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第71話 ワイスに落ちる影
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イエーロからモノトーン三傑の話を聞いたところで今日のところは解散となる。三傑との戦いに向けて、イエーロも特訓に付き合ってくれるらしい。すっかり敵対的な様子は鳴りを潜めていた。
送るために雪路が車の手配をしている間、楓がワイスに近付く。
(さっき感じた違和感、確認してみなければね)
思い立ったところで楓はワイスに声を掛ける。
「ワイス、ちょっといいかしら」
「なんだい、メルプ。俺っちに何か用か?」
この時の反応は、いたって普通のワイスの反応だ。だが、楓は違和感を拭いきれていない。なので、もう少し突っ込んでみる事にする。
「ワイス、ちょっとどこかおかしいとかない?」
「うん? 俺っちはいつもの通りだぜ。いたって健康だぜ、この通りにな」
楓が心配そうに声を掛けてみるが、ワイスの様子は確かにいつも通りのマイペースでキザな感じだった。
「そう……、あたいの気のせいだったのかしらね」
楓はつい考え込んでしまう。
「変なメルプだな。まあ、しばらくモノトーンの連中の所に居たから、その影響が残ってるのかも知れねえな」
ワイスはそう言って、くるりと楓に背を向ける。
「……メルプ、早く聖獣の力を取り戻せるといいな」
「ワイス……」
こう言われてしまっては、楓はその場に立ち尽くすしかなかった。そして、ワイスはそのまま屋敷の中を歩いていった。
「ぐっ……」
自室に戻ったワイスは、少し苦しんでいた。
「はぁはぁ、やっぱりメルプはごまかせねえか……」
ワイスは少し苦しみながらも窓に上がり、屋敷から出ていく車を見送る。
「以前からあいつと結んでおいたパスが、……こういう形で影響をするとはな。だが、俺っちだってパステル王国を守護する聖獣の1体。この程度で負けてなるかってもんだぜ」
窓にもたれ掛かるワイス。その額には汗が滲み出ていた。
「あらぁ、ずいぶんと苦しそうじゃないの、羊ちゃ~ん?」
「くっ、イエーロか。まったく、敵に情けない姿を見せるつもりはなかったんだがな……。てか、なんでお前がここに居るんだ?」
急に現れたイエーロに、ワイスは的確にツッコミを入れる。
「雪路様から言われてね、羊ちゃんの様子を見に来たのよ~。体を引きずるように歩いてた姿を見られたらしいわよ~?」
「ちっ、雪路にも見られてたか。俺っちとしちゃあ、しくったもんだな」
イエーロから理由を聞かされたワイスは、悔しそうに唇を噛んでいる。
「その様子だと~、マジェからモノトーンの力の影響を受けてるようね。あの時、私に話した内容からの推測だけれどぉ、その様子じゃあ、間違いなさそうね」
イエーロは壁にもたれ掛かったまま、もの凄くまじめな表情で喋っている。
「ふっ、まあな。俺っちとメルプは、パステル王国に居た時から特殊なパスで繋がってるんだ。あいつがやむなく染める事になったモノトーンの力が、俺っちにもパスを通じて流れ込んでやがる。それが俺っちの中の聖獣の力とぶつかり合ってるってわけさ」
ワイスが苦しみながら話す言葉を、イエーロは黙って聞いている。
「だがよ、これがあるからこそ、俺っちも頑張れるってもんなんだ。あいつが苦しんでるってのに、俺っちが戦わないわけにはいかないからな」
ワイスはイエーロを見て、ニヤリとキザに笑う。その姿を見たイエーロは呆れるように鼻で笑った。
「ホント、あんたってばバカな聖獣ねぇ。少し前まで敵対してた私にぃ、そんな事を言うなんて……」
「ふっ、確かにそうだな。ここで殺されるかも知れねえってのに、俺っちもずいぶんと判断を誤るようになったもんだな」
向き合うワイスとイエーロは、しばらく睨み合うと、急に揃って笑い出した。まるで気でも触れたかのように。
「あーっはっはっはっ。おかしいったりゃありゃしないわ~。パステル王国の聖獣って、ホ~ント、死に損ないなんだから」
「ふっ、てめえこそだいぶ甘くなったじゃねえか。敵対してた相手の口車に、ホイホイと乗りやがって」
言い合いをする二人だったが、最終的にはにかっと笑って親指を立て合っていた。意外と気が合うようである。
「はい、これで少しは楽になったと思うわよぉ?」
イエーロは握っていたワイスの手を離す。
「悪いな。モノトーンってのはこういう事もできるのか」
「ま~ねぇ。色の違いによる影響はあるかも知れないけど~、意外とそれは微々たるものなのよ」
「にしても、確かにさっきより気分がいいぜ。悪いな」
ワイスは調子を確かめるように肩をぶんぶんと回している。
「別にいいわよぉ。こっちには『困った時はお互い様』って言葉があるんでしょう?」
「はっ、どこでそんな言葉覚えてきたんだよ。モノトーンの連中には一番似合わねえぜ」
イエーロから出た予想外な言葉に、ワイスは腹が捩れるくらいに笑っている。笑い過ぎて涙が出てくるほどである。
「いいじゃないのよぉ。ほんっと、あんたってば気に食わない奴ね!」
ワイスが笑い過ぎるものだから、イエーロはぷりぷりと怒っている。まるで息の合った漫才コンビのように流れるコントである。
「とりあえず、俺っちの状態は誰にも気付かれちゃいけねぇ。お前も黙っててくれよな」
「別にいいわよぉ。どうせあんたたちを始末したって、ここまでの失敗を考えたら無事じゃ済まないもの~。だったら少しでも生き延びられる方を選ぶわよぉ」
かくして、身内に不安要素を抱えてしまっていたパステル王国サイド。これから起こるだろう三傑との戦いを前に、一体どうなってしまうのだろうか。
送るために雪路が車の手配をしている間、楓がワイスに近付く。
(さっき感じた違和感、確認してみなければね)
思い立ったところで楓はワイスに声を掛ける。
「ワイス、ちょっといいかしら」
「なんだい、メルプ。俺っちに何か用か?」
この時の反応は、いたって普通のワイスの反応だ。だが、楓は違和感を拭いきれていない。なので、もう少し突っ込んでみる事にする。
「ワイス、ちょっとどこかおかしいとかない?」
「うん? 俺っちはいつもの通りだぜ。いたって健康だぜ、この通りにな」
楓が心配そうに声を掛けてみるが、ワイスの様子は確かにいつも通りのマイペースでキザな感じだった。
「そう……、あたいの気のせいだったのかしらね」
楓はつい考え込んでしまう。
「変なメルプだな。まあ、しばらくモノトーンの連中の所に居たから、その影響が残ってるのかも知れねえな」
ワイスはそう言って、くるりと楓に背を向ける。
「……メルプ、早く聖獣の力を取り戻せるといいな」
「ワイス……」
こう言われてしまっては、楓はその場に立ち尽くすしかなかった。そして、ワイスはそのまま屋敷の中を歩いていった。
「ぐっ……」
自室に戻ったワイスは、少し苦しんでいた。
「はぁはぁ、やっぱりメルプはごまかせねえか……」
ワイスは少し苦しみながらも窓に上がり、屋敷から出ていく車を見送る。
「以前からあいつと結んでおいたパスが、……こういう形で影響をするとはな。だが、俺っちだってパステル王国を守護する聖獣の1体。この程度で負けてなるかってもんだぜ」
窓にもたれ掛かるワイス。その額には汗が滲み出ていた。
「あらぁ、ずいぶんと苦しそうじゃないの、羊ちゃ~ん?」
「くっ、イエーロか。まったく、敵に情けない姿を見せるつもりはなかったんだがな……。てか、なんでお前がここに居るんだ?」
急に現れたイエーロに、ワイスは的確にツッコミを入れる。
「雪路様から言われてね、羊ちゃんの様子を見に来たのよ~。体を引きずるように歩いてた姿を見られたらしいわよ~?」
「ちっ、雪路にも見られてたか。俺っちとしちゃあ、しくったもんだな」
イエーロから理由を聞かされたワイスは、悔しそうに唇を噛んでいる。
「その様子だと~、マジェからモノトーンの力の影響を受けてるようね。あの時、私に話した内容からの推測だけれどぉ、その様子じゃあ、間違いなさそうね」
イエーロは壁にもたれ掛かったまま、もの凄くまじめな表情で喋っている。
「ふっ、まあな。俺っちとメルプは、パステル王国に居た時から特殊なパスで繋がってるんだ。あいつがやむなく染める事になったモノトーンの力が、俺っちにもパスを通じて流れ込んでやがる。それが俺っちの中の聖獣の力とぶつかり合ってるってわけさ」
ワイスが苦しみながら話す言葉を、イエーロは黙って聞いている。
「だがよ、これがあるからこそ、俺っちも頑張れるってもんなんだ。あいつが苦しんでるってのに、俺っちが戦わないわけにはいかないからな」
ワイスはイエーロを見て、ニヤリとキザに笑う。その姿を見たイエーロは呆れるように鼻で笑った。
「ホント、あんたってばバカな聖獣ねぇ。少し前まで敵対してた私にぃ、そんな事を言うなんて……」
「ふっ、確かにそうだな。ここで殺されるかも知れねえってのに、俺っちもずいぶんと判断を誤るようになったもんだな」
向き合うワイスとイエーロは、しばらく睨み合うと、急に揃って笑い出した。まるで気でも触れたかのように。
「あーっはっはっはっ。おかしいったりゃありゃしないわ~。パステル王国の聖獣って、ホ~ント、死に損ないなんだから」
「ふっ、てめえこそだいぶ甘くなったじゃねえか。敵対してた相手の口車に、ホイホイと乗りやがって」
言い合いをする二人だったが、最終的にはにかっと笑って親指を立て合っていた。意外と気が合うようである。
「はい、これで少しは楽になったと思うわよぉ?」
イエーロは握っていたワイスの手を離す。
「悪いな。モノトーンってのはこういう事もできるのか」
「ま~ねぇ。色の違いによる影響はあるかも知れないけど~、意外とそれは微々たるものなのよ」
「にしても、確かにさっきより気分がいいぜ。悪いな」
ワイスは調子を確かめるように肩をぶんぶんと回している。
「別にいいわよぉ。こっちには『困った時はお互い様』って言葉があるんでしょう?」
「はっ、どこでそんな言葉覚えてきたんだよ。モノトーンの連中には一番似合わねえぜ」
イエーロから出た予想外な言葉に、ワイスは腹が捩れるくらいに笑っている。笑い過ぎて涙が出てくるほどである。
「いいじゃないのよぉ。ほんっと、あんたってば気に食わない奴ね!」
ワイスが笑い過ぎるものだから、イエーロはぷりぷりと怒っている。まるで息の合った漫才コンビのように流れるコントである。
「とりあえず、俺っちの状態は誰にも気付かれちゃいけねぇ。お前も黙っててくれよな」
「別にいいわよぉ。どうせあんたたちを始末したって、ここまでの失敗を考えたら無事じゃ済まないもの~。だったら少しでも生き延びられる方を選ぶわよぉ」
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