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第20話
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「よっしゃ、これくらい撮ればいいだろう。俺も明日から有名人だぜ」
スマホの画面を覗き込みながらほくそ笑む男。
満足したのかスマホをしまって、バイクを再び走らせようとした時だった。
ぞわ……。
何とも言えない寒気がその身を襲う。
今は真夏で熱帯夜。この日もまだ気温は28度とかなり高い。
風も吹いていないというのに身震いが起きたのだ。これにはまだ若いとはいえども違和感を感じざるを得なかった。
(びびるな、俺。とにかくこれで隣の市まで移動すれば大丈夫なはずだからな)
背中にぞわぞわとくる寒気を必死に堪えながら、男はバイクを一目散に走らせる。
ところが、男の乗るバイクが突然スリップをしてしまう。
「な、なんだ!?」
横滑りをしてそのまま横転。バイクはかなりの距離を滑っていき、中央分離帯に激突していた。
男も地面に放り出され、そのままアスファルトに叩きつけられてしまった。夏の暑さに薄着をしていたのがあだとなり、とっさに頭を庇ったとはいえ、体のあちこちを激しく擦りむいてしまった。
「い……ってぇっ!」
思わず叫んでしまう男。体中が痛くて動けない。
(くそっ、これは骨折してしまっているのか?)
痛みを必死に堪える男だが、急に視線を感じて顔を上げる。
視線の先には、不気味な白い目が闇夜に浮かんでいた。
「お、俺……。ここで死ぬのか……?」
白い目を持った何かは一気に襲い掛からずに、男にじりじりと詰め寄ってくる。
「た、助けてくれ!」
男が耐えきれずに叫ぶと、それを合図に白い目が一気に飛び掛かってきた。
「目と口を閉じろ!」
その時、謎の声が響き渡る。
ヘッドライトを点けた車が反対車線から猛スピードで突っ込んできたのだ。
すれ違いざまに急ブレーキをかけると、その音に驚いて魔物たちが怯む。その隙にキャンピングカーに載せていた布団を男に向けて放り投げる。
「かぶって全体重をかけてろ。すぐに戻ってくる」
この声に、すぐに男は布団で全身を覆って中で丸まる。そして、歯をガチガチ言わせながら、助けが来るのを待っていた。
布団越しに自分に襲い掛かる存在の感触が伝わってくる。
(お、俺はここで死ぬんだ……。いやだ、死にたくない……)
男は恐怖に怯えながら必死に待ち続けた。
やがて布団が引き裂かれ始め、いよいよ死を覚悟した時だった。
ブロロロロロ……。
車のエンジン音が近付いてきた。
「食らいなさい、化け物ども!」
その声とともにブシューという凄まじい音が響き渡る。
「さあ、犬どもが怯んだわ。今のうちに彼を乗せるわよ」
「了解」
運転席から男性が降りてきて、すぐさまドアを閉める。そして、布団ごと男を引きずってキャンピング部分へと引きずっていく。控えていた編集長と一緒にどうにか男を回収すると、無事に引き戸を閉める事ができた。
「念のために消火器を載せといてよかったですね、編集長」
「万が一のための備えが役に立ってよかったわ」
目の前では人食いの魔物である犬たちが、消火器をまともに食らってもだえ苦しんでいる。
「しっかし、見れば見るほどただの犬ですね。彼が襲われていたから、襟峰市の怪事件の犯人で間違いないんでしょうけど」
「ええ、そうね。でも、今は彼を病院に連れていく方が先でしょうね。この状態では話を聞くところではないのは明らかだし」
編集長は目の前で布団に包まって怯える男を見ながらそう呟く。
「彼の仲間がまだ居るでしょうけど、もう私たちには対抗手段はない。見捨てるのは心苦しいけれど、彼も危ない状態だから急ごうか」
「了解」
大けがを負った男をキャンピングカーに載せた編集長と男性は、急いで襟峰市内から脱出する。
張り込みでひと晩をかけて人食いの魔物の正体を探る予定だった編集長たちだったが、男たちの暴走で予想外の収穫を得た。
しかし、決定的な証拠は残す事ができなかった上に、怪事件の犯人が犬だと分かればこの男たちのような奴らが出てこないとも限らない。
なぜ犬が人を襲うようになったのか、また普段は一体どこに潜んでいるのか。分からないことが多かった。
「これは、慎重に調べないといけないわね」
「じゃ、公表せずに取材続行ですかね」
男性の言葉に、無言で頷く編集長。
その後は押し黙ったまま、真っ暗な夜道を隣町の病院まで車を走らせたのだった。
スマホの画面を覗き込みながらほくそ笑む男。
満足したのかスマホをしまって、バイクを再び走らせようとした時だった。
ぞわ……。
何とも言えない寒気がその身を襲う。
今は真夏で熱帯夜。この日もまだ気温は28度とかなり高い。
風も吹いていないというのに身震いが起きたのだ。これにはまだ若いとはいえども違和感を感じざるを得なかった。
(びびるな、俺。とにかくこれで隣の市まで移動すれば大丈夫なはずだからな)
背中にぞわぞわとくる寒気を必死に堪えながら、男はバイクを一目散に走らせる。
ところが、男の乗るバイクが突然スリップをしてしまう。
「な、なんだ!?」
横滑りをしてそのまま横転。バイクはかなりの距離を滑っていき、中央分離帯に激突していた。
男も地面に放り出され、そのままアスファルトに叩きつけられてしまった。夏の暑さに薄着をしていたのがあだとなり、とっさに頭を庇ったとはいえ、体のあちこちを激しく擦りむいてしまった。
「い……ってぇっ!」
思わず叫んでしまう男。体中が痛くて動けない。
(くそっ、これは骨折してしまっているのか?)
痛みを必死に堪える男だが、急に視線を感じて顔を上げる。
視線の先には、不気味な白い目が闇夜に浮かんでいた。
「お、俺……。ここで死ぬのか……?」
白い目を持った何かは一気に襲い掛からずに、男にじりじりと詰め寄ってくる。
「た、助けてくれ!」
男が耐えきれずに叫ぶと、それを合図に白い目が一気に飛び掛かってきた。
「目と口を閉じろ!」
その時、謎の声が響き渡る。
ヘッドライトを点けた車が反対車線から猛スピードで突っ込んできたのだ。
すれ違いざまに急ブレーキをかけると、その音に驚いて魔物たちが怯む。その隙にキャンピングカーに載せていた布団を男に向けて放り投げる。
「かぶって全体重をかけてろ。すぐに戻ってくる」
この声に、すぐに男は布団で全身を覆って中で丸まる。そして、歯をガチガチ言わせながら、助けが来るのを待っていた。
布団越しに自分に襲い掛かる存在の感触が伝わってくる。
(お、俺はここで死ぬんだ……。いやだ、死にたくない……)
男は恐怖に怯えながら必死に待ち続けた。
やがて布団が引き裂かれ始め、いよいよ死を覚悟した時だった。
ブロロロロロ……。
車のエンジン音が近付いてきた。
「食らいなさい、化け物ども!」
その声とともにブシューという凄まじい音が響き渡る。
「さあ、犬どもが怯んだわ。今のうちに彼を乗せるわよ」
「了解」
運転席から男性が降りてきて、すぐさまドアを閉める。そして、布団ごと男を引きずってキャンピング部分へと引きずっていく。控えていた編集長と一緒にどうにか男を回収すると、無事に引き戸を閉める事ができた。
「念のために消火器を載せといてよかったですね、編集長」
「万が一のための備えが役に立ってよかったわ」
目の前では人食いの魔物である犬たちが、消火器をまともに食らってもだえ苦しんでいる。
「しっかし、見れば見るほどただの犬ですね。彼が襲われていたから、襟峰市の怪事件の犯人で間違いないんでしょうけど」
「ええ、そうね。でも、今は彼を病院に連れていく方が先でしょうね。この状態では話を聞くところではないのは明らかだし」
編集長は目の前で布団に包まって怯える男を見ながらそう呟く。
「彼の仲間がまだ居るでしょうけど、もう私たちには対抗手段はない。見捨てるのは心苦しいけれど、彼も危ない状態だから急ごうか」
「了解」
大けがを負った男をキャンピングカーに載せた編集長と男性は、急いで襟峰市内から脱出する。
張り込みでひと晩をかけて人食いの魔物の正体を探る予定だった編集長たちだったが、男たちの暴走で予想外の収穫を得た。
しかし、決定的な証拠は残す事ができなかった上に、怪事件の犯人が犬だと分かればこの男たちのような奴らが出てこないとも限らない。
なぜ犬が人を襲うようになったのか、また普段は一体どこに潜んでいるのか。分からないことが多かった。
「これは、慎重に調べないといけないわね」
「じゃ、公表せずに取材続行ですかね」
男性の言葉に、無言で頷く編集長。
その後は押し黙ったまま、真っ暗な夜道を隣町の病院まで車を走らせたのだった。
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