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第24話
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その日の夜。襟峰市内某所で怪しい動きがあった。
「まったく、先日はバカどもが現れたせいで安眠を邪魔されたわい」
誰かは分からないが、その人物は大きな檻のような箱に近付いていき、その扉の鍵を外す。
「この私の安眠のため、愚か者には裁きを下すのだよ。頼んだよ、お前たち」
ガチャンという音がして、檻から何かが這い出してくる。
それらが元気に出ていく姿を見て、その人物はゆっくりと自分の場所へと戻っていった。
―――
この日の編集長は、男性にキャンピングカーのレンタルの延長を任せて、部長から提供されたデータを見ていた。
「やっぱり、この点の集合体の中心は、あの資産家の邸宅付近になるわね……」
疑わしい場所は分かったものの、ここからどうしたらいいのかというのは思いつかない。
下手に嫌疑をかけて突撃すれば、逆に訴えられかねないからだ。確固たる証拠がない限りは、うかつに動けないのである。
(推定無罪というのが原則だものね。どうにかして、この状況を打破しないとね……)
そう、怪事件の犯人が犬だと推測できても、その犬が資産家の婆さんの飼っている犬とは特定できないからだ。
それこそ、家から出て事件を起こして戻ってくるまでの一部始終をカメラに収めない限り、到底訴えられる状態ではなかった。
(まったくどうしたものかしらね……)
頭を抱え込んでしまう編集長である。
「どうされたんですか、編集長」
部下の男性がキャンピング部分に顔を出す。
「まぁいろいろと考え事をしていたのよ。それはそうと延長はできたかしら」
「できましたよ。でも、これならもう買い取った方が早くないですかね」
編集長の質問に答えると同時に苦言まで言い放つ男性である。
「それもそうね。考えておくわ」
これには苦笑いを浮かべながらも、編集長は淡々と答えていた。
「しかし、9時にはなりましたが動きがありませんでしたね」
時計を確認すると、21時3分を指している。夜間外出が禁止されている時間に突入したのである。
「そうね。いくら何でも静かすぎるわ」
編集長は眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
「そういえば、あの時の犬どもは、怖いくらいに吠えていませんでしたね。普通の犬なら吠えまくってるはずなんですがね」
「……確かにそうだったわね」
こう言って二人が思い出したのは、先日のバイク集団襲撃事件のことである。
倒れたバイク乗りに対して、犬たちは無言で襲い掛かっていたのだ。普通に考えればこれだけでもかなり異常な事といえよう。
その犬たちにはもうひとつの不可解な点がある。それは執拗に相手の首を狙っていたということだ。
実際、首以外の傷はほとんどなく、バイクで転倒した時についた擦り傷と打撲ばかりという診断がなされていたのだ。
「秘密を探るには、もっとあの家に近付きたいわね……」
「でも、あまりに近くに寄るとあの婆さんかなりうるさかったですからね。かろうじて視認できるこの位置じゃないと厳しいですよ」
「敏感よね、あのお婆さん……」
昨日も部長たちと話をした後に例の家に近付いたのだが、あまりに近いと婆さんに見つかっていろいろとものを投げつけられたのだ。どうやらかなり神経質な人のようである。
なので、若い自分たちがかろうじて肉眼で視認できる距離まで離れて監視している状態なのだ。
「時間を過ぎても動きはなさそうね」
パソコンをぱたりと閉める編集長。
「こうなったら戻ってくる時間を狙いましょう。さあ、寝ますよ」
「はい。ってか、こんなに早くって健康的過ぎやしませんかね」
「起きてても何もないのですから、しょうがないでしょう。それよりも朝4時のタイミングを狙います。しっかり寝ておきなさい」
「分かりましたよ……」
編集長に強く諭されて、部下の男性も渋々眠ることにしたのだった。
こうして、暑い夏の夜は静かに過ぎていくのだった。
「まったく、先日はバカどもが現れたせいで安眠を邪魔されたわい」
誰かは分からないが、その人物は大きな檻のような箱に近付いていき、その扉の鍵を外す。
「この私の安眠のため、愚か者には裁きを下すのだよ。頼んだよ、お前たち」
ガチャンという音がして、檻から何かが這い出してくる。
それらが元気に出ていく姿を見て、その人物はゆっくりと自分の場所へと戻っていった。
―――
この日の編集長は、男性にキャンピングカーのレンタルの延長を任せて、部長から提供されたデータを見ていた。
「やっぱり、この点の集合体の中心は、あの資産家の邸宅付近になるわね……」
疑わしい場所は分かったものの、ここからどうしたらいいのかというのは思いつかない。
下手に嫌疑をかけて突撃すれば、逆に訴えられかねないからだ。確固たる証拠がない限りは、うかつに動けないのである。
(推定無罪というのが原則だものね。どうにかして、この状況を打破しないとね……)
そう、怪事件の犯人が犬だと推測できても、その犬が資産家の婆さんの飼っている犬とは特定できないからだ。
それこそ、家から出て事件を起こして戻ってくるまでの一部始終をカメラに収めない限り、到底訴えられる状態ではなかった。
(まったくどうしたものかしらね……)
頭を抱え込んでしまう編集長である。
「どうされたんですか、編集長」
部下の男性がキャンピング部分に顔を出す。
「まぁいろいろと考え事をしていたのよ。それはそうと延長はできたかしら」
「できましたよ。でも、これならもう買い取った方が早くないですかね」
編集長の質問に答えると同時に苦言まで言い放つ男性である。
「それもそうね。考えておくわ」
これには苦笑いを浮かべながらも、編集長は淡々と答えていた。
「しかし、9時にはなりましたが動きがありませんでしたね」
時計を確認すると、21時3分を指している。夜間外出が禁止されている時間に突入したのである。
「そうね。いくら何でも静かすぎるわ」
編集長は眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
「そういえば、あの時の犬どもは、怖いくらいに吠えていませんでしたね。普通の犬なら吠えまくってるはずなんですがね」
「……確かにそうだったわね」
こう言って二人が思い出したのは、先日のバイク集団襲撃事件のことである。
倒れたバイク乗りに対して、犬たちは無言で襲い掛かっていたのだ。普通に考えればこれだけでもかなり異常な事といえよう。
その犬たちにはもうひとつの不可解な点がある。それは執拗に相手の首を狙っていたということだ。
実際、首以外の傷はほとんどなく、バイクで転倒した時についた擦り傷と打撲ばかりという診断がなされていたのだ。
「秘密を探るには、もっとあの家に近付きたいわね……」
「でも、あまりに近くに寄るとあの婆さんかなりうるさかったですからね。かろうじて視認できるこの位置じゃないと厳しいですよ」
「敏感よね、あのお婆さん……」
昨日も部長たちと話をした後に例の家に近付いたのだが、あまりに近いと婆さんに見つかっていろいろとものを投げつけられたのだ。どうやらかなり神経質な人のようである。
なので、若い自分たちがかろうじて肉眼で視認できる距離まで離れて監視している状態なのだ。
「時間を過ぎても動きはなさそうね」
パソコンをぱたりと閉める編集長。
「こうなったら戻ってくる時間を狙いましょう。さあ、寝ますよ」
「はい。ってか、こんなに早くって健康的過ぎやしませんかね」
「起きてても何もないのですから、しょうがないでしょう。それよりも朝4時のタイミングを狙います。しっかり寝ておきなさい」
「分かりましたよ……」
編集長に強く諭されて、部下の男性も渋々眠ることにしたのだった。
こうして、暑い夏の夜は静かに過ぎていくのだった。
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