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第103話 仮想訓練
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冬柴邸に入って、簡単に汗を拭った千春と美空は、雪路たちと同じ食卓に就く事になってしまった。よく見れば周りにはメイドや執事がたくさん並んでいて、その中での食事はとても緊張するというものである。
「ふふっ、緊張するのは分かりますが、お気になさらずに。どうしてもと言うのでしたら下がらせますわ」
雪路はとても冷静だった。さすがはお嬢様、このような状況には慣れ切っているのである。
「いや、うん、その……な」
「そ、そうね」
千春と美空が何やらもぞもぞとしているので、雪路はすっと右手を挙げる。すると、使用人たちは一斉に部屋から出ていって、中には千春と美空、それと雪路の三人だけが残されたのだった。
「パステル王国の話となると、他の人たちを居座らせるわけにはいきませんものね。これで落ち着いて話ができますかしら?」
雪路はにこりと微笑んだ。さすがは頼れるお嬢様といったところだ。
「悪いな」
「いいですのよ。あなた方が何もしない事は使用人たちは分かって下さってますし、むしろ私たちだけでなければ話せない事は多いですものね」
千春が軽く謝罪をすると、雪路はにこやかなままそう言った。
「どうせ、新しい能力である、武器の事なのでしょう? 私の盾も扱いづらかったですもの。お二人ならなおさら悩んでいる事くらい、想像に難くありませんわよ」
雪路はすべてお見通しだった。
「パステルピンクは剣、パステルシアンは弓でしたわね。となると、あれが役に立ちますかしら」
雪路は何か思い当たった事があって、あごに手を当てていた。
「うん、どうしたんだ?」
「ふふっ、ちょうど良さそうなものがこの屋敷にございますので、後でご案内致しますわ」
千春が気になって声を掛けると、雪路はにこりと微笑んでいた。その様子に千春と美空は首を傾げている。
「後になれば分かる事ですわ。さあ、今はご飯を片付けて下さいませ」
雪路があまりに急かしてくるものだから、千春と美空は訳も分からず、仕方なくお昼を済ませる事になった。
食事を済ませてやって来たのは、冬柴家の屋敷ならほぼ備えているというトレーニングルームだった。
「ここには最新設備を揃えっていますのでね。実はVRを使った設備もございますのよ。午後はそれを使ってみようかと思いますの。要はイメージトレーニングですわ」
雪路に連れられてやってきた場所には、大きな液晶パネルが備え付けてあり、そこには何やらごてごてにセンサーやコードのついたヘルメットとゴーグル、それと手袋などが置かれていた。
「こ、これは……」
千春たちは驚いて口をあんぐりとさせている。
「スポーツ選手なども使う設備ですわよ。部屋の中にたくさんあるセンサーを使って、ヴァーチャル世界でイメージトレーニングを行う部屋ですわ」
とんでもない設備に千春も美空もまったく言葉が見つからない。ただただ呆然と驚きに徹している状態だった。
「今日のお二人は上半身だけで十分かと思いますので、手袋をお使い下さいな」
雪路がそう言うと、設備の管理人などのスタッフたちが、千春と美空をモニタの前まで連れいていって、センサーを装着させていった。これがまたなんとも重量があるので、二人ともに辛そうな声を上げていた。
「ゴーグルを使うとより立体的に見えますわよ。お二人にはそれぞれの目の前に藁人形が見えていると思いますわ」
雪路は二人が少しよろめいている事を無視して、画面の説明をしていく。
「手元には剣と弓が置いてあると思いますので、それを掴んでみて下さいませ」
雪路の声に反応して、千春と美空は画面の中の剣と弓を手に取った。
「ううっ、画面には慣れねえが、これはこれで面白いな」
「物は存在していないはずなのに、手に取ったら触った感触があったわ。不思議なものね」
「ふふっ、これが冬柴家の技術なのですよ。本当にお父様たちは素晴らしいですわ」
二人が感動するのを聞いて、得意げになる雪路である。
とにかく二人の準備が整ったので、早速二人にはVRを使った特訓をしてもらう。ちなみに二人が持つ剣と弓矢には一般的な重量が設定されており、千春の剣の軌道は実に剣を振り回すのではなく、振り回されているとしか思えないくらいにめちゃくちゃだった。美空の方は弓が満足に引けないという状態である。さすがパステル戦士の武器は普通のとは違うという事らしい。
「うへぇ、剣ってこんなに重いのかよ」
「弓が全然引けないわね。こんなに力が要るなんて思ってもみなかったわ」
二人揃って、まったく武器を扱えていなかった。これが現実と魔法の差というものだろう。
「仕方ありませんわね。装備の材質を変えてみますわ。お願いできるかしら」
「畏まりました、雪路お嬢様」
技術の人が設定を変えていく。一般的な材質から、剣は丈夫で軽量な材質に、弓は軽い力でしなる材質へと変更していく。ヴァーチャルだからできる簡単な変更である。
「これでさっきよりはマシになるかと思います。どうぞお試し下さい」
技術者がそう言うので、千春と美空は試しに材質が変更された装備を扱ってみる。
「あっ、こんな感じだったわ」
「うん、確かにこんなもんだった」
どうやらパステル装備に近付いたようである。
というわけで、二人には存分にVRによる特訓に励んでもらった。
「お嬢様、これをして一体何の役に立つのでしょうか……」
「それは内緒ですわ。それでも、これは必要な事ですから、黙って従って下さいませ」
「わ、分かりました」
渋々技術の人は黙ってその様子を見守る事にした。
この後は雪路も盾の特訓のために、自分の分も用意してもらっていた。
モノトーンたちとの決戦もいずれやって来るのだ。そのための努力を惜しまない雪路たちであった。
「ふふっ、緊張するのは分かりますが、お気になさらずに。どうしてもと言うのでしたら下がらせますわ」
雪路はとても冷静だった。さすがはお嬢様、このような状況には慣れ切っているのである。
「いや、うん、その……な」
「そ、そうね」
千春と美空が何やらもぞもぞとしているので、雪路はすっと右手を挙げる。すると、使用人たちは一斉に部屋から出ていって、中には千春と美空、それと雪路の三人だけが残されたのだった。
「パステル王国の話となると、他の人たちを居座らせるわけにはいきませんものね。これで落ち着いて話ができますかしら?」
雪路はにこりと微笑んだ。さすがは頼れるお嬢様といったところだ。
「悪いな」
「いいですのよ。あなた方が何もしない事は使用人たちは分かって下さってますし、むしろ私たちだけでなければ話せない事は多いですものね」
千春が軽く謝罪をすると、雪路はにこやかなままそう言った。
「どうせ、新しい能力である、武器の事なのでしょう? 私の盾も扱いづらかったですもの。お二人ならなおさら悩んでいる事くらい、想像に難くありませんわよ」
雪路はすべてお見通しだった。
「パステルピンクは剣、パステルシアンは弓でしたわね。となると、あれが役に立ちますかしら」
雪路は何か思い当たった事があって、あごに手を当てていた。
「うん、どうしたんだ?」
「ふふっ、ちょうど良さそうなものがこの屋敷にございますので、後でご案内致しますわ」
千春が気になって声を掛けると、雪路はにこりと微笑んでいた。その様子に千春と美空は首を傾げている。
「後になれば分かる事ですわ。さあ、今はご飯を片付けて下さいませ」
雪路があまりに急かしてくるものだから、千春と美空は訳も分からず、仕方なくお昼を済ませる事になった。
食事を済ませてやって来たのは、冬柴家の屋敷ならほぼ備えているというトレーニングルームだった。
「ここには最新設備を揃えっていますのでね。実はVRを使った設備もございますのよ。午後はそれを使ってみようかと思いますの。要はイメージトレーニングですわ」
雪路に連れられてやってきた場所には、大きな液晶パネルが備え付けてあり、そこには何やらごてごてにセンサーやコードのついたヘルメットとゴーグル、それと手袋などが置かれていた。
「こ、これは……」
千春たちは驚いて口をあんぐりとさせている。
「スポーツ選手なども使う設備ですわよ。部屋の中にたくさんあるセンサーを使って、ヴァーチャル世界でイメージトレーニングを行う部屋ですわ」
とんでもない設備に千春も美空もまったく言葉が見つからない。ただただ呆然と驚きに徹している状態だった。
「今日のお二人は上半身だけで十分かと思いますので、手袋をお使い下さいな」
雪路がそう言うと、設備の管理人などのスタッフたちが、千春と美空をモニタの前まで連れいていって、センサーを装着させていった。これがまたなんとも重量があるので、二人ともに辛そうな声を上げていた。
「ゴーグルを使うとより立体的に見えますわよ。お二人にはそれぞれの目の前に藁人形が見えていると思いますわ」
雪路は二人が少しよろめいている事を無視して、画面の説明をしていく。
「手元には剣と弓が置いてあると思いますので、それを掴んでみて下さいませ」
雪路の声に反応して、千春と美空は画面の中の剣と弓を手に取った。
「ううっ、画面には慣れねえが、これはこれで面白いな」
「物は存在していないはずなのに、手に取ったら触った感触があったわ。不思議なものね」
「ふふっ、これが冬柴家の技術なのですよ。本当にお父様たちは素晴らしいですわ」
二人が感動するのを聞いて、得意げになる雪路である。
とにかく二人の準備が整ったので、早速二人にはVRを使った特訓をしてもらう。ちなみに二人が持つ剣と弓矢には一般的な重量が設定されており、千春の剣の軌道は実に剣を振り回すのではなく、振り回されているとしか思えないくらいにめちゃくちゃだった。美空の方は弓が満足に引けないという状態である。さすがパステル戦士の武器は普通のとは違うという事らしい。
「うへぇ、剣ってこんなに重いのかよ」
「弓が全然引けないわね。こんなに力が要るなんて思ってもみなかったわ」
二人揃って、まったく武器を扱えていなかった。これが現実と魔法の差というものだろう。
「仕方ありませんわね。装備の材質を変えてみますわ。お願いできるかしら」
「畏まりました、雪路お嬢様」
技術の人が設定を変えていく。一般的な材質から、剣は丈夫で軽量な材質に、弓は軽い力でしなる材質へと変更していく。ヴァーチャルだからできる簡単な変更である。
「これでさっきよりはマシになるかと思います。どうぞお試し下さい」
技術者がそう言うので、千春と美空は試しに材質が変更された装備を扱ってみる。
「あっ、こんな感じだったわ」
「うん、確かにこんなもんだった」
どうやらパステル装備に近付いたようである。
というわけで、二人には存分にVRによる特訓に励んでもらった。
「お嬢様、これをして一体何の役に立つのでしょうか……」
「それは内緒ですわ。それでも、これは必要な事ですから、黙って従って下さいませ」
「わ、分かりました」
渋々技術の人は黙ってその様子を見守る事にした。
この後は雪路も盾の特訓のために、自分の分も用意してもらっていた。
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