不死の少女は王女様

未羊

文字の大きさ
上 下
1 / 135

第1話 仮面の少女

しおりを挟む
 世界で最も広大な大陸、エルミタージュ大陸。
 かつてはひとつの大国が支配したこの大地も、今は複数の小国がそれぞれに領土を治めている。
 その中の一つ、平原地帯を治めるプレヌ王国。そのプレヌ王国の中の一つの街、バナル。物語はここから始まる。

 ―――

 ある晴れた日、バナルの冒険者組合に一人の少女が姿を見せる。

「よう、ステラじゃないか。もう終わらせてきたのかい?」

「ええ。思ったより簡単でしたから」

 組合の中に座る体格のいいおっさんから声を掛けられたのは、暗めの青い髪をツインテールにして、全身を黒色の服で包み込んだ仮面をつけた女性だった。見た目として少し小さく、まだ幼い少女のように見える。
 ステラと呼ばれた少女は受付まで進むと、持っていた鞄からいろんなものを取り出して並べていく。

「すげえなぁ。こんな魔法鞄、見た事ねえぜ」

 おっさんがこんな言葉を漏らすのも無理はない。鞄の大きさからすれば、明らかに入っている事がおかしい物ばかりが出てくるからだ。やがて、受付の台の上からあふれてしまう。
 慌てたおっさんは、止めようとしてステラに声を掛ける。

「それにしても、依頼に無いものも随分と入ってるな。一体どうしたんだ?」

「襲い掛かってきたから倒しただけですよ。無視してもついて来るので、仕方がないんです」

 ステラがそう答えると、おっさんたちは困惑した顔でお互いに見合わせている。いつものことではあるものの、どう反応していいのか毎回頭を悩ませているのだ。

「気にしなくてもいいんですよ。私だって好きでこういう体質になったわけではないですけれど、だからといって迷惑はかけたくありませんから」

 こう話すステラだが、仮面のせいで表情は読めないし、声が微妙にくぐもっていて感情が読み取れない。これが組合での対応をより困難なものにしているのだ。

「なあ、ステラ。こう言っちゃ悪いんだが、一度仮面を取ってもらってもいいか?」

「……ごめんなさい。これは、外すわけにはいかないんです。……小さい頃に火事に巻かれてやけどを負ってしまいましたのでね」

 時折、どうにか仮面を取ってもらおうとするのだが、ステラからはこの返答一点張りだった。
 さすがにこんな事を言われてしまえば、おっさんたち組合員たちも無理強いはできなかった。

「とりあえずです。とっとと査定をお願いできますでしょうか。あと、もう二度と仮面の事には触れないで下さい。不愉快です」

「わ、分かった。他の連中にもちゃんと言い聞かせておくからよ、これからも頼むぜ。おい、さっさとこれを査定してくれ!」

「分かりました!」

 ステラがすごむと、おっさんは仮面の事は二度と触れないと誓っていた。
 しばらくすると、依頼の報酬と討伐品の査定結果を受け取る。目の前に積まれた硬貨を丁寧に袋の中に収めていくステラ。

「それでは、今日はこれで帰ります。ごきげんよう」

 軸のぶれないきれいな歩き方で、ステラは冒険者組合を出て行った。

「ふぅ、見た目も喋り方もお嬢様って感じなのに、あの殺気だけはすさまじいな……」

「まったく、ミュスクさんもいい加減にして下さい。みんな気を遣って触れていなかったんですよ?!」

 ステラの対応をしたおっさんが別の職員に怒られている。

「悪い……。だがよ、どうしても気になっちまうだろ?」

「だが、じゃありません! ステラさんは見た目こそ若いですが、うちが誇れる冒険者なんです。どんな難しい依頼もすんなり解決させてしまう、うちの救世主なんですからね」

「分かった分かった。次から気を付ける……」

 職員に怒られたおっさんは本気で凹んでいた。

 ―――

 バナルの街から少し離れた場所にある森。ステラの姿はそこにあった。
 ステラは魔法鞄をテーブルの上に置いて、そのまま近くの椅子に座り込んだ。

「ふぅ、久しぶりに仮面を取るように言われてしまったわ……。この仮面を取るわけにはいかないのです」

 部屋にある姿見の前に立ち、ステラは自分の姿を見る。ところどころに金や白の刺繡の入った全身真っ黒の服装に、無機質な仮面、それが今のステラの姿である。
 そして、おもむろに仮面を取るステラ。その顔はきれいに整った顔立ちをしている。やけどの跡などどこにもなかったのだ。仮面を取らせないための方便だったのである。ただ、その顔の血色はあまりよさそうではなかった。
 再びステラが仮面をかぶった時だった。

「うわあっ!」

 外から叫び声が聞こえてくる。誰かが戦っているようだった。

(この近くに魔物? おかしいですね、この辺りの魔物は全部倒したはず……)

 訝しむステラだったが、騒がしいのは放っておけないので、最低限の装備を整えて外へと飛び出した。
 外へ出ると、そこでは男の冒険者が魔物と戦っていた。

(あれはグレイウルフですか。この辺りではまず見る事のない魔物ですね。はぐれた個体がここまでやって来たのですかね?)

 じっくり見ているステラだが、戦っている冒険者はかなり疲弊しており、このまま放っておくと危険な感じだった。

(家の近くで死なれては、寝覚めが悪くなります。助けましょうか)

 ステラは背中から双剣を取り出すと、冒険者を助けるために走り出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

処理中です...