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第27話
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真っ暗な闇の中、編集長の部下の男性は完全防備で横たわる。だが、失敗すれば命の保証すらない決死の捕獲作戦。誰の目にも緊張が漂っている。
「さあ、どこからでも来なさい」
編集長はギリッと奥歯をかみしめる。
全員の視線が男性の周囲に固定される。
この襟峰市の怪異は音もなく一瞬で詰め寄ってくる。そのために、わずかでも隙を見せるわけにはいかないのだ。
部長や編集長の手には汗がじんわりと浮かんでくる。
突如として、ガサガサという音が響き渡る。部長たちが気が付いた時には、既に部下の男性に怪異が襲い掛かっていた。
「くそっ、本当に早いな!」
「しっかりと捕まえるのよ!」
「わ、分かったから、早く助けてくれ……」
部長と編集長が反応する。呼応するように勇人も二人と一緒にロープに手をかける。
「都、美幸さん、準備を」
「分かったわ」
勇人の声に、呼ばれた二人が何かを準備する。
男性はどうやら二匹の怪異に襲われており、そのうちの一体の脚をしっかりと掴んでいた。ただ、その分自分の首と怪異の口が近くなるので、本当に死と隣り合わせの決死の行為である。
「は、早く助けてくれ。俺はまだ死にたくないぞっ!」
コルセットに怪異の歯が当たり、カツカツという音を響かせている。
いつ喉元をかき切られるかという恐怖に、男性の表情はとても引きつっている。
「もう限界ね。引き寄せますよ」
「分かった」
わらわらと怪異が集まり始めている。さすがに限界だと見たのか、編集長の言葉で男性を一気に建物へと引き寄せる。
「ひぃぃ……!」
引きずられる男性は地面にこすれる痛みに耐えながら、しっかりと怪異を掴んで離さない。
「話しちゃダメだ、離しちゃダメだ、離しちゃダメだ……」
男性は必死である。
建物までもう少しというところで、怪異が間のロープへと割り込んでくる。食いちぎろうというわけだ。
「思ったより頭が回る連中ね。都ちゃん、いいかしら」
「はい、いけます!」
呼ばれた都が、走り出てくる。
「こ、怖いけど、みんなのためよ!」
入口付近まで出てきた都は、抱えている小瓶の蓋を取って怪異に向けて力いっぱい投げつける。
「こ、これでも食らえっ!」
へなちょこな投てきではあるものの、ロープに群がる怪異に向けてその小瓶はしっかりと飛んでいく。
地面に落ちたショックで中身が軽く舞う。すると、ロープに群がる怪異たちが一斉にのたうち回り始めた。
「やった、胡椒爆弾、成功ね」
そう、食品を扱っている場所ならどこにでもある胡椒の入った瓶を投げたのだ。
人間であればくしゃみ程度で済むものでも、さすがに嗅覚の鋭い犬と見られる怪異に効果絶大なのだ。
それにしても、こんな状態になりながらも鳴き声のひとつも発しないとは、目の前にいるのは本当に犬なのか疑わしい限りである。
「ここまで静かだと、怪異というのがしっくりくるくらい不気味だぜ……」
勇人は思わず顔を青ざめさせる。
「手を止めないで。早く引き込まないと、ロープがもたないわ」
「ああ、悪い」
編集長の声に、勇人は再び必死にロープを引っ張る。
ようやく手が届きそうな場所まで引き上げると、今度は美幸がやって来る。
「さあ、観念なさい。全部駆逐してやるんだから!」
そう叫びながら、胡椒の小瓶を蓋を外した状態で男性が必死に抱え込む怪異目がけて振り抜く。胡椒の塊が怪異を直撃して、怪異は悶絶をしている。
「ほっ、た、助かった……」
自分を押さえつける力がなくなり、安堵の表情を見せる男性。
「まだよ。そいつをぐるぐる巻きにして口も封じないと」
男に向けて新たなロープが放り投げられる。男は怪異を腹ばいに転がして足を縛り上げていく。最後にベルトで口を縛って、ようやく捕獲完了だった。
「よし、やっと一匹確保ね」
「もう、勘弁して下さいよ……」
室内でへたり込む男に、編集長たちからは笑いがこぼれていた。
「さあ、どこからでも来なさい」
編集長はギリッと奥歯をかみしめる。
全員の視線が男性の周囲に固定される。
この襟峰市の怪異は音もなく一瞬で詰め寄ってくる。そのために、わずかでも隙を見せるわけにはいかないのだ。
部長や編集長の手には汗がじんわりと浮かんでくる。
突如として、ガサガサという音が響き渡る。部長たちが気が付いた時には、既に部下の男性に怪異が襲い掛かっていた。
「くそっ、本当に早いな!」
「しっかりと捕まえるのよ!」
「わ、分かったから、早く助けてくれ……」
部長と編集長が反応する。呼応するように勇人も二人と一緒にロープに手をかける。
「都、美幸さん、準備を」
「分かったわ」
勇人の声に、呼ばれた二人が何かを準備する。
男性はどうやら二匹の怪異に襲われており、そのうちの一体の脚をしっかりと掴んでいた。ただ、その分自分の首と怪異の口が近くなるので、本当に死と隣り合わせの決死の行為である。
「は、早く助けてくれ。俺はまだ死にたくないぞっ!」
コルセットに怪異の歯が当たり、カツカツという音を響かせている。
いつ喉元をかき切られるかという恐怖に、男性の表情はとても引きつっている。
「もう限界ね。引き寄せますよ」
「分かった」
わらわらと怪異が集まり始めている。さすがに限界だと見たのか、編集長の言葉で男性を一気に建物へと引き寄せる。
「ひぃぃ……!」
引きずられる男性は地面にこすれる痛みに耐えながら、しっかりと怪異を掴んで離さない。
「話しちゃダメだ、離しちゃダメだ、離しちゃダメだ……」
男性は必死である。
建物までもう少しというところで、怪異が間のロープへと割り込んでくる。食いちぎろうというわけだ。
「思ったより頭が回る連中ね。都ちゃん、いいかしら」
「はい、いけます!」
呼ばれた都が、走り出てくる。
「こ、怖いけど、みんなのためよ!」
入口付近まで出てきた都は、抱えている小瓶の蓋を取って怪異に向けて力いっぱい投げつける。
「こ、これでも食らえっ!」
へなちょこな投てきではあるものの、ロープに群がる怪異に向けてその小瓶はしっかりと飛んでいく。
地面に落ちたショックで中身が軽く舞う。すると、ロープに群がる怪異たちが一斉にのたうち回り始めた。
「やった、胡椒爆弾、成功ね」
そう、食品を扱っている場所ならどこにでもある胡椒の入った瓶を投げたのだ。
人間であればくしゃみ程度で済むものでも、さすがに嗅覚の鋭い犬と見られる怪異に効果絶大なのだ。
それにしても、こんな状態になりながらも鳴き声のひとつも発しないとは、目の前にいるのは本当に犬なのか疑わしい限りである。
「ここまで静かだと、怪異というのがしっくりくるくらい不気味だぜ……」
勇人は思わず顔を青ざめさせる。
「手を止めないで。早く引き込まないと、ロープがもたないわ」
「ああ、悪い」
編集長の声に、勇人は再び必死にロープを引っ張る。
ようやく手が届きそうな場所まで引き上げると、今度は美幸がやって来る。
「さあ、観念なさい。全部駆逐してやるんだから!」
そう叫びながら、胡椒の小瓶を蓋を外した状態で男性が必死に抱え込む怪異目がけて振り抜く。胡椒の塊が怪異を直撃して、怪異は悶絶をしている。
「ほっ、た、助かった……」
自分を押さえつける力がなくなり、安堵の表情を見せる男性。
「まだよ。そいつをぐるぐる巻きにして口も封じないと」
男に向けて新たなロープが放り投げられる。男は怪異を腹ばいに転がして足を縛り上げていく。最後にベルトで口を縛って、ようやく捕獲完了だった。
「よし、やっと一匹確保ね」
「もう、勘弁して下さいよ……」
室内でへたり込む男に、編集長たちからは笑いがこぼれていた。
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