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第1話 仮面の少女
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世界で最も広大な大陸、エルミタージュ大陸。
かつてはひとつの大国が支配したこの大地も、今は複数の小国がそれぞれに領土を治めている。
その中の一つ、平原地帯を治めるプレヌ王国。そのプレヌ王国の中の一つの街、バナル。物語はここから始まる。
―――
ある晴れた日、バナルの冒険者組合に一人の少女が姿を見せる。
「よう、ステラじゃないか。もう終わらせてきたのかい?」
「ええ。思ったより簡単でしたから」
組合の中に座る体格のいいおっさんから声を掛けられたのは、暗めの青い髪をツインテールにして、全身を黒色の服で包み込んだ仮面をつけた女性だった。見た目として少し小さく、まだ幼い少女のように見える。
ステラと呼ばれた少女は受付まで進むと、持っていた鞄からいろんなものを取り出して並べていく。
「すげえなぁ。こんな魔法鞄、見た事ねえぜ」
おっさんがこんな言葉を漏らすのも無理はない。鞄の大きさからすれば、明らかに入っている事がおかしい物ばかりが出てくるからだ。やがて、受付の台の上からあふれてしまう。
慌てたおっさんは、止めようとしてステラに声を掛ける。
「それにしても、依頼に無いものも随分と入ってるな。一体どうしたんだ?」
「襲い掛かってきたから倒しただけですよ。無視してもついて来るので、仕方がないんです」
ステラがそう答えると、おっさんたちは困惑した顔でお互いに見合わせている。いつものことではあるものの、どう反応していいのか毎回頭を悩ませているのだ。
「気にしなくてもいいんですよ。私だって好きでこういう体質になったわけではないですけれど、だからといって迷惑はかけたくありませんから」
こう話すステラだが、仮面のせいで表情は読めないし、声が微妙にくぐもっていて感情が読み取れない。これが組合での対応をより困難なものにしているのだ。
「なあ、ステラ。こう言っちゃ悪いんだが、一度仮面を取ってもらってもいいか?」
「……ごめんなさい。これは、外すわけにはいかないんです。……小さい頃に火事に巻かれてやけどを負ってしまいましたのでね」
時折、どうにか仮面を取ってもらおうとするのだが、ステラからはこの返答一点張りだった。
さすがにこんな事を言われてしまえば、おっさんたち組合員たちも無理強いはできなかった。
「とりあえずです。とっとと査定をお願いできますでしょうか。あと、もう二度と仮面の事には触れないで下さい。不愉快です」
「わ、分かった。他の連中にもちゃんと言い聞かせておくからよ、これからも頼むぜ。おい、さっさとこれを査定してくれ!」
「分かりました!」
ステラがすごむと、おっさんは仮面の事は二度と触れないと誓っていた。
しばらくすると、依頼の報酬と討伐品の査定結果を受け取る。目の前に積まれた硬貨を丁寧に袋の中に収めていくステラ。
「それでは、今日はこれで帰ります。ごきげんよう」
軸のぶれないきれいな歩き方で、ステラは冒険者組合を出て行った。
「ふぅ、見た目も喋り方もお嬢様って感じなのに、あの殺気だけはすさまじいな……」
「まったく、ミュスクさんもいい加減にして下さい。みんな気を遣って触れていなかったんですよ?!」
ステラの対応をしたおっさんが別の職員に怒られている。
「悪い……。だがよ、どうしても気になっちまうだろ?」
「だが、じゃありません! ステラさんは見た目こそ若いですが、うちが誇れる冒険者なんです。どんな難しい依頼もすんなり解決させてしまう、うちの救世主なんですからね」
「分かった分かった。次から気を付ける……」
職員に怒られたおっさんは本気で凹んでいた。
―――
バナルの街から少し離れた場所にある森。ステラの姿はそこにあった。
ステラは魔法鞄をテーブルの上に置いて、そのまま近くの椅子に座り込んだ。
「ふぅ、久しぶりに仮面を取るように言われてしまったわ……。この仮面を取るわけにはいかないのです」
部屋にある姿見の前に立ち、ステラは自分の姿を見る。ところどころに金や白の刺繡の入った全身真っ黒の服装に、無機質な仮面、それが今のステラの姿である。
そして、おもむろに仮面を取るステラ。その顔はきれいに整った顔立ちをしている。やけどの跡などどこにもなかったのだ。仮面を取らせないための方便だったのである。ただ、その顔の血色はあまりよさそうではなかった。
再びステラが仮面をかぶった時だった。
「うわあっ!」
外から叫び声が聞こえてくる。誰かが戦っているようだった。
(この近くに魔物? おかしいですね、この辺りの魔物は全部倒したはず……)
訝しむステラだったが、騒がしいのは放っておけないので、最低限の装備を整えて外へと飛び出した。
外へ出ると、そこでは男の冒険者が魔物と戦っていた。
(あれはグレイウルフですか。この辺りではまず見る事のない魔物ですね。はぐれた個体がここまでやって来たのですかね?)
じっくり見ているステラだが、戦っている冒険者はかなり疲弊しており、このまま放っておくと危険な感じだった。
(家の近くで死なれては、寝覚めが悪くなります。助けましょうか)
ステラは背中から双剣を取り出すと、冒険者を助けるために走り出したのだった。
かつてはひとつの大国が支配したこの大地も、今は複数の小国がそれぞれに領土を治めている。
その中の一つ、平原地帯を治めるプレヌ王国。そのプレヌ王国の中の一つの街、バナル。物語はここから始まる。
―――
ある晴れた日、バナルの冒険者組合に一人の少女が姿を見せる。
「よう、ステラじゃないか。もう終わらせてきたのかい?」
「ええ。思ったより簡単でしたから」
組合の中に座る体格のいいおっさんから声を掛けられたのは、暗めの青い髪をツインテールにして、全身を黒色の服で包み込んだ仮面をつけた女性だった。見た目として少し小さく、まだ幼い少女のように見える。
ステラと呼ばれた少女は受付まで進むと、持っていた鞄からいろんなものを取り出して並べていく。
「すげえなぁ。こんな魔法鞄、見た事ねえぜ」
おっさんがこんな言葉を漏らすのも無理はない。鞄の大きさからすれば、明らかに入っている事がおかしい物ばかりが出てくるからだ。やがて、受付の台の上からあふれてしまう。
慌てたおっさんは、止めようとしてステラに声を掛ける。
「それにしても、依頼に無いものも随分と入ってるな。一体どうしたんだ?」
「襲い掛かってきたから倒しただけですよ。無視してもついて来るので、仕方がないんです」
ステラがそう答えると、おっさんたちは困惑した顔でお互いに見合わせている。いつものことではあるものの、どう反応していいのか毎回頭を悩ませているのだ。
「気にしなくてもいいんですよ。私だって好きでこういう体質になったわけではないですけれど、だからといって迷惑はかけたくありませんから」
こう話すステラだが、仮面のせいで表情は読めないし、声が微妙にくぐもっていて感情が読み取れない。これが組合での対応をより困難なものにしているのだ。
「なあ、ステラ。こう言っちゃ悪いんだが、一度仮面を取ってもらってもいいか?」
「……ごめんなさい。これは、外すわけにはいかないんです。……小さい頃に火事に巻かれてやけどを負ってしまいましたのでね」
時折、どうにか仮面を取ってもらおうとするのだが、ステラからはこの返答一点張りだった。
さすがにこんな事を言われてしまえば、おっさんたち組合員たちも無理強いはできなかった。
「とりあえずです。とっとと査定をお願いできますでしょうか。あと、もう二度と仮面の事には触れないで下さい。不愉快です」
「わ、分かった。他の連中にもちゃんと言い聞かせておくからよ、これからも頼むぜ。おい、さっさとこれを査定してくれ!」
「分かりました!」
ステラがすごむと、おっさんは仮面の事は二度と触れないと誓っていた。
しばらくすると、依頼の報酬と討伐品の査定結果を受け取る。目の前に積まれた硬貨を丁寧に袋の中に収めていくステラ。
「それでは、今日はこれで帰ります。ごきげんよう」
軸のぶれないきれいな歩き方で、ステラは冒険者組合を出て行った。
「ふぅ、見た目も喋り方もお嬢様って感じなのに、あの殺気だけはすさまじいな……」
「まったく、ミュスクさんもいい加減にして下さい。みんな気を遣って触れていなかったんですよ?!」
ステラの対応をしたおっさんが別の職員に怒られている。
「悪い……。だがよ、どうしても気になっちまうだろ?」
「だが、じゃありません! ステラさんは見た目こそ若いですが、うちが誇れる冒険者なんです。どんな難しい依頼もすんなり解決させてしまう、うちの救世主なんですからね」
「分かった分かった。次から気を付ける……」
職員に怒られたおっさんは本気で凹んでいた。
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「ふぅ、久しぶりに仮面を取るように言われてしまったわ……。この仮面を取るわけにはいかないのです」
部屋にある姿見の前に立ち、ステラは自分の姿を見る。ところどころに金や白の刺繡の入った全身真っ黒の服装に、無機質な仮面、それが今のステラの姿である。
そして、おもむろに仮面を取るステラ。その顔はきれいに整った顔立ちをしている。やけどの跡などどこにもなかったのだ。仮面を取らせないための方便だったのである。ただ、その顔の血色はあまりよさそうではなかった。
再びステラが仮面をかぶった時だった。
「うわあっ!」
外から叫び声が聞こえてくる。誰かが戦っているようだった。
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訝しむステラだったが、騒がしいのは放っておけないので、最低限の装備を整えて外へと飛び出した。
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