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第8話 ゴブリン討伐
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ステラはリューンを連れて街の外へとやって来る。
「さて、指導を引き受けたからには徹底的に鍛えさせてもらいますよ」
「はい、お願いします」
直立するステラの前で、同じように直立するリューン。声はとても元気だ。その様子を見てひとまずは安心するステラである。
「えっと、君の武器はその剣でよかったですかね」
「はい、僕の武器は剣です。お父さんもお爺ちゃんも持った事のある武器ですから」
剣を代々持っているという点にぴくりと反応するステラ。
顎に手を当てて少し上を見ると、リューンに問い掛ける。
「君の家系は代々剣を扱うのですか。昔はどこかで兵士でもされていましたか?」
「その辺はよく分からないです。けど、剣を使っていたというのはよく聞きました」
「……なるほどですね」
リューンの話をとりあえず話半分に信じる事にしたステラである。
話を聞いたステラは、くるりと振り返る。
「では、君の実力を見せてもらいましょうか。依頼をこなしに行きます」
「はい、分かりました」
ステラはリューンを連れて再び歩き始めた。
やって来たのはさらに街から遠くなった場所。辺りには背の高い茂みがたくさん見える。
「今回はゴブリンの討伐です。この辺りには背の高い茂みがあるので、その中に隠れて生活している事もあるんですよ。……こんな風にね」
ステラが双剣を取り出して茂みを斬ると、断末魔のような声が響き渡る。
すると、それを聞きつけて他の茂みからもぞろぞろとゴブリンが顔を出してきた。
「うわぁ、多いな……」
「ひい、ふう、みい……、ざっと10体ほどですか。私がなるべく引きつけますので、君も頑張ってゴブリンを倒して下さいね」
「えっ、ええ?!」
ステラはとても軽く言っているものの、初心者のリューンにはかなり厳しい事である。
しかし、そう言っている間にステラは軽い攻撃を当てては離脱するという行為を繰り返して、うまく多くのゴブリンを自分に集中させていた。
なぜ倒さないのか。
それは、倒してしまうとリューンの訓練にならないからだ。
今リューンと対峙しているのは、わざとステラが無視したゴブリン1体だけである。
「ぎるぎるぎる……」
妙な声を出しながら、リューンを睨みつけるゴブリン。
「ぼ、僕は何もしていないじゃないか!」
そう叫ぶリューンだが、ゴブリンにとってはそんな事はどうでもいい。仲間が死んだ場に居合わせた敵に過ぎないのだ。
「ぎぎるあっ!」
耐えかねたゴブリンがリューンへと襲い掛かってくる。
「うわあっ」
「ゴブリンの攻撃は基本的に単純です。よく見て下さい」
多数のゴブリンを相手にしながら、リューンへとアドバイスを送るステラ。へっぴり腰のリューンへとゴブリンが流れないように、必死にヘイト管理も行いながらである。さすがは頼れる冒険者である。
さて、なぜ1体だけ無視したというと、そのゴブリンは武器を持っていなかったからだ。武器を持っていないゴブリンの力は、成人男性に少々劣るくらい。つまり、十分に対応は可能なのである。だからこそ、その1体をリューンに任せたのである。
ところが、襲い掛かって来る人型の魔物は初めてなのか、リューンは動けそうにない。
「しっかりしなさい。冒険者になるんでしょう?!」
ステラのその言葉で、リューンはしっかりと目を見開いた。
(見える!)
その瞬間、ゴブリンの攻撃がはっきりと見えたのだ。
落ち着いて攻撃を躱すと、持っていた剣でゴブリンへと攻撃を仕掛ける。
「だりゃーっ!」
だが、いかんせん、攻撃が大振りすぎる。なんと、ゴブリンに攻撃を躱されてしまい、さらには反撃を受ける。
「うわぁっ!」
まともに右頬に入ってしまい、吹き飛んでしまうリューン。
「ぎぎっ」
じりじりと迫ってくるゴブリン。
あまりの痛さに怖気づきそうになるリューンだったが、今もゴブリンの攻撃を躱し続けるステラの姿を見て奮起する。
「僕は……強くなるんだ。冒険者になって、両親を楽にさせるんだ」
「ぎぎるーっ!」
両者が叫び、激突し、交錯する。
しばらくすると、ゴブリンがぐらりと崩れ落ちる。しっかりとリューンの剣がゴブリンを斬り裂いたのである。
その姿を見届けたステラ。
「もうお遊びはおしまいです。お付き合いありがとうございました」
「ぎぎっ?!」
次の瞬間、ゴブリンたちに目にも止まらぬ高速の剣筋が走り抜ける。どさどさと崩れ落ちるゴブリンたち。はっきりいって、ゴブリンたちは何が起きたのか分からなかっただろう。
ゴブリンを一掃したステラは、リューンの元へと歩いていく。
「1体倒すだけでも時間がかかりすぎですが、ゴブリンを相手にできたのは進歩でしょうかね。ワイルドラットに比べて躊躇が多かったのは、人型だからでしょうかね」
ステラの指摘に、リューンは黙り込んでしまっていた。
「構いませんよ。動物に比べて、二足歩行をするというだけで攻撃はしづらくなりますから」
慰めながら、ステラはリューンの肩に手を置いていた。
「さて、討伐証明を持って帰りましょうか。頑張りましたね、リューン」
黙々と討伐証明である耳と魔石を取り出すステラ。さすがにリューンは魔石に関しては取り出しづらそうにしていたので、そこだけはステラが代わっていた。
「ランドスワロー」
そして、最後は地中に丸呑みにさせて処理が完了だ。地中に丸呑みにさせる土魔法は、こういう時に便利なのである。
処理が完了すると、二人はバナルへと戻っていく。この間、二人の間で会話が交わされる事はなかったのだった。
「さて、指導を引き受けたからには徹底的に鍛えさせてもらいますよ」
「はい、お願いします」
直立するステラの前で、同じように直立するリューン。声はとても元気だ。その様子を見てひとまずは安心するステラである。
「えっと、君の武器はその剣でよかったですかね」
「はい、僕の武器は剣です。お父さんもお爺ちゃんも持った事のある武器ですから」
剣を代々持っているという点にぴくりと反応するステラ。
顎に手を当てて少し上を見ると、リューンに問い掛ける。
「君の家系は代々剣を扱うのですか。昔はどこかで兵士でもされていましたか?」
「その辺はよく分からないです。けど、剣を使っていたというのはよく聞きました」
「……なるほどですね」
リューンの話をとりあえず話半分に信じる事にしたステラである。
話を聞いたステラは、くるりと振り返る。
「では、君の実力を見せてもらいましょうか。依頼をこなしに行きます」
「はい、分かりました」
ステラはリューンを連れて再び歩き始めた。
やって来たのはさらに街から遠くなった場所。辺りには背の高い茂みがたくさん見える。
「今回はゴブリンの討伐です。この辺りには背の高い茂みがあるので、その中に隠れて生活している事もあるんですよ。……こんな風にね」
ステラが双剣を取り出して茂みを斬ると、断末魔のような声が響き渡る。
すると、それを聞きつけて他の茂みからもぞろぞろとゴブリンが顔を出してきた。
「うわぁ、多いな……」
「ひい、ふう、みい……、ざっと10体ほどですか。私がなるべく引きつけますので、君も頑張ってゴブリンを倒して下さいね」
「えっ、ええ?!」
ステラはとても軽く言っているものの、初心者のリューンにはかなり厳しい事である。
しかし、そう言っている間にステラは軽い攻撃を当てては離脱するという行為を繰り返して、うまく多くのゴブリンを自分に集中させていた。
なぜ倒さないのか。
それは、倒してしまうとリューンの訓練にならないからだ。
今リューンと対峙しているのは、わざとステラが無視したゴブリン1体だけである。
「ぎるぎるぎる……」
妙な声を出しながら、リューンを睨みつけるゴブリン。
「ぼ、僕は何もしていないじゃないか!」
そう叫ぶリューンだが、ゴブリンにとってはそんな事はどうでもいい。仲間が死んだ場に居合わせた敵に過ぎないのだ。
「ぎぎるあっ!」
耐えかねたゴブリンがリューンへと襲い掛かってくる。
「うわあっ」
「ゴブリンの攻撃は基本的に単純です。よく見て下さい」
多数のゴブリンを相手にしながら、リューンへとアドバイスを送るステラ。へっぴり腰のリューンへとゴブリンが流れないように、必死にヘイト管理も行いながらである。さすがは頼れる冒険者である。
さて、なぜ1体だけ無視したというと、そのゴブリンは武器を持っていなかったからだ。武器を持っていないゴブリンの力は、成人男性に少々劣るくらい。つまり、十分に対応は可能なのである。だからこそ、その1体をリューンに任せたのである。
ところが、襲い掛かって来る人型の魔物は初めてなのか、リューンは動けそうにない。
「しっかりしなさい。冒険者になるんでしょう?!」
ステラのその言葉で、リューンはしっかりと目を見開いた。
(見える!)
その瞬間、ゴブリンの攻撃がはっきりと見えたのだ。
落ち着いて攻撃を躱すと、持っていた剣でゴブリンへと攻撃を仕掛ける。
「だりゃーっ!」
だが、いかんせん、攻撃が大振りすぎる。なんと、ゴブリンに攻撃を躱されてしまい、さらには反撃を受ける。
「うわぁっ!」
まともに右頬に入ってしまい、吹き飛んでしまうリューン。
「ぎぎっ」
じりじりと迫ってくるゴブリン。
あまりの痛さに怖気づきそうになるリューンだったが、今もゴブリンの攻撃を躱し続けるステラの姿を見て奮起する。
「僕は……強くなるんだ。冒険者になって、両親を楽にさせるんだ」
「ぎぎるーっ!」
両者が叫び、激突し、交錯する。
しばらくすると、ゴブリンがぐらりと崩れ落ちる。しっかりとリューンの剣がゴブリンを斬り裂いたのである。
その姿を見届けたステラ。
「もうお遊びはおしまいです。お付き合いありがとうございました」
「ぎぎっ?!」
次の瞬間、ゴブリンたちに目にも止まらぬ高速の剣筋が走り抜ける。どさどさと崩れ落ちるゴブリンたち。はっきりいって、ゴブリンたちは何が起きたのか分からなかっただろう。
ゴブリンを一掃したステラは、リューンの元へと歩いていく。
「1体倒すだけでも時間がかかりすぎですが、ゴブリンを相手にできたのは進歩でしょうかね。ワイルドラットに比べて躊躇が多かったのは、人型だからでしょうかね」
ステラの指摘に、リューンは黙り込んでしまっていた。
「構いませんよ。動物に比べて、二足歩行をするというだけで攻撃はしづらくなりますから」
慰めながら、ステラはリューンの肩に手を置いていた。
「さて、討伐証明を持って帰りましょうか。頑張りましたね、リューン」
黙々と討伐証明である耳と魔石を取り出すステラ。さすがにリューンは魔石に関しては取り出しづらそうにしていたので、そこだけはステラが代わっていた。
「ランドスワロー」
そして、最後は地中に丸呑みにさせて処理が完了だ。地中に丸呑みにさせる土魔法は、こういう時に便利なのである。
処理が完了すると、二人はバナルへと戻っていく。この間、二人の間で会話が交わされる事はなかったのだった。
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