に、リューンはどうにか剣を抜いて残りのグレイウルフと向かい合ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...