11 / 77
第11話 先輩冒険者の実力
しおりを挟む
食事を終えると、再び冒険者組合に戻ってくるステラとリューン。
今日は朝からいつもおっさんがお休みだったのだが、どうも昼にも姿を見せていない。一日お休みのようなので、薬草の依頼の時に対応してもらった別の職員に話し掛ける。
「あら、ステラさん。今度は何でしょうか」
今日三度目となる訪問に、さすがの職員もびっくりしているようだ。
なぜなら、基本的にステラは無駄な行動をしない。冒険者組合に来るのは、イレギュラーを除けば依頼を受ける時と達成時の報告のみだからだ。だから、二度目より多く訪れる事はないというわけだ。
「裏の訓練場と木剣を2本、お貸し願えますでしょうか」
この要求に加えて後ろに居る少年。なるほどと職員はすぐに理解した。
「承知致しました。では、私がご案内させて頂きます」
職員は立ち上がると、受付のカウンターの脇にある扉の方へと移動していく。ステラはリューンを連れてそれについて行く。
扉を開けた先には、石壁に囲まれたスペースが備えられていた。これがステラが言っていた訓練場である。
「すごい……、なんて高さの石壁なんだ。これが外から見えなかったなんて……」
あまりの高さの石壁に、リューンはものすごく圧倒されていた。
「幻視魔法をかけて、外からは分からなくしているんです。見ての通り相当の高さですから、景観に影響しちゃいますのでね」
「へえ……」
ぼーっとしているリューンに対して、ステラは先程職員から渡された木剣を投げる。
「おっとっと……」
リューンはそれに反応して木剣を受け止めていた。完全に意識の外にあったはずなのに、しっかり受けっていたのは意外だった。
(ふむ、リューンのお父様が話されていた内容は、これで信ぴょう性が増しましたね)
しっかり受け取ったと思ったら、ちょっとお手玉をしていた。木剣なのでそう簡単に切れる事はないけれど、ちょっとそこは心配になってしまった。
だが、受け取った事を確認したステラはリューンに声を掛ける。
「リューン、剣を構えなさい」
「は、はい」
リューンは木剣をしっかりと構える。さすがにここまでワイルドラットにゴブリンと経験を重ねているので、剣の構え方自体は様になっている。
「あら、ステラさんは1本でよろしいのですか?」
そう言って立っているのは案内してきた職員である。よく見ると木剣をもう1本持ってきていた。
「ええ、初めての手合わせですからね。いきなり双剣相手は厳しいと思いますもの」
「ああ、そうですね。ステラさんの熟練でいらっしゃいますものね。という事は、ハンデみたいなものですかね」
「そういう事です」
ステラは剣を持って構える。普段は双剣を扱っているが、片手剣でも十分様になっていた。
「さて、私は攻撃をしませんので、どうぞお好きにかかってきて下さい」
余裕の態度のステラに、リューンは思わず息を飲む。
(うっ、さすがに隙が無い……)
なんとなくは感じていたものの、実際に対峙してみるとよく分かる。なんとも近寄りがたい圧倒的なオーラ。小さなステラの体から、それがあふれ出ているのである。
楽しみにしてはいたものの、まさかこれほどのものとは思っていなかったのか、リューンはステラを前に冷や汗を流している。
「ほら、攻撃してきてくれませんと稽古になりませんよ。それとも、私の攻撃を受けてみたいのですか?」
ステラがさらに挑発する。
その様子に、リューンは意を決したように息を飲むと、ステラ目がけて走り出した。
先輩冒険者に稽古をつけてもらえるせっかくの機会、活かさなくてどうするというのだ。
……結果は分かり切ったものだった。
リューンはステラに一撃も入れる事ができず、全部躱されてしまっていた。
ステラは仮面をかぶっているので死角が多いはず。だというのに、死角から放った攻撃すらもあっさり躱されてしまっていたのだ。それこそ、すべてがはっきりと見えているような動きだった。
「死角からの攻撃とは考えましたが、君の動きは手に取るように分かりますよ。若い方によく見られる、実に素直な動きです」
「若いって……、ステラさんも十分若くないですか?!」
「ふふふっ、女性に年齢に関する質問はタブーですよ」
リューンの反応をぴしゃりとはたき落とすステラである。実に容赦がない。
「見てて思いましたが、剣筋は素直ですけれど、剣への適性は十分にあると思います。それこそ体力や筋力をつけて、鋭く振れるようになればかなり変わるでしょうね」
ステラはそう言いながら、冒険者組合とは反対側の訓練場の壁を見据えている。
「剣も極めてくれば、このような事もできるようになるはずです」
剣を構えて集中するステラ。一体何をするというのだろうか。
「はあっ!」
気合いの入った声は響き渡ると同時に、ステラは木剣を思い切り振り抜く。
すると、ステラの振るった木剣から衝撃波が放たれたのだ。
その次の瞬間、衝撃波がぶつかって大きな音が響き渡る。もうもうと立つ土煙が晴れてくると、石壁に大きな穴が開いているのが確認された。
「ちょっとステラさん?!」
大きな音に驚いてやって来た職員が、石壁に開いた穴を見て騒いでいる。
「ダメですよ、やり過ぎては」
「失礼致しました。すぐ直します」
ステラはそう言って石壁まで走っていき、手を当てて魔法を使っている。すると、見る見るうちに石壁に開いた穴が塞がっていった。
「これで元通りですね」
石壁を二度ほど叩くと、ステラはリューンと職員のところまで戻ってきた。
「せめて、この技が放てるようにはなってもらいたいですね」
「が、頑張ります」
仮面で分からないが、ステラは笑っているようである。その隣では、リューンと職員が複雑な表情をして立っていたのだった。
冒険者ステラの実力を見せつけられたリューンは、一体何を思ったのだろうか。
今日は朝からいつもおっさんがお休みだったのだが、どうも昼にも姿を見せていない。一日お休みのようなので、薬草の依頼の時に対応してもらった別の職員に話し掛ける。
「あら、ステラさん。今度は何でしょうか」
今日三度目となる訪問に、さすがの職員もびっくりしているようだ。
なぜなら、基本的にステラは無駄な行動をしない。冒険者組合に来るのは、イレギュラーを除けば依頼を受ける時と達成時の報告のみだからだ。だから、二度目より多く訪れる事はないというわけだ。
「裏の訓練場と木剣を2本、お貸し願えますでしょうか」
この要求に加えて後ろに居る少年。なるほどと職員はすぐに理解した。
「承知致しました。では、私がご案内させて頂きます」
職員は立ち上がると、受付のカウンターの脇にある扉の方へと移動していく。ステラはリューンを連れてそれについて行く。
扉を開けた先には、石壁に囲まれたスペースが備えられていた。これがステラが言っていた訓練場である。
「すごい……、なんて高さの石壁なんだ。これが外から見えなかったなんて……」
あまりの高さの石壁に、リューンはものすごく圧倒されていた。
「幻視魔法をかけて、外からは分からなくしているんです。見ての通り相当の高さですから、景観に影響しちゃいますのでね」
「へえ……」
ぼーっとしているリューンに対して、ステラは先程職員から渡された木剣を投げる。
「おっとっと……」
リューンはそれに反応して木剣を受け止めていた。完全に意識の外にあったはずなのに、しっかり受けっていたのは意外だった。
(ふむ、リューンのお父様が話されていた内容は、これで信ぴょう性が増しましたね)
しっかり受け取ったと思ったら、ちょっとお手玉をしていた。木剣なのでそう簡単に切れる事はないけれど、ちょっとそこは心配になってしまった。
だが、受け取った事を確認したステラはリューンに声を掛ける。
「リューン、剣を構えなさい」
「は、はい」
リューンは木剣をしっかりと構える。さすがにここまでワイルドラットにゴブリンと経験を重ねているので、剣の構え方自体は様になっている。
「あら、ステラさんは1本でよろしいのですか?」
そう言って立っているのは案内してきた職員である。よく見ると木剣をもう1本持ってきていた。
「ええ、初めての手合わせですからね。いきなり双剣相手は厳しいと思いますもの」
「ああ、そうですね。ステラさんの熟練でいらっしゃいますものね。という事は、ハンデみたいなものですかね」
「そういう事です」
ステラは剣を持って構える。普段は双剣を扱っているが、片手剣でも十分様になっていた。
「さて、私は攻撃をしませんので、どうぞお好きにかかってきて下さい」
余裕の態度のステラに、リューンは思わず息を飲む。
(うっ、さすがに隙が無い……)
なんとなくは感じていたものの、実際に対峙してみるとよく分かる。なんとも近寄りがたい圧倒的なオーラ。小さなステラの体から、それがあふれ出ているのである。
楽しみにしてはいたものの、まさかこれほどのものとは思っていなかったのか、リューンはステラを前に冷や汗を流している。
「ほら、攻撃してきてくれませんと稽古になりませんよ。それとも、私の攻撃を受けてみたいのですか?」
ステラがさらに挑発する。
その様子に、リューンは意を決したように息を飲むと、ステラ目がけて走り出した。
先輩冒険者に稽古をつけてもらえるせっかくの機会、活かさなくてどうするというのだ。
……結果は分かり切ったものだった。
リューンはステラに一撃も入れる事ができず、全部躱されてしまっていた。
ステラは仮面をかぶっているので死角が多いはず。だというのに、死角から放った攻撃すらもあっさり躱されてしまっていたのだ。それこそ、すべてがはっきりと見えているような動きだった。
「死角からの攻撃とは考えましたが、君の動きは手に取るように分かりますよ。若い方によく見られる、実に素直な動きです」
「若いって……、ステラさんも十分若くないですか?!」
「ふふふっ、女性に年齢に関する質問はタブーですよ」
リューンの反応をぴしゃりとはたき落とすステラである。実に容赦がない。
「見てて思いましたが、剣筋は素直ですけれど、剣への適性は十分にあると思います。それこそ体力や筋力をつけて、鋭く振れるようになればかなり変わるでしょうね」
ステラはそう言いながら、冒険者組合とは反対側の訓練場の壁を見据えている。
「剣も極めてくれば、このような事もできるようになるはずです」
剣を構えて集中するステラ。一体何をするというのだろうか。
「はあっ!」
気合いの入った声は響き渡ると同時に、ステラは木剣を思い切り振り抜く。
すると、ステラの振るった木剣から衝撃波が放たれたのだ。
その次の瞬間、衝撃波がぶつかって大きな音が響き渡る。もうもうと立つ土煙が晴れてくると、石壁に大きな穴が開いているのが確認された。
「ちょっとステラさん?!」
大きな音に驚いてやって来た職員が、石壁に開いた穴を見て騒いでいる。
「ダメですよ、やり過ぎては」
「失礼致しました。すぐ直します」
ステラはそう言って石壁まで走っていき、手を当てて魔法を使っている。すると、見る見るうちに石壁に開いた穴が塞がっていった。
「これで元通りですね」
石壁を二度ほど叩くと、ステラはリューンと職員のところまで戻ってきた。
「せめて、この技が放てるようにはなってもらいたいですね」
「が、頑張ります」
仮面で分からないが、ステラは笑っているようである。その隣では、リューンと職員が複雑な表情をして立っていたのだった。
冒険者ステラの実力を見せつけられたリューンは、一体何を思ったのだろうか。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる