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第24話 ひとまず休息を
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結局、その日は目的のグレイウルフが現れる事はなかった。しかし、グレイウルフを倒さない限りはランクアップ試験は終わらない。
期限となる日付にはまだ余裕があったので、ステラたちは一度国境付近の街に戻って休む事にしたのだった。
「結局、現れませんでしたね」
「あんな魔物が居たのです。以前バナルの街の近くに洗われたグレイウルフたちは、奴に住処を追われたのでしょう。……骨は少々折れますが、近くを探して回るしかありませんね」
「そ、そんなぁ……」
ランクアップは困難だと知らされたリューンは、落ち込んだように下を向いていた。
やむを得ない事態が起きていたとはいえ、相当ショックのようである。
そんなリューンをステラは一生懸命慰めていた。
「それよりも、こんな場所に居るはずのないブラックウルフが居た事が気にかかります。念のために冒険者組合に報告しておきましょう」
落ち込むリューンを連れて、ステラは冒険者組合へと出向く。
ブラックウルフの話を聞いた職員たちはものすごく驚いていたが、ステラが実物を取り出すとさらに大騒ぎしていた。ブラックウルフは金級クラスの魔物だから、それは騒ぐというものである。
そして、奥から戻ってきた職員たちはステラに向かってこう言ったのだった。
「ステラさん、タグをお出し下さい」
「あー……、これは私がランクアップするというお話ですか?」
ステラが驚いて確認するように話し掛けると、職員たちは首を縦に激しく振っていた。
「……分かりました。断ったら断ったで大騒ぎされそうですからね」
困ったように額に手を当てながら了承するステラ。それとは対照的に、ハイタッチをして喜ぶ職員たち。この光景に、リューンはどう反応していいのか困惑しているようだった。
「あのですね……。ブラックウルフっていう脅威が見つかっているんですから、もう少し深刻に考えて頂けませんかね」
あまりのテンションの高さに、ステラは頭を抱えて苦言を呈する。そのくらいに異様な喜びようだったのだ。
それだというのに、組合の職員はにこやかにステラを見ている。
「ステラさんにそのままお頼みしますよ」
「……はい?」
開いた口が塞がらないステラである。嫌な予感はしたとはいえ、そのまま依頼を回してくるとは思わなかった。さすがのステラも言葉が出なかった。
しかしだ。周りからキラキラとした目を向けられた上に、リューンにも尊敬のまなざしを向けられては、ステラに断るという選択肢はなかったのだった。
「……仕方ありませんね。でも、今はこっちのリューンのランクアップの試験中です。調査はあくまでもついでですので、それでよろしくお願いしますよ」
「畏まりました。では、一応こちらに受注のサインをお願いします」
「なんでそんな事をするんですか。今まで口約束だけだったじゃないですか」
職員が告げた言葉に、ステラが怒っている。それに対して職員が慌てたように反応している。
「し、仕方ないんですよ。依頼書がない状態での緊急の依頼なんですから。規則で書面を残さないといけませんので、お願いします」
「分かりましたよ。仕方ありませんね……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、ステラは書面にサインをする。そのサインを見て、職員たちはひと安心していたようだ。
「それでは、今夜の宿は私たちがご案内致しましょう。ブラックウルフを討伐できる方なんて、あまりいらっしゃいませんから」
職員はスキップをしながらカウンターの外へと出てきた。浮かれ過ぎである。
国境付近の街の組合なのに、この緊張感のなさは正直どうかと思うステラである。リューンも衝撃が強すぎて終始無言のままだった。
そしてその流れのまま、冒険者組合の職員に連れられて、ステラとリューンは街一番の宿へと連れてこられたのだった。
「今夜お泊まり頂く宿はこちらでございます。代金はお気になさらないで下さい、組合で持ちますから」
案内してきた職員は、揉み手のまま中へと二人を案内する。
そして、宿の受付と話をすると、驚かれた顔をされながらもどうにか話をまとめてくれたようだった。
「それでは、ごゆるりとお休み下さいませ」
職員はそうとだけ言い残し、宿から冒険者組合へと戻っていった。
呆れるステラではあるものの、せっかく用意してもらった宿なのでご厚意に甘える事にしたのだった。
早速部屋へと案内されるステラたちだったが、その部屋に驚いた。
「えっ、こんな部屋を冒険者が使っていいのですか?」
「はい。冒険者組合の方からぜひこの部屋をと申し出がありましたので。ご不満でしたでしょうか?」
「むしろ、こちらが遠慮しますよ。ここ、一番いい部屋じゃないですか」
ステラは呆れ返っている。
それもそうだろう。部屋が広すぎるし、ベッドなどの設備も豪華なのだ。冒険者からすれば場違い感が半端ないのである。それこそ王侯貴族が泊まるような部屋だったのだ。
「リューン、落ち着かないでしょうけれど、今夜はここで我慢して下さいね」
「わ、分かりました」
二人が了承すると、宿屋の人は部屋から去っていった。
それを確認したステラは、部屋に魔法を使う。
「さて、リューン。せっかくですからお話をしましょうか」
「えっ?」
ステラの言葉に、思わず驚くリューンである。しかし、ステラはそれに反応する事なく、話を続ける。
「私、ステラリア・エルミタージュのお話ですよ」
ステラはそっと仮面を外したのだった。
期限となる日付にはまだ余裕があったので、ステラたちは一度国境付近の街に戻って休む事にしたのだった。
「結局、現れませんでしたね」
「あんな魔物が居たのです。以前バナルの街の近くに洗われたグレイウルフたちは、奴に住処を追われたのでしょう。……骨は少々折れますが、近くを探して回るしかありませんね」
「そ、そんなぁ……」
ランクアップは困難だと知らされたリューンは、落ち込んだように下を向いていた。
やむを得ない事態が起きていたとはいえ、相当ショックのようである。
そんなリューンをステラは一生懸命慰めていた。
「それよりも、こんな場所に居るはずのないブラックウルフが居た事が気にかかります。念のために冒険者組合に報告しておきましょう」
落ち込むリューンを連れて、ステラは冒険者組合へと出向く。
ブラックウルフの話を聞いた職員たちはものすごく驚いていたが、ステラが実物を取り出すとさらに大騒ぎしていた。ブラックウルフは金級クラスの魔物だから、それは騒ぐというものである。
そして、奥から戻ってきた職員たちはステラに向かってこう言ったのだった。
「ステラさん、タグをお出し下さい」
「あー……、これは私がランクアップするというお話ですか?」
ステラが驚いて確認するように話し掛けると、職員たちは首を縦に激しく振っていた。
「……分かりました。断ったら断ったで大騒ぎされそうですからね」
困ったように額に手を当てながら了承するステラ。それとは対照的に、ハイタッチをして喜ぶ職員たち。この光景に、リューンはどう反応していいのか困惑しているようだった。
「あのですね……。ブラックウルフっていう脅威が見つかっているんですから、もう少し深刻に考えて頂けませんかね」
あまりのテンションの高さに、ステラは頭を抱えて苦言を呈する。そのくらいに異様な喜びようだったのだ。
それだというのに、組合の職員はにこやかにステラを見ている。
「ステラさんにそのままお頼みしますよ」
「……はい?」
開いた口が塞がらないステラである。嫌な予感はしたとはいえ、そのまま依頼を回してくるとは思わなかった。さすがのステラも言葉が出なかった。
しかしだ。周りからキラキラとした目を向けられた上に、リューンにも尊敬のまなざしを向けられては、ステラに断るという選択肢はなかったのだった。
「……仕方ありませんね。でも、今はこっちのリューンのランクアップの試験中です。調査はあくまでもついでですので、それでよろしくお願いしますよ」
「畏まりました。では、一応こちらに受注のサインをお願いします」
「なんでそんな事をするんですか。今まで口約束だけだったじゃないですか」
職員が告げた言葉に、ステラが怒っている。それに対して職員が慌てたように反応している。
「し、仕方ないんですよ。依頼書がない状態での緊急の依頼なんですから。規則で書面を残さないといけませんので、お願いします」
「分かりましたよ。仕方ありませんね……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、ステラは書面にサインをする。そのサインを見て、職員たちはひと安心していたようだ。
「それでは、今夜の宿は私たちがご案内致しましょう。ブラックウルフを討伐できる方なんて、あまりいらっしゃいませんから」
職員はスキップをしながらカウンターの外へと出てきた。浮かれ過ぎである。
国境付近の街の組合なのに、この緊張感のなさは正直どうかと思うステラである。リューンも衝撃が強すぎて終始無言のままだった。
そしてその流れのまま、冒険者組合の職員に連れられて、ステラとリューンは街一番の宿へと連れてこられたのだった。
「今夜お泊まり頂く宿はこちらでございます。代金はお気になさらないで下さい、組合で持ちますから」
案内してきた職員は、揉み手のまま中へと二人を案内する。
そして、宿の受付と話をすると、驚かれた顔をされながらもどうにか話をまとめてくれたようだった。
「それでは、ごゆるりとお休み下さいませ」
職員はそうとだけ言い残し、宿から冒険者組合へと戻っていった。
呆れるステラではあるものの、せっかく用意してもらった宿なのでご厚意に甘える事にしたのだった。
早速部屋へと案内されるステラたちだったが、その部屋に驚いた。
「えっ、こんな部屋を冒険者が使っていいのですか?」
「はい。冒険者組合の方からぜひこの部屋をと申し出がありましたので。ご不満でしたでしょうか?」
「むしろ、こちらが遠慮しますよ。ここ、一番いい部屋じゃないですか」
ステラは呆れ返っている。
それもそうだろう。部屋が広すぎるし、ベッドなどの設備も豪華なのだ。冒険者からすれば場違い感が半端ないのである。それこそ王侯貴族が泊まるような部屋だったのだ。
「リューン、落ち着かないでしょうけれど、今夜はここで我慢して下さいね」
「わ、分かりました」
二人が了承すると、宿屋の人は部屋から去っていった。
それを確認したステラは、部屋に魔法を使う。
「さて、リューン。せっかくですからお話をしましょうか」
「えっ?」
ステラの言葉に、思わず驚くリューンである。しかし、ステラはそれに反応する事なく、話を続ける。
「私、ステラリア・エルミタージュのお話ですよ」
ステラはそっと仮面を外したのだった。
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