マジカル☆パステル

未羊

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第193話 特別な日

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 戻ってきて驚いたのは、地球の方ではまったくと言っていいくらいに時間が経っていなかった事だった。誕生日を祝うために朝出掛けたので、まだ太陽が高いのを見る限り、本当にほんの数時間しか経っていなかった。カレンダーの日付にいたってはまったく変わっていなかった。改めて、モノトーン空間やパステル王国とは時間の進みが違うという事を認識させられた。
 ようやく気持ちの落ち着いたパステルピンクたちは、母屋に移動すると、そこでようやく安心したかのように変身を解いた。
「それでは、どこかに食べに行きますか? 杏さんと楓さんは、誕生日なのでしょう?」
 住職がそう提案すると、
「いいねえ。誕生日くらいはちょっと変わった事をしてもいいんじゃないのか?」
 なぜか千春が反応していた。その食いつきっぷりに、雪路は呆れたように冷ややかな目を送り、美空も困惑した表情を浮かべていた。
 肝心の杏と楓だが、お互いに顔を見合わせた後、
「そうね。そういうのも悪くないかも」
「千春の言葉に賛同するのは癪だけど、大王陛下……和尚の言う事になら従ってもいいかしらね」
 二人はお出かけに賛成のようだった。
「だったら、準備してきなさい」
 住職が言うと、二人はバタバタと部屋の方へと走っていった。
「特別豪華にとなると、わたくしにお任せあれと申したいところですが、本日はそういう場合ではございませんわね。もし予算が超えるようでしたら、お支払い致しますわよ?」
「はははっ、しがない貧乏寺ですからね。もしもの時は、お願い致します」
 雪路の提案に、住職はちょっと困惑した笑いをしていた。
 そういってやって来たのは、街のファミレスだった。普段は質素な食事をしているのだから、言ってしまえばファミレスといえど大奮発である。ちょっと不満そうな表情になる千春だったが、美空が肘で脇腹を思いっきり小突いていた。自重しなさいと。
 席に案内される際、住職は店員に何かを伝えていた。こそこそと喋っていたので何かは聞き取れなかったものの、店員の表情が明るく変わっていたところを見ると気になって仕方がなかった。
 とりあえずは席に着く。
「今日は好きなものを注文していいよ。娘の誕生日くらいは渋りはしないよ」
 すっぱりはっきりと、杏と楓の事を娘と言い放つ住職。千春は何とも思わず、美空は微笑ましく笑い、雪路は黙って頷いていた。杏と楓はちょっと戸惑ったようにしながら、悪くないかなと思ったのか笑顔をこぼしていた。
 それぞれに料理を注文して食事をする千春たち。今日はパステル王国を救って宴までしてきた。なんとも晴れやかな気持ちで食事ができている。そのせいか、普段よりもおいしく感じられた気がした。
 そうやって食事も終わりに差し掛かった頃、住職が店員に声を掛ける。そして、こそこそと話をすると、店員は「畏まりました」と言って厨房の方へと消えていった。一体何が起こるのだろうか。
 そういえば、席に案内される前にも何か話しをしていた。
「住職、一体何を話されてたんですか?」
 杏が住職に問い掛けると、
「ふふっ、内緒ですよ。すぐに分かりますしね」
 口に人差し指を立てて当てている。美空と雪路はすぐにピンと来ていたが、千春は分からないらしく首を傾げていた。まったく、千春は鈍いというか何というか……。これは美空はこれからも苦労しそうだった。
 しばらくすると、まずは手ぶらの店員がやって来て、
「空いた食器を片付けてよろしいでしょうか?
 と言ってきた。住職が「頼みます」というと、いそいそと空いた食器を取り下げていく。そして、テーブルを拭いて立ち去った後、別の店員が何か大きめの箱を乗せた台車を押してやってきた。そして、箱をそのままテーブルに乗せて、新しいお皿とフォークをテーブルに並べていく。
 それが終わった店員は、ちょっと緊張した面持ちでテーブル中央に置かれた箱に手を掛けると、ゆっくりと真上へと箱を持ち上げていく。
 すると、中から現れたのは、中央に『Happy Birthday!』と書かれたチョコプレートが添えられたケーキだった。そう、住職がこそこそと話をしていたのは、このケーキのためだったのだ。
「じゅ、住職?」
 そこそこ地球の文化に触れていた杏たちは、ついつい言葉を失って住職を見ている。それに対して、住職は優しい微笑みを浮かべて二人を見ている。
「お誕生日、おめでとうございます」
 店員はそう声を掛けると、お店のサービスの一環として、ささやかなプレゼントを二人に渡して去っていった。
「和尚、あたいたち……」
 楓が珍しく泣きそうになっていた。
「今は形式上とはいえ、私の娘だ。こういう時ぐらい祝わせてほしい」
「は、はい……」
 杏と楓がぐしぐしと泣きじゃくり始めた。よっぽど嬉しかったのだろう。
 その正面に座っている千春たちも、その様子をしばらくの間黙って見守っていた。ちょっと、声を掛けるタイミングを見失ってしまったのだった。
 こうして、ささやかながらも行われた杏と楓の誕生日のお祝いは、実に和やかな雰囲気の中に終わったのだった。
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