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第182話 舞い降りた奇跡
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「はっ!」
意気込んで出て行ったのはいいが、さすがに住職の身体能力は地球人程度しかなかったので、城の上の方に居るフォシンズに対して近付く事はできなかった。しかし、パステル王国の王族としての力は使えるので、剣からオーラを飛ばす事はできたのである。
地面からフォシンズに向けてちまちまとオーラを飛ばす住職。こんな事しかできないとはいえども、これだけでもフォシンズの力を少しずつ削ぐ事はできたのである。
フォシンズは暴走モードに入ってしまっているために、この住職からの攻撃など蚊が刺すほどにも感じなかった。
「くっ、今の私では無力すぎるのか……」
住職の顔に無念の色が濃く出ている。
「だが、娘たちが頑張っているというのに、私だけ何もしないわけにはいかないだろう! うおおおおっ!!」
住職はありったけのオーラをフォシンズに飛ばし続けた。もうそれは、やけくそというにふさわしいというくらいに無茶苦茶なものである。住職も大王時代の体であれば、娘たちと一緒に浄化に加われたであろうが、今はしがない一般人。その悔しさが嫌というほど滲みだしているのである。
「結局私は、保身に走って家族を守れなかった情けない男でしかないのか?!」
住職は強く歯を食いしばる。そこには後悔の念が強くあふれていた。
その時だった。
「あなた……」
突如として住職に声を掛ける存在が居たのである。
「プリム?」
フォシンズが集める力に紛れて、住職たちの思いがもう一度奇跡を起こす。
なんと、病気で死に、ダクネースの力で蘇ったものの再び消え去ったはずのプリムが、住職の隣に立っているではないか。
「あれの力が、私をここに呼び寄せたようですよ」
「そんな……プリム。お前はまた利用されてしまうというのか?」
プリムがフォシンズを見上げながら呟くので、住職が泣きそうな顔でプリムに語り掛けている。
「いいえ、これ以上はあやつに好き勝手に扱われるわけにはいきません。確かに、あなたとの間に娘を儲けた後の扱いは酷いものでしたが、ダクネースに利用された事に比べればはるかにマシですよ」
プリムはフォシンズから視線を外して住職の顔を見ると、住職の手を取りながら、非常に落ち着いた様子で話している。
「……皮肉なものですね。闇の力に利用された後で、和解する事ができるなんて。私の扱いに関しては許したわけではないですが、レインとシイロの立派な姿を見ると、もう、そんな事なんてどうでもよくなります。ふふっ、これが親心というものなのでしょうね」
「プリム……」
住職の手を握りしめながら、しんみりと話すプリム。
「私は許したわけではないですよ? ですが、娘の不幸を願うのは違うと思いますからね。せっかくこうやって一瞬でも戻ってこれたのです。こんな時くらい、親らしい事ができなくてどうするのでしょう!」
プリムは右手を握りしめてフォシンズを見上げる。
「取るに足りないかも知れませんが、私だってパステル王国の民。そして、当時の国王に見初められた唯一の存在なんです!」
プリムは住職を見て、その手を取る。
「あなたや当時のお偉さんたちのためではないわ。私は娘のためにこの一瞬を活かすわ。行きますわよ、あなた!」
「……ああ、そうだな!」
住職にプリムが寄り添う。するとどうだろうか。住職から放たれるオーラが強力になっているではないか。
「があっ?!」
さすがにその攻撃を無視できなくなったのか、フォシンズが足元を見る。しかし、その距離が遠すぎてよく確認できない。フォシンズの側からすれば、死角から攻撃されていたのである。
「誰だ、このボクの邪魔をするのはあっ!」
フォシンズは怒りのあまり、集めていたはずの力を無意識に放出してしまう。その攻撃はパステル戦士たちやレイン、シイロの双子も巻き込みそうになるが、祈りで強化された結界を突き破れるほど強力なものではなかったようだ。すべて、星形の結界とその頂点を結ぶ円の二重の結界によってかき消されてしまった。
「くそう、うざい、うざい、うざいっ!」
フォシンズは今度は意識的に力を放出する。だがしかし、結果は先ほどと同じようだった。その様子を見たフォシンズは咆哮を轟かせる。
「がああっ!! 憎い、すべてが憎い。すべてを吹き飛ばしてやるからな、待っているんだよ!」
フォシンズは攻撃が通じないと見るや、再び力を集め始めた。
「はっ、なんだか知らねえが、無駄な力を使いやがったな。これなら奴の力が集中しきる前に、こっちの浄化が完成するぜ」
ワイスがその様子を見てほくそ笑んでいる。
「女王様、シイロ。奴の力が弱まっている。しっかりと浄化の陣を完成させて下さい!」
ワイスがレインとシイロに向けて叫ぶと、二人は汗を流しながらも軽く頷く。
「パステル王国を守護せし、色と季節の神々よ」
結界の仕上げとばかりに、レインが詠唱を始める。
いよいよパステル王国を滅ぼす闇との戦いも最終局面だ。この戦いの軍配は、はたしてどちらに上がるというのだろうか。
意気込んで出て行ったのはいいが、さすがに住職の身体能力は地球人程度しかなかったので、城の上の方に居るフォシンズに対して近付く事はできなかった。しかし、パステル王国の王族としての力は使えるので、剣からオーラを飛ばす事はできたのである。
地面からフォシンズに向けてちまちまとオーラを飛ばす住職。こんな事しかできないとはいえども、これだけでもフォシンズの力を少しずつ削ぐ事はできたのである。
フォシンズは暴走モードに入ってしまっているために、この住職からの攻撃など蚊が刺すほどにも感じなかった。
「くっ、今の私では無力すぎるのか……」
住職の顔に無念の色が濃く出ている。
「だが、娘たちが頑張っているというのに、私だけ何もしないわけにはいかないだろう! うおおおおっ!!」
住職はありったけのオーラをフォシンズに飛ばし続けた。もうそれは、やけくそというにふさわしいというくらいに無茶苦茶なものである。住職も大王時代の体であれば、娘たちと一緒に浄化に加われたであろうが、今はしがない一般人。その悔しさが嫌というほど滲みだしているのである。
「結局私は、保身に走って家族を守れなかった情けない男でしかないのか?!」
住職は強く歯を食いしばる。そこには後悔の念が強くあふれていた。
その時だった。
「あなた……」
突如として住職に声を掛ける存在が居たのである。
「プリム?」
フォシンズが集める力に紛れて、住職たちの思いがもう一度奇跡を起こす。
なんと、病気で死に、ダクネースの力で蘇ったものの再び消え去ったはずのプリムが、住職の隣に立っているではないか。
「あれの力が、私をここに呼び寄せたようですよ」
「そんな……プリム。お前はまた利用されてしまうというのか?」
プリムがフォシンズを見上げながら呟くので、住職が泣きそうな顔でプリムに語り掛けている。
「いいえ、これ以上はあやつに好き勝手に扱われるわけにはいきません。確かに、あなたとの間に娘を儲けた後の扱いは酷いものでしたが、ダクネースに利用された事に比べればはるかにマシですよ」
プリムはフォシンズから視線を外して住職の顔を見ると、住職の手を取りながら、非常に落ち着いた様子で話している。
「……皮肉なものですね。闇の力に利用された後で、和解する事ができるなんて。私の扱いに関しては許したわけではないですが、レインとシイロの立派な姿を見ると、もう、そんな事なんてどうでもよくなります。ふふっ、これが親心というものなのでしょうね」
「プリム……」
住職の手を握りしめながら、しんみりと話すプリム。
「私は許したわけではないですよ? ですが、娘の不幸を願うのは違うと思いますからね。せっかくこうやって一瞬でも戻ってこれたのです。こんな時くらい、親らしい事ができなくてどうするのでしょう!」
プリムは右手を握りしめてフォシンズを見上げる。
「取るに足りないかも知れませんが、私だってパステル王国の民。そして、当時の国王に見初められた唯一の存在なんです!」
プリムは住職を見て、その手を取る。
「あなたや当時のお偉さんたちのためではないわ。私は娘のためにこの一瞬を活かすわ。行きますわよ、あなた!」
「……ああ、そうだな!」
住職にプリムが寄り添う。するとどうだろうか。住職から放たれるオーラが強力になっているではないか。
「があっ?!」
さすがにその攻撃を無視できなくなったのか、フォシンズが足元を見る。しかし、その距離が遠すぎてよく確認できない。フォシンズの側からすれば、死角から攻撃されていたのである。
「誰だ、このボクの邪魔をするのはあっ!」
フォシンズは怒りのあまり、集めていたはずの力を無意識に放出してしまう。その攻撃はパステル戦士たちやレイン、シイロの双子も巻き込みそうになるが、祈りで強化された結界を突き破れるほど強力なものではなかったようだ。すべて、星形の結界とその頂点を結ぶ円の二重の結界によってかき消されてしまった。
「くそう、うざい、うざい、うざいっ!」
フォシンズは今度は意識的に力を放出する。だがしかし、結果は先ほどと同じようだった。その様子を見たフォシンズは咆哮を轟かせる。
「がああっ!! 憎い、すべてが憎い。すべてを吹き飛ばしてやるからな、待っているんだよ!」
フォシンズは攻撃が通じないと見るや、再び力を集め始めた。
「はっ、なんだか知らねえが、無駄な力を使いやがったな。これなら奴の力が集中しきる前に、こっちの浄化が完成するぜ」
ワイスがその様子を見てほくそ笑んでいる。
「女王様、シイロ。奴の力が弱まっている。しっかりと浄化の陣を完成させて下さい!」
ワイスがレインとシイロに向けて叫ぶと、二人は汗を流しながらも軽く頷く。
「パステル王国を守護せし、色と季節の神々よ」
結界の仕上げとばかりに、レインが詠唱を始める。
いよいよパステル王国を滅ぼす闇との戦いも最終局面だ。この戦いの軍配は、はたしてどちらに上がるというのだろうか。
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