真夜中血界

未羊

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第8話

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 その日は部長の家に泊まる事になった勇人と都は、部長の家で夕食のご相伴に預かっている。

「うちの子に友だちがいるだなんて、喜ばしい事だわ」

「まったくだな。オカルトが好きすぎて誰も近寄ろうとしないのに、二人もいるだなんて涙が出そうだよ」

 両親にこんな風に言われてしまう部長である。一体どういう交友関係があるのか、これだけで察せてしまう。
 思わず目を丸くして部長を見る勇人と都である。
 その視線に対して、咳払いをしてごまかそうとする部長。

「そ、そんな事はどうでもいいではないかな。みんな、私の話についてこれなさすぎるのだ。ただそれだけの事だよ」

 強がる部長である。

「変わった人過ぎて付き合いきれないだけだと思いますよ。私たちだって、オカルト好きじゃなかったら付き合いたくもないですから」

「ぐっはあっ!」

 きっぱりと言い切ってくれる都に、撃沈する部長である。これにはさすがの両親も苦笑いである。
 そんな中、勇人がふと思わず質問をしてしまう。

「そういえば、部長の事をよく知らないけど、他に家族っていたりするのかな」

 その質問の出た瞬間、部長の両親の表情が引きつる。しかし、部長はすぐさま平然とした様子で答え始める。

「私には一人兄貴がいるよ。事情あって一緒に住んではいないがね。今回客室にあてがった部屋は、その兄貴が使っていた部屋なのだよ」

「そうだったのか。なんか悪い質問しちまったかな」

 なんとなく雰囲気に違和感を感じた勇人は、ばつが悪そうに反省を口にしている。

「まぁ気にしないでくれ。家族構成を気にしてしまうのは、他人の家に訪れた際に起きる衝動だからね」

 部長はこう言うものの、勇人は終始反省した様子でご飯を食べたのだった。

 ―――

 夕食後、三人は再び部長の部屋に集結する。

「相変わらず、外は家の明かりだけで街灯すら灯っていないな……」

 カーテンの隙間から外を覗く勇人は、外の様子を見て漏らす。

「人が出歩かない以上、不要なものだからね。節電といえば聞こえはいいだろうがね」

 部長は皮肉ったように喋りながら、再びパソコンをいじっている。

「それにしても部長。怪異を調べるとはいっても、どういった方法を取るんです? 夜中になると外はで歩けないんですよ?」

 都が基本的な部分を問い掛けている。
 だが、部長はパソコンを触ってばかりで、まったく答えようとはしない。都は仕方なくその様子を見守っている。
 突如として、部長の動きがぴたりと止まり、くるりと振り返る。

「一番の問題はそれなんだ。怪異の正体を突き止めれば、解決への糸口が見つかる。だけど、そのための準備が一番大変なんだ」

 その表情はいつになく真剣だ。

「同日同時刻に離れた場所で被害が起きていたり、同一か所で複数の被害が出ていたりという状況から見て、怪異は複数体居ると見ていいだろう」

「うっげぇ……。人食いの魔物どもがわんさか街の中をさまよっているのかよ……」

 淡々と話す部長とは裏腹の内容に、勇人はげんなりとした顔をしている。
 反応を見るに、今まで大して考えてきていなかったのだろう。ここにきて現実を突きつけられて血の気が引いたというわけだ。

「地道にデータを集めてきたからこそ見えてきた部分だ。何の気なしに過ごしていれば、知らないのも無理はない。気に病むことはないぞ、同士勇人よ」

 部長は勇人を気遣った。

「それでなのだがね。問題はまだ山積みなのだよ」

 部長が眉間に指先を当てながらため息まじりに呟く。

「何がなんですかね」

 勇人が気になって詳細について尋ねる。

「数がいるとは予想がついても、襟峰市内は意外と広い。どこにいるとも分からない相手を捉えるのは、まずは不可能と見ていいだろう」

「あー……、なるほどそういうわけか」

「なるほどって、どういうことよ」

 勇人は理解したが、都は分からなかったようだ。

「つまりこういうことだよ。怪異の連中を釣るための罠を仕掛けるってわけだ」

「はい?」

 部長の言葉の意味を理解した勇人が説明すると、都は顔を歪ませていた。何言ってるのこの人たちというのがぴったりなくらいだった。

「同士勇人の言う通りだよ。まずは怪異の正体を明かすための行動をする。そのための罠づくり、同士都も手伝ってくれるな?」

 眼鏡をくいっと持ち上げるような仕草をしながら、部長は都へと迫っていく。こうなるとさすがに断るのは難しく、二人は部長の作戦の手伝いをする事になったのだった。
 そして、作戦を考えるために、この日は夜通しの話し合いとなったのだった。
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