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第196話 1年
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そして、月日が流れた。
翌年の夏休みの事。
「えっ、パステル王国に出向かないかって?」
「おうよ。あれから1年近く経つからよ。年に一度の浄化を行う日が来たって事さ」
杏と楓を前に、ワイスが話をしている。
相変わらず色鮮寺の五重塔とパステル王国は、あの不思議な扉で繋がっており、こうやって行き来ができるようなのだ。
「そっか、もうそんなに経っちゃてるのか。まあ、約束は約束だものね」
「そうさ。だから、一度王国に戻ってきてくれよ。お前らは聖獣なんだからよ」
出されたお茶を飲みながら、ワイスは二人に語り掛けている。杏と楓の二人は、そもそもパステル王国の秋を司る聖獣であるパシモとメルプなのだ。そんな二人だからこそ、パステル王国には顔を出してくれとワイスは頼み込んでいるのである。
ところが、杏と楓の二人は、すっかり地球での暮らしに慣れてしまっているのか、ちょっと渋っている感じである。なにせ今回のパステル王国への帰還の話は、この二人だけの話なのだから。
「他のみんなはダメなわけ?」
「ダメってわけじゃねえけどよ。あいつらはそもそも部外者だ。いくらパステル戦士として付き合いがあるからとはいっても、いつまでもこっちの事に巻き込むわけにはいかねえだろうよ」
「うーん、それもそうかしらね……」
「まっ、あいつらが行きたいっていうのなら止めやしねえけどな」
色鮮寺の居間で話を続けるワイスたち。そこへ住職がやって来る。
「おや、ワイス。来てたのですか」
「これは大王様。お邪魔させて頂いてます」
住職が声を掛けると、ワイスは改まって丁寧な挨拶をしていた。
「はっはっはっ、そんなに畏まらなくてもいいのですよ。今はしがない住職ですからね」
住職は大きな声で笑っていた。
「それにしても、もうそんなに経ちますかね。どうです、城の地下の様子は」
「はい、ちょくちょく様子は確認してますが、特に異常はないようです。フォシンズもずっと眠りについたままで、それは静かなものでした」
「ふむ、そうですか」
ワイスが丁寧な言葉遣いで答えると、住職は静かに小さく頷いていた。
「それで、その浄化はいつ行われるのです?」
住職はワイスに尋ねる。
「ちょうど封印から1年が経つ、来月の事です。こいつらの誕生日に相当する日ですね」
「おやおや、秋分の日ですか」
ワイスが詳しく説明すると、住職は小さく驚いた。そして、ちょっと悪い顔をしてワイスを見る。
「だったら、あの三人も誘わなければだめですよ」
「なぜです?」
住職がきっぱり言い切ると、ワイスは首を捻った。
「だって、杏さんと楓さんの誕生日を祝う気満々なんですよ、あの三人。それだというのにその二人が居なければ、がっかりさせてしまうというものです。それだったら、ご一緒させた方がいいというものですよ」
腕を組んで何度も頷きながら、住職はワイスに説明をしている。そう、杏と楓の二人は、あの三人とはすっかり友人になってしまっているのである。こう言われてしまうと、ワイスも腕を組んで唸り始めてしまった。
「むむむむ……、それは確かに……」
ものすごく悩むワイス。そして、
「女王陛下と相談してみます。許可が下りれば雪路たちにも声を掛けさせてもらいますので……。今日はこれで失礼します」
結論は結局先送りしたのだった。パステル戦士とはいえども、元々は部外者なのだ。いつまでも関わり続けさせるのもどうかという考えがあるのである。
「そうですか。では、いい返事をお待ちしておりますよ」
住職とワイスは互いに頷くと、ワイスは部屋を出てパステル王国へと戻っていったのだった。聖獣単独でも行き来できるくらいに、あの扉の状態は安定しているのである。
部屋に残った杏と楓、そして住職の三人。住職も腰を落ち着けると、二人に話し掛ける。
「二人はどうしたいですか?」
住職の質問に、杏も楓も唸り始めた。千春、美空、雪路の三人とはすっかり仲良くなってしまって、ちょくちょく行動を共にしている状態なのである。そういう事もあってか、今回のパステル王国への帰還も、三人に黙ってと言うのはやりづらくなっていたのだ。
その日というのが、自分たちの誕生日。去年の事を思うと、絶対に祝うために色鮮寺にやって来そうなのである。二人の中にはワイスと同じように部外者だからこれ以上関わらせたくない思いと、友人として一緒に居たい気持ちとが同時に存在しているのである。二人はしばらく唸り続けていた。
「結論は慌てなくていいですよ。しばらくの間は悩む時間があるのですから」
住職はそう言って立ち上がる。
「そろそろお昼にしましょうか。何が食べたいですかね?」
そう問いかけたところで、二人からは返答はなかった。真剣に悩んでいるようである。その姿を見た住職は、柔らかな笑みを浮かべて厨房へと歩いていったのだった。
モノトーンたちとの戦いが終わってから1年。パステル王国も地球もすっかり平和になったようである。
この日もどこまでも青空が広がる夏の日差しの中、元気いっぱいにセミたちが鳴いていたのだった。
===
次回、いよいよ最終回です。
翌年の夏休みの事。
「えっ、パステル王国に出向かないかって?」
「おうよ。あれから1年近く経つからよ。年に一度の浄化を行う日が来たって事さ」
杏と楓を前に、ワイスが話をしている。
相変わらず色鮮寺の五重塔とパステル王国は、あの不思議な扉で繋がっており、こうやって行き来ができるようなのだ。
「そっか、もうそんなに経っちゃてるのか。まあ、約束は約束だものね」
「そうさ。だから、一度王国に戻ってきてくれよ。お前らは聖獣なんだからよ」
出されたお茶を飲みながら、ワイスは二人に語り掛けている。杏と楓の二人は、そもそもパステル王国の秋を司る聖獣であるパシモとメルプなのだ。そんな二人だからこそ、パステル王国には顔を出してくれとワイスは頼み込んでいるのである。
ところが、杏と楓の二人は、すっかり地球での暮らしに慣れてしまっているのか、ちょっと渋っている感じである。なにせ今回のパステル王国への帰還の話は、この二人だけの話なのだから。
「他のみんなはダメなわけ?」
「ダメってわけじゃねえけどよ。あいつらはそもそも部外者だ。いくらパステル戦士として付き合いがあるからとはいっても、いつまでもこっちの事に巻き込むわけにはいかねえだろうよ」
「うーん、それもそうかしらね……」
「まっ、あいつらが行きたいっていうのなら止めやしねえけどな」
色鮮寺の居間で話を続けるワイスたち。そこへ住職がやって来る。
「おや、ワイス。来てたのですか」
「これは大王様。お邪魔させて頂いてます」
住職が声を掛けると、ワイスは改まって丁寧な挨拶をしていた。
「はっはっはっ、そんなに畏まらなくてもいいのですよ。今はしがない住職ですからね」
住職は大きな声で笑っていた。
「それにしても、もうそんなに経ちますかね。どうです、城の地下の様子は」
「はい、ちょくちょく様子は確認してますが、特に異常はないようです。フォシンズもずっと眠りについたままで、それは静かなものでした」
「ふむ、そうですか」
ワイスが丁寧な言葉遣いで答えると、住職は静かに小さく頷いていた。
「それで、その浄化はいつ行われるのです?」
住職はワイスに尋ねる。
「ちょうど封印から1年が経つ、来月の事です。こいつらの誕生日に相当する日ですね」
「おやおや、秋分の日ですか」
ワイスが詳しく説明すると、住職は小さく驚いた。そして、ちょっと悪い顔をしてワイスを見る。
「だったら、あの三人も誘わなければだめですよ」
「なぜです?」
住職がきっぱり言い切ると、ワイスは首を捻った。
「だって、杏さんと楓さんの誕生日を祝う気満々なんですよ、あの三人。それだというのにその二人が居なければ、がっかりさせてしまうというものです。それだったら、ご一緒させた方がいいというものですよ」
腕を組んで何度も頷きながら、住職はワイスに説明をしている。そう、杏と楓の二人は、あの三人とはすっかり友人になってしまっているのである。こう言われてしまうと、ワイスも腕を組んで唸り始めてしまった。
「むむむむ……、それは確かに……」
ものすごく悩むワイス。そして、
「女王陛下と相談してみます。許可が下りれば雪路たちにも声を掛けさせてもらいますので……。今日はこれで失礼します」
結論は結局先送りしたのだった。パステル戦士とはいえども、元々は部外者なのだ。いつまでも関わり続けさせるのもどうかという考えがあるのである。
「そうですか。では、いい返事をお待ちしておりますよ」
住職とワイスは互いに頷くと、ワイスは部屋を出てパステル王国へと戻っていったのだった。聖獣単独でも行き来できるくらいに、あの扉の状態は安定しているのである。
部屋に残った杏と楓、そして住職の三人。住職も腰を落ち着けると、二人に話し掛ける。
「二人はどうしたいですか?」
住職の質問に、杏も楓も唸り始めた。千春、美空、雪路の三人とはすっかり仲良くなってしまって、ちょくちょく行動を共にしている状態なのである。そういう事もあってか、今回のパステル王国への帰還も、三人に黙ってと言うのはやりづらくなっていたのだ。
その日というのが、自分たちの誕生日。去年の事を思うと、絶対に祝うために色鮮寺にやって来そうなのである。二人の中にはワイスと同じように部外者だからこれ以上関わらせたくない思いと、友人として一緒に居たい気持ちとが同時に存在しているのである。二人はしばらく唸り続けていた。
「結論は慌てなくていいですよ。しばらくの間は悩む時間があるのですから」
住職はそう言って立ち上がる。
「そろそろお昼にしましょうか。何が食べたいですかね?」
そう問いかけたところで、二人からは返答はなかった。真剣に悩んでいるようである。その姿を見た住職は、柔らかな笑みを浮かべて厨房へと歩いていったのだった。
モノトーンたちとの戦いが終わってから1年。パステル王国も地球もすっかり平和になったようである。
この日もどこまでも青空が広がる夏の日差しの中、元気いっぱいにセミたちが鳴いていたのだった。
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次回、いよいよ最終回です。
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