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第13話
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姉弟が人食いの魔物と対峙している頃、部長も動いていた。
姉弟が安全地帯として選んだ場所からそれほど離れていない場所に、時間ギリギリになっておとりを用意したのだ。
「これでいいな。同士よ、準備はできているか」
立ち上がった部長が建物の中を見上げる。その2階に陣取った勇人と都は、大きく丸を作って外の部長に知らせている。
それを確認した部長は、ズボンのポケットからスマホを取り出すと、時間を確認する。
”20:48”
表示された時間は本当にギリギリのタイミングだった。
これ以上早いと通行人に見つかり、遅いと怪異の襲撃を受ける危険性があった。
地面に転がした毛布で作った人形にの首に、スーパーで買った肉を振りまく部長。
これで準備が整ったと、両手をパンパンと払う部長。そして、近くに見えたゴミ箱に入れ物を捨てると、観察のために確保した安全地帯の中へと入っていった。
襟峰市のオカルト研究部が安全地帯に選んだのは、廃墟と化した会社事務所だ。
なんでも怪事件が起き始めた頃に、残業で帰ろうとした従業員たちが全員被害にあった会社なのだそうだ。
その後、真偽を確かめようとした社長も犠牲となり、そのまま打ち捨てられてしまったというわけだ。
人がいなくなった事で電気もガスも水道も全部止まってしまっているが、建物はそのままになっている。周りも閑散とした場所で建物は封鎖されていないとあって、部長はここを選んだというわけなのだ。
「よくここの事調べたな、部長」
「あるものは有効活用するものだよ。不法侵入したところで、どうせ警察も取り締まれないからね」
部長はなんとも開き直った表情をしている。そういうのでいいのかと、勇人は呆れ返ったように見ている。
「それはそうと、同士勇人よ。カメラの準備をしてくれたまえ」
「あっ、そうか。もう時間か」
部長に任せてカメラを取り出す勇人。撮影されるものがグロテスクな可能性があるので、勇人の出番というわけだ。ちなみに都は万一のための予備バッテリーのために控えている。
やがて夜9時を過ぎる。
勇人たちの居る場所は夜10時以降から被害が発生している場所なので、最初の1時間は息を殺して窓の外を見ている。
それというのも、被害が発生しているのが10時以降というだけで、10時よりも前に出没しないとも限らないからだ。
「さすがに明かりがないと何も見えないな……」
「元々ここら辺は住宅街から外れている工場街だからね。そればかりは仕方なかろう。だからこそ、私たちはこうやって無事に潜入できているのだよ」
「確かに、それはそうですね」
小さな声で会話をする俺たち。
この時に頼りになる明かりは、床に置いたスマホだけだ。
一晩中構えるとあって、充電を最後までもたせるために一人ずつスマホを出して床に置いている。今置いているのは、勇人のスマホである。
このスマホの明かりがないと、行動もかなり制限されてしまう。ビデオカメラの予備バッテリーを取り出すのも一苦労だ。
辺りからはカエルの鳴く声くらいしか響いてこない漆黒の闇だ。勇人たちの間には言い知れぬ恐怖が襲い掛かっていた。
しばらくしてスマホへと視線を落とす部長。
「9時57分、そろそろ時間か。同士勇人よ、構えてくれ」
「分かった」
ビデオカメラを構え、外へと目をやった瞬間だった。
カランカラーン……ッ!
「なんだ、今の音は」
「金属の音?」
どこからともなく金属音が響き渡る。その音に、ビデオカメラを構えていた勇人と、お手洗いから戻ってきた都が反応する。
思わずビデオカメラを置いて外を確認しようとする勇人だったが、部長は落ち着いて素早く勇人の腕を握って制止する。
「同士勇人よ、気になるのは私も同じだ。だが、音が聞こえたからといって外へ出ていけば、我々はなす術なく怪異の餌食になってしまう。確認をしに行くのなら、朝の4時を待ってからだ」
「くそっ……」
気持ちを抑えながら、勇人はビデオカメラを改めて覗き込む。ナイトモードとなったビデオカメラには、思わぬものが映り込んでいた。
「こ、これはっ!」
ビデオカメラを外のデコイに向けたまま、勇人は他の二人に画面が見えるようにビデオカメラを前に動かす。
「ほう、これは興味深いな」
「これが……、襟峰市を恐怖に陥れた怪異の正体なの?」
いったい彼らは何を見たというのだろうか。
その眼下では、怪異がデコイに取り付けられた肉を一心不乱にむさぼっていた。
姉弟が安全地帯として選んだ場所からそれほど離れていない場所に、時間ギリギリになっておとりを用意したのだ。
「これでいいな。同士よ、準備はできているか」
立ち上がった部長が建物の中を見上げる。その2階に陣取った勇人と都は、大きく丸を作って外の部長に知らせている。
それを確認した部長は、ズボンのポケットからスマホを取り出すと、時間を確認する。
”20:48”
表示された時間は本当にギリギリのタイミングだった。
これ以上早いと通行人に見つかり、遅いと怪異の襲撃を受ける危険性があった。
地面に転がした毛布で作った人形にの首に、スーパーで買った肉を振りまく部長。
これで準備が整ったと、両手をパンパンと払う部長。そして、近くに見えたゴミ箱に入れ物を捨てると、観察のために確保した安全地帯の中へと入っていった。
襟峰市のオカルト研究部が安全地帯に選んだのは、廃墟と化した会社事務所だ。
なんでも怪事件が起き始めた頃に、残業で帰ろうとした従業員たちが全員被害にあった会社なのだそうだ。
その後、真偽を確かめようとした社長も犠牲となり、そのまま打ち捨てられてしまったというわけだ。
人がいなくなった事で電気もガスも水道も全部止まってしまっているが、建物はそのままになっている。周りも閑散とした場所で建物は封鎖されていないとあって、部長はここを選んだというわけなのだ。
「よくここの事調べたな、部長」
「あるものは有効活用するものだよ。不法侵入したところで、どうせ警察も取り締まれないからね」
部長はなんとも開き直った表情をしている。そういうのでいいのかと、勇人は呆れ返ったように見ている。
「それはそうと、同士勇人よ。カメラの準備をしてくれたまえ」
「あっ、そうか。もう時間か」
部長に任せてカメラを取り出す勇人。撮影されるものがグロテスクな可能性があるので、勇人の出番というわけだ。ちなみに都は万一のための予備バッテリーのために控えている。
やがて夜9時を過ぎる。
勇人たちの居る場所は夜10時以降から被害が発生している場所なので、最初の1時間は息を殺して窓の外を見ている。
それというのも、被害が発生しているのが10時以降というだけで、10時よりも前に出没しないとも限らないからだ。
「さすがに明かりがないと何も見えないな……」
「元々ここら辺は住宅街から外れている工場街だからね。そればかりは仕方なかろう。だからこそ、私たちはこうやって無事に潜入できているのだよ」
「確かに、それはそうですね」
小さな声で会話をする俺たち。
この時に頼りになる明かりは、床に置いたスマホだけだ。
一晩中構えるとあって、充電を最後までもたせるために一人ずつスマホを出して床に置いている。今置いているのは、勇人のスマホである。
このスマホの明かりがないと、行動もかなり制限されてしまう。ビデオカメラの予備バッテリーを取り出すのも一苦労だ。
辺りからはカエルの鳴く声くらいしか響いてこない漆黒の闇だ。勇人たちの間には言い知れぬ恐怖が襲い掛かっていた。
しばらくしてスマホへと視線を落とす部長。
「9時57分、そろそろ時間か。同士勇人よ、構えてくれ」
「分かった」
ビデオカメラを構え、外へと目をやった瞬間だった。
カランカラーン……ッ!
「なんだ、今の音は」
「金属の音?」
どこからともなく金属音が響き渡る。その音に、ビデオカメラを構えていた勇人と、お手洗いから戻ってきた都が反応する。
思わずビデオカメラを置いて外を確認しようとする勇人だったが、部長は落ち着いて素早く勇人の腕を握って制止する。
「同士勇人よ、気になるのは私も同じだ。だが、音が聞こえたからといって外へ出ていけば、我々はなす術なく怪異の餌食になってしまう。確認をしに行くのなら、朝の4時を待ってからだ」
「くそっ……」
気持ちを抑えながら、勇人はビデオカメラを改めて覗き込む。ナイトモードとなったビデオカメラには、思わぬものが映り込んでいた。
「こ、これはっ!」
ビデオカメラを外のデコイに向けたまま、勇人は他の二人に画面が見えるようにビデオカメラを前に動かす。
「ほう、これは興味深いな」
「これが……、襟峰市を恐怖に陥れた怪異の正体なの?」
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