155 / 197
第155話 思わぬ乱入者
しおりを挟む
パステルピンクたちとダクネースが戦っている最中、シイロもまた、自分の母親プリムと戦っていた。
「あら、あんなに離れて大丈夫なのかしら」
「問題ない。これだけ離れれば、私たちの戦いを邪魔する者は居ない。闇に堕ちたお前に引導を渡してくれる!」
煽るように喋るプリムだが、シイロだってそんな安い挑発に乗るような愚か者ではない。だが、正義感に厚すぎるがゆえに、暴走しがちなのだ。しかも、今戦っているのは闇堕ちしているとはいえ、実の母親。油断ができる相手ではなかった。
「ふふっ、威勢が良くなったわね、シイロ」
プリムは口に手の甲を当てて、不敵に微笑む。
「あの頃に比べて、どれだけ強くなったのか、この母親にしっかりと見せてちょうだい!!」
プリムがまとうオーラが手となってシイロに襲い掛かる。
プリムはあの住職、チュナラ大王が恋に落ちた相手である。今ではずいぶんと失われてしまっているが、当時は一般人としてはかなりの整った美人だったのだ。それがゆえに、市井巡りの最中にチュナラが惹きつけられてしまったのだ。
チュナラ大王の愛する妻プリムと愛する娘シイロが、今こうして対峙している。なんとも嘆かわしい事ではあるが、これもすべては大王チュナラが引き起こした事態でもあるのだ。彼が世間の目を気にせずプリムを城に迎えていれば、このような事態は避けられたかもしれない。しかし、今となってはいくら言ったところで後の祭りなのだった。
「はあっ!!」
シイロは剣を振るい、闇のオーラでできた手を斬り捨てていく。だが、その数はとても多く、シイロの剣術をもってしても捌き切る事は厳しかった。その手数に徐々に追い込まれていくシイロ。だが、その時だった。
「むんっ!」
何かが突如現れ、その手をすべて斬り裂いてしまった。
「あら、誰かと思えば、私たちを捨てたつまらない男じゃないの……。何よ、その格好……、笑えるわね!」
その姿を確認したプリムは、吐き捨てるように叫ぶと、再び闇の手を発動させる。
「ふむ、君にはそう思われていても仕方ないか」
冷静に呟くと、手に持った剣で再び闇の手をすべて斬り裂てしまった。
「チュナラ大王?!」
「シイロ。この姿でも私だとすぐに分かるのか?」
「あ、当たり前ではありませんか。その身にまとうオーラ。一日たりとも忘れた事はございません!」
不思議そうに見る住職に、シイロははっきりとそう答えた。その言葉に、住職はつい口元が緩んでしまう。
「お前、どうやってここにやって来た?!」
「そんな事はどうでもいいではないか。せっかくだ。恨みがあるというのなら、ここで気の済むまで夫婦喧嘩といこうではないか」
驚きの表情を浮かべるプリムに、住職は冷静な表情で剣を構えてみせた。その姿に、プリムはぎりっと唇を噛む。
「はんっ、余裕ぶっているのも今のうちよ。私たちが受けた苦悩と仕打ち、その身に味あわせてあげるわ!」
プリムは闇のオーラを増大させる。これを見るに、今までは本気ではなかったようだった。
「ぬるいっ!」
だが、住職もまったく怯む様子はない。それどころか、逆にプリムの懐へと飛び込んでいっている。その動きには、まったくの躊躇がなかった。
「ふむ、近くで見ると、闇に堕ちても美しいな。さすがは私が惚れた相手だ」
「ほざくなっ!」
飛び込んできた住職を、プリムは一閃、薙ぎ払う。だが、住職はそれを軽く躱してしまった。
「ふむ、恨みと怒りで力を増しているようだが、精確性に欠けるようだね。軌道が甘い」
躱して着地した住職は、剣を握ってプリムに飛び掛かる。
(くっ、速いっ!)
プリムは身構えて、迎撃する。だが、そんなとっさの攻撃で捉えられるほど、住職の動きは易しいものではなかった。
一撃を食らう。プリムは覚悟した。
だが、その次の瞬間、ものすごい音が場に響き渡った。
「喝!」
それは、住職が持つ警策が命中した音だった。スパーンという乾いた音に、プリムもシイロも面食らってしまっていた。
「えっ、えっ?」
「ふっ、私が愛した妻を斬るわけがないじゃないですか。ですので、その性根を叩き直してあげましょう。ああ、これですか。禅で使う警策という叩き棒ですよ。音はすごいですけれど、痛くはありませんから……」
ここまで言って、住職の表情が一気に変わる。
「覚悟して下さいね?」
顔は笑顔だというのに、放たれるオーラが実に禍々しい。下手をするとプリムよりもどす黒いのではないのだろうか。
「シイロはそこで見ていて下さい。親子での殺し合いなど、見たくありませんから」
「えっ、あっ、はい……」
住職に気圧されて、シイロはおとなしく引き下がる事しかできなかった。
「私も後悔をしているんですよ。自分のあの時の選択が正しかったのか。まったく、周りになんだかんだ言われて、あなたを城に迎え入れられなかった自分が情けない限りです。だからこそ、シイロにはあれ以上の苦労は掛けたくなかった……」
警策を構えて、住職はプリムを見る。
「ですので、私は過去との決別のために、この夫婦喧嘩に臨むのです。プリム! ……全力で掛かってきて下さい」
住職は、じっとプリムを睨み付けた。
「はっ、言われなくてもやってあげるわ。私が満足するのが先か、お前が死ぬのが先か、徹底的にやり合ってやろうじゃないの!」
プリムはオーラを爆発させる。ただ、その顔はどういうわけか、少し笑っているように見えたのだった。
「あら、あんなに離れて大丈夫なのかしら」
「問題ない。これだけ離れれば、私たちの戦いを邪魔する者は居ない。闇に堕ちたお前に引導を渡してくれる!」
煽るように喋るプリムだが、シイロだってそんな安い挑発に乗るような愚か者ではない。だが、正義感に厚すぎるがゆえに、暴走しがちなのだ。しかも、今戦っているのは闇堕ちしているとはいえ、実の母親。油断ができる相手ではなかった。
「ふふっ、威勢が良くなったわね、シイロ」
プリムは口に手の甲を当てて、不敵に微笑む。
「あの頃に比べて、どれだけ強くなったのか、この母親にしっかりと見せてちょうだい!!」
プリムがまとうオーラが手となってシイロに襲い掛かる。
プリムはあの住職、チュナラ大王が恋に落ちた相手である。今ではずいぶんと失われてしまっているが、当時は一般人としてはかなりの整った美人だったのだ。それがゆえに、市井巡りの最中にチュナラが惹きつけられてしまったのだ。
チュナラ大王の愛する妻プリムと愛する娘シイロが、今こうして対峙している。なんとも嘆かわしい事ではあるが、これもすべては大王チュナラが引き起こした事態でもあるのだ。彼が世間の目を気にせずプリムを城に迎えていれば、このような事態は避けられたかもしれない。しかし、今となってはいくら言ったところで後の祭りなのだった。
「はあっ!!」
シイロは剣を振るい、闇のオーラでできた手を斬り捨てていく。だが、その数はとても多く、シイロの剣術をもってしても捌き切る事は厳しかった。その手数に徐々に追い込まれていくシイロ。だが、その時だった。
「むんっ!」
何かが突如現れ、その手をすべて斬り裂いてしまった。
「あら、誰かと思えば、私たちを捨てたつまらない男じゃないの……。何よ、その格好……、笑えるわね!」
その姿を確認したプリムは、吐き捨てるように叫ぶと、再び闇の手を発動させる。
「ふむ、君にはそう思われていても仕方ないか」
冷静に呟くと、手に持った剣で再び闇の手をすべて斬り裂てしまった。
「チュナラ大王?!」
「シイロ。この姿でも私だとすぐに分かるのか?」
「あ、当たり前ではありませんか。その身にまとうオーラ。一日たりとも忘れた事はございません!」
不思議そうに見る住職に、シイロははっきりとそう答えた。その言葉に、住職はつい口元が緩んでしまう。
「お前、どうやってここにやって来た?!」
「そんな事はどうでもいいではないか。せっかくだ。恨みがあるというのなら、ここで気の済むまで夫婦喧嘩といこうではないか」
驚きの表情を浮かべるプリムに、住職は冷静な表情で剣を構えてみせた。その姿に、プリムはぎりっと唇を噛む。
「はんっ、余裕ぶっているのも今のうちよ。私たちが受けた苦悩と仕打ち、その身に味あわせてあげるわ!」
プリムは闇のオーラを増大させる。これを見るに、今までは本気ではなかったようだった。
「ぬるいっ!」
だが、住職もまったく怯む様子はない。それどころか、逆にプリムの懐へと飛び込んでいっている。その動きには、まったくの躊躇がなかった。
「ふむ、近くで見ると、闇に堕ちても美しいな。さすがは私が惚れた相手だ」
「ほざくなっ!」
飛び込んできた住職を、プリムは一閃、薙ぎ払う。だが、住職はそれを軽く躱してしまった。
「ふむ、恨みと怒りで力を増しているようだが、精確性に欠けるようだね。軌道が甘い」
躱して着地した住職は、剣を握ってプリムに飛び掛かる。
(くっ、速いっ!)
プリムは身構えて、迎撃する。だが、そんなとっさの攻撃で捉えられるほど、住職の動きは易しいものではなかった。
一撃を食らう。プリムは覚悟した。
だが、その次の瞬間、ものすごい音が場に響き渡った。
「喝!」
それは、住職が持つ警策が命中した音だった。スパーンという乾いた音に、プリムもシイロも面食らってしまっていた。
「えっ、えっ?」
「ふっ、私が愛した妻を斬るわけがないじゃないですか。ですので、その性根を叩き直してあげましょう。ああ、これですか。禅で使う警策という叩き棒ですよ。音はすごいですけれど、痛くはありませんから……」
ここまで言って、住職の表情が一気に変わる。
「覚悟して下さいね?」
顔は笑顔だというのに、放たれるオーラが実に禍々しい。下手をするとプリムよりもどす黒いのではないのだろうか。
「シイロはそこで見ていて下さい。親子での殺し合いなど、見たくありませんから」
「えっ、あっ、はい……」
住職に気圧されて、シイロはおとなしく引き下がる事しかできなかった。
「私も後悔をしているんですよ。自分のあの時の選択が正しかったのか。まったく、周りになんだかんだ言われて、あなたを城に迎え入れられなかった自分が情けない限りです。だからこそ、シイロにはあれ以上の苦労は掛けたくなかった……」
警策を構えて、住職はプリムを見る。
「ですので、私は過去との決別のために、この夫婦喧嘩に臨むのです。プリム! ……全力で掛かってきて下さい」
住職は、じっとプリムを睨み付けた。
「はっ、言われなくてもやってあげるわ。私が満足するのが先か、お前が死ぬのが先か、徹底的にやり合ってやろうじゃないの!」
プリムはオーラを爆発させる。ただ、その顔はどういうわけか、少し笑っているように見えたのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる