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第23話 驚くべき真実
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「……まったく、よくもやってくれたものですね」
そこに立っていたのは、先程ブラックウルフに首を噛みきられたはずステラだった。だが、いつもと雰囲気が違っているのは、かぶっているはずの仮面が無くなっているからだろう。
だが、それを除いても、いつもの雰囲気とは違っている。それは、リューンに迫っているブラックウルフの動きにも如実に影響を与えていた。
「グルルルル……」
叩きつけられたダメージから回復したブラックウルフだが、ステラに対する様子が先程までとは違っている。警戒の声を出してはいるのだが、どこか腰が引けたような状態になっているのだ。
そう、そこにあるのは恐怖心だ。
「ステラさん?」
その形相に思わず恐怖を感じてしまうリューン。
「リューン、すぐ終わらせますのでそこで待っていて下さい。思うところはあるでしょうが、こいつを先に仕留めませんとね」
双剣を構えてブラックウルフに立ち向かうステラだった。
ステラの雰囲気が、さっきまでとははっきりと違っている。とてもブラックウルフに対して震えていたステラと同一人物とは思えないくらいである。
「私のリミッターを外した事を、後悔させてあげますよ。無数のきらめきの前に散りなさい」
ステラの圧がすさまじかったのか、ブラックウルフが逃げ出そうとしている。
「逃しません!」
だが、今のステラに逃がすという考えは毛頭なかった。
ステラの姿が消えたかと思うと、無数の光の筋が走る。空中に縛り付けられたブラックウルフはその無数の光に斬り刻まれ、力なくそのまま地面へと叩きつけられたのだった。
「すごい……」
ステラの雰囲気が怖いとは思ったものの、リューンからはそんな感想しか出てこなかった。そのくらい、ブラックウルフを打ち据えた光の筋がきれいだったのである。
地面に横たわるブラックウルフを、冷たい眼光で見下ろすステラ。
「お返しです。せめて苦しまぬように一撃で沈めてあげましょう」
双剣を揃えてブラックウルフの首筋へと振り下ろすステラ。
しばらくは激しく動いていたブラックウルフも、やがてまったく動かなくなってしまった。討伐が完了したのである。
剣を鋭く振るうと、ステラは双剣を背中の鞘へとしまい込む。そして、ブラックウルフの死骸をそのまま魔法鞄へとしまい込んだ。
「大丈夫ですか、リューン」
ゆっくりと近付いてくるステラ。その姿にリューンは驚かずにはいられなかった。
「どうされましたか?」
「す、ステラさん。どうして無事なんですか?」
リューンは動揺しまくっている。目の前で信じられない事がいくつも起きたのだ。落ち着いていられる方がおかしいのである。
その姿を前に、ステラは異様なくらいに落ち着いていた。
ふと自分の顔に手を当てて、仮面が外れている事に気が付いたステラ。その表情はいろいろと諦めたようだった。
「まったく、まさか仮面が外れてしまうとは……」
「……ステラさん、その顔って組合に貼ってあった貼り紙と同じですよね?」
おそるおそる尋ねるリューン。自分の顔をぺたぺたと触っていたステラは、その言葉にぴたりと動きを止めた。
ステラは険しい顔でリューンの顔を見る。
「……そうですね。その剣を受け継いだあなたになら、お話してもいいかもしれませんね。いろいろと見られてしまいましたしね」
そして、大きくため息を吐いて、ステラはすべてを打ち明ける事にした。
「ええ、そうです。私の正体は、エルミタージュ王国最後の王女、ステラリア・エルミタージュその人です」
ステラが明かした意外な正体に、リューンは衝撃を受けている。
それもそうだろう。エルミタージュ王国はかなり昔に滅びたとされている国である。だというのに、その国の王女がこうやって目の前に存在しているのだ。驚かずいられるだろうか。
「えっ、エルミタージュって、何百年も前に滅びたんじゃ……」
リューンが驚きのあまりに口をパクパクさせている。後ろは木なので逃げられないのだ。
「はい、その通りです。エルミタージュ王城は炎に包まれ、私の両親ともども、ほぼすべての臣下ごと死に絶えました。ですが、私だけは両親から施された秘術によって、こうやって生き延びているのですよ。いえ、生かされていると言った方がよろしいでしょうかね」
ステラの言葉がよく分からないリューンである。
「その両親が施した秘術の効果は、今しがたリューンが見たままのものですよ。この秘術によって、私は老いる事も死ぬ事もないのですからね」
「そ、そんな」
リューンが驚く中、ステラは地面に転がった仮面を見つけて土を払っている。
「この仮面は、私の正体を隠すと同時に力を抑えるためのものでもあります。今までの環境のせいで、私もだいぶ攻撃的になっちゃいましたからね。仮面はその攻撃性を隠すためでもあるんですよ」
「なるほど……」
さっきのブラックウルフに対するステラの状態に、納得がいってしまうリューンだった。
「リューン、申し訳ありませんけれど、私の正体の事については他言無用でお願いします。あんな貼り紙を出されてしまった以上、正体が知られればリューンも家族も面倒に巻き込まれます」
「それはどうしてですか?」
「君の持つその剣ですよ。それは、エルミタージュ王国騎士団の持つ剣ですからね。普段は魔法鞄に入れて、表には決して出さないで下さい」
「分かりました」
「さて、ブラックウルフは倒せましたが、君の試験は終わっていません。しばらくは安全でしょうから、ここで休憩しましょうか」
というわけで、仮面を再びつけたステラとリューンは、しばらくその場で休む事にしたのだった。
そこに立っていたのは、先程ブラックウルフに首を噛みきられたはずステラだった。だが、いつもと雰囲気が違っているのは、かぶっているはずの仮面が無くなっているからだろう。
だが、それを除いても、いつもの雰囲気とは違っている。それは、リューンに迫っているブラックウルフの動きにも如実に影響を与えていた。
「グルルルル……」
叩きつけられたダメージから回復したブラックウルフだが、ステラに対する様子が先程までとは違っている。警戒の声を出してはいるのだが、どこか腰が引けたような状態になっているのだ。
そう、そこにあるのは恐怖心だ。
「ステラさん?」
その形相に思わず恐怖を感じてしまうリューン。
「リューン、すぐ終わらせますのでそこで待っていて下さい。思うところはあるでしょうが、こいつを先に仕留めませんとね」
双剣を構えてブラックウルフに立ち向かうステラだった。
ステラの雰囲気が、さっきまでとははっきりと違っている。とてもブラックウルフに対して震えていたステラと同一人物とは思えないくらいである。
「私のリミッターを外した事を、後悔させてあげますよ。無数のきらめきの前に散りなさい」
ステラの圧がすさまじかったのか、ブラックウルフが逃げ出そうとしている。
「逃しません!」
だが、今のステラに逃がすという考えは毛頭なかった。
ステラの姿が消えたかと思うと、無数の光の筋が走る。空中に縛り付けられたブラックウルフはその無数の光に斬り刻まれ、力なくそのまま地面へと叩きつけられたのだった。
「すごい……」
ステラの雰囲気が怖いとは思ったものの、リューンからはそんな感想しか出てこなかった。そのくらい、ブラックウルフを打ち据えた光の筋がきれいだったのである。
地面に横たわるブラックウルフを、冷たい眼光で見下ろすステラ。
「お返しです。せめて苦しまぬように一撃で沈めてあげましょう」
双剣を揃えてブラックウルフの首筋へと振り下ろすステラ。
しばらくは激しく動いていたブラックウルフも、やがてまったく動かなくなってしまった。討伐が完了したのである。
剣を鋭く振るうと、ステラは双剣を背中の鞘へとしまい込む。そして、ブラックウルフの死骸をそのまま魔法鞄へとしまい込んだ。
「大丈夫ですか、リューン」
ゆっくりと近付いてくるステラ。その姿にリューンは驚かずにはいられなかった。
「どうされましたか?」
「す、ステラさん。どうして無事なんですか?」
リューンは動揺しまくっている。目の前で信じられない事がいくつも起きたのだ。落ち着いていられる方がおかしいのである。
その姿を前に、ステラは異様なくらいに落ち着いていた。
ふと自分の顔に手を当てて、仮面が外れている事に気が付いたステラ。その表情はいろいろと諦めたようだった。
「まったく、まさか仮面が外れてしまうとは……」
「……ステラさん、その顔って組合に貼ってあった貼り紙と同じですよね?」
おそるおそる尋ねるリューン。自分の顔をぺたぺたと触っていたステラは、その言葉にぴたりと動きを止めた。
ステラは険しい顔でリューンの顔を見る。
「……そうですね。その剣を受け継いだあなたになら、お話してもいいかもしれませんね。いろいろと見られてしまいましたしね」
そして、大きくため息を吐いて、ステラはすべてを打ち明ける事にした。
「ええ、そうです。私の正体は、エルミタージュ王国最後の王女、ステラリア・エルミタージュその人です」
ステラが明かした意外な正体に、リューンは衝撃を受けている。
それもそうだろう。エルミタージュ王国はかなり昔に滅びたとされている国である。だというのに、その国の王女がこうやって目の前に存在しているのだ。驚かずいられるだろうか。
「えっ、エルミタージュって、何百年も前に滅びたんじゃ……」
リューンが驚きのあまりに口をパクパクさせている。後ろは木なので逃げられないのだ。
「はい、その通りです。エルミタージュ王城は炎に包まれ、私の両親ともども、ほぼすべての臣下ごと死に絶えました。ですが、私だけは両親から施された秘術によって、こうやって生き延びているのですよ。いえ、生かされていると言った方がよろしいでしょうかね」
ステラの言葉がよく分からないリューンである。
「その両親が施した秘術の効果は、今しがたリューンが見たままのものですよ。この秘術によって、私は老いる事も死ぬ事もないのですからね」
「そ、そんな」
リューンが驚く中、ステラは地面に転がった仮面を見つけて土を払っている。
「この仮面は、私の正体を隠すと同時に力を抑えるためのものでもあります。今までの環境のせいで、私もだいぶ攻撃的になっちゃいましたからね。仮面はその攻撃性を隠すためでもあるんですよ」
「なるほど……」
さっきのブラックウルフに対するステラの状態に、納得がいってしまうリューンだった。
「リューン、申し訳ありませんけれど、私の正体の事については他言無用でお願いします。あんな貼り紙を出されてしまった以上、正体が知られればリューンも家族も面倒に巻き込まれます」
「それはどうしてですか?」
「君の持つその剣ですよ。それは、エルミタージュ王国騎士団の持つ剣ですからね。普段は魔法鞄に入れて、表には決して出さないで下さい」
「分かりました」
「さて、ブラックウルフは倒せましたが、君の試験は終わっていません。しばらくは安全でしょうから、ここで休憩しましょうか」
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