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第28話
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捕獲された怪異、というか犬は、翌日に編集長たちの手によって襟峰市から離れた動物病院へと運び込まれた。
人を襲ったという事実がある以上は、本来であれば行政案件だろう。だが、編集長たちは自分たちの手からこの案件が離れることを嫌い、遠くの動物病院を訪れたのだ。
「何でしょうか、この犬は」
運び込まれた動物病院の院長は、ものすごく怪訝な顔をしている。なんといっても運び込まれた犬の状態が明らかにおかしいからだ。
前足後ろ足だけならまだしも、口までぐるぐる巻きにされているし、なんといっても普通の犬と比べてもかなり痩せている。見るからに不健康そうだし、事件のにおいが漂っている。
「ここだけの秘密にしてもらいたいのですが、いいでしょうか」
編集長は真剣な表情で院長に迫る。
「病院で働くスタッフたちにも内緒で頼みたい。なにせちょっとこの犬にはややこしい背景があるのでね」
「むぅ……」
ずいっと編集長に迫られて、答えに窮する院長である。
「襟峰市……。この犬はそこの犬だというのですよね?」
院長が確認するように問い掛けると、編集長はこくりと頷いている。
これには再び考え込んでしまう院長である。
「夜になれば暴れ出す可能性がありますので、しっかりと捕縛しておくことを強く言っておきます。今は眠っていますので、診察をするのなら今のうちがいいでしょう」
「分かりました。それで、診察結果はどこへお送りすれば?」
「こちらのデスクまで連絡いただければ対応致します」
院長の問い掛けに、編集長は自分の名刺を差し出す。
名刺を見た院長は、そこに書かれた肩書に目を丸くしていた。
「雑誌社の方ですか。これは驚いた……」
「まあ、驚かれるのも無理はないですよね。ですが、私たちは襟峰市で起きている事件の事実を知りたいのです。そのためにも、どうかよろしくお願いします」
編集長は院長に深く頭を下げていた。
ここまで礼節を尽くされてしまえば、院長も断るのが忍びないというもの。
「分かりました。私でよければ協力させて頂きます」
「ありがとう。再度念を押しておきますが、その犬は頑丈な檻に入れて、決して夜に自由にさせてはいけません。なにせ襟峰市で夜9時から朝4時まで外出禁止になった原因かもしれませんからね」
「死にたくないので徹底させて頂きますよ……」
編集長が念を押すと、院長は顔を青くしながら頭を左右に振っていた。
話を終えた編集長が外へ出る。レンタルしたキャンピングカーには、編集長の部下である男が乗っている。
「話は終わったんですかね」
「ええ。釘はしっかり刺しておいたから、外に漏れ出る可能性は低いと思うわ」
助手席に座り、大きくため息を吐く編集長。どうやら院長との交渉ではそれなりに緊張していたらしい。
なんといっても、危険な存在を放置するようなものだからだ。今回動物病院に運び込んだ犬は、襟峰市の怪異事件の犯人の可能性がある。
状態を見れば動物虐待だろうが、さすがに大事件の容疑者であるがためにそれ相応の対処をしなければならなかった。
なので、事前に調べて信用のおけそうな動物病院を選んだのである。
「これで真実にひとつ近付けるといいのですけれどね……」
正直言って頭が痛くてたまらない編集長である。
興味本位なところがあったものの、思った以上に骨の折れそうな案件だっただけに、少々気が参っているようなのだ。
「さて、一度彼らに連絡を入れて、私たちは一度社の方に戻りましょうか。さすがにキャンピング生活がきつくなってきましたからね」
「賛成ですよ。酒が飲めないのがこんなにつらいとは思いませんでしたからね」
愚痴を言う部下の男性に、思わず笑ってしまう編集長。
ひとまず部長たちに動物病院の話をしておくと、キャンピングカーを走らせて自分たちの本拠地へと戻っていった。
人を襲ったという事実がある以上は、本来であれば行政案件だろう。だが、編集長たちは自分たちの手からこの案件が離れることを嫌い、遠くの動物病院を訪れたのだ。
「何でしょうか、この犬は」
運び込まれた動物病院の院長は、ものすごく怪訝な顔をしている。なんといっても運び込まれた犬の状態が明らかにおかしいからだ。
前足後ろ足だけならまだしも、口までぐるぐる巻きにされているし、なんといっても普通の犬と比べてもかなり痩せている。見るからに不健康そうだし、事件のにおいが漂っている。
「ここだけの秘密にしてもらいたいのですが、いいでしょうか」
編集長は真剣な表情で院長に迫る。
「病院で働くスタッフたちにも内緒で頼みたい。なにせちょっとこの犬にはややこしい背景があるのでね」
「むぅ……」
ずいっと編集長に迫られて、答えに窮する院長である。
「襟峰市……。この犬はそこの犬だというのですよね?」
院長が確認するように問い掛けると、編集長はこくりと頷いている。
これには再び考え込んでしまう院長である。
「夜になれば暴れ出す可能性がありますので、しっかりと捕縛しておくことを強く言っておきます。今は眠っていますので、診察をするのなら今のうちがいいでしょう」
「分かりました。それで、診察結果はどこへお送りすれば?」
「こちらのデスクまで連絡いただければ対応致します」
院長の問い掛けに、編集長は自分の名刺を差し出す。
名刺を見た院長は、そこに書かれた肩書に目を丸くしていた。
「雑誌社の方ですか。これは驚いた……」
「まあ、驚かれるのも無理はないですよね。ですが、私たちは襟峰市で起きている事件の事実を知りたいのです。そのためにも、どうかよろしくお願いします」
編集長は院長に深く頭を下げていた。
ここまで礼節を尽くされてしまえば、院長も断るのが忍びないというもの。
「分かりました。私でよければ協力させて頂きます」
「ありがとう。再度念を押しておきますが、その犬は頑丈な檻に入れて、決して夜に自由にさせてはいけません。なにせ襟峰市で夜9時から朝4時まで外出禁止になった原因かもしれませんからね」
「死にたくないので徹底させて頂きますよ……」
編集長が念を押すと、院長は顔を青くしながら頭を左右に振っていた。
話を終えた編集長が外へ出る。レンタルしたキャンピングカーには、編集長の部下である男が乗っている。
「話は終わったんですかね」
「ええ。釘はしっかり刺しておいたから、外に漏れ出る可能性は低いと思うわ」
助手席に座り、大きくため息を吐く編集長。どうやら院長との交渉ではそれなりに緊張していたらしい。
なんといっても、危険な存在を放置するようなものだからだ。今回動物病院に運び込んだ犬は、襟峰市の怪異事件の犯人の可能性がある。
状態を見れば動物虐待だろうが、さすがに大事件の容疑者であるがためにそれ相応の対処をしなければならなかった。
なので、事前に調べて信用のおけそうな動物病院を選んだのである。
「これで真実にひとつ近付けるといいのですけれどね……」
正直言って頭が痛くてたまらない編集長である。
興味本位なところがあったものの、思った以上に骨の折れそうな案件だっただけに、少々気が参っているようなのだ。
「さて、一度彼らに連絡を入れて、私たちは一度社の方に戻りましょうか。さすがにキャンピング生活がきつくなってきましたからね」
「賛成ですよ。酒が飲めないのがこんなにつらいとは思いませんでしたからね」
愚痴を言う部下の男性に、思わず笑ってしまう編集長。
ひとまず部長たちに動物病院の話をしておくと、キャンピングカーを走らせて自分たちの本拠地へと戻っていった。
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