真夜中血界

未羊

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第4話

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 夏休みまでもう少しという日のこと、部長は勇人と都を再び部室に呼び出す。

「部長、一体何なんですか」

「そうですよ。急に呼び出すなんて、こちらの都合も考えて下さい」

 やって来るなり二人して文句ばかりである。
 だが、部長はそんな事はまったくに意に介しておらず、普段通りの様子を見せている。

「ふふん、君たちは同士としての自覚が足りんね、うん」

 部長の言葉に、わけが分からないと言わんばかりに顔を歪ませる二人である。

「いいかい、君たちは自ら望んでこのオカルト研究部に入ったのだ。となれば、私の言うことには素直に耳を傾けるべきではないのかね?」

「無茶苦茶だな、部長」

 部長の展開する理論に、心底呆れている勇人である。

「まあまあ、そういうのは私の話を聞いてからにしてもらおうか。今日から午後の授業がなくなってたっぷり時間があるのだ。初めての報告がされてから半年の間に集めた、私の秘蔵データをとくとご覧に入れようぞ。はーっはっはっはっ」

「は、はあ……」

 高らかに笑う部長とは明らかにテンションの差がある。こんな状態で大丈夫なのか。

「とにかくこの画面を見てくれたまえ」

 部長はそう言って、パソコンの画面をつける。
 モニタには、先日見せた襟峰市の地図と、冬から始まった不可解な事件の現場を示す赤い点が映し出されている。

「私はあれからも、この怪事件の調査を進めていた。どうにかこうにか、それぞれの被害者の死亡推定時刻を集める事ができたのだ。それをこれからこの画面に重ねるとしよう」

 部長がマウスをクリックすると、その死亡推定時刻が表示される。
 事件数が多いために画面に収まりきらないくらい膨大なデータである。部長はどうやってこれを集めたのだろうか。

「これらのデータから見出された事実に、私は実に鳥肌が立ったものだよ。さあ、同士よ。しっかりと見てくれたまえ」

 部長が得意げに言い放つので、勇人たちは画面を見る。
 地図上の点にポインタを重ねると、時刻が表示される。それをひとつずつ繰り返しているうちに、勇人はある事に気が付いた。

「うん? 中から外にかけて、どんどんと時刻が遅くなってないか、これ」

「本当だわ。画面の中央に近いところは日付が変わる前、外側ともなると朝が近い時間になっているわ」

 都もその事実に気が付いたようだ。
 これには部長も得意げに笑っている。

「そうだ。つまり、やはりこの円の中心部分に、この怪事件の発生源があると見て間違いないだろう。そこを調べれば、もしかしたら何か分かるかも知れないというわけだ。この怪事件の真相に、我々は一歩近づいたのだよ」

 部長が顎に手を添えて、口角を上げてポーズを決めている。

「時間を確認してみると、最も早い被害者の時間は21時30分頃で、最も遅い時間は3時56分だ。これから推測するに、怪事件が起きている時間は夜の9時から朝の4時にかけてということになる」

「ふむふむ」

 部長が続けて行う説明を、猶予たちは諦めたように聞いている。

「そして、怪事件の犯人は、死の中心ほどから周囲にかけて移動し、最後は消えている」

「確かに、そういう事になりますね」

 都が相槌を入れるが、部長の説明は止まらない。

「遺体の損傷の激しい被害者もいたが、そのすべては首周りを集中的に食い荒らされている。以上がこの怪事件を調べていてわかった事だ」

 すべてを言い終えた部長の呼吸が、どういうわけか乱れていた。この説明のどこに興奮する要素があったのだろうかと、勇人と都はつい首を傾げてしまった。
 しかし、部長の熱弁はここで終わる事はなかった。

「ともかく、この怪事件の調査を行う下準備が整った。夏休みは我がオカルト研究部の全力を挙げて、この怪事件の謎を解き明かすのだ。いいか、同士よ」

「本気ですか、部長」

「無論だ」

 勇人の疑いの声に、すっぱりと言い切る部長である。

「知っているかね。襟峰市は今では『夜は死んだ街』という風に言われているのだ。実に不名誉ではないか。この汚名を返上するためにも、我々は立ち向かわねばならぬのだ!」

 勢いよく立ち上がる部長。大きな音を立てて倒れる椅子。
 そのあまりにも異常ともいえる熱意に、もはや二人に抵抗できる余地はなくなっていた。
 はたして三人は、この怪事件の謎を解き明かす事ができるのだろうか。
 熱い夏が幕を開ける。
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