79 / 197
第79話 イエーロの葛藤
しおりを挟む
「えー、今日からこちらの方にサッカー部の手伝いをして頂く事になりました。それでは家路先生、よろしくお願い致します」
もの凄い嫌そうな顔をしながら、サッカー部の顧問が紹介している人物、なんとそれは元モノトーン四天王のイエーロだった。
実は先日、千春がイエーロに稽古をつけてもらっていた時の事、流れでこういう事になってしまったのだった。ちなみに雪路の了承ももらえている。というわけで、あとは冬柴家の力でもって無理やり捻じ込んで、今のこの状況となっているのである。
「はーい、みなさ~ん。今日からご一緒させて頂く家路よ~。ふふっ、よろしくね~」
オネエ言葉全開で挨拶をするイエーロ。部員はほとんどが嫌そうな顔をしたのは言うまでもないが、まったく逆の表情をしたのが居たのがちょっとだけ気になる千春だった。
「いいかしら、みなさん。私の事をただの筋肉質な人だと思ってるでしょう? それは違いだっていう事を、まずは見せてあげるわよ~」
イエーロはそう言ってサッカーボールを1個を地面に置くと、華麗にドリブルをこなし、しっかりシュートまで決めていた。一体いつの間に練習したのだろうか。とにかくあまりに見事にシュートを決めていたので、部員たちは騒めいていた。
「さぁて、私の訓練について来れるのはどれくらいいるかしらねぇ」
イエーロはすごく楽しみにしているのか、不気味に笑っていた。
正直言うと、イエーロの特訓は厳しかった。さすがあの肉体美を維持しているだけあってか、生半可な訓練ではなかった。片手腕たせ伏せとかも平気でこなせるあたり、イエーロは本当はただ者ではなかったようだ。当然ながら、中学生には厳しすぎるために、誰一人としてイエーロの訓練に耐えきれなかった。
「あらあらぁ、ちょっとやり過ぎちゃったかしらね。でもねぇ、何をするにも一に筋肉、二に筋肉よぉ。鍛えておけば、多少の事ではびくともしなくなるんだからぁ」
イエーロはすさまじいまでの筋肉推しのようである。
「お姉さんに任せておけば、しなやかで丈夫な筋肉を身に付けられるわよぉ。そうしたら、動きも今までとは違ってくるはずだから、楽しみにしててね~」
結局、この日の練習はほぼ筋トレで終わってしまった。もう全員がひっくり返ってしまっていて、呼吸もすごく乱れている。だが、イエーロ自体はピンピンとしていた。その姿に、「こいつに本気出されないまま倒せてよかった」と心底思った千春と美空だった。
練習を終えた千春は、服を着替えて美空と合流する。
「あー、イエーロの奴、最初から最後まで筋トレだったじゃねーかよ。くそう、すでにあちこち痛いじゃねーか」
「あらあら、鍛え方が足りないわねぇ」
「ぬわっ!」
千春が愚痴っていると、後ろからイエーロが現れた。急に現れたものだから、千春が大きな声を上げて驚いている。
「ちょっとぉ、耳が痛くなるじゃないのよぉ」
あまりに大きな声だったので、イエーロは文句を言ってくる。
「いきなり現れる奴が悪いんだよ!」
千春が文句を言っていると、美空が一生懸命宥めている。こんな所でけんかをしている場合ではないのだ。
「言っておくけどぉ、悠長にしている暇なんてないのよぉ? すでに三傑の一人が襲撃してきてるんだからねぇ」
「な、なんだって!?」
イエーロから告げられた現実に、千春と美空が驚いている。
「あらやだ、気が付いてなかったのぉ?!」
あまりの驚き様に、イエーロも驚いている。
「呆れたわぁ。あなたたちの聖獣は何をしていたのかしらぁ」
本当に開いた口が塞がらないといった気分になるイエーロ。なので、周りを確認すると、イエーロは二人にその時の状況を話した。
雪路たちが学校の帰り道で三傑のうちの一人、漆黒のブラークと対峙した事。モノトーンの力に汚染されたワイスをモノトーンに変化させて襲わせた事。この二点だけを、千春と美空に説明するイエーロ。だが、あえてパステルブラウンの事は伏せておいた。この事だけは、雪路から口止めされていたからだ。これは杏と楓の二人からも言われたので、イエーロはそれだけは伏せたというわけである。
「俺たちの知らない間にそんな事が……」
「ええ。だから、私はこうやってあなたたちに付くように仕向けられたってわけ。このままじゃ向こうの三人との実力差は開く一方だもの。特に、ピンクである千春には強くなってもらわないとね」
イエーロは片目を閉じて、半分見下したような視線を向けている。正直この二人は、伝説の戦士としては弱すぎるのだ。本来ならリーダーと参謀となるらしいのだが、二人のあらゆる面がそれから程遠いのである。パステルシアンの反射技があるとはいっても、今の開き直ったイエーロなら余裕で勝てそうなくらいに弱いのだ。
だが、この二人を倒したところで、今のイエーロにはモノトーンに戻る気持ちはない。戻ったところで消されるのが関の山だ。だからこそ、イエーロはこの二人を鍛える事に反対はしない。自分の生き残れる道に賭けるしかないのだ。
腹を括ったイエーロには、もう退路などなかった。とにかく、この二人を鍛えてモノトーンと渡り合えるようにしなければならない。イエーロの苦悩は尽きる事はないのであった。
もの凄い嫌そうな顔をしながら、サッカー部の顧問が紹介している人物、なんとそれは元モノトーン四天王のイエーロだった。
実は先日、千春がイエーロに稽古をつけてもらっていた時の事、流れでこういう事になってしまったのだった。ちなみに雪路の了承ももらえている。というわけで、あとは冬柴家の力でもって無理やり捻じ込んで、今のこの状況となっているのである。
「はーい、みなさ~ん。今日からご一緒させて頂く家路よ~。ふふっ、よろしくね~」
オネエ言葉全開で挨拶をするイエーロ。部員はほとんどが嫌そうな顔をしたのは言うまでもないが、まったく逆の表情をしたのが居たのがちょっとだけ気になる千春だった。
「いいかしら、みなさん。私の事をただの筋肉質な人だと思ってるでしょう? それは違いだっていう事を、まずは見せてあげるわよ~」
イエーロはそう言ってサッカーボールを1個を地面に置くと、華麗にドリブルをこなし、しっかりシュートまで決めていた。一体いつの間に練習したのだろうか。とにかくあまりに見事にシュートを決めていたので、部員たちは騒めいていた。
「さぁて、私の訓練について来れるのはどれくらいいるかしらねぇ」
イエーロはすごく楽しみにしているのか、不気味に笑っていた。
正直言うと、イエーロの特訓は厳しかった。さすがあの肉体美を維持しているだけあってか、生半可な訓練ではなかった。片手腕たせ伏せとかも平気でこなせるあたり、イエーロは本当はただ者ではなかったようだ。当然ながら、中学生には厳しすぎるために、誰一人としてイエーロの訓練に耐えきれなかった。
「あらあらぁ、ちょっとやり過ぎちゃったかしらね。でもねぇ、何をするにも一に筋肉、二に筋肉よぉ。鍛えておけば、多少の事ではびくともしなくなるんだからぁ」
イエーロはすさまじいまでの筋肉推しのようである。
「お姉さんに任せておけば、しなやかで丈夫な筋肉を身に付けられるわよぉ。そうしたら、動きも今までとは違ってくるはずだから、楽しみにしててね~」
結局、この日の練習はほぼ筋トレで終わってしまった。もう全員がひっくり返ってしまっていて、呼吸もすごく乱れている。だが、イエーロ自体はピンピンとしていた。その姿に、「こいつに本気出されないまま倒せてよかった」と心底思った千春と美空だった。
練習を終えた千春は、服を着替えて美空と合流する。
「あー、イエーロの奴、最初から最後まで筋トレだったじゃねーかよ。くそう、すでにあちこち痛いじゃねーか」
「あらあら、鍛え方が足りないわねぇ」
「ぬわっ!」
千春が愚痴っていると、後ろからイエーロが現れた。急に現れたものだから、千春が大きな声を上げて驚いている。
「ちょっとぉ、耳が痛くなるじゃないのよぉ」
あまりに大きな声だったので、イエーロは文句を言ってくる。
「いきなり現れる奴が悪いんだよ!」
千春が文句を言っていると、美空が一生懸命宥めている。こんな所でけんかをしている場合ではないのだ。
「言っておくけどぉ、悠長にしている暇なんてないのよぉ? すでに三傑の一人が襲撃してきてるんだからねぇ」
「な、なんだって!?」
イエーロから告げられた現実に、千春と美空が驚いている。
「あらやだ、気が付いてなかったのぉ?!」
あまりの驚き様に、イエーロも驚いている。
「呆れたわぁ。あなたたちの聖獣は何をしていたのかしらぁ」
本当に開いた口が塞がらないといった気分になるイエーロ。なので、周りを確認すると、イエーロは二人にその時の状況を話した。
雪路たちが学校の帰り道で三傑のうちの一人、漆黒のブラークと対峙した事。モノトーンの力に汚染されたワイスをモノトーンに変化させて襲わせた事。この二点だけを、千春と美空に説明するイエーロ。だが、あえてパステルブラウンの事は伏せておいた。この事だけは、雪路から口止めされていたからだ。これは杏と楓の二人からも言われたので、イエーロはそれだけは伏せたというわけである。
「俺たちの知らない間にそんな事が……」
「ええ。だから、私はこうやってあなたたちに付くように仕向けられたってわけ。このままじゃ向こうの三人との実力差は開く一方だもの。特に、ピンクである千春には強くなってもらわないとね」
イエーロは片目を閉じて、半分見下したような視線を向けている。正直この二人は、伝説の戦士としては弱すぎるのだ。本来ならリーダーと参謀となるらしいのだが、二人のあらゆる面がそれから程遠いのである。パステルシアンの反射技があるとはいっても、今の開き直ったイエーロなら余裕で勝てそうなくらいに弱いのだ。
だが、この二人を倒したところで、今のイエーロにはモノトーンに戻る気持ちはない。戻ったところで消されるのが関の山だ。だからこそ、イエーロはこの二人を鍛える事に反対はしない。自分の生き残れる道に賭けるしかないのだ。
腹を括ったイエーロには、もう退路などなかった。とにかく、この二人を鍛えてモノトーンと渡り合えるようにしなければならない。イエーロの苦悩は尽きる事はないのであった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる