マジカル☆パステル

未羊

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第135話 来たる決戦に向けて

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「そうですわよ。盲点でしたわ。なんでわたくしたちったら一人で技を放つ事にこだわっていたのかしら」
 雪路のテンションが上がっている。
「ちょっと、雪路。興奮し過ぎよ」
 楓が落ち着かせようとしている。
「あら、これは申し訳ございませんでしたわ」
 肩を掴まれて揺すられると、雪路は何とか落ち着いた。これにしても、お嬢様言葉を話す割には、雪路は少々お嬢様からかけ離れた言動が目立って仕方がない。
「杏さんと楓さんは双子で同じ秋を司っていますわ。おそらく、わたくしたちの誰よりも技の相性はよろしいと思いますのよ」
 ものすごく目を輝かせながら話す雪路。その勢いに楓が少し引いている。
「だったらぁ、ちょっと試してみな~い?」
 イエーロの提案に乗り、四人はいつものヘリポートへと向かった。
 ヘリポートについたところで、イエーロは化け物を呼び出す。
「この子を的に、試してみたらいいわよ~。正直ちょっと可哀想なんだけどね~」
 イエーロはポンポンと化け物を叩いている。
「モノォ……」
 化け物は心配しなくていいといったような声を出している。まあ、これが分かるのはイエーロと、しばらくモノトーンに居た楓の二人だけである。
「まあ、敵対してきたあなたたちには、分からないでしょうねぇ。でも、私たちにとっては一番身近に居る子たちだもの~、愛着だって湧いたりするわよぉ?」
 杏が特に理解できなさそうな顔をしているが、双子の姉である楓がしばらくモノトーンに居たという事実もあるし、何とか理解しなきゃなといった気持ちになってしまう。
「別にいいのよ、杏。無理しなくてもいいわ」
「姉さん……」
 楓に声を掛けられて、杏は少しぼうっとしてしまった。
「コホン、それじゃ早速始めますわよ。いつ次の戦いが始まるか分かりませんから、できる限りの事をしておきましょう」
 雪路が咳払いをして声を掛けてくると、杏と楓ははっと我に返って雪路の方を見る。
「ご、ごめん」
 杏は謝っていた。
「別に姉妹で戯れるのは構いませんわよ。ただ、状況を考えて下さいませ」
 雪路のお小言を食らう杏と楓であった。
「とはいえ、協力技といってもいまいちピンときませんわね」
「それは別にいいんじゃないかしらねぇ。別々に放ってそれを合体させるでも構わないと思うわよ~」
 雪路が腕を組んで考え込む。それに対してイエーロが的確にアドバイスを送っている。
「ほらぁ、パステルオレンジの葉っぱの洪水と、パステルパープルの吹雪を合わせるとか、いろいろあるでしょう?」
 イエーロの提案に驚き、口を開けて呆然とする三人。イエーロって実は頭が良かったのだろうか。意外な事実である。
「やってみる価値はありますわね」
 というわけで、思いつく限りの技を試し、日が暮れるまで特訓を繰り返す四人であった。

 一方の千春と美空は、今日も美空の部屋に集まっていた。チェリーとグローリもちゃんと居る。
「はあ、部活があるといっても、あっちの三人とは本当に別行動ばっかだな」
「仕方ないわよ。それぞれの生活があるんだから」
 愚痴る千春を、美空が窘めている。
「それにしても、私ってやっぱり足手まといなのかな?」
 急に美空が表情を曇らせて呟く。
「何を言ってるんだよ、美空」
「だってそうでしょ。モノトーンとの戦いで私だけあまり活躍できてないんだもの」
「そんな事は全然ないぞ。要所要所で牽制してくれるから、俺たちがきちんと戦えてるんだよ」
 実際、パステルシアンの反射だったり、弓矢による攻撃は効果的に働いていた。しかし、反射を過信して怪我を負ったりと、五人の中では最も危なっかしい状態なのも事実なのだ。特に負傷や気絶による離脱は美空の心に重くのしかかっていた。
 先日の三傑との戦いでも、脇腹を負傷して離脱して、グローリに治癒してもらう事でなんとか動けるまでに回復している。こういった状況が、美空の自虐的な心理に大きく働きかけているというわけである。
「まったく、お前は自分は卑下しすぎなんだよ。この間だって、お前が全力で庇ってくれたからこそ、こうやって俺たちは無事でいるんだ。落ち込む事じゃない、むしろ誇る事だぜ」
 千春は美空の肩に手を置いて諭している。
「そうよ、美空はとても頑張っているわ」
「うん、とっさとはいっても、あのシイロの攻撃に対して飛び込むのはなかなかできる事じゃないと思う」
 口々にフォローをする。
「でもまぁ、あんまり無茶してほしくないのは事実なんだよな。俺が気が気じゃなくなるからよ」
 千春はそう言いながら、頬を指で掻いている。顔を見る限り照れくさそうにしているようだ。
「千春……」
 美空はその千春の顔を惚けたように見つめている。
「とにかくだ。近いうちにシイロとの再戦があるはずだ。できる限りの事をして迎え撃とうぜ!」
「おおーっ!」
 千春が両拳を胸の前でかち合わせながら意気込むと、チェリーがそれに合わせて声を上げる。その様子を見ながら、美空とグローリはおかしそうに微笑むのだった。

 残るモノトーンはシイロとダクネースの二人だけとなった。だが、シイロとの実力差ははっきりしている。はたして千春たちはこの強大な敵に立ち向かい、無事に勝利を収める事ができるのだろうか。
 シイロとの再戦の時は、着実に近付いていた……。
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