真夜中血界

未羊

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第14話

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 息を殺し、夜明けが近付いてくるのを待つ。
 夏休みに入ったばかりのこの頃は、朝5時には空がそれなりに白んでくる。

「うん……、眠ってしまっていたか」

 部長が目を覚まして外を見る。そこには、怪異によって食い荒らされたデコイが転がっている。
 肉を撒き散らかしておいたとはいえ、ものの見事に人間でいう首にあたる部分が激しく損傷し、食いちぎられていた。

「恐ろしいな……。あれが我々だったと思うと、生きた心地がまったくしない」

「う……ん……」

 部長があまりの凄惨な光景を眺めていると、勇人と都も起きてきた。
 どうやら三人とも、撮影に成功した後にうっかり寝落ちてしまったらしい。

「おはよう、同士たちよ。昨日の映像はちゃんと撮れているな?」

「あ……う……、ちょっと待ってくれ」

 部長の言葉に、勇人は手に持っていたビデオカメラを確認する。

「ちゃんと撮れてるぜ。……しかし、これが襟峰市が眠れる街になった原因とはな。まったく信じられない話だ」

「まったくその通りだな。しかし、音もなく忍び寄り、確実に首を噛んで息の根を止めてくるんだ。しかも執拗に追いかけるとあれば恐怖して当然だろうね」

「うん、すごく怖く……感じる、わ」

 都にいたっては、映像を直視できないでいた。
 それというのも、怪異たちは部長たちの事に気が付いていたらしいのか、時折視線を向けてきていたのだ。
 しかし、この打ち捨てられた会社の事務所にまで入ってくる事はなかったので、屋根のある場所に居れば安全という証言は身をもって証明された。

「そろそろ夜が明けるな。時間は5時前だし、一度家に戻る事にしようか」

「分かりました」

「賛成……。熱帯夜のせいで汗ぐっしょりだもん、一度お風呂浴びたいわ」

 事務所を出て家に戻ろうとする部長たち。
 その時、目の前に人影がある事に気が付いて、つい身構えてしまった。

「誰だい?」

 部長が大声で呼び掛ける。
 すると、目の前の人影は顔を上げてこう叫んだ。

「たっくん?!」

「この声は、いとこのみゆ姉か」

「部長、お知り合いですか?」

「ああ、ちょっと離れたとこに住んでるいとこだ。二人見えるから、片方がみゆ姉なら、もう片方は正幸まさゆきだな?」

「たか兄だ」

 会話を交わすと、二つの人影が部長に向かって走ってくる。そこに見えたのは、部長は見覚えのある顔だった。

「やっぱりみゆ姉と正幸か。実に久しぶりだな」

「久しぶり、たっくん」

「お、お久しぶりです……」

 感動の再会と言いたいところだが、部長はすぐにある事に気が付いた。

「まったく、こんな時間のこんなところにいるとは、お前たちもこの街の怪事件を解き明かしに来たのか……」

「うっ」

 鋭い指摘に、思い切り渋い顔をする姉である。

「ああ、同士よ、紹介しよう。こちら、みゆ姉こと鎌瀬美幸かませみゆきとその弟の鎌瀬正幸だ。さっきの反応からして、二人もこの襟峰市の怪事件の究明に来たのは間違いなさそうだ」

「初めまして、鎌瀬美幸です」

「鎌瀬……正幸です」

 部長のいとこの二人が自己紹介をする。それに対して、勇人と都の二人も自己紹介をしていた。

「まったく、君たちまでこの件に首を突っ込むとはな」

 部長はちょっとご立腹のようだ。すると、美幸がすごい剣幕で反論を始める。

「当たり前でしょう。いとこのよし兄がけがをして入院したのよ? しかも寝たきりで回復しないっていうじゃないの。だから、何としても犯人を捕まえたかったのよ」

 それを聞いた部長は、やれやれと額に指先を当てる。いとことはいえ、血は争えないようだ。

「やれやれ、私と同じ理由か。だが、危険を冒してまでやるのは感心しないな。みゆ姉は女性だし、正幸はまだ小学生だ。いくらなんでも危険すぎるぞ」

「ふふん。危険を冒したかいはあるってものよ。人食いの魔物の正体見たり、ってね」

 御幸の言葉に、部長が美幸の両肩をがっしりと掴む。

「それは本当か?」

「ええ、私たちもこの近くで張り込んでいたから。怖かったけれど、命を張っただけの収穫はあったと思うわ」

「もしかして、昨夜聞こえた金属音って……」

 話を聞いていた勇人と都が、ふと思い出していた。

「多分、私が落とした金属バットの音だと思うわ。ほら、これ」

 そうやって、すっと差し出される金属バット。よくもまあ、こんなものを持って歩けていたものだ。
 これには、部長どころか勇人と都もため息しか出なかった。

「詳しい話は家に戻ってからにするとしようか。みゆ姉と正幸なら、我が両親も歓迎だろう」

「たっくんの家? やった、宿代が浮くわ」

 部長の提案に、大喜びをする美幸である。
 いとこの家に泊まれるのなら、宿代や食費諸々がかからなくて済む。子どものお小遣いにはこういった経費はかなり痛いので、本気で喜んでいるようだった。
 一方、提案をしておきながらも部長の顔色はあまりよくなかった。

「だが、おじさんおばさんに帰るよう言われたら、すぐに戻ること。それでいいかい?」

「それはまあ、仕方ないわね。でも、それまではお世話になるわよ」

 部長たちはいとこの美幸と正幸と合流し、朝日が昇る中を家へと歩いて帰っていったのだった。
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