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第11話
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夏休みに入った初日の夜。
夜9時を過ぎてすっかりゴーストタウンと化した襟峰市内である。
「本気でやるわけ? 姉ちゃん」
「もちろんよ。よし兄をひどい目に遭わせた犯人がいるっていうのよ? そいつらの正体を突き止めて世間的に発表する権利があるってものよ」
昨晩、インターネットカフェに泊まっていた姉弟である。
今、この二人は得られた情報から安全圏だと思われる、屋根付きの場所に身を潜めていた。
武器として持ってきた金属バットは、インターネットカフェで突っ込まれた箱から取り出している。
姉の方は身に着けているウェストポーチの中を確認している。
「とりあえず持ってきた防御用のアイテムを確認しなくちゃね。確認もなしに出ていって、やられちゃったら恥ずかしいったらありゃしないもの。死にたくないしね」
「まったくだよ、姉ちゃん」
姉の言い分に、弟は嘆き混じりに反応していた。
「それにしても、9時を過ぎたらものの見事に一斉に照明が落とされたわね。市の条例でもあるのかしら」
安全圏である建物の中から外を確認する姉。
改めて確認してみても、街の中の一切の街灯から明かりが消えていた。
辺りは真っ暗。人食いの魔物が徘徊しているとあって、街の中からは一切の人の気配が消えた。
時折ではあるものの、やむなく街の中を通らざるを得ない電車やトラックが走り抜けていく。
二人の目に入る光はそのくらいで、街の中は本当に不気味なくらいに真っ暗で静まり返っているのだ。
「姉ちゃん、本当にするの?」
弟が泣きそうな顔をしながら、姉に改めて確認をしている。
すると姉はキリッと引き締めた表情を見せて言い切る。
「もちろんよ。オカルト好きの血が騒ぐのよ。奴らの正体を明かせとね。弟はそういうはないの?」
「な、ないよ~……」
姉の質問に、両手の拳を握って泣きそうな顔で必死に訴える弟である。
「まあしょうがないっか。あんたはまだ小学生だもんね」
ため息をついた姉は、くるりと外に振り向く。
「私が突撃するから、あんたはしっかりと撮影しているのよ。よし兄の仇、取ってやるんだから」
「吉行おにいちゃんはまだ生きてるってば……」
ツッコミを入れられるあたり、弟もまだ冷静なようだった。
だが、そんな中、姉は安全地帯から足を踏み出そうとしていた。
「万一の時は頼むわよ、弟」
「し、死なないでね、姉ちゃん」
「あったりまえよ。こんなところで死んでたまるもんですか。オカルトに人生捧げるとはいっても、こんな青春真っ只中で死ぬつもりなんてないわよ」
そう言いながら、危険な夜の街に足を踏み出していく。
時間は夜10時の手前だ。あのサイトの通りであるなら、まだこの辺りは安全な場所のはずである。
手には金属バット、ポーチの中には念のための自衛用の道具があれこれ入っている。
相手の正体が分からないものの、倒せなくても怯ませるくらいはできるはず。姉は恐怖に震えながらも、一歩、また一歩と暗闇の中へと歩み出ていった。
辺りの街灯はすべて消えており、姉を照らすのは弟が身を潜める建物と月明りだけだ。そのせいで、姉の視界は著しく悪い。
しかも、選んだ安全地帯は、中心部からちょっと外れた人の気配が少ない場所。虫の声すら聞こえない状況は、姉の恐怖をますます増幅させていた。
夏の暑さゆえに薄着ではあるとはいっても、さすがにこの恐怖の中では全身ガチガチに震えてしまっていた。
「さ、さあ。どこからでもかかってらっしゃい。か、返り討ちにしてあげるんだから……!」
金属バットを構え、へっぴり腰で周囲を見回す姉。
夜とはいえ、季節は夏。その暑さと恐怖で、姉の全身には汗がじんわりと浮かんでいる。
思わず寒気が走ったのか、姉が身震いをした瞬間だった。
近くにあった茂みががさがさと音を立てる。音に反応して姉が振り向くと、その音はぴたりとやむ。
「な、なんなのよ。何かいるの?」
険しい表情を向ける姉だが、その声に反応するものは何もなかった。
なんとも間の悪いことに、ちょうどその時になって空に厚い雲がかかる。
その雲が月の明かりを遮ると、再び大きな音が鳴り、そこから何かが飛び出した。
次の瞬間、姉の体に強い衝撃が走り抜けたのだった。
夜9時を過ぎてすっかりゴーストタウンと化した襟峰市内である。
「本気でやるわけ? 姉ちゃん」
「もちろんよ。よし兄をひどい目に遭わせた犯人がいるっていうのよ? そいつらの正体を突き止めて世間的に発表する権利があるってものよ」
昨晩、インターネットカフェに泊まっていた姉弟である。
今、この二人は得られた情報から安全圏だと思われる、屋根付きの場所に身を潜めていた。
武器として持ってきた金属バットは、インターネットカフェで突っ込まれた箱から取り出している。
姉の方は身に着けているウェストポーチの中を確認している。
「とりあえず持ってきた防御用のアイテムを確認しなくちゃね。確認もなしに出ていって、やられちゃったら恥ずかしいったらありゃしないもの。死にたくないしね」
「まったくだよ、姉ちゃん」
姉の言い分に、弟は嘆き混じりに反応していた。
「それにしても、9時を過ぎたらものの見事に一斉に照明が落とされたわね。市の条例でもあるのかしら」
安全圏である建物の中から外を確認する姉。
改めて確認してみても、街の中の一切の街灯から明かりが消えていた。
辺りは真っ暗。人食いの魔物が徘徊しているとあって、街の中からは一切の人の気配が消えた。
時折ではあるものの、やむなく街の中を通らざるを得ない電車やトラックが走り抜けていく。
二人の目に入る光はそのくらいで、街の中は本当に不気味なくらいに真っ暗で静まり返っているのだ。
「姉ちゃん、本当にするの?」
弟が泣きそうな顔をしながら、姉に改めて確認をしている。
すると姉はキリッと引き締めた表情を見せて言い切る。
「もちろんよ。オカルト好きの血が騒ぐのよ。奴らの正体を明かせとね。弟はそういうはないの?」
「な、ないよ~……」
姉の質問に、両手の拳を握って泣きそうな顔で必死に訴える弟である。
「まあしょうがないっか。あんたはまだ小学生だもんね」
ため息をついた姉は、くるりと外に振り向く。
「私が突撃するから、あんたはしっかりと撮影しているのよ。よし兄の仇、取ってやるんだから」
「吉行おにいちゃんはまだ生きてるってば……」
ツッコミを入れられるあたり、弟もまだ冷静なようだった。
だが、そんな中、姉は安全地帯から足を踏み出そうとしていた。
「万一の時は頼むわよ、弟」
「し、死なないでね、姉ちゃん」
「あったりまえよ。こんなところで死んでたまるもんですか。オカルトに人生捧げるとはいっても、こんな青春真っ只中で死ぬつもりなんてないわよ」
そう言いながら、危険な夜の街に足を踏み出していく。
時間は夜10時の手前だ。あのサイトの通りであるなら、まだこの辺りは安全な場所のはずである。
手には金属バット、ポーチの中には念のための自衛用の道具があれこれ入っている。
相手の正体が分からないものの、倒せなくても怯ませるくらいはできるはず。姉は恐怖に震えながらも、一歩、また一歩と暗闇の中へと歩み出ていった。
辺りの街灯はすべて消えており、姉を照らすのは弟が身を潜める建物と月明りだけだ。そのせいで、姉の視界は著しく悪い。
しかも、選んだ安全地帯は、中心部からちょっと外れた人の気配が少ない場所。虫の声すら聞こえない状況は、姉の恐怖をますます増幅させていた。
夏の暑さゆえに薄着ではあるとはいっても、さすがにこの恐怖の中では全身ガチガチに震えてしまっていた。
「さ、さあ。どこからでもかかってらっしゃい。か、返り討ちにしてあげるんだから……!」
金属バットを構え、へっぴり腰で周囲を見回す姉。
夜とはいえ、季節は夏。その暑さと恐怖で、姉の全身には汗がじんわりと浮かんでいる。
思わず寒気が走ったのか、姉が身震いをした瞬間だった。
近くにあった茂みががさがさと音を立てる。音に反応して姉が振り向くと、その音はぴたりとやむ。
「な、なんなのよ。何かいるの?」
険しい表情を向ける姉だが、その声に反応するものは何もなかった。
なんとも間の悪いことに、ちょうどその時になって空に厚い雲がかかる。
その雲が月の明かりを遮ると、再び大きな音が鳴り、そこから何かが飛び出した。
次の瞬間、姉の体に強い衝撃が走り抜けたのだった。
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