89 / 197
第89話 夜空の下で
しおりを挟む
昼間に海で騒いでいた千春たちは、夜は別荘でくつろいでいる。
「はあ~~……。イエーロの奴、めちゃくちゃしごいてきやがって……」
夕食後、千春はベッドに倒れ込んだ。広い客間に一人だけと、話し相手も居なくて少し虚しい感じだ。ちなみにチェリーたちは杏や楓と一緒に居る。聖獣が揃う事もこうやって揃う事もそれほどないからだ。なにせ、杏と楓、パシモとメルプの二人は今は人間の姿なのだ。そのせいで生活リズムが完全に人間になってしまっているので、聖獣同士で集まりにくいというわけだ。なので、千春が一人の状態になっていても、文句は言いづらいのである。
ちなみに部屋割りは、千春が一人、杏と楓のペア、そして、美空と雪路という組み合わせである。イエーロは冬柴家の居候なので、部屋は使用人たちと一緒になっている。
「あーくそ。一人じゃ暇だな」
千春はベッドの上でゴロゴロとしている。宿題は終わらしてきたし、旅行だからといって漫画の類は持ってきていない。本当に暇で仕方なかった。
千春は仕方なく、腕立て伏せとかを始めて時間を潰す。すると、部屋の扉が突然ノックされた。
「千春、起きてる?」
美空の声だった。それに反応して、千春は部屋の扉を開ける。
扉の向こうには、浴衣を着た美空たち四人が立っていた。その手を見ると花火セットが握られている。どうやら浜辺で花火をするつもりのようである。
「美空、どうしたんだ」
服装と手に持っているもので察した千春だが、そこは空気を読んで気が付いていないふりをする。
「うん、これからみんなで花火をしようと思うの。一緒にどう?」
そしたら、開口一番に花火と言ってきた。隠すつもりは最初からなかったようである。まぁ後ろに杏たちも居るからそうなるのだろう。
千春は頭をぽりぽり掻きながら、
「ちょうど暇してたんだ。せっかく海に来てるんだし、それもいいか」
と誘いを受けていた。その答えに美空の表情が明るくなったのだが、その後ろでは三人がうんうんと頷いていた。一体どういうつもりの頷きなのだろうか。
そんなわけで、千春は美空に引っ張られる形で部屋から連れ出されてしまった。普段はか弱い少女なのだが、こういう時ばかりはなぜかものすごく力が強かった。なにせ、千春が踏ん張るタイミングを見失うくらいに強引だったのだから。
気が付いたら、千春たちは浜辺に出てきていた。そこには警備担当の使用人を除いて、使用人たちが勢ぞろいしていて、イエーロもちゃっかり混ざっていた。使用人たちに見えないものの、チェリーたち聖獣も揃っている。
空は晴れ渡っていて、満天の星空が広がっている。さすがは冬柴家のプライベートビーチ、周りには民家もなくて、宵闇の空間が広がっている。その中で、使用人が二人ほど懐中電灯で浜辺を照らしている。
その暗闇の中で、点火用のろうそくに火を灯して、冬柴家主催のこじんまりとした花火大会が始まる。
この時ばかりは、杏や楓もモノトーンの事を忘れて花火に興じている。ねずみ花火に火をつけた時は、杏と楓はそのしゅんしゅんと動き回る様にものすごく驚いていた。千春は豪快なのが好きなのか、ロケット花火に火をつけては打ち上げていた。それぞれが思い思いに花火を楽しんでいた。
本当にモノトーンの襲撃以降は、なかなかこうやってのんびりする機会がなかった。相手が未知の連中な上に、千春たちが自分たちの能力に慣れていなかった事もあり、毎日が緊張の中にあったのである。
モノトーン三傑も、とても油断のできない相手である事には違いない。しかし、いつも緊張してばかりでは精神的に参ってしまう。本当にこういった気分転換の場は、千春たちにとってプラスに働くだろう。本当にみんな、心から笑顔を浮かべていた。
手持ちの花火が終わる頃になると、雪路が何やら使用人たちに合図を送る。それに反応して、使用人たちはすぐさま何やら準備を始めた。
しばらくすると、入れないように区切られていたスペースに、何かを積んだ軽トラックがやって来る。
「うおっ、打ち上げ花火の筒じゃねえか」
そう、各所で行われる打ち上げ花火に使われるような筒だった。
「冬柴家の財力を甘く見ないで下さいますこと?」
どういうわけか自慢げに語る雪路。まあ雪路だって動画投稿者として(自分の家からしたら取るに足らないが)お金を稼いでいる身である。まさか本格的な花火を準備しているとは思わなかった。
この準備で呆然とする中、優秀な使用人は花火点火用のろうそくを危険だからとさっさと撤去していた。さすがの使用人たちである。あっという間に準備が整うと、本職の花火職人たちが出てきて、打ち上げの準備を始めた。ちなみにこの打ち上げ花火は近隣住民にもお知らせしてあるらしい。なんという周到さなのだろうか。
準備が進む間に、打ち上げ花火の真下は危険だという事で、千春たちは浜辺から別荘付近まで下がっていた。
「さあ、冬柴家恒例の打ち上げ花火を見せてさし上げますわ!」
雪路がこう言うと、次々と花火が打ち上がる。その数は全部で200発ほど。花火大会としては小規模だが、それでも個人で行うには十分な量だった。
時間にしてそう長くはなかったものの、夜空に大輪の花を咲かせる花火の美しさに皆酔いしれたのだった。
「はあ~~……。イエーロの奴、めちゃくちゃしごいてきやがって……」
夕食後、千春はベッドに倒れ込んだ。広い客間に一人だけと、話し相手も居なくて少し虚しい感じだ。ちなみにチェリーたちは杏や楓と一緒に居る。聖獣が揃う事もこうやって揃う事もそれほどないからだ。なにせ、杏と楓、パシモとメルプの二人は今は人間の姿なのだ。そのせいで生活リズムが完全に人間になってしまっているので、聖獣同士で集まりにくいというわけだ。なので、千春が一人の状態になっていても、文句は言いづらいのである。
ちなみに部屋割りは、千春が一人、杏と楓のペア、そして、美空と雪路という組み合わせである。イエーロは冬柴家の居候なので、部屋は使用人たちと一緒になっている。
「あーくそ。一人じゃ暇だな」
千春はベッドの上でゴロゴロとしている。宿題は終わらしてきたし、旅行だからといって漫画の類は持ってきていない。本当に暇で仕方なかった。
千春は仕方なく、腕立て伏せとかを始めて時間を潰す。すると、部屋の扉が突然ノックされた。
「千春、起きてる?」
美空の声だった。それに反応して、千春は部屋の扉を開ける。
扉の向こうには、浴衣を着た美空たち四人が立っていた。その手を見ると花火セットが握られている。どうやら浜辺で花火をするつもりのようである。
「美空、どうしたんだ」
服装と手に持っているもので察した千春だが、そこは空気を読んで気が付いていないふりをする。
「うん、これからみんなで花火をしようと思うの。一緒にどう?」
そしたら、開口一番に花火と言ってきた。隠すつもりは最初からなかったようである。まぁ後ろに杏たちも居るからそうなるのだろう。
千春は頭をぽりぽり掻きながら、
「ちょうど暇してたんだ。せっかく海に来てるんだし、それもいいか」
と誘いを受けていた。その答えに美空の表情が明るくなったのだが、その後ろでは三人がうんうんと頷いていた。一体どういうつもりの頷きなのだろうか。
そんなわけで、千春は美空に引っ張られる形で部屋から連れ出されてしまった。普段はか弱い少女なのだが、こういう時ばかりはなぜかものすごく力が強かった。なにせ、千春が踏ん張るタイミングを見失うくらいに強引だったのだから。
気が付いたら、千春たちは浜辺に出てきていた。そこには警備担当の使用人を除いて、使用人たちが勢ぞろいしていて、イエーロもちゃっかり混ざっていた。使用人たちに見えないものの、チェリーたち聖獣も揃っている。
空は晴れ渡っていて、満天の星空が広がっている。さすがは冬柴家のプライベートビーチ、周りには民家もなくて、宵闇の空間が広がっている。その中で、使用人が二人ほど懐中電灯で浜辺を照らしている。
その暗闇の中で、点火用のろうそくに火を灯して、冬柴家主催のこじんまりとした花火大会が始まる。
この時ばかりは、杏や楓もモノトーンの事を忘れて花火に興じている。ねずみ花火に火をつけた時は、杏と楓はそのしゅんしゅんと動き回る様にものすごく驚いていた。千春は豪快なのが好きなのか、ロケット花火に火をつけては打ち上げていた。それぞれが思い思いに花火を楽しんでいた。
本当にモノトーンの襲撃以降は、なかなかこうやってのんびりする機会がなかった。相手が未知の連中な上に、千春たちが自分たちの能力に慣れていなかった事もあり、毎日が緊張の中にあったのである。
モノトーン三傑も、とても油断のできない相手である事には違いない。しかし、いつも緊張してばかりでは精神的に参ってしまう。本当にこういった気分転換の場は、千春たちにとってプラスに働くだろう。本当にみんな、心から笑顔を浮かべていた。
手持ちの花火が終わる頃になると、雪路が何やら使用人たちに合図を送る。それに反応して、使用人たちはすぐさま何やら準備を始めた。
しばらくすると、入れないように区切られていたスペースに、何かを積んだ軽トラックがやって来る。
「うおっ、打ち上げ花火の筒じゃねえか」
そう、各所で行われる打ち上げ花火に使われるような筒だった。
「冬柴家の財力を甘く見ないで下さいますこと?」
どういうわけか自慢げに語る雪路。まあ雪路だって動画投稿者として(自分の家からしたら取るに足らないが)お金を稼いでいる身である。まさか本格的な花火を準備しているとは思わなかった。
この準備で呆然とする中、優秀な使用人は花火点火用のろうそくを危険だからとさっさと撤去していた。さすがの使用人たちである。あっという間に準備が整うと、本職の花火職人たちが出てきて、打ち上げの準備を始めた。ちなみにこの打ち上げ花火は近隣住民にもお知らせしてあるらしい。なんという周到さなのだろうか。
準備が進む間に、打ち上げ花火の真下は危険だという事で、千春たちは浜辺から別荘付近まで下がっていた。
「さあ、冬柴家恒例の打ち上げ花火を見せてさし上げますわ!」
雪路がこう言うと、次々と花火が打ち上がる。その数は全部で200発ほど。花火大会としては小規模だが、それでも個人で行うには十分な量だった。
時間にしてそう長くはなかったものの、夜空に大輪の花を咲かせる花火の美しさに皆酔いしれたのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
黒髪の聖女は薬師を装う
暇野無学
ファンタジー
天下無敵の聖女様(多分)でも治癒魔法は極力使いません。知られたら面倒なので隠して薬師になったのに、ポーションの効き目が有りすぎていきなり大騒ぎになっちまった。予定外の事ばかりで異世界転移は波瀾万丈の予感。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる