マジカル☆パステル

未羊

文字の大きさ
上 下
113 / 197

第113話 住職の過去話

しおりを挟む
「で、どういうわけなんだよ」
 そう話すのは招集を掛けられたワイスである。それだけではなく、チェリーとグローリも含めて、聖獣が全員集められていた。
「大王様、それは本当なのですか?」
 そう質問するのはグローリだ。この事実を、聖獣の誰もが受け入れられるわけがないのだ。一番事情に詳しいワイスですら知らなかった事実なのだから。
「さすがに俺っちでも呆れて物が言えねえぜ。まさか、大王が無節操だったとはなぁ……」
「ワイス、その言い方はないんじゃないか?」
 チェリーがツッコミを入れる。
「正式な王妃を迎えずに子を成したんだ。それくらい言われても仕方ないと思うぜ」
 ワイスは辛辣である。
「いやはや、事実なだけにつらいですな……」
 住職は顔を伏せたまま呟いている。さすがにこの状況は雰囲気が重すぎる。
「ですが、あの女性、プリムの体質的な事もあって、王妃として迎え入れる事を諦めたのです。レインとシイロを出産した後の彼女は、それは分かるくらいに衰弱していましたからね。王城に迎え入れても負担になるんじゃないかと思って、生活の支援を出す事で身を隠してもらったのです」
 住職が重苦しい雰囲気で当時の事を語っている。当時は国王としての責務もあったがために、プリムの体調を考えた結果、城に迎え入れる事を諦めたのだった。乳母として迎え入れたとしても、その責務に押し潰されるのではないかと。
 しかし、生まれた子どもを両方ともどちらかに残す事はできず、双子だったがために、それぞれに一人ずつ分ける形となってしまったのだ。
 それによって王家に引き取られたのがレイン、プリムに引き取られたのがシイロだったのだ。
 ちなみにそのシイロは今は客間で寝かされている。気を失っている状態で下手に浄化をした場合、シイロがどうなるか分からないからだ。この色鮮寺の敷地内であれば、モノトーンの力は発揮できないので、とりあえずは安全のはずである。
 さて、話を昔話に戻そう。
 チュナラ国王は、その後も視察の度にプリムとシイロの事を見に行っていた。あまり健康そうには見えないプリムではあったが、笑顔でお忍びの国王を迎えては言葉を交わしていた。プリムを見るに、恨んでいるような様子はなかったようだが、無理をしているように見えた。国王は王族の使う別荘でゆっくりしないかと尋ねると、プリムは首を横に振っていたという。
 そうして、レインとシイロが10歳を迎える頃に、プリムは体調を崩して亡くなった。嫌な予感がした国王はプリムの家に向かうと、母の墓を前にして泣き崩れるシイロとあったというわけなのだ。
 その時になって初めて、国王は自分が愚かな選択をしたと後悔した。だからこそ、懺悔のつもりで、シイロを城へと迎え入れる事にしたのだ。ただ、世間へ発表した娘はレインのみなので、シイロを娘として発表する事はできなかった。
 そこで取った苦肉の策が、レインの護衛騎士という立場である。これならば二人が一緒に居ても何らおかしくはない。せめてもの罪滅ぼしになるのではないかと、国王は考えたのだった。
 だが、護衛騎士とするのであれば、それなりの技術を身に付けさせねばならない。そこで次に国王が取った手段は、自分が師匠としてシイロを鍛え上げる事だった。国王自身も騎士として腕を磨いた時期があるので、できない事はない。
 それからというもの、親子のスキンシップというにはあまりにも過激な騎士としての訓練を、国王はシイロに課した。最初の頃こそ泣きじゃくっていたシイロも、レインと一緒に居たいという気持ちから徐々に肉体的にも精神的にも成長していった。
「いやぁ、女王の護衛騎士の話は聞いた事があったが、そういう経緯があったのか」
「雰囲気のせいで分からなかったけれど、確かに女王様と似ているところがあるわね」
「そうね。髪色とか顔立ちとか、女王様を思い起こさせるわね。よく見ればだけど」
 聖獣たちがそれぞれに感想を言っている。
「だけどよ、大王が亡くなるより前だよな、シイロ……護衛騎士が消えたのは」
「そうですね。私が亡くなる数年前の話ですね。……ワイスが何を疑問視している分かりかねますが、次元を飛び越えるという事は、時間と空間の捻じれが起きてしまうものなのです。時間的な整合性が取れない事を気にしても仕方ないですよ」
「そうか、どうにも時間が合わないなと思ってたんだが、この分だと時間の流れが同じってわけじゃねえんだな」
 腑には落ちないが、なんとなく合点がいくワイス。パステル王国と地球とモノトーン空間の時間の流れは過去から未来への流れは同じでも、時間の長さがばらばらのようである。
「まあ、それはそれとして、あの時に何があったのかは、本人も交えてお話しする事にしましょう」
 住職がこう言うと、ワイスたちが客間の方を見る。するとそこには、シイロが目を覚まして立っていたのだ。
「パステル王国の聖獣どもが……」
 恨みのこもった鋭い目が、杏たちに注がれる。
「さっきまで寝ていたんです。シイロさん、無理をしないでちょっとお話しませんか?」
 住職がにこりと微笑むと、シイロは逆らえないと思ったのか、渋々住職の対面に座ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...