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第49話 力を取り戻せ
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杏と楓はその晩、隣同士で布団を敷いて眠っていた。
(あたいはモノトーンから逃れてきたとはいっても、まだその力がモノトーンの支配下にある。あたいの力が捕捉されるのも時間の問題ね)
楓は途中で目が覚めてしまい、薄暗い部屋で考え事をしていた。一時的な作戦とはいえ、自分の力はモノトーンの力を受け入れて汚れてしまっているのである。この状態では、自分の聖獣としての力を発揮する事はできない。早急に力の浄化を行う事が必要なのであった。
(パシモが世話になってる和尚にも迷惑が掛かるだろうし、早くなんとかしないとね)
モノトーンを抜け出した楓は、すでに考えも気持ちも切り替えていた。こういう頭の回り方をするので、杏たちは楓に全く歯が立たなかったのだろう。とはいっても、楓も元々は頭脳派ではない。踊りを得意としているという事もあって、感覚と流れを感じ取る力が強いのである。だからこそ、モノトーンの配下に入るという判断もしたのだろう。
(ワイスの前にも、本来のメルプの状態で立ちたいわね……)
楓は悶々と考えていたが、最終的には面倒になって頭から布団をかぶって眠りに就いたのだった。
朝を迎えると、杏と楓は揃って目を覚ました。ほぼ同時というあたり、妙に双子だという事を感じさせる。
「おはよう、姉さん」
「おはよう、パシモ」
互いに挨拶を交わすと、二人揃って笑い出す。そして、布団から抜け出るとたたんで押し入れにしまい込んだ。
「姉さんはなんでこっちの生活に慣れてるの?」
「さあね。あたいが聞きたいくらいだわ」
自然とした流れだっただけに、終わってから首を傾げる二人。杏もそうだっただけに、本当によく分からない大きな謎である。
「まあいっか。問題なく生活できるのなら、深く考えるだけ無駄ね」
というわけで、考える事を放棄した。
その後は顔を洗って服を着替えて、住職の待つ食堂へと向かった。
「二人とも、おはようございます」
「おはようございます、住職」
「おはようございます、和尚」
住職の挨拶にそれぞれが挨拶を返す。しかし、杏が住職で楓は和尚と返していた。その事に、二人は顔を合わせて首を傾げていた。
「はっはっはっ、ここは私の家でもあるので、どちらでも間違いじゃないですよ。お好きに呼びなさい」
そう言って住職は笑っていた。実に寛容だった。
「まあ、呼び方が違った方が二人を聞き分けられるので、その方が助かりますね。お二人は声がほぼ同じなんで、注意して聞かないと区別できないんですよ」
「まぁそうですね。では、そうさせて頂きます」
住職の言い分に、杏も楓も納得していた。姿だって色が違うだけでよく似ている。だからこそ、ちょっとした差異は区別をつけるのにちょうどいいのである。
ご飯を食べた後の杏は、何やら鞄を取り出して本などを詰め込んでいた。
「あっ、そうか。学校なのね、今日も」
「うん、姉さんもそのうち通う?」
「あー、そのうちね。今はあたいの気持ちの整理がついてないから無理ね」
「そっかー……」
楓が無理だと告げると、杏は悲しそうな顔をしていた。
「ほらほら、そういう顔をしないの。あんたは無邪気に笑ってる方がいいんだから」
楓は杏の肩を叩きながら、諭すように優しく言い聞かせた。すると、杏はどういうわけか目に涙を浮かべ始めた。
「ちょっ、ちょっと、なに泣いてるのよ」
「えっ、ごめんなさい。なんだか昔を思い出しちゃって。姉さんってそうやっていつもあたしを励ましてくれてたから、つい……」
杏は涙をぬぐいながら、笑顔で楓に言葉を返す。その顔を見て楓は呟く。
「やっぱり、姿形は変わっても、パシモはパシモだな」
「姉さんこそ」
杏にこう返されてしまっては、二人して笑うしかなかった。
「杏さん、時間はいいのですか?」
杏と楓がしみじみしていると、住職がひょこっと顔を出して声を掛けてきた。
「あっ、いけない。行かなきゃ遅刻しちゃう!」
杏は制服や荷物を再チェックして、バタバタと玄関へと向かう。
「それじゃ姉さん、また帰ったら話ししましょう」
「ああ、パシモ……、いえ杏。また夕方ね」
楓は杏が学校へ向かうのを、笑顔で手を振って見送った。
「お二人は仲がよろしいんですね」
「まぁ、双子って事もあって、昔は一緒によく居たしね。本当、あの子は泣き虫で、すぐあたいを頼ってきたもんだわ」
楓が住職の言葉に返すと、住職はおかしそうに笑っていた。
「何がおかしいの?」
「いえ、事情があるとはいえ、敵対していたと聞きましたから、すんなり仲直りをしているのを見て羨ましくなったのですよ」
住職は弁解する。しかし、笑われた事に楓はまだ怒っているようだ。
「まあいいわ。それよりもあたいは、汚染された力を元の状態に戻す事を考えないと……」
はあっとため息を吐いて、楓は気持ちを切り替えた。今はとにかく、モノトーンの力に汚染された聖獣の力を取り戻す事が重要なのである。そうしないと、ワイスたち他の聖獣の前には姿を見せられないと考えているからだ。
「それでしたら、うちはお寺なので修行をしてみてはどうでしょうか。以前は僧侶体験を行っていましたし、精神修行にはいいと思いますよ」
住職が提案をすると、楓は少し考えて、
「分かったわ。どういったものかは分からないけれど、やらないよりはいいわね。お願いするわ」
住職の提案を受け入れる事にしたのだった。
果たして楓は聖獣としての力を取り戻す事ができるのだろうか。
(あたいはモノトーンから逃れてきたとはいっても、まだその力がモノトーンの支配下にある。あたいの力が捕捉されるのも時間の問題ね)
楓は途中で目が覚めてしまい、薄暗い部屋で考え事をしていた。一時的な作戦とはいえ、自分の力はモノトーンの力を受け入れて汚れてしまっているのである。この状態では、自分の聖獣としての力を発揮する事はできない。早急に力の浄化を行う事が必要なのであった。
(パシモが世話になってる和尚にも迷惑が掛かるだろうし、早くなんとかしないとね)
モノトーンを抜け出した楓は、すでに考えも気持ちも切り替えていた。こういう頭の回り方をするので、杏たちは楓に全く歯が立たなかったのだろう。とはいっても、楓も元々は頭脳派ではない。踊りを得意としているという事もあって、感覚と流れを感じ取る力が強いのである。だからこそ、モノトーンの配下に入るという判断もしたのだろう。
(ワイスの前にも、本来のメルプの状態で立ちたいわね……)
楓は悶々と考えていたが、最終的には面倒になって頭から布団をかぶって眠りに就いたのだった。
朝を迎えると、杏と楓は揃って目を覚ました。ほぼ同時というあたり、妙に双子だという事を感じさせる。
「おはよう、姉さん」
「おはよう、パシモ」
互いに挨拶を交わすと、二人揃って笑い出す。そして、布団から抜け出るとたたんで押し入れにしまい込んだ。
「姉さんはなんでこっちの生活に慣れてるの?」
「さあね。あたいが聞きたいくらいだわ」
自然とした流れだっただけに、終わってから首を傾げる二人。杏もそうだっただけに、本当によく分からない大きな謎である。
「まあいっか。問題なく生活できるのなら、深く考えるだけ無駄ね」
というわけで、考える事を放棄した。
その後は顔を洗って服を着替えて、住職の待つ食堂へと向かった。
「二人とも、おはようございます」
「おはようございます、住職」
「おはようございます、和尚」
住職の挨拶にそれぞれが挨拶を返す。しかし、杏が住職で楓は和尚と返していた。その事に、二人は顔を合わせて首を傾げていた。
「はっはっはっ、ここは私の家でもあるので、どちらでも間違いじゃないですよ。お好きに呼びなさい」
そう言って住職は笑っていた。実に寛容だった。
「まあ、呼び方が違った方が二人を聞き分けられるので、その方が助かりますね。お二人は声がほぼ同じなんで、注意して聞かないと区別できないんですよ」
「まぁそうですね。では、そうさせて頂きます」
住職の言い分に、杏も楓も納得していた。姿だって色が違うだけでよく似ている。だからこそ、ちょっとした差異は区別をつけるのにちょうどいいのである。
ご飯を食べた後の杏は、何やら鞄を取り出して本などを詰め込んでいた。
「あっ、そうか。学校なのね、今日も」
「うん、姉さんもそのうち通う?」
「あー、そのうちね。今はあたいの気持ちの整理がついてないから無理ね」
「そっかー……」
楓が無理だと告げると、杏は悲しそうな顔をしていた。
「ほらほら、そういう顔をしないの。あんたは無邪気に笑ってる方がいいんだから」
楓は杏の肩を叩きながら、諭すように優しく言い聞かせた。すると、杏はどういうわけか目に涙を浮かべ始めた。
「ちょっ、ちょっと、なに泣いてるのよ」
「えっ、ごめんなさい。なんだか昔を思い出しちゃって。姉さんってそうやっていつもあたしを励ましてくれてたから、つい……」
杏は涙をぬぐいながら、笑顔で楓に言葉を返す。その顔を見て楓は呟く。
「やっぱり、姿形は変わっても、パシモはパシモだな」
「姉さんこそ」
杏にこう返されてしまっては、二人して笑うしかなかった。
「杏さん、時間はいいのですか?」
杏と楓がしみじみしていると、住職がひょこっと顔を出して声を掛けてきた。
「あっ、いけない。行かなきゃ遅刻しちゃう!」
杏は制服や荷物を再チェックして、バタバタと玄関へと向かう。
「それじゃ姉さん、また帰ったら話ししましょう」
「ああ、パシモ……、いえ杏。また夕方ね」
楓は杏が学校へ向かうのを、笑顔で手を振って見送った。
「お二人は仲がよろしいんですね」
「まぁ、双子って事もあって、昔は一緒によく居たしね。本当、あの子は泣き虫で、すぐあたいを頼ってきたもんだわ」
楓が住職の言葉に返すと、住職はおかしそうに笑っていた。
「何がおかしいの?」
「いえ、事情があるとはいえ、敵対していたと聞きましたから、すんなり仲直りをしているのを見て羨ましくなったのですよ」
住職は弁解する。しかし、笑われた事に楓はまだ怒っているようだ。
「まあいいわ。それよりもあたいは、汚染された力を元の状態に戻す事を考えないと……」
はあっとため息を吐いて、楓は気持ちを切り替えた。今はとにかく、モノトーンの力に汚染された聖獣の力を取り戻す事が重要なのである。そうしないと、ワイスたち他の聖獣の前には姿を見せられないと考えているからだ。
「それでしたら、うちはお寺なので修行をしてみてはどうでしょうか。以前は僧侶体験を行っていましたし、精神修行にはいいと思いますよ」
住職が提案をすると、楓は少し考えて、
「分かったわ。どういったものかは分からないけれど、やらないよりはいいわね。お願いするわ」
住職の提案を受け入れる事にしたのだった。
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