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第27話 灰色の襲撃
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翌朝もわざわざ部屋まで朝食が運ばれてきていた。なんとも至れり尽くせりといったところだろう。さすがは富裕層対応の宿といったところである。
すっかり昨日の疲れも吹き飛んで、ステラたちは宿を出発する。
「それでは、一応組合に寄ってからランクアップ試験を再開といきましょうか」
「はい、今日こそ頑張ります」
ステラの声掛けに、リューンは拳を握って気合いを入れていた。その様子を微笑ましく見ているステラである。
冒険者組合によって宿のお礼だけしておくと、ステラたちは次のグレイウルフの出現ポイントへと向かう。
昨日のできごととステラの白状で、リューンの気持ちはだいぶ楽になっているようだ。
ひとまず、昨日向かった場所とは違う場所へと向かっている。ブラックウルフが居なくなったとはいえ、昨日の今日でグレイウルフが戻ってくるとは思えないからだ。その辺はステラが長年の経験で分かっているので、リューンはそれにおとなしく従っていた。
冒険者組合が持っている情報から、その一つを選んでやって来たステラたち。そこは森が近くにある平原だった。
「なるほど、ここにはウルフの餌になる魔物が居るっていうわけですね」
ステラが辺りを見回していると、平原にはホーンラビットとワイルドラットの群れが見受けられた。比較的弱い魔物なので、ステラたちには問題なさそうだし、なによりこれらは肉食であるウルフやグレイウルフたちにとって格好の餌なのである。
餌となる魔物を刺激しないように、遠巻きに進んでいくステラたち。
「この辺りはブラックウルフの被害を受けなかったようですね」
「そうなんですか?」
「ええ。あいつに見つかっていたら、一瞬で食い尽くされてしまいますよ。見たでしょう、あの素早さを」
ステラの話を聞いて、リューンはすっかり思い出して黙り込んでしまった。
その様子に気が付いたステラは、少しだけ仮面を外してにこりと微笑みかける。
「大丈夫ですよ。昨日みたいな不覚はもう取りませんし……ね」
一度死んだというのに、なぜかにこやかな顔をしているステラである。笑えない話なのにだ。
リューンは思わず複雑な顔をしてしまう。
だが、その時だった。
「どうやら、目的の魔物が出てきたようですね」
仮面を着け直して、リューンに声を掛けるステラである。
「1、2……。全部で5体のグレイウルフですね。今の君なら、大丈夫でしょう」
リューンに顔を向けて話し掛けるステラ。それを受けて、リューンはこくりと無言で頷いている。
魔法鞄から剣を取り出すと、しっかりと握りしめて構えるリューン。
その時だった。
目の間のホーンラビットやワイルドラットたちにグレイウルフが襲い掛かっている。
魔物を狩りに来ただけかと思ったが、そのうちの1匹がステラたちの方を見据えていた。どうやら気が付いたようだ。
「リューン、来ますよ」
「はい。だ、大丈夫です」
構えるリューンはまだちょっと震えている。なにせ初めての依頼でいいように弄ばれて殺されかかったのだ。怖くて仕方がない。
だが、ステラの話を聞いて少し勇気をもらったリューンは、しっかりとグレイウルフの姿を捉えていた。
次の瞬間、グレイウルフがリューンの飛び掛かってきた。ステラの強さと姿勢が分かっているのか、まったく目もくれなかった。
1対1という事もあってか、リューンは息を飲みながらもしっかりとグレイウルフを見ている。
そして、素早く横へと身を躱すと、後方から首筋を目がけて素早く剣を振り下ろす。
「ギャイン!」
スピードで負けてしまったものの、グレイウルフの左後ろ足に剣が命中する。傷はそこそこ深い。
しかし、足の一本でも封じられれば、機動力は大きく落ちる。そのために、グレイウルフはより慎重にリューンへと狙いを定めている。
「たああっ!」
あまりに攻めてこないので、リューンが飛び込んでいく。素直な性格なのか、よりにもよって正面からだ。
当然ながら、足が一本ダメになったからといっても、そんな単純な攻撃を食らうようなグレイウルフではない。左後ろ足が使えないために、右足がより強く使える右方向(リューンから見て左方向)へと跳んだ。
ところが、リューンはそれにしっかりと反応していた。ここまで鍛錬を積んできたかいがあるというものである。
「せいっ!」
リューンは斬るのではなく、グレイウルフを追いかけるように突きを繰り出していた。
次の瞬間。
「ギャイーン!」
リューンの繰り出した突きがグレイウルフをしっかりと捉えていた。剣はグレイウルフの胸部を貫いている。
「うわっ」
次の瞬間、グレイウルフの重みで剣ごと地面へと引っ張られてしまうリューン。
だが、地面に落ちたグレイウルフはぴくりとも動かず、リューンは無事に撃破できたようだった。
「や、やった……」
思わず感動してしまうリューン。しかし、すぐさまステラから注意を入れられる。
「リューン、安心するのはまだ早いです。あちらも決着したようですから、今度はこちらに向かってきますよ」
ステラの指摘の通りだった。ホーンラビットとワイルドラットの群れを片付けたグレイウルフが、こちらに顔を向けているのだ。
「さて、リューンだけでどこまで倒せますかね。1体を撃破したところでランクアップ試験はクリアですが、今後を考えると……ね」
「わ、分かりました」
ステラの言葉に、リューンはどうにか剣を抜いて残りのグレイウルフと向かい合ったのだった。
すっかり昨日の疲れも吹き飛んで、ステラたちは宿を出発する。
「それでは、一応組合に寄ってからランクアップ試験を再開といきましょうか」
「はい、今日こそ頑張ります」
ステラの声掛けに、リューンは拳を握って気合いを入れていた。その様子を微笑ましく見ているステラである。
冒険者組合によって宿のお礼だけしておくと、ステラたちは次のグレイウルフの出現ポイントへと向かう。
昨日のできごととステラの白状で、リューンの気持ちはだいぶ楽になっているようだ。
ひとまず、昨日向かった場所とは違う場所へと向かっている。ブラックウルフが居なくなったとはいえ、昨日の今日でグレイウルフが戻ってくるとは思えないからだ。その辺はステラが長年の経験で分かっているので、リューンはそれにおとなしく従っていた。
冒険者組合が持っている情報から、その一つを選んでやって来たステラたち。そこは森が近くにある平原だった。
「なるほど、ここにはウルフの餌になる魔物が居るっていうわけですね」
ステラが辺りを見回していると、平原にはホーンラビットとワイルドラットの群れが見受けられた。比較的弱い魔物なので、ステラたちには問題なさそうだし、なによりこれらは肉食であるウルフやグレイウルフたちにとって格好の餌なのである。
餌となる魔物を刺激しないように、遠巻きに進んでいくステラたち。
「この辺りはブラックウルフの被害を受けなかったようですね」
「そうなんですか?」
「ええ。あいつに見つかっていたら、一瞬で食い尽くされてしまいますよ。見たでしょう、あの素早さを」
ステラの話を聞いて、リューンはすっかり思い出して黙り込んでしまった。
その様子に気が付いたステラは、少しだけ仮面を外してにこりと微笑みかける。
「大丈夫ですよ。昨日みたいな不覚はもう取りませんし……ね」
一度死んだというのに、なぜかにこやかな顔をしているステラである。笑えない話なのにだ。
リューンは思わず複雑な顔をしてしまう。
だが、その時だった。
「どうやら、目的の魔物が出てきたようですね」
仮面を着け直して、リューンに声を掛けるステラである。
「1、2……。全部で5体のグレイウルフですね。今の君なら、大丈夫でしょう」
リューンに顔を向けて話し掛けるステラ。それを受けて、リューンはこくりと無言で頷いている。
魔法鞄から剣を取り出すと、しっかりと握りしめて構えるリューン。
その時だった。
目の間のホーンラビットやワイルドラットたちにグレイウルフが襲い掛かっている。
魔物を狩りに来ただけかと思ったが、そのうちの1匹がステラたちの方を見据えていた。どうやら気が付いたようだ。
「リューン、来ますよ」
「はい。だ、大丈夫です」
構えるリューンはまだちょっと震えている。なにせ初めての依頼でいいように弄ばれて殺されかかったのだ。怖くて仕方がない。
だが、ステラの話を聞いて少し勇気をもらったリューンは、しっかりとグレイウルフの姿を捉えていた。
次の瞬間、グレイウルフがリューンの飛び掛かってきた。ステラの強さと姿勢が分かっているのか、まったく目もくれなかった。
1対1という事もあってか、リューンは息を飲みながらもしっかりとグレイウルフを見ている。
そして、素早く横へと身を躱すと、後方から首筋を目がけて素早く剣を振り下ろす。
「ギャイン!」
スピードで負けてしまったものの、グレイウルフの左後ろ足に剣が命中する。傷はそこそこ深い。
しかし、足の一本でも封じられれば、機動力は大きく落ちる。そのために、グレイウルフはより慎重にリューンへと狙いを定めている。
「たああっ!」
あまりに攻めてこないので、リューンが飛び込んでいく。素直な性格なのか、よりにもよって正面からだ。
当然ながら、足が一本ダメになったからといっても、そんな単純な攻撃を食らうようなグレイウルフではない。左後ろ足が使えないために、右足がより強く使える右方向(リューンから見て左方向)へと跳んだ。
ところが、リューンはそれにしっかりと反応していた。ここまで鍛錬を積んできたかいがあるというものである。
「せいっ!」
リューンは斬るのではなく、グレイウルフを追いかけるように突きを繰り出していた。
次の瞬間。
「ギャイーン!」
リューンの繰り出した突きがグレイウルフをしっかりと捉えていた。剣はグレイウルフの胸部を貫いている。
「うわっ」
次の瞬間、グレイウルフの重みで剣ごと地面へと引っ張られてしまうリューン。
だが、地面に落ちたグレイウルフはぴくりとも動かず、リューンは無事に撃破できたようだった。
「や、やった……」
思わず感動してしまうリューン。しかし、すぐさまステラから注意を入れられる。
「リューン、安心するのはまだ早いです。あちらも決着したようですから、今度はこちらに向かってきますよ」
ステラの指摘の通りだった。ホーンラビットとワイルドラットの群れを片付けたグレイウルフが、こちらに顔を向けているのだ。
「さて、リューンだけでどこまで倒せますかね。1体を撃破したところでランクアップ試験はクリアですが、今後を考えると……ね」
「わ、分かりました」
ステラの言葉に、リューンはどうにか剣を抜いて残りのグレイウルフと向かい合ったのだった。
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