不死の少女は王女様

未羊

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第14話 気になる貼り紙

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 依頼の達成報告のために冒険者組合にやって来たステラたち。
 ところが、そこでは少々冷たくあしらわれてしまう。

「依頼の達成は半分ですね。まだ復路の分が残っておりますので、報酬は出せません」

 職員から淡々と告げられてしまった。
 確認してみると、確かに護衛の依頼は往復となっていた。

「なんだよう、これで終わりじゃないのか」

 リューンは文句を言ってはいるが、ステラの方は落ち着いていた。

「今回の分は往復分なんですよ。定期的な取引ですからね。それでも片道ごとに報告しなければなりませんから、こうやって来たんです」

「そうですね。片道ごとにちゃんと報告して頂けると、完了時の査定が早く済みますから助かります。意味のない事ではないのですよ」

 不満そうにしているリューンに、ステラと職員が説明をしている。

「エルミタージュ王国が残してくれたこのシステムのおかげで、冒険者組合は大陸中どこに居ても情報が共有できるんです。これだけ便利なシステムを作り上げた国なのに、なんで滅んでしまったのでしょうね」

 続きを話し始めた職員の言葉。それに対してリューンは興味があるのか、目を輝かせて職員へと視線を向ける。

「どんなシステムなんですか?」

「ええ、例えば君が手に持っているタグ、それもそうですね」

「これですか?」

 職員が指差すものだから、リューンは首に掛けようとしていたタグを顔の前に持ってくる。
 タグ自体は普通の金属なのだが、システムに通すと不思議な魔力を帯びて、反射する光は様々に色を変えるようになる。
 説明によれば、これは大陸に過去存在したエルミタージュ王国が国内管理のために使っていたシステムだったらしい。その情報網を活用して作られた組織こそが、今ステラとリューンが来ている冒険者組合と、商人たちが集う商業組合というわけである。

「へえ、そうだったんですね。そんなすごいシステムを作った国なのに、滅んでしまったなんて信じられませんね」

 リューンはタグを眺めながら呟いていた。
 首にタグをぶら下げたリューンは、ふと気になってステラの方を見る。すると、顔は見えないけれども普段となんだか違う感じがして、リューンは思わず声を掛けてしまう。

「ステラさん?」

「えっ、何でしょうか」

 驚いたように反応するステラ。やっぱり何か変だった。

「どうしたんですか。ぼーっとしているみたいですけれど」

「ああ、なんでもありませんよ。ちょっと考え事をしていただけです」

 普段と変わらない様子で話しているので、リューンは納得したようだった。

「ああ、今しがた思い出しました。エルミタージュ王国といえば、最近よその冒険者組合からあんな貼り紙が届いてましたね」

 職員はこう言いながら、壁に貼られた大きな貼り紙を指差す。そこには見た事ないくらいの大きさの紙が貼られていた。

「一体なんですか、あれは」

「さあ、分かりません。とりあえず貼れとだけ言われたので貼ったのですが、見た感じ懸賞金の掛けられたお尋ね者のようです」

 リューンの質問に、職員はそのように答えていた。
 それを受けてリューンはじっとその貼り紙を見る。

「なんだか、ステラさんに雰囲気が似ていませんか?」

 リューンが不思議そうにその貼り紙を見ているので、興味なさそうにしていたステラも確認するように近付いていく。
 そこに描かれていたのは、青色の髪に金色の目が特徴的な少女の顔だった。

「えっと、この名前、なんて書いてあるんですかね」

「”ステラリア・エルミタージュ”」

 まだ文字があまり読めないリューンがステラに尋ねるように言うと、ステラは呟くように答えていた。
 そして、リューンを置いてステラは職員の方へとずかずかと歩いていく。

「ちょっとよろしいですか?」

「は、はい。何でしょうか」

「あの貼り紙を持ってきた人間は、何か他に言っている事はありませんでしたか?」

 ステラに尋ねられた職員は、必死にその時の事を思い出している。そして、こう答えた。

「いえ、貼り出してくれと言われただけでしたね。詳細も何も聞いておりません。ただ、張って驚いたのは賞金が掛けられていた事くらいです。この人物がどういう人なのかは、私たちにはまったく分かりませんよ」

「そうですか」

 職員の回答を聞いたステラは、リューンに声を掛けて冒険者組合を出て行った。

「ステラさん、一体どうしたんですか」

 あまりにも早足で歩くステラに、リューンが声を掛ける。

「なんでもありませんよ。ええ、なんでも……ね」

 ステラは振り返る事もなく答えている。ただ、その声が少し震えていたような気がしたのは気のせいだろうか。
 冒険者組合に貼られていた紙を見てからというものステラの様子がおかしいので、リューンは気になって仕方がない。一体どうしたというのだろうか。
 しかし、ステラの雰囲気からするに、そこに触れるのはよろしくない気がしたリューン。知り合ってからそう時間が長いわけではないが、なんとなくそう感じたのである。
 数日後、商談を終えた商人たちと合流したステラたちは、護衛の任務を遂行しながらバナルまで戻っていったのだった。
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