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第195話 蘇る王国
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「どっせい!」
「パステル・オーシャン・シャワー!」
この日は部活もないという事で、千春たちはパステル王国に出向いて復興の手伝いをしていた。
モノトーンとの戦いは終わったものの、どういうわけか千春たちはパステル戦士に変身できていた。おそらくは聖獣との関係がまだ途切れていないからだろう。しかし、パステル王国での復興を手伝うのであれば、この上なく嬉しい限りだった。何と言っても多少の無茶が通じるからだ。パステル戦士になる事で身体能力が大幅に上昇するためである。
「私も来てよかったのかしら~ん?」
「問題ありませんわよ。過去の事は過去の事と、みなさん割り切ってらっしゃるみたいですし」
こう話すのはイエーロと雪路である。
イエーロがこんな風に言うのは、自分がパステル王国を滅ぼすのに直に手を下していたからだ。なにせパステル王国を滅ぼしたのは、モノトーン四天王だったのだから。だから気まずいのである。
「俺っちたちももう気にしてねえからな。変な空気出さなきゃ、みんなは恐らく気付かねえはずだよ。堂々としてな」
ワイスもこう言う始末である。
ところが、この言葉の通りであった。誰もイエーロの事に気が付かないというか、気に掛けていない。なんでここに居るのかすら疑問に思っていなさそうである。
「いやあ、手伝ってくれるのは嬉しいねえ」
「本当。老いぼれだけじゃ手が回らないから、助かるわ」
そう言われてしまうと、どことなくくすぐったいイエーロである。とはいえ、敵であった自分をこんなにも簡単に受け入れてしまうパステル王国というものに、驚かされるばかりだった。
「本日は本当にお疲れ様でございます。何と感謝を申し上げればいい事か」
今日一日の作業を終えて城に戻ると、千春たちをレインが労ってくれた。
「いいって事ですよ。今日は俺たちは用事がなくて暇でしたからね。なっ」
千春がこう答えて同意を求めると、美空たちはうんうんと頷いていた。
久しぶりに変身してパステル戦士となった千春たちだが、思ったより感覚は鈍っていなかったようだった。
「ふふっ、ご謙遜なさらずによろしいですのに」
千春たちの態度を見て、レインは笑っていた。
「それにしても、パステルピンクは本当に男性だったのですね。来た時の姿には驚きましたよ」
「そうですね。伝説の戦士に選ばれたのが男性というのは、長い歴史の中で一度もなかったそうですからね。実際にこの目で見て、驚かされたものです。でも、変身なさると少女になってしまうのですね」
不思議な事に驚きつつも、そのギャップについ笑ってしまうレインなのである。だが、これには千春たちも笑うしかなかった。
「それにしても、そちらの方、あのダクネースの配下だったそうですね。うっすらとですが、闇の力を感じましたよ?」
さすがは女王である。イエーロの事に勘付いていた。その言葉に、イエーロは内心動揺していた。
「そんなに心配なさらなくて大丈夫ですよ。本日はしっかりと作業なさって下さったみたいですから、私たちとしても事を荒立てるつもりはありません。むしろ、その危険性を持ちながらも、作業を手伝って下さった事に感謝をせざるを得ませんね。本当にありがとうございました」
レインはイエーロに対しても頭を下げている。かつて敵対していた者であっても、感謝を素直に言えるというあたり、パステル王国の懐の深さは何とも言えないものだった。
「ま、まあ、私たちのせいでめちゃくちゃにしてしまったもの……。こ、これくらいは当然よ~?」
イエーロの方も、どう反応していいのかものすごく困っていたようだ。つい斜に構えた反応を返してしまっていた。しかし、レインは笑っていたし、シイロだってスルーしていた。さすがは負の感情を城の地下に封じてきた国といえる反応である。怒るとか恨むとかそういう事ができないようだった。
「それじゃ、俺たちはそろそろ帰りますね」
城で作業の疲れをしっかりと取った千春たちは、レインにそう告げる。レインたちもそれに頷いて了承している。そして、女王の部屋の隠し部屋へとやって来た。そこでは扉が今も虹色の光を放って佇んでいた。
「本当に何度見ても不思議な扉だな」
「うん、まったくよね」
「まあそう言わないでよ」
「だな。その扉があるから、あたいたちはこうやってこっちに戻って来れるんだし」
「でも、別の世界同士を結ぶなんてのは、不思議以外の何ものでもありませんわよ」
扉を見ながら千春たちは口々に言葉を漏らしている。本当にすっかり仲が良い友だち同士である。その姿に、レインはちょっぴり羨ましいのかにこにことした笑顔を向けていた。
「では、本当に本日はありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしていますね」
そう言いながら、レインは扉をゆっくりと開く。その言葉に答えるように、千春たちは静かに頷いていた。そして、その扉をくぐって地球へと戻っていった。
千春たちを見送ったレインとシイロたちは、バルコニーから眼下に広がるパステル王国を眺める。そこにはだいぶ復旧が進んだ街の姿が広がっていた。その状況を見たレインの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいたのだった。
「本当に、伝承に感謝致します」
ぽつりと呟くレインだった。
「パステル・オーシャン・シャワー!」
この日は部活もないという事で、千春たちはパステル王国に出向いて復興の手伝いをしていた。
モノトーンとの戦いは終わったものの、どういうわけか千春たちはパステル戦士に変身できていた。おそらくは聖獣との関係がまだ途切れていないからだろう。しかし、パステル王国での復興を手伝うのであれば、この上なく嬉しい限りだった。何と言っても多少の無茶が通じるからだ。パステル戦士になる事で身体能力が大幅に上昇するためである。
「私も来てよかったのかしら~ん?」
「問題ありませんわよ。過去の事は過去の事と、みなさん割り切ってらっしゃるみたいですし」
こう話すのはイエーロと雪路である。
イエーロがこんな風に言うのは、自分がパステル王国を滅ぼすのに直に手を下していたからだ。なにせパステル王国を滅ぼしたのは、モノトーン四天王だったのだから。だから気まずいのである。
「俺っちたちももう気にしてねえからな。変な空気出さなきゃ、みんなは恐らく気付かねえはずだよ。堂々としてな」
ワイスもこう言う始末である。
ところが、この言葉の通りであった。誰もイエーロの事に気が付かないというか、気に掛けていない。なんでここに居るのかすら疑問に思っていなさそうである。
「いやあ、手伝ってくれるのは嬉しいねえ」
「本当。老いぼれだけじゃ手が回らないから、助かるわ」
そう言われてしまうと、どことなくくすぐったいイエーロである。とはいえ、敵であった自分をこんなにも簡単に受け入れてしまうパステル王国というものに、驚かされるばかりだった。
「本日は本当にお疲れ様でございます。何と感謝を申し上げればいい事か」
今日一日の作業を終えて城に戻ると、千春たちをレインが労ってくれた。
「いいって事ですよ。今日は俺たちは用事がなくて暇でしたからね。なっ」
千春がこう答えて同意を求めると、美空たちはうんうんと頷いていた。
久しぶりに変身してパステル戦士となった千春たちだが、思ったより感覚は鈍っていなかったようだった。
「ふふっ、ご謙遜なさらずによろしいですのに」
千春たちの態度を見て、レインは笑っていた。
「それにしても、パステルピンクは本当に男性だったのですね。来た時の姿には驚きましたよ」
「そうですね。伝説の戦士に選ばれたのが男性というのは、長い歴史の中で一度もなかったそうですからね。実際にこの目で見て、驚かされたものです。でも、変身なさると少女になってしまうのですね」
不思議な事に驚きつつも、そのギャップについ笑ってしまうレインなのである。だが、これには千春たちも笑うしかなかった。
「それにしても、そちらの方、あのダクネースの配下だったそうですね。うっすらとですが、闇の力を感じましたよ?」
さすがは女王である。イエーロの事に勘付いていた。その言葉に、イエーロは内心動揺していた。
「そんなに心配なさらなくて大丈夫ですよ。本日はしっかりと作業なさって下さったみたいですから、私たちとしても事を荒立てるつもりはありません。むしろ、その危険性を持ちながらも、作業を手伝って下さった事に感謝をせざるを得ませんね。本当にありがとうございました」
レインはイエーロに対しても頭を下げている。かつて敵対していた者であっても、感謝を素直に言えるというあたり、パステル王国の懐の深さは何とも言えないものだった。
「ま、まあ、私たちのせいでめちゃくちゃにしてしまったもの……。こ、これくらいは当然よ~?」
イエーロの方も、どう反応していいのかものすごく困っていたようだ。つい斜に構えた反応を返してしまっていた。しかし、レインは笑っていたし、シイロだってスルーしていた。さすがは負の感情を城の地下に封じてきた国といえる反応である。怒るとか恨むとかそういう事ができないようだった。
「それじゃ、俺たちはそろそろ帰りますね」
城で作業の疲れをしっかりと取った千春たちは、レインにそう告げる。レインたちもそれに頷いて了承している。そして、女王の部屋の隠し部屋へとやって来た。そこでは扉が今も虹色の光を放って佇んでいた。
「本当に何度見ても不思議な扉だな」
「うん、まったくよね」
「まあそう言わないでよ」
「だな。その扉があるから、あたいたちはこうやってこっちに戻って来れるんだし」
「でも、別の世界同士を結ぶなんてのは、不思議以外の何ものでもありませんわよ」
扉を見ながら千春たちは口々に言葉を漏らしている。本当にすっかり仲が良い友だち同士である。その姿に、レインはちょっぴり羨ましいのかにこにことした笑顔を向けていた。
「では、本当に本日はありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしていますね」
そう言いながら、レインは扉をゆっくりと開く。その言葉に答えるように、千春たちは静かに頷いていた。そして、その扉をくぐって地球へと戻っていった。
千春たちを見送ったレインとシイロたちは、バルコニーから眼下に広がるパステル王国を眺める。そこにはだいぶ復旧が進んだ街の姿が広がっていた。その状況を見たレインの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいたのだった。
「本当に、伝承に感謝致します」
ぽつりと呟くレインだった。
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